ホーム > エダヒロ・ライブラリー > これまでの活動 > レスター・R・ブラウン > 「レスターの見つづけてきた、地球の今と未来」

エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月13日

「レスターの見つづけてきた、地球の今と未来」

対談
 
風力発電の可能性 【枝廣】 今日は、実際に今活動しているレスターに、何を思って何を考えているのか、もう少し詳しく聞きたいと思います。さきほどの話にもありましたが、実際に1974年にレスターがワールド・ウォッチ研究所を作って以来、地球の環境はどんどん悪化しているわけですね。その活動の中で、そのような悪化する一方の傾向を見ながら、どこかに新しい兆しが見えてないだろうか、最近希望の見えるところが何か見えてきていないだろうか、その辺を聞いてみたいと思います。 【レスター】 世界的な傾向を見てみますと、20年前に非常に悪い状況にあったその状況が今も続いていると思います。20年前も今でも同じ悪い方向に向かっているということです。森林は相変わらず減っていますし、砂漠は広がっています。CO2はぐんぐん増えてますし、温度は高くなっています。また氷はどんどん溶け出しています。さんご礁は少なくなっていますし、土壌の侵食も進んでいます。いろんな種がこの世から消えています。 このようにいろいろと悪いことが続いていますが、そのなかで何が一番わくわくするか、いいことか、というと、先ほども話しましたが、世界の気候の問題に関連した分野が挙げられると思います。特に風力発電の話をしました。この風力発電には大きな可能性があると思っています。非常にエキサイティングな状況です。例えば、数字をご紹介しますと、ヨーロッパではデンマークが既に全国の電力需要の20%を風力発電で賄っています。またドイツの北西部の州では28%を賄っています。私には息子がいるのですが、電話で時々話をします。この前、電話がかかってきまして、こんな話をしてくれました。テキサスの西部を車で走っていたそうです。ハイウェイを走っていたのですが、ある場面に遭遇した、と。テキサスでは最近風力発電が非常に盛んで、たくさんの風力タービンが回っています。そして、水平線のずっと見渡す限り風力発電という素晴らしい眺めに出くわしたそうです。その一方、同じ地帯に油井もたくさんありました。片方では風力発電のタービンが回っている、すぐ隣には、石油を汲み上げるポンプが上下している。息子はカメラを持っていなくて非常に残念だと言っていました。そこはちょうど未来と過去が出くわしているような場所だった、できたらそれを撮っておきたかったと言っていました。そこで私は息子にこう言いました。また30年後に同じところを訪ねてごらん、と。30年後、風力発電所はきっとあるだろうけど、きっと石油の油井はないだろうと。それが将来の姿だよ、という話をしました。 それからもうひとつ、数ヶ月前ですが、日本の環境大臣が財務省と真剣な話をしていると聞いたことがあります。炭素税の導入についてです。最近の進展は分かりませんが、それが実現しますと、日本政府が世界のあちらこちらの国に大きな影響を与えることになるんじゃないかと思います。   オゾン層問題から学んだこと 【枝廣】 今、風力や炭素税の話をしてくれましたが、実際にはそれが、例えば二酸化炭素が増えている、温度が上がっているという傾向を転換するまでにはまだ行っていません。 ひとつ実際に効果が現れてきているものとして、オゾン層枯渇の問題はだいぶよくなってきた、フロンが実際にもう使われなくなって、オゾン層がこれから回復していくだろうという兆しが出てきています。そういう実際の効果が、例えば温暖化にも他の問題にも必要だと思っているのですが、どうしてこのフロンのオゾン層の問題は成功事例になれたのでしょうか? そこから私たちは何を学んで活用していくことができるのでしょうか? 【レスター】 今指摘されたように、成層圏のオゾン層枯渇の問題のは、国際協力に関する非常に興味深いケーススタディではないかと思います。確かにこれは非常に大きな環境問題です。 私の記憶が正しければ、最初、1972年だったと思うんですけれども、ある科学雑誌に、2人の科学者が、ひとつの仮説として、フロンをこのまま出し続けると、成層圏のオゾン層が減ってしまうのではないか、と発表しました。