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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年01月26日

ラヴロック博士の「地球温暖化手遅れ説」を読んで(2006.01.26)

温暖化
 
日本ではあまり話題になっていないようですが、ここ10日間ほど、バラトングループのメーリングリストでも、ほかの海外の環境サイトでも、ある記事をめぐって活発な議論がおこなわれています。 これは、今月16日に英国インディペンデント紙に寄せられたジェームズ・ラヴロック博士の寄稿です。ラヴロック博士は、地球を一つの生命体と見る「ガイア説」で世界的に有名なイギリスの科学者です。 ガイアとはギリシア神話の地母神にちなんだ名称ですが、地球の生命が誕生して以来、地球は気温や大気の組成、海洋の塩分などの主要な条件を自己調節しているという考え方です。このガイア説が出た当時は、批判ばかりでほとんど見向きもされなかったとも聞いていますが、その後、この考え方はディープエコロジーにも影響を与える一方、博士は環境科学者として大変に認められ、尊敬され、世界的に影響力の大きな人物のひとりとなっています。 そのラヴロック博士が、かなり直裁的な表現で「地球温暖化手遅れ説」を掲載したのです。(博士の新刊『ガイアのリベンジ』が2月1日に刊行されるそうで、その結論的なメッセージを寄稿したものと思われます) 翌日に地球の友などから反論文が発表されたり、ブログ形式のサイトで大議論になったり、バラトングループでも盛んに意見交換がされたりと、海の向こうでは「大騒ぎ」状態です。 寄稿文はこちらにあります。(英語です) http://comment.independent.co.uk/commentators/article338830.ece 「地球は10万年も続くであろう病的な熱を出しかけている。どの国も、自らの持てるものを最大限に活かして、できるだけ長く、文明を維持する方法を見出さなくてはならない」という、かなり強い警告メッセージです。気温は温帯で8℃、熱帯では5℃上昇し、今世紀中に数十億人が死に、生き残った人も何とか気温の耐えられる南極に住まざるを得なくなるだろうという、「最悪の事態」を描いています。 私は、この記事を読んでからずっと「このことをメールニュースで流すべきか? やめておくべきか?」と考えていました。博士の知見や功績、影響力を考えると、日本の環境に関心ある人たちが「知らない」でよいのか?と思う一方、無用な不安感や絶望を引き起こすことへの懸念があったからです。 「でも未来はまだ事実ではない。ぼくらはできる限りの力を尽くして、この偉大なる科学者が間違っていることを証明しなくては。彼の警告を無視することによってではなく、警告に耳を傾け、世界を変えるために行動することによって」というアランのコメントに、「やっぱりそうだなあ」と思いながら、このメールニュー スを書いています。 アラン・アトキソンのこの記事へのメッセージはこちらにあります。 http://www.worldchanging.com/archives/004013.html ラヴロック博士の寄稿に対する反応は、「ああ、もうだめだ、絶望だ」という絶望派、「こんな人を脅すようなうそっぱちを書きやがって」という却下派など、さまざまですが、私には博士は「カサンドラ」の役割を取ろうとしているのではないか(意識してか意識せずかはわかりませんが)と思えるのです。 カサンドラって誰?って? アラン・アトキソンが書き、私の主宰する和訳チームが訳した本のプロローグより紹介しましょう。 『カサンドラのジレンマ―地球の危機、希望の歌―』(PHP研究所) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569632149/junkoedahiro-22 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  美しいカサンドラは、トロイ最後の王の末娘だった。アポロン神が彼女に思いを寄せたが、カサンドラはそれを拒んだ。彼女の愛情を勝ち取るため、アポロンは「もし、おまえが私を愛してくれるのなら、未来を予言する力を授けよう」と申し出た。  カサンドラはその交換条件を受け入れ、未来を見る力を得た。しかし、彼女はどうしてもアポロンを愛することができなかったので、アポロンは激怒した。アポロンはカサンドラに授けた力を取り返すことはできなかったが、これ以上ないほど残酷なやり方で復讐をした。彼はたった一度の口づけを懇願し、カサンドラはそれに応じた。二人の唇が触れ合ったとき、アポロンはカサンドラの口に呪いを吹き込んだ。「誰も絶対に彼女の予言を信じない」という呪いを......。  