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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年08月09日

スイスからのレポート「スイスのおもちゃ館」〜ネイチャー・テクノロジー(2010.08.09)

生物多様性
 

<内容>

■スイスからのレポート〜「スイスのおもちゃ館」

■バイオミミクリについて

■明日の午後、Ustream で生中継〜「坂本龍一、明日への対話」に出ます

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■スイスからのレポート〜「スイスのおもちゃ館」

ときどきスイスから興味深いレポートを送ってくださる穂鷹さんが、興味深いレポートを送って下さいました。ご紹介しますー。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「スイスのおもちゃ館」

穂鷹知美 スイス在住 gassner(at)d01.itscom.net

スイスでは、本を貸す図書館だけでなく、おもちゃを貸してくれる、「おもちゃ館 Ludothek」というおもちゃの賃借施設があります。

1972年からスイス各地で設置され、今では全国で400館が開設されています。たいていの都市では、市内の地区ごとに地区図書があるように、地区ごとにおもちゃ館があり、私の住む都市でも、半民半官で運営されているおもちゃ館が、それぞれの地区に設置されています。私も3年前から、自分の住んでいる地区のおもちゃ館でボランティア館員をしています。

母親の仕事にいつも同行させられ、物心ついたときから、おもちゃ館の常連客となっている娘(なにせおもちゃ館なので、館員は仕事場に子供をつれていくことができます)は、今年4歳になりましたが、先日も、おもちゃ屋に行くと、おもちゃを指さして、「これ、借りて行きたい。」と言っていました。未だに、おもちゃ屋におもちゃが沢山並んでいるのを見ると、おもちゃ館と区別がつかないようです。

というより、そもそも娘にとって、しばらくおもちゃを借りて家で遊んで返却するのと、自分のものとして恒久的に所有することが、実態としてそれほど違わないのかもしれません。

ちなみに、私の勤めるおもちゃ館では、館員以外は賃貸が有料で、一つのおもちゃにつき200円程度の賃貸料を支払います。一度に借りられるおもちゃの数に制限はなく、一回につき4週間(延長は2回まで)借りることができます。

母親が仕事に行く度に、借りたいおもちゃを持ち帰ってくることができるので、家の棚から出すおもちゃか、家の外のおもちゃ館の棚から取り出すおもちゃか、というだけの違いなのかもしれません。

自分の家にいる時間が短く、保育園で長い共同生活をしている子供や、年の近い兄弟が沢山いる家庭の子供も、自分が手にしているおもちゃについて、子供自身の所有という感覚と、ほかの子供との共有の感覚が、実質的には近いのかもしれません。

さらに目を広げてみれば、普通に子供たちが「所有」していると見なされるもの(おもちゃ類や衣類)も、もともと誰かのお下がりであったり、自分が成長に応じて不要になると年下の子にさらに引き渡されるものであったり、というサイクルの中にあることが多いことでしょう。

そのサイクルの中では、自分が「所有」することが半永久的に続くのではないという考えは受け入れられやすく、いつか自分が大きくなってそれを年下の子に受け渡すことも、自分が成長したことを証す儀礼の一つのように、肯定的に、ほこりすらもって、子供たちに受け止められているように思われます。

こうやってみると、子供を取り巻く「所有」と「共有」の構造は、大人のそれとずいぶん異なっているように見えます。カーシェアリングだなだと提唱している割になかなか実践できていない大人たちよりも、シェアリング共有)に関しては、ずっと上手にすでに実践している子供たち。共有を容易にする子供をとりまく環境や大人と違う独特の子供の観点を観察すると、大人が学べることも多いかもしれません。

最近、そのおもちゃ館で、おもしろいおもちゃを見つけました。ジグゾーパズルで日本でも有名なドイツのおもちゃ会社ラーベンスブルガーから2007年に出たもので、「ビオニーク  自然のお手本」という名称の神経衰弱カードゲームです。

ドイツ語のビオニーク Bionik は、英語では bionics や biomimetics とほぼ同義語で、技術的な問題の解決モデルや具体的な技術を、生物学の中に求める(トップダウン・アプローチ)、あるいは、逆に生物学的なモデルやシステムから抽出した理論や技術を、これまで未解決の技術的な問題解決法として提示する(ボトムアップ・アプ ローチ)応用学問分野で、ドイツではベルリン工科大学のレヒェンベルク Ingo Rechenberg 教授などが中心となって1960年代から研究が進められています。