この時点ではあくまでも仮説でした。その後、85年になって、2人のイギリス人科学者が、実際にオゾン層に穴が開いているという事実を発見しました。そして2年後の87年、国際会議が開かれ、モントリオール議定書に関する交渉が始まりました。これをきっかけとして、フロンとその化合物の製造を減らさなければならない、そうでないとオゾン層がどんどん破壊されていろいろな問題が起きる、という動きが始まりました。 今日は、そのような取り組みや国際協力の結果、フロンの製造は90%も削減されています。これによってオゾン層をかなり守ることができるようになりました。これは非常に大きな国際社会の協力の成果であると思います。もしわれわれが何もせずに、オゾン層の破壊が続いていれば、皮膚ガンやその他大きな問題が今後起こってしまいますから。   人々の意識の変化 【枝廣】 この30年間、ワールド・ウォッチ研究所を作ってから、ずっと地球の健康状態を見ていらしたと思いますが、一方で、人々の意識がどのように変わってきたのか、どういう印象を持っているかをお聞きしたいと思います。 ワールド・ウォッチ研究所を作った時には、そういう研究所がなかったという状況だったと思います。今朝、一緒に朝食を食べていた時に、ファイナンシャル・タイムズ紙を見せてくれましたね。「アメリカ国民の42%が環境団体に寄付をした」と、昨年の数字だと思いますが、半分近くの人が環境団体に寄付をするような時代になっているという記事でした。 人々の意識がどういうふうに変わってきたのか、さらにそれをもっともっと広げて、先ほど英語でいわれた"mobilize"という言葉のように、「大きく動員して」人々を大きく動かしていくためには何が必要なのかを教えてください。 【レスター】 今の一番大きな課題は、環境の趨勢について、つまり、今世界でどういうことが起こっているのかについて人々が気づくということだと思うんですね。 例えば、ひとつの例を挙げますと、ヨーロッパの人たちは非常に環境に対して関心が高く、非常に強い懸念を持っていると思います。そういった中で、今回フランスで脅威的な高温のために3000人もの人々が亡くなっています。地球温暖化というものがもたらした熱波によって3000人もの命が奪われてしまった。もちろん地球温暖化があの熱波を起こした、ということが学問的に証明されたわけではありません。しかし大多数の科学者が、因果関係や相関関係があると言っています。このような認識が今後も続いていくことを強く望んでいます。といいますのも、今こういった現実の上に立ってきちんと行動を起こし、CO2を減らすという活動をしなければ、大変なことになるからです。フランスという先進国においてさえ、熱波に襲われれば3000人の人が亡くなってしまう。もしこれが先進国ではないようなところで起こったらどのようなことになるか、考えただけでも恐ろしいと思います。今ジュンコがいった今朝のファイナンシャル・タイムズの記事ですが、確かにアメリカ人の42%に及ぶ人々が昨年103件の団体に寄付をしている。これは非常に素晴らしい数字だと私も思います。ただ残念なことは、この42%の人々が本当の意味で動いているか、といえば多分そうではないと思うんですね。この42%の人たちが寄付した先の組織は、大きな組織もあれば小さな組織もある、環境に関するさまざまなことをやっている組織もあれば、ある特定のものに特化した活動を行っている組織もある。つまり、多岐にわたるさまざまな人たちなのですね。それでも、その人々をまとめて「大きく動員する」ためには、何らかのきっかけが必要だと思います。よくない例ではありますが、例えば熱波がアメリカを襲って、アメリカの穀物の収量が激減し、食糧不足が起こる、とか。あるいは、中国で、先ほど言いましたように、穀物の収穫量が減ってしまい、中国がて国際市場から大量の穀物を輸入し始める。 こうなると、大きな趨勢が見えてきます。誰の目にも明らかです。こういったきっかけがあると、それによって人々が動き出すのではないかと思います。世論が動き、そして世論が動けば政府が動き出す。今までよりももっと速い速度で動き出すんじゃないかと思います。   ビジョンとマネジメントについて 【枝廣】 少し話題を変えてお聞きしたいと思います。レスターがワールド・ウォッチ研究所を作ってずっと所長として運営をしてきました。