こうして、カサンドラは絶望の一生を送る運命となった。まわりの人々を脅かすような危険が迫っていることが分かっても、それを防ぐことができない。カサンドラはトロイの人々に「ギリシャ軍が攻めてきます」と警告し、「トロイの木馬の中に兵士たちが隠れています!」と必死になって伝えようとした。しかし、誰も彼女の警告に注意を傾けなかった。やがてトロイはギリシャの猛攻撃を受け、陥落した。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 つまり、カサンドラとは「予言者」なのですが、 (1) 自分の予言があたって、世界の滅亡を目撃せざるを得なくなるか (2) 自分の予言によって人々が動いたおかげで、世界は滅亡せずにすむが、そのために「嘘つきの予言者」と人々に非難・軽蔑され、つらい人生を送るか という、どちらにしてもつらい二者択一の人生なのです。(ちなみに、1972年に『成長の限界』を出し、「このままでは世界は地球の限界を行き過ぎ、崩壊してしまう!」という警告を出したメドウズ氏らも、筋金入りの(?)カサンドラです。30年後に出した『成長の限界 人類の選択』を読むと、残念ながら、世界と地球 のその後は、氏らに(1)の人生をたどらせていることがわかります) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478871051/junkoedahiro-22/250-7996800-4874649 博士がカサンドラだとしたら、アランのような「これをきっかけに、もっと真剣に取り組むことで、この予言をはずさせようよ」という反応が、博士の最も求めているものなのかもしれませんね。 「エダヒロさんはこの記事を読んでどう思ったのですか? やっぱりショックを受けましたか?」・・・と聞かれそうなので、答えておきますと(^^;)、ショックは受けませんでした。(もともと感情の起伏があまり大きくない性質らしく、知っている人から「いつも淡々として、まるで心電図ツー」(死んでるわけじゃないけど......^^;)と笑われるほどですから、そのせいもあるかもしれません。。。) まず、「ほー、こんな影響力のある人がこんなことを言うと、影響が大きそうだなあ」と思いました(当たり前のことですが。^^;) あと思ったのは、「自分がいま必要だ、大切だと思ってやっていることを、もっと効果的に効率的に、加速してやるにはどうしたらいいのだろう?」ということと、「まだいまの活動ではできていない、いちばん大事な本質的なこと(いつも隔靴掻痒の思いを抱いているのです)は、どうやったら可能になるのだろう?」 という、答えのすぐ出ないいつもの思いに浸ったのでした。 「いちばん大事な本質的なこと」と書いたのは、あるバラトンメンバーが、「もうちょっとエネルギー効率を上げようとか、風力やソーラー発電を増やそうとか、環境にやさしいエコシティを作ろうとか、そういう取り組みはもちろん、痛みを和らげてはくれるだろう。しかし、この船全体の舵をまったく違う方向に切らなくては、ラヴロックの描いている未来像を退けることはできない」と語っているように、「あちこちで正しい方向への動きが出てきているけど、そういう活動を応援し、国内や世界に伝えることで、もっと広げていきたいと活動しているけど、でも、どうやったら社会や経済そのものの方向を大きく転換できるのか」ということです。 「個人が社会の方向を変えようだなんて、所詮無理さ」という人もいます。ひとりでやろうというわけではないし、自分が生きている間に、変化の兆しを見ることができるかどうかもわかりません。 でも、雪山の山頂で、小さな雪玉を転がしてみれば、途中で止まっちゃうのもあるでしょうけど、コロコロと転がり下りるにつれて大きな雪玉になって、転がした人がいなくなったあとでも転がり続け、ふもとに着く頃には、すごく大きな力で「現状」をどーん!と変えてくれる雪玉も出てくるかもしれない、なんて思っています。 (ちなみに、このどんどん大きくなり、パワーを増す雪玉のイメージは、システム思考でいう「自己強化型ループ」です。社会のどこにどういう自己強化型ループを埋め込んだらよいのか、どうやったら埋め込めるのかを、システム思考の仕事を通じて考えています) もうひとつ、システム思考に例えると、「てこの原理」を発見したアルキメデスが、「私に適切な支点と十分に長い棒を与えてくれれば、地球をも動かしてみせよう」と言ったように、社会や経済をぐい!と動かせる支点と棒はどこかなあ?と考えています。 システム思考では、この「小さい力で大きく動かせる点」を、レバレッジ・ポイント(テコの作用点)と呼んで、問題解決の大きなポイントとしています(システム思考では、問題をその構造から解析することによって、このレバレッジ・ポイントを探します) ところで、別のバラトンメンバーがこういう書き込みをしていました。