先日ご案内した解説動画「これからの日本のエネルギーどう考える?〜選択肢と国民的議論〜」(約10分)、すでに500回近くの再生とのこと。たくさんの方に選択肢と国民的議論の背景について知ってもらえたらうれしいです。
「これからの日本のエネルギーどう考える?〜選択肢と国民的議論〜」(約10分)
http://youtu.be/0oidaqJAIw8
※幸せ経済社会研究所:You Tubeサイトより
この動画でお見せしている資料はこちらです。使えそうな場面があったらどんどん使って下さい〜
http://www.es-inc.jp/news/video_1.pdf
いま続編の「3つの選択肢とそれぞれの意味するところ」を作成中です。それぞれの選択肢がどのようなものか、それぞれの温暖化や電気代、経済、未来世代への影響について解説しています。アップされたらまたお知らせします。
以下は、すでにアップされている動画解説「これからの日本のエネルギーどう考える?〜選択肢と国民的議論〜」(約10分)のテキスト版です。
動画を見るよりテキストを読むほうがよいという方、知り合いに転送しようかな、自分のブログに貼り付けようかな(長いですが……^^;)という方、ぜひご活用いただけたらうれしいです!
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「これからの日本のエネルギーどう考える?〜選択肢と国民的議論〜」(約10分)
枝廣淳子です。エネルギーに関する国民的議が始まりました。この夏に向けて、エネルギーについて国民一人ひとりが考えて、日本の今後のエネルギー計画、一緒に考えていきましょう。今日は、その背景についてご説明したいと思います。
2002年にエネルギー政策基本法という法律ができました。これに基づいて日本のエネルギー基本計画を3年ごとに改訂することになっています。2010年6月に第二次の改訂がされました。この現行のエネルギー基本計画では、温暖化対策ということもあり、原子力を大きく増やそうという計画になっています。
しかし、東電福島第一原発の事故が起こりました。原発を大きく増やすことは難しいということで、本来ならまだ改訂の時期ではないのですが、「白紙からの見直しをせよ」ということで、この夏をめどに、エネルギー基本計画を作り直すことになっています。
そのために、閣僚レベルのエネルギー・環境会議が設置され、その下に3つの委員会ができました。原子力委員会では原子力政策の選択肢を、総合エネルギー調査会の基本問題委員会ではエネルギーミックスの選択肢を、そして中央環境審議会では温暖化対策の選択肢を出すということになったのです。
私が参加している基本問題委員会では、エネルギーミックスを考えることを進めてきました。
エネルギー政策はどのように作っているのでしょうか? すぐに「何で発電するか」という話に行きがちなのですが、ホップ、ステップ、ジャンプの3段階でご説明しましょう。
まず大事なのは、「どれぐらいの電力やエネルギーが必要なの?」という量の問題です。これを考える最初の段階が「経済の規模を想定する」というものです。2030年にどれぐらいの経済規模になっているのか? つまり、GDPがこれからどのように成長していくと考えるのか、3段階の最初である「ホップ」になります。
その次のステップでは、省エネの度合いについて考えます。ある電力なりエネルギーが必要になったときに、どれくらいの省エネ技術や制度や負担によって省エネを進めていくか? です。これを想定してはじめて、「最終的にどれぐらいのエネルギーが必要か」が決まってきます。
そして最後に、「じゃあそれを何でまかなうの?」ということになります。これが質の問題です。ここで原発をどうするか、原発を減らす分、何で発電するかという電源構成の話が出てきます。3段階の最後である「ジャンプ」です。
では、このホップ、ステップ、ジャンプに沿って、基本問題委員会そして今のエネルギー環境会議の考え方を示していきましょう。
まずは「ホップ」、経済の規模です。現在の2010年に作られたエネルギー基本計画では、まず2020年まで2%、2030年までは1.2%という経済の成長を想定しています。とすると、2010年に比べて、2030年にはGDPが1.4倍になってしまう。それだけ大きな経済規模をまかなうための電力も、かなりたくさん必要になるという想定でした。
しかし、これから日本は人口が減っていきます。そうしたときに、これまでと同じように、経済規模そのものが大きくなっていくことは難しいのではないかということで、私のほうで、「一人当たりのGDPがこの10年と同じという想定でいかがか」という提案をしました。
最終的に、基本問題委員会で用いたGDP成長率の想定は3種類あります。1つは成長戦略ケース。これは、2020年まで1.8%、2030年まで1.2%という成長戦略がすべてうまくいった場合、これぐらい成長するだろうという、かなり強気の見通しです。真ん中の慎重ケース。これが実際に使われたケースですが、それほど成長が見込めないのではないか。2010年までは1.1%、2030年までは0.8%の想定で考えるというものです。
そして一番最後に、委員提案ケースということで、私が提案した、一人当たりのGDP成長率をこの10年と同じにしようと。そうすると、2020年まで0.2%、2030年まで0.4%。ほぼゼロ成長に近い成長を想定することになります。