この難しい学問領域の名前をタイトルに掲げたカードゲームは、その名の通り、自然界の生物が持つ特殊な技術や構造と、私たちの生活のなかに応用されて使われているものや、同じような着想をもとにして作られた道具との共通性を把握できるように、自然界の生物の絵と、応用技術やデザインされた道具の絵合わせをしていきます。

対をなす生物の絵と道具の絵は、合計して72枚(36組)あり、神経衰弱と同じやり方で、カードをよく混ぜて裏にして並べ、生物と道具の合致するのを多くみつけて、一番多くとれた人が勝ちです。生物と道具の絵の隅には、それぞれ対になる絵が描かれてあるので、いちいち対になるカードはどれか考える必要はありません。

まずは遊びながら、そのカップリングを自然に覚え、そのうち、一体、なぜこの生物とこの道具が対になるのだろう、となぞなぞを解くように正解を知りたくなったら、ゲームの説明書の後半部に子供にわかりやすい平易な言葉で説明されている、それぞれの生物と道具の共通点の解説を読んで納得する、という風に、遊びながら勉強になることが期待されています。

このゲームで取り上げられている道具は、ごくごく生活の身近にあるものが選ば れており、子供でもわかりやすい生物のもつ技術の応用例であるため、改めてビオニークという名前を掲げなくても、子供たちが想起、推測できるものが多いのが特徴です。例えば、象の鼻と消防隊のホース、猫の目と反射鏡、たんぽぽとパラシュートなど。

子供に、見たこともないビオニークの最先端の知識を単に覚えさせるというのが意図ではなく、むしろ子供がすでによく知っている身近なモノである道具と生き物の(以外な)共通点(形にまどわされるのではなく、むしろ機能や構造においての)を考えて、モノや生物を再発見することが重視されているようです。

道具の世界と生物の世界をつなげていくことで、生物がもつ知られざる高度な技術や構造について気づかせてくるビオニークは、子供たちに、多様な生物の保持の重要性を理解してもらうための手がかりとしても、期待できるでしょう。

ただ、それが神経衰弱のカードゲームというクラシックで地味なゲームとして、どれだけ今の子供にうけるのかは、やや疑問なところです。せっかく環境教育という志の高いゲームを世に出してみても、ゲームとしてつまらなくては、誰も遊んではくれません。ビオニークのゲームが今後も世に出るのなら、ビオニークの生物の原理や構造を応用した、画期的で斬新なゲームを目指すなんてのはどうでしょうか??

<参考サイト>
スイスおもちゃ館連盟のサイト(英語もあり)
http://www.ludo.ch/de/

神経衰弱カードゲーム「ビオニーク  自然のお手本」の説明書内容(解説付き)(ドイツ語)
http://www.ravensburger.de/spielanleitungen/Vorbild_Natur.pdf

ベルリン工科大学のビオニーク紹介・解説サイト(英語)
http://www.bionik.tu-berlin.de/institut/xstart.htm

以下、レヒェンベルク教授の砂漠の小動物研究例(動画)
サンドフィッシュ(砂漠の砂の中を水の中を泳ぐように移動できる小動物)
http://www.youtube.com/watch?v=nTGiT1wb-iU(ドイツ語)
回転蜘蛛(回転することで歩くより速く、しかもエネルギー消費を抑えて移動)
http://www.youtube.com/watch?v=tJaHTgMtbgU(ドイツ語)
http://www.youtube.com/watch?v=Aayb_h31RyQ(英語)

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■バイオミミクリについて

このバイオミミクリについては、1年ほどまえのメールニュース[No.1676]で、

○新幹線が2つの動物からヒントを得て作られていたって、ご存じでした?○バイオミミクリって面白い〜!

とご紹介しています。

とっても面白くてわくわくする分野ですが、それが子供向けの神経衰弱カードゲームになっているとは、面白いですねぇ〜。

この「ネイチャー・テクノロジー」分野の日本の第一人者のおひとりは、東北大学の石田秀輝先生です。この春に出されたご本も、事例がいっぱい載っていて面白いですよー。

『地球が教える奇跡の技術』(祥伝社)1,470円

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■明日の午後、Ustream で生中継〜「坂本龍一、明日への対話」に出ます

そして、さらにわくわくすることに、明日、この石田先生と音楽家・坂本龍一さんとの鼎談に参加させてもらうことになっています。

明日の午後のこの鼎談は、Ustream で生中継されます。よかったらぜひどうぞ〜!

坂本龍一、明日への対話 
http://www.kokuyo.co.jp/ecology/ecologyheart/dialogue/

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