2000年からはアースポリシー研究所を作って所長としてやっています。今日おいでのみなさんの中にも、環境団体とかNGOで活動をされている方がたくさんいらっしゃるんじゃないかと思いますが、熱い思いで活動を始めるということと、活動を持続していくということはまた別のことだと私自身もよく思います。 前にレスターに聞いたときには、こういう研究所を作って活動を持続していくには、ビジョンとマネジメントの力が必要だという話をしてくれたことがあります。この2つの研究所を作って運営をして、これだけ休みなくずっと成果を出しているわけですが、組織面での苦労とかコツとか、是非その辺を教えて欲しいと思います。 【レスター】 どんなものがいい経営か、マネジメントとして優れているかというのは、世界どこにいっても基本は同じだと思います。私まだ若いときに非常に幸運だったのは、弟と一緒にトマトを栽培していた経験があることです。これはうまくいって、10年後にはきちんとトマトを市場に出せるようになり、一時は150万ポンドほどの収穫量があって、50人もの人々を使って畑の作業をやっていました。 これが私の初めてのマネジメント、経営の経験なんですけれども、その時に得た様々な教訓がその後も役に立っていると思います。簡単に言ってしまえば、トマトを作るもの、「地球白書」を出すのも、経営のポイントは同じだと思います。要するに、いかに人々の関心をひきつけて、そして一人一人の人々にきちんと成果を出してもらう貢献を促せるかと、いうことです。今ジュンコの質問の中に「ビジョン」という言葉がありましたが、確かに組織にとって、いかなる組織であっても、明確なビジョンを持つこと、自分たちが何をしたいのか、そしてどこに行きたいのかということを明確にすることが重要だと思います。アースポリシー研究所のことを振り返ってみると、今までの環境面でのいろいろな動きは、世界的にどこを見ても、何か悪いことが起こったから、それに対して反対する、反応するということだったのではないかと思います。そもそも環境活動が起こるきっかけとなったのは、レイチェル・カーソンが『沈黙の春』という本を出したことでした。これもやはり、農薬が使われて鳥が絶滅するとか、いろいろな問題点を訴えて、それに対する反対運動といった形で始まったわけですね。すなわち、政府が悪いことをやった、どこそこの企業が悪いことをやった、これに対してリアクションをとるというのが、今までの環境の動きだったわけです。 その中で今までに欠けていたことは何か、と言うと、自分たちはどういう世界を望んでいるのか、という明確な前向きのビジョンを持つことです。そこで私はアースポリシー研究所を作りました。同時に『エコ・エコノミー』という本を書きました。その目的のひとつは、私たちはどんな世界を欲しているのかを具体的に提示したいということです。「エコ・エコノミー」といいうのは、現在私たちが住んでいるこの世界よりもずっと魅力的で素敵な世界なんだということを打ち出したかったんです。   日本の環境問題について 【レスター】 ところで、今度は私がジュンコに質問してもいいですか? 日本で今起こっている重要な環境の傾向にはどんなものがあるのでしょう? 【枝廣】 私自身がいろいろ活動していて今一番感じているのは、日本の中でたくさんの人たちがこれまでのあり方とか、これまでの経済とか社会とか、自分自身の生き方に、本当にこれでいいのかな、これが本当に自分の幸せなのかな、と問い直しを始めているということです。 多分日本が長く不況にあるということがその一つの原因だと思いますけれども、それと同時に、今たくさんの人たちが、自分たちには前は気がつかなかったような選ぶ力があるんだということに気がつき始めていると思います。 グリーン・コンシューマーという言葉がありますが、これまでは買いたい物をただ買っていたその多くは、例えば広告とか景品とかいろいろなものにつられて、または誰かがいうからとか、押されて買っていたのかもしれない。でもそうではなくて、もっと意識的に買い物をするという人が増えています。 例えば選挙の時にも、環境で立候補するというところまでいく人はまだそれほど多くはありませんが、少なくとも立候補している人に環境面での政策を聞いてみようという動きが市民の中で出てきています。 