メールニュース&日刊 温暖化新聞に、スイスからいろいろな情報を寄せて下さる方から、スイスの生協の取り組みについて、レポートをいただきました。とても興味深いですので、ぜひご覧下さい。
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「スイスの生協の消費者をまきこんだ環境キャンペーン」
穗鷹知美 gassner(at)d01.itscom.net (カッコとその中身は@に置き換えてください)
スイスの小売業の特徴は、二つの大手生活協同組合(以下、生協と省略)が、ほかの小売業者を大きく引き離して高い売り上げを誇っていることです。世界的に生協がある国は多いですが、これほど規模がほかの小売業より突出して大きく、市場を占拠している国はありません。実際、スイスのどの都市や郊外に行っても、ミグロとコープという二大大手生協をみかけない場所はないといっていいほど、独占状態です。
ただし、生活協同組合なので、一企業として単に営利を追求するのではなく、地域の組合員や消費者の利益を守り、生活向上を目指することを目標としています。コープは、19世紀の産業化の時代の労働者や都市生活者に生活必需品を安価で安定して提供するために生まれた消費者組合をルーツにもちます。
2009年末現在、コープで働く従業員は5万3千人、組合員は252万人(スイス全人口は750万、実に3人に一人!)で、スイス第二の小売業者ですが、この数十年の間で、消費者、組合員の利益概念をさらに広げ、とりわけ、環境分野で、単なる小売業者ではなく主体的な商品の生産者として、先駆的なさまざまな試みに取り組み、新たな市場を広げ、支持層を増やし、金融危機をものともせず、成長を続けています。
例えば、今から17年前の1993年から有機農業者の組合連合と連携して、有機農業商品の生産をはじめ、現在は扱う有機農業商品が2000種をこえるスイス最大の有機農業商品生産者であり、オーガニックコットンに関しては、一万人の農家からオーガニックコットンを仕入れて製造しており、オーガニックコットンの衣料品類の製造量としては、世界堂々の一位です。
また、巨大企業として、自らのCO2排出量、エネルギー対策にも力をいれており、2023年までに、2008年比でエネルギーを2割、CO2排出量を5割以上減らすという計画を2008年から実行しています。
企業が色々な画期的な環境への取り組みを行いたいと思っても、消費者の十分な理解を得、その企画を成功させることは簡単ではありません。また、当初は消費者の関心をひきつけ、成功しても、そのうちマンネリっぽくなってしまい、消費者の反応が鈍くなることも多いでしょう。コープもこのような問題の例外ではなく、消費者の環境への関心を常に刺激し、環境にいい商品の選択に向かわせるためへの働きかけにも、力をいれています。
その重要な一つの取り組みに、毎週一度送られてくるコープの雑誌があります。希望すれば誰でも無料で配布してもらえるコープの週刊雑誌には、毎回、企業コープの環境問題への姿勢や実際の取り組み、そして具体的な環境負荷の少ない商品について、様々な角度から取り上げられています。
この無料週刊雑誌、様々な生活や季節にまつわる話題や毎週の特売品などの商品広告が大半で、毎回、100頁を超す厚さで全部に目を通す人はあまりいないと思われますが、広告や生活にまつわる記事をめくっているうちに、そこここで、環境の重要性が再認識され、環境によい商品への理解が深まるように作られています。
売り上げを最大限にすることだけを意図したスーパーの広告のちらしに比べれば、やたらに毎週手間ひまお金をかけている雑誌ですが、企業と消費者が連携して環境負荷の少ない社会を作っていくというコープの掲げる最大最重要の目標のために、企業側から伝えていきたいことを、消費者に直接アピールするための重要な手段として、少なくとも企業コープ側は重視しているのだと思います。
一方、コープとコープ利用者を巻き込んだ、環境への新たな取り組みが、最近はじまりました。今年2010年が生物多様性の年であることに関連させて、スイスで絶滅の恐れのある22種類の花の種を100万袋用意し、それをコープを利用した消費者に配布したのです。
絶滅の危機にある22種の花の種の説明書きと種(写真中央)
過去60年の間に、スイスでは、これらの植物が繁殖する草原(伝統的に牧草地として利用されていた草原)の90パーセントが消滅しました。草原では、 100種類以上の植物種が繁殖し、一千種までの昆虫類が生息していると言われ、これはスイスの全植物種の40パーセント、および動物(昆虫類)に至っては、全種類の半分が生息する生命豊かな場所なのだそうです。
花の種は、約1平方メートルの広さに繁殖する花の量が一袋に入っており、庭でもプランターでもどこででもいいから、これらの花を植えることで、スイスの動植物の生存圏を確保するのに貢献しよう、という企画です。同時に、インターネット上のくじに登録すると、一人当たり1平方メートルの草原が、コープによって保全され、無事に家で咲いた花は、写真でおくると、インターネット上で花のコンクールに参加できます。
このキャンペーン自体は、コープの売り上げに関係ないチャリティー事業ですが、コープの消費者を、自身の手で、自分の住む国の環境保全に、ささやかだけれど貢献するという体験をさせることで、環境への取り組みを新たな視点から見つめる機会をつくった、という意味でも、おもしろい企画だと思います。
昨年は、もう一つの大手生協でスイスで最大の小売り業者のミグロで、子供向けの収集遊びを盛り込んだ熱帯雨林保護キャンペーンというおもしろい企画がありました。店頭で20フラン(1フランは約90円)購買ごとに、熱帯雨林に生息する動物類のステッカー(のり付きの写真)を配布し、そのステッカーを貼る台帳を別売りし、台帳一冊の売り上げごとに、ミグロは、1フランを熱帯雨林の保全のためにWWF(世界自然保護基金)に寄付するというものでした。
ステッカー台帳 表紙
台帳の最後のページには、それまでのページに現れる優美でユニークな生物の姿とコントラストをなす、無惨に伐採された熱帯雨林の大きな写真を、再植林の風景の6枚のステッカーで上から覆うようなしかけになっており、「熱帯雨林を伐採する大きな理由のひとつが、家畜の放牧なので、肉を食べる量を減らそう」など、スイスの子供の立場からできる熱帯雨林保全のためのアドバイスも書かれてありました。
ステッカー台帳 (伐採された熱帯雨林の写真)
ステッカー台帳 (熱帯雨林を守るために、肉を食べるのを減らそう)
この企画は大盛況で、台帳が60万5千冊売れ、寄付されたお金で、ボルネオとマダガスカルの熱帯雨林保全地区が新たに設置されました。 今後もミグロとWWFは共同企画を続ける予定だそうです。
ミグロの森林保護キャンペーンが成功の鍵は、なにより、ステッカー収集という子供の心理的な欲求をかきたてる巧みなトリックだったので、余ったステッカーなどのごみをふやすばかりで、森林保護にはならない、などの批判も出ました。
その批判が妥当か否かは別として、ひとつ言えるのは、環境問題はもちろん遊びではないけれど、多くの人をひきつけて、長く続けて取りいくためには、効率や合理性だけではなく、遊び心をくすぐったり、新鮮な体験を創出する、豊かな企画力も求められているということかもしれません。
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どうやって多くの人をひきつけ、気づいてもらい、考えてもらい、行動を変えてもらうか、世界各地で多くの人々が頭を悩ませ、知恵を絞っているのですよねー。
お互いにうまくいった事例や成功要因を共有し、学びあって、効果を高めていきたいですね!
穗鷹さん、貴重な現地レポートをありがとうございました!