「かつてマザー・テレサが『インドにはすごい人口がいる。あなたはどうやって圧倒的なほど大勢の人々に対応できるのでしょう?』と聞かれて、『一度にひとりずつ』と答えたという。私たちも、問題の規模は意識しなくてはならない。しかし、自分たちに変えられない物事に圧倒されてしまうのではなく、自分の置かれた場所の規模で活動しなくてはならない」 というわけで、私はこうしてメールニュースを1本、また1本と出し続けるのでした。(^^; ところで、社会や経済をどーん!と変えるであろう雪玉が、もうすでにいくつもいくつも、斜面を転がりだしています。まだちっちゃな雪玉かもしれない。でも、みんなで「そうだ、そうだ〜」と応援して、できればうちわで煽ってあげたりすると、元気に転がって、どんどん大きなパワーになっていくことでしょう。 そんな雪玉を2つ、紹介しますね。 ひとつは、国際環境NGO FoE Japan のニュースマガジン【Vol.117】(2006.1.1)から、転載の許可をいただきました。ウェブサイトはこちら。http://www.FoEJapan.org/ メールマガジンの登録はこちらです。http://www.foejapan.org/greenearth/index.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 《くらしとまちづくり》 ☆マグで出すスタバ増えてます〜店舗調査報告 FoE Japanは、2004年夏より、スターバックスコーヒージャパンに対し、店内 では飲食物を使い捨て容器でなくマグカップなどのリユース容器で提供するよ う働きかけてきました。また、Eメールで寄せられた多くのユーザーの声を届 けてきました。 これに対し、スターバックスコーヒージャパンは、リユース容器のほうが、環 境負荷が少ないことは認識しており、まずは温かい飲み物を紙コップから原則 マグカップに切り替えていきたいとの方針を明らかにしました。 FoE Japanは、2005年11月から2月にかけて、都内31店舗において、店内で温か い飲み物を飲む際にいずれの容器で提供するか調査を行いました。その結果、 調査した31店舗中、マグで提供した店舗は9.5店舗で30%でしたが、1年前の 調査で、10%だったことと比べると、リユース率は大幅に伸びています。 スターバックスコーヒージャパンでは、本社から各店舗に望ましい方針を示し てはいますが、どの容器を使用するかの最終的判断は、店舗で店員が行ってい るのが現状です。そのような中で、ユーザーは本当はどちらの容器で飲みたい のか、気づき始めた店舗が増えてきたと言えるでしょう。 ヒアリングを行った銀座マロニエ通り店では、従来から注文時にマグカップと 紙コップのいずれにするか希望を聞いていたそうです。店内で飲む客の大部分 がマグカップを希望するため、今年からマグカップの在庫を大幅に増やしたこ とで、「温かい飲み物は原則マグで提供」が実現しました。洗浄のための運搬 が大変なのでは、との質問にも、店員さんは、、「お客様にくつろいでおいし く味わっていただけることが一番うれしいので」と笑顔で答えました。こんな 店舗がもっと増えるように、あなたの近くのスターバックスの店舗にも働きか けてみましょう。 そして、温かい飲み物の次には、冷たい飲み物もリユースのグラスで飲める日 が早く来るよう、スタバの愛用者は待っています。 (瀬口 亮子) *調査結果はこちら http://www.foejapan.org/lifestyle/gomi/stb_051228.html *あなたはどちらの容器で飲みたいですか?ユーザーアンケート実施中 http://www.foejapan.org/FS-APL/FS-Form/form.cgi?Code=starbucks 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 もうひとつは、昨年のクリスマスの日に配信した[No.1161] でご紹介したグリー ン電力証書についてです。 > この「グリーン電力カレンダー」はC、株式会社Governance Design Laboratory、 > 日本自然エネルギー株式会社が共同で運営している「O2free.jpプロジェクト」 > の商品の1つです。ほかに、グリーン電力証書Tシャツや、来年2006年の家庭の > 電力をグリーン電力に換えられる証書も販売しています。 > > 以前から、日本自然エネルギーが企業向けに、グリーン電力証書の購入によって、 > 電力を自然エネルギーの電力に換えられる選択肢を提供していました。「早く個 > 人でも電力を選べるようにならないかなあ!」と思っていたので、とてもうれし > く、さっそく申し込みをしました。ウェブサイトから、そのしくみをご紹介しま > しょう。 と書きました。しくみの説明はこちらにあります。 