そのように、自分たちには選ぶ力があるんだ、自分たちが決めることができるんだ、そういう意識が日本の中で今あちこちに広がっているような気がしています。 【レスター】 その結果として政治的な結果も出てくるんでしょうか? 【枝廣】 そうですね、日本でも「緑の党」を立ち上げようという活動がしばらく前からありますし、そして各地の、例えば市議会とか町議とかそういうところでは、環境に関心のある議員、特に女性議員が増えています。環境を守るということを打ち出して当選する人たちも増えています。そういった形で、草の根レベルかもしれませんが、動きが出てきていると思います。 ただ、これは私自身の思いですが、政治そのものを大きくすぐに動かすことはそう易しいことではないでしょう。ですから、もちろん政治を動かしたり、制度を変えたりする方が動きが早く進むのは事実ですが、それを待っているよりも、できるところから始めないと、とも思います。できるところから始めた方が精神衛生上はいいとも思っています。     JFSを立ち上げたきっかけ 【レスター】 個人的な質問をひとつ、いいですか? 【枝廣】 はい、何でしょうか? 【レスター】 ジュンコは通訳者として、特に環境に関わるいろいろなセミナーや国際会議で通訳をしている。また、本も書いているし、すてきな家族もいる。こうした満ち足りた状況にも関わらず、敢えてジャパン・フォー・サステナビリティー(JFS)を立ち上げるに至った背景を知りたいのです。 【枝廣】 これはレスターにも責任があるのですが...(笑)。 通訳をしている中で、日本ではたくさんの環境の情報が世界から入ってくるということがよく分かりました。その世界から入ってくることを、私たちが通訳するのですが、その一方で、日本でもいろいろな環境の活動や、昔からの知恵や江戸時代の循環型の話とか、いい例とか考え方がいっぱいあるのに、それは全然世界には通じていない、伝わっていないということを、通訳をやっている中で感じるようになりました。 レスターといろいろと活動を一緒にするようになって、ワールドウォッチ研究所の時代ですが、若い研究者が日本に来たことがあります。そのとき私がミーティングをセッティングして、「オフィス町内会」という活動を紹介してあげました。彼女は非常に興味をもって話を聞いて、私も必要な資料を英語にして渡してあげたのですが、その次の年の『地球白書』にその研究者が「オフィス町内会」のことを書いたんですね。『地球白書』に書かれるということは、世界中の100万人が日本の「オフィス町内会」という活動を知って、そこから学んでくれることになる。 それを見たときに、日本語ではなくて英語で、そしてきちん必要な人のところに情報が届けば、それは世界にも役立ててもらえるんだ、と実感しました。それからもうひとつ、ワールドウォッチ研究所で毎年ブリーフィングという集まりがあるのですが、その時に私が10分間で日本の話をさせてほしい、『地球白書』ではなくて、『日本白書』の話をしたいとお願いして、10分間の時間をもらって、日本のいろいろな取り組みの話をしたことがあります。 終わった時に、数十人もの参加者のうち、たくさんの人が名刺を手にして私のところへ来て、「日本がそんなにいろんなことをやっているのは知らなかった」「何にもやっていないのだと思っていた」「でもそんなにいろいろやっているんだったらもっと情報がほしい」「自分たちの国でも役立てることができる」「情報をここに送ってほしい」と言って、名刺を置いていってくれたのです。 ただ、そういう情報は全て日本語なんですね。日本語である限り、世界の人には通じないし、その情報はないに等しいということを、その時痛感しました。ただ、通訳やそのほか仕事が忙しかったので、なかなか活動を始めようと思い切れなかったのですが、共同代表の多田さんとと一緒に、昨年8月に立ち上げることができました。 今はほとんど通訳廃業状態でJFSの方をやっていますけれども(笑)、私たちの活動を通して、日本で行われているさまざまな活動、新しい考え方、昔からの知恵を世界に発信することで、先進国にも刺激にしてほしいし、そして途上国は、多分日本が辿ってきた道を飛び越えて、環境に優しい経済なり社会なりを先に作るためのヒントにしてほしい。そして日本がやっているいろいろなことを伝えると、必ず世界からフィードバックが返ってきますまら、それを日本に伝えることで、日本の取り組みをもっと進めたい。 