次のグラフは、その3つのGDPの成長率を想定した場合に、2030年のGDPが現在の511兆円からどれぐらい増えるかを示しています。慎重ケースにしても、委員提案ケースにしても、今のGDPよりは増えます。その増え方が、原発の比率をどうするかによって多少変わってくることになります。
では、次に「ステップ」です。省エネの度合いについて考えたいと思います。基本問題委員会では、原発比率がゼロであっても、15%であっても、20〜25%であっても、省エネは一律にすると考えていましたが、私は「それでは悪魔の選択肢になってしまう」と反対の意見を述べました。
残念ながら再生可能エネルギーは、すぐに原発に取って代わるほど十分な供給量がありません。つまり、原発の依存度を下げると、当面はその代わりとして化石燃料を増やす必要があります。石油、石炭、天然ガスという化石燃料を増やすとCO2の排出量が増えてしまいます。ということは、原発依存度を下げるとCO2が増える。「原発なのか温暖化なのか、どちらを取りますか?」という悪魔の選択肢になってしまうわけです。
そうではなくて「原発依存率を下げたい。だったら省エネをもっと頑張る。それで放射能も温暖化もない社会をつくりたい」という生活者はたくさんいます。そういう人たちの選択肢も必要だと述べたわけです。
最終的にエネルギー環境会議が出した選択肢では、この主張に合った形で省エネ対策の強度を設けています。つまり、「原発がゼロのケースだったら、省エネは頑張ります。それは負担もあるし、窮屈なこともあるけれど、温暖化を避けるために省エネを頑張る」という想定になっています。原発が15%の場合、20〜25%の場合は、対策の強度は中位です。そこまで頑張るわけではないけれど、これまで想定されていたよりはやりますという想定です。
これによって、CO2を見ていただくとわかるように、2030年のCO2の削減量はほとんど変わらなくなっています。悪魔の選択肢を避けることができています。
では、省エネが決まったところで電源の構成、「ジャンプ」です。これは、今出されている選択肢で、少し見にくいのですが、説明しましょう。ゼロシナリオというのは原発ゼロの場合です。そして追加対策というのが、先ほど省エネのところで説明した「中位ではなくてさらに追加対策をして高位」、つまり省エネ対策をたくさんやりますよということです。
ですから、この緑色の枠を見ていただければいいと思います。「ゼロシナリオ」では原発比率がゼロ、そして再生可能エネルギーは35%。そうすると化石燃料は100から35を引くことになりますから65%。そして、最終エネルギー消費量は、省エネを頑張りますから、ほかのシナリオよりも少ないものになっています。そして温室効果ガスは23%減ということになります。
隣の「15シナリオ¥というのが、原発依存度を15%しようというものです。その場合も、再生可能エネルギーは頑張って30%までは増やしましょうと。残りが化石燃料の55%となります。温室効果ガスの排出量は23%減です。
20〜25シナリオというのは、原発比率を20〜25%維持しようというものです。再生可能エネルギーは25〜30%ぐらい入れていこう、残った50%を化石燃料で賄おうというものです。この場合は、温室効果ガスは25%減となります。
このような原発の依存度によるシナリオによって、どれぐらい省エネに投資が必要か、もしくは再生可能エネルギーへの投資が必要かということで、経済的な影響もさまざま出てきます。
この経済的な影響、もしくは未来への影響--たとえば、原発を維持し続ければ、事故のリスクが残るだけではなくて、核の廃棄物もずっと出し続けることになります。これを未来世代に委ねることになりますが、それをどう考えるか--、そういったことを含めて、これから国民的議論を展開していくことになります。
今、この国民的議論のためのウェブページが、政府の中にできています。こちらに今説明した3つのシナリオの説明もありますし、今後データも追加されていくと思いますので、ぜひこういったところを見て、自分だったらどう考えるか? 経済も大事。コストも大事。だけど未来への責任も大事。それをどういうバランスで考えていくか。ぜひ一人ひとりで考えていただきたいと思います。
このウェブからも行けますが、パブリックコメントということで、国民の声を今、政府では募集しています。パブリックコメントは8月12日(注:当初は7月31日を〆切としていたが延長された)までの受付となっていますので、ぜひそれまでにご自分の意見を、一言でも二言でもいいので、投稿していただければと思います。
エネルギーの基本計画を考える考え方について説明をしてきました。国民的議論に参加して、1つでも2つでも情報を手に入れて、自分でも考えていっていただきたいと思います。「私一人が考えたって。私一人が変えたって」と思うかもしれないけれど、でも、一人ひとりがちょっとずつ考えることで、この国のエネルギーをいい形に変えていけると思います。
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この解説は、今回のエネルギー基本計画の策定し直しや、エネルギー選択肢・国民的議論の背景についてでした。
次の動画解説では、具体的に3つの選択肢とその意味するところを解説しています。まもなくアップできるので、お知らせしますね。お楽しみに〜♪