http://www.co2free.jp/index.cgi?mode=gp2006 このメールニュースに、「グリーン電力カレンダーを買いましたが、証書のしく みをもう少しよく理解したい」という質問をいただきました。担当の方につなぎ、 やりとりを見せていただきました。とてもわかりやすい解説だったので、ぜひ、 とお願いして、引用の許可を得ました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <グリーン電力証書について> 本当は、電気そのものに対して、 「風力100%メニュー」とか、 「太陽光50%、風力50%メニュー」などと、 電力会社が用意してくれるのが望ましいと思います。 しかし、現在はそういう仕組みがないので、 普通の電気料金より"高い部分"は"エコ価値"だろう、ということで、 証書にして取引できるようになっています。 買っていただいたカレンダーについては、カレンダーの値段に、 310kWh分のグリーン電力「証書」代が含まれています。 (310kWh分の「エコ価値部分」のみであって、電力料金は別途電力会社から、と いうことになります。) 本当は、グリーン電力証書のみを買っていただくことを目指してはいるのですが、 紙を5000円などで買うというのは、 グリーン電力自体も認知がされていない現状では難しいだろうということで、 グリーン電力を使う、という感覚を味わいやすい商品開発をして、 カレンダーやTシャツを企画しました。 また、310kWhというのは、 日本の一人当たり家庭で使う電力量の平均×53日という量です。 実際には、それより多く使うかもしれませんし、少なく使うかもしれません が、電力料金情報を電力会社さんから教えていただけないので、 平均ということで、扱っています。 <グリーン電力そのものについて> グリーン電力は、おっしゃるように、地球温暖化防止にも貢献しますし、 それ以上に、日本の国産エネルギーですから、他の国の資源に依存している 現在の状況からも「すこしづつ」抜け出すことができます。 そして、エコな心がけをすることは素晴らしいのですが、 どうも苦しいことは長続きしないような気がします。 だったら、積極的に使っても大丈夫なエネルギーを選ぶことができれば、 それほど我慢することも必要なくなるのでは、と思います。 つまり、石油などでできた電気を使っているから、 つかうことが罪悪感を伴うのではないか、ということです。 決して、無駄遣いしてもいい、というのではなくて、楽しい時間を過ごすための電 気までを、削るのはさびしいな、ということです。 <家計とグリーン電力について> 現在、グリーン電力は、残念ながら少々高い状況になっています。 (石炭による発電が約3円/キロワット時、風力は約9〜12円/キロワット時、バ イオマスは約7〜8円/キロワット時など) しかし、これは、昔、テレビ、ビデオなどが高かったのが、 普及するにつれて、みんなが買える値段に下がってきたのと似ていると思います。 少し違うのが、得られる「うれしさ」が、自分だけのものではなくて、 地球や日本をよりすみやすいところにする、という広い嬉しさである、 というところだと思います。 グリーン電力で日曜日過ごせている!ということで、 気分が良くなった、と書いて下さいましたが、 その部分の価値を認めていただいた分のみ、ご購入いただければいいのかな、 と思っております。 私たち、グリーン電力をなんとか普及させたいという思いで仕事をしている者の 役割は、その価値をできるだけ分かりやすい形で見えさせながら、量的普及を進 め、最終的には価格を下げていくことだと思っております。 色々と長々と書いてしまいましたが、今回別途企画したTシャツは、 ひとりが1年間にの使う電気の6%をグリーン電力にする、というものです。 全量だと、1万円という価格になってしまいますが、 普段買うTシャツを、私どもの企画のTシャツにすることで、 ひとり6%だけでもコミットしていただければ、 日本全体では相当の量になります。 家計を圧迫しない形で、「かわいいから買った」ということから、グリーン電力 の普及や認知が進み、結果的に、政府が、税金の中から、もっとグリーン電力を 進める政策をやってくれれば、という気持もあります。 今後とも、是非、色々とご意見をお聞かせいただけたらと思います。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ほら、あちこちから、斜面を小さな雪玉が転がっている音、そして、次なる雪玉をキュッキュと握っている音が途切れることなく聞こえてくるでしょう?  ゆくゆくは「どーん!」と社会や経済を変えて、ラヴロック博士の予言を外してくれる音が。

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