このような、レスターが言うところの「ビジョン」を持って、情報を伝えることで日本と世界を持続可能な方向へ動かしたいという、非常に偉そうな言い方ですが、ミッションをもって作りました。 熱い思いで立ち上げるということと、それを続けていくということは別物だと先ほど言いましたが、その点で言うと、JFSにはたくさんのボランティアの方々、それから法人会員の方々、そして個人サポーターの方々など、何百人かに支えられて何とか1年活動を続けているところです。みなさんの中でも興味のある方はぜひサポーターもしくはボランティアになっていただけないかなと思っています。   JFSの活動の成果 【レスター】 この1年間活動をしてきて、JFSとしてどういう成果を得ているでしょうか? もちろん今の話にあったように、様々な日本における環境の展開を世界に対して発信していることは、私たちの研究所でも情報をもらっているのでよく知っています。あちこちから集まっていると思いますが、世界各国からフィードバックが返ってきたとか、これは非常にうれしいコメントをもらったとか、そういう経験がありますか? 【枝廣】 世界からのフィードバックはたくさん届いています。まず一番多いのは、「日本がこんなに活動していたとは知らなかった」というフィードバックですね。情報として日本のことが全然伝わっていないので、情報を届けるだけでも素直に喜ばれてしまうという、私たちはとても恵まれた立場にいるのかもしれません。 例えば、日本のいろいろな技術や取り組みに具体的に関心を示して、自分たちもそれをやりたいから詳しく教えてほしいという問い合わせもたくさん来ます。それから、私たちが発信した情報のこの技術を自分たちも会社で使いたいから会社を紹介してほしい、とか、そういうビジネス的な問合わせもたくさんあります。 例えば、日本の「環境家計簿」を紹介したときには、すぐにイギリスの政府の人からメールが来て、「是非詳しく知りたいので環境家計簿を英語でほしい」と言われて、環境家計簿を英訳しておくってあげました。そういうこともあります。 JFSでは情報を、月に30本記事として出して、それから月に1本ニュースレターというまとめた形で出しているのですが、これまで出したニュースレターの中で一番反応が大きかったのは、江戸時代の話を書いた時でした。これは石川英輔先生の、江戸時代が循環型だったという具体的な話をかいつまんで紹介したものです。「これこそ私たちが目指している持続可能な姿ではないか」「日本はそれを何百年前に、250年にわたってやっていたのか」「この時何がどうなっていたのかもっと詳しく知りたい」という要望が世界中から来ました。 そこで、石川先生に相談して、石川先生の本を英訳された方がいるので、その方のお力も借り、英訳を読んでもらえるように私たちJFSの方で準備をしています。 そのように、世界から日本がやっていることへの興味・関心が寄せられる同時に、、世界からいろいろな情報が集まり始めています。これは私自身がメールニュースをやっていた経験から、多分そうなるだろうと予測はしていたのですが、情報は出せば出すほど集まってきます。私自身のメールニュースも、1本出せば多分10本分くらい皆さんからいろいろな情報や意見をいただいている。 同じようにJFSも、情報を最初は出す一方でしたけれども、今は世界のあちこちから、自分たちは今こんなことをやっているとか、こんな会議をやるんだとか、JFSからも来てくれないか、とか情報がたくさん集まるようになっています。 もう一つは、日本の中でもJFSというNGOが何だか日本のことを世界に伝えているようだと、少しずつ知っていただいているようで、自分たちがこんなものを作ったので紹介してほしいとか、こういう活動があるので世界に情報発信してほしいとか、そういう形で日本国内のいろいろな情報もJFSへ集まりつつあります。 これは私たちの次にやりたいことにつながっていくので、非常にうれしく思っています。次にやりたいこととは、単に情報を出していくだけではなくって、「持続可能な日本ってどんな形なのか?」をいろいろ方々と話し合いをしてビジョンを作っていくための場を提供したいと思っています。そのためには今どうなってどんな活動をしているのかも大切な情報となります。 そういう情報をいただきつつ、そしていろいろな方々といっしょに、持続可能な日本の姿を作る場をこれからJFSで提供していきたいと思っています。そういう意味でいうと、JFSがこの1年間やってきた活動は、私たちが最初に予測したよりもたくさんの成果を産み出してくれたし、次の活動をしていくための必要な組織的なシステム、これはすべてボランティアの方々が支えて下さっているのですが、それも非常に形が整ってきたので、うれしく思っています。 【レスター】 私がJFSの活動を拝見して一番感動したのは、非常に大量の仕事をこなしている、ということです。しかも、それがボランティアベースで、みなさんが空いている時間をそれぞれ持ち寄って仕事をしている組織によってこれだけたくさんの量のの仕事をこなしているということが非常に素晴らしいと思うんですね。少なくとも環境の分野では、このような活動形態は非常にユニークなモデルです。 少なくともアメリカの水準と比べるたら、日本ではボランティアベースでそういった活動が展開するということが広がるのかもしれません。いずれにしても、これだけたくさんの方々が自分の空いている時間を進んで提供して、そして環境の活動をしようという思っているということ自体、非常にうれしく、その意味でJFSは新しいモデルを作ったんじゃないかと思います。   市民風車の話 【枝廣】 ありがとうございます。 先ほど、日本で今一番大切だと思う傾向は何か、ということで、人々が選べるようになっている、選ぶ力を意識するようになっているという話をしました。是非今日みなさんにご紹介したい動きがあります。 今、日本のあちこちで、市民共同発電所を、という動きが広がっています。私たちは、電気というのは地域にある電力会社がどこかで作って、それぞれの町まで運んでくれている、それを使うしか選択肢がない、それを使うのが当然だと、これまでずっと思ってきました。けれども、今「そうじゃない」という動きと意識が広がっています。例えば、ベランダにソーラーパネルをつけることもできる。さな発電量だけど、少しは自分でも発電ができる。もし庭や屋根があったら、もっと大きな発電ができる。それだけではなく、市民がお金を出し合って、出資をして、大きなソーラーパネルや風力発電を設置して増やしていこう、電力会社から電気を売ってもらうだけではないんだ、自分たちで選んだり、作ったりできるんだ、という動きが広がっています。 具体的な話を皆さんと一緒にぜひ伺いたいなと思って、今日は市民風車を進めていらっしゃる丸山さんに来ていただいています。
http://www.ge-aomori.or.jp/index.html 【丸山】 ただいまご紹介に預かりました丸山です。私は青森県にある「グリーンエネルギー青森」というNPO法人の代表理事をしております。その他にもエネルギー関連の仕事をいろいろしているのですが、市民風車として大きな風車が現在、日本で3台立っていますが、そのうちの1台をやっています。 先ほどのレスターさんの話で、デンマークやドイツの方では、風力発電がすごく増えている、というお話がありましたが、実はデンマークとかドイツの場合、ほとんどは企業が立てた風車じゃないんですね。個人風車であったり、あるいは共同所有、市民の人たちが、地元の人たちみんなでお金を集めて風車を立てる、そういう経営形態の風車が大半を占めます。これ実は、循環型の社会というものを考える時にすごく大事なことじゃないかなと思います。循環型社会というのは、しばしば環境問題とセットで言われているのですが、実は循環型社会と環境問題の解決とは少し違うんじゃないかなと常々考えています。つまり、環境問題というと、このままだと未来にとんでもないことが起こるから何とかしなきゃいけない、つまり、何かマイナスが起こるのを食い止めよう、という話になる。それはすごく大事なことではあるし、やらなければいけないこともある。けれでも何となく息苦しいという思いが常々あったんですね。その一方で、市民風車という話を聞くと、みんなが死ぬような思いをして風車を立てているか、というとそうではなくて、自分たちでお金を立てて風車を立てる、風車が作った電気は電力会社に売る、そして最終的には自分たちがその風車を立てるために出したお金は戻ってくる、そういう、つまり地域の資源は自分たちの地域でちゃんと利用しようと、そういうやり方なのです。これはもちろん、化石燃料を使わない自然燃料エネルギーですから、環境問題の解決の一つの選択肢でもなる。と同時に、この循環型社会作りを通じて多くの人が豊かになる。気持ちの上でも豊かになりますし、経済的にも無理なく実現できる。環境問題への取り組みって、結局すごく長く時間がかかると思うんですね。私が生きている間に、これが解決した、と思える瞬間がひょっとしたら来ないかもしれない。それだけ長く時間がかかるとすれば、これは無理なく継続的に取り組むための仕組みがすごく重要なんじゃないかなということで、市民風車という取り組みをやっています。ちょっと具体的な話をしますと、私たちが立てたのは、鰺ヶ沢町という青森県の日本海側の町です。舞の海という相撲取りの生まれ故郷です。ここに1500キロワットの風車を立てました。1500キロワットってどのくらいかというと大体1100世帯分くらいの電気をその風車1台で賄うことができます。他にも北海道、秋田で今同じような取り組みが始まっています。皆でお金を出して、風車を立てて、立てた風車で作った電気は電力会社に売る、そして最終的には立てたお金はみなさんに配当をつけてお返しする、そういう仕組みです。現在も出資を呼びかけています。一口10万円で1.5%の配当をおつけして15年間です。10万円出すということが大体どのぐらいかというと、先ほど1100世帯分と言いましたが、風車自体が4億円ですので、10万円出すと、一人当たり年間0.74トンの二酸化炭素を削減したことになります。これがどのぐらいかと言うと、だいたい普段の生活で私たちが使っている二酸化炭素の14%くらいを減らすことができます。そのくらいの効果があります。これは銀行の預金とは違ってリスクがありますが、お金を出してひょっとしたら配当がついて返ってくるかもしれないというお楽しみがありますし、さらに風車にみなさんのお名前が入ります。これは是非一度は見ていただくと面白いと思うのですが、日本のどこかに自分の名前の入った風車ができる。そういった試み、やはりこれからは市民が自分たちで電気を作るといった動きを作っていきたいと考えています。風力発電そのものは既に今ビジネスとして成立しているんですね。北海道ですとか東北地方には、大きな会社が入って大きなウィンドファームを作っています。これは二酸化炭素を減らすという意味ではすごく大事なことだと思います。けれども、これは実は地元の人、地元で暮らす人にとっては、これまでの開発が、例えば大きな発電所だったものが、単に風力発電に置き換わっただけなんですね。風車ができたからといって、特に自分たちの生活が豊かになるわけではない。そういうやり方で現在の日本では風力が増えようとしています。そういうのではなくて、皆がハッピーになる、そういう循環型社会を考えた時に、我々の手で、皆の協力で、風車を作っていく、そういった動きが大事じゃないかなと思います。 詳しい資料その他用意してありますので、第2部の時にでも、是非登録したい、あるいは自分でもやってみたい、という方はお声かけください。 【レスター】 質問してもいいですか? 今までどれくらいの出資額が集まっているんでしょう? 【丸山】 今までのところ集まった出資額が合計で1億7000万...1億8000万弱です。 【レスター】 一口10万円で集めておられる? 【丸山】 そうです。一口10万円でやっております。中には10口、20口と出資されるという方もいらっしゃいます。 【レスター】 その出資者の方というのはみんな市民の方々ですか? 【丸山】 そうですね。地元の企業で、ほんとに立っている場所の企業の方で出資されている方もいますけれども、大半は市民の方です。 【レスター】 日本市民じゃないと出資できないんでしょうか? 【丸山】 そんなことはないと思います。確認しますが。 【レスター】 私も、と手を上げたら受け取っていただけますか? 【丸山】 是非! 【枝廣】 丸山さん、どうもありがとうございました。第一部の時間が終わってしまいました。セッティングを変えて、10分後に第2部のネットワーキング・パーティを始めます。ではレスターと通訳をして下さった中村裕子さん、そして丸山さんに、どうぞもう一度拍手をお願いいたします。 レスター・ブラウン氏&エダヒロジュンコ対談 -2003年8月17日開催「第3回エコネットワーキングの会」より
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