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エダヒロ・ライブラリー一日一題

「オランダ年金基金、東電への投資打ち切り」の背景は?

2014年01月10日

日々のニュースや身の回りで起こっていること、世界の動きなど、一題ずつ取り上げて、紹介したりコメントしたり、という小さなコーナーを始めます。

1月9日付の日経新聞「オランダ年金基金、東電への投資打ち切り」との記事

オランダの公的部門の年金基金であるABPが「福島第1原子力発電所の事故後も東京電力が安全確保を十分に実施していない」と判断し、「投資を打ち切る」と発表、東電株を既に売却したそうです。

「同基金は核兵器や化学兵器などの製造に直接関与する企業には投資しないという投資方針を持っている」とのこと。「へぇ? スゴイね(変わっているね)」と思った方も多いかもしれません。

ヨーロッパのいくつかの国の公的年金には、持続可能な社会の実現に配慮して投資するよう、運用に関するルールや方針があります。日本ではそういう動きが(まだ)あまりありませんが、世界的には大きな動向となりつつあります。

世界に広がる「責任投資原則」

その大きなきっかけになったのが、2006年に国連が発表した「責任投資原則」です。投資の分析と意思決定のプロセスに環境や社会の問題を組み込むこと、環境や社会に配慮して積極的に行動する株主になることなど、6つの原則があります。

水口剛先生の『責任ある投資――資金の流れで未来を変える』 によると、2012年時点で、署名した年金基金等の数は1100以上、署名機関が保有する連用資産の総額は32兆ドルに上るとのこと。

欧米では政府系の基金や公的年金が率先して署名しているのに、日本では(運用機関の署名は進んでいますが)年金で署名したのは3つの企業年金しかないそうです。この3つとは、キッコーマン企業年金、フジ厚生年金基金、セコム企業年金です。

「社会を変えるにはお金の流れを変える」こと

社会を変えるには、望ましいもの、増やしたいものにお金を回し、望ましくないもの、減らしたい(なくしたい)ものにはお金を回さないようにすることです。社会を変えるにはお金の流れを変えること、なのです。

ひとり一人の買い物も「投票」です。何を買うかは「どういう社会を創りたいか」に直結しているのです。そして、それ以上に大きな影響力を持つのが「投資」です。投資が向けられる先では事業活動が発展します。投資が呼び込めなければ事業は消滅していくでしょう。そういう意味で、社会的な責任をもって投資しようというのがSRI(社会的責任投資)です。

取り残される日本

SRIも日本では広がっていません。2012年末のSRI投資の金額は、欧州8.7兆ドル、米国3.7兆ドルに対し、日本は100億ドルとのこと......。日本がこれほど遅れている理由の1つはこの年金運用の取り組みが遅れているためだとよく指摘されます。

お金の動きは人々の意識や関心、方向性に大きな影響を与えます。大きな影響力を持つこうした年金基金が多額の投資を責任投資原則にのっとっておこなう環境下の企業と、そうではない環境下の企業の意識や関心、方向性は大きく違ってくるでしょう。

近年、世界(欧州だけではなく米国も含め)の中で日本企業が大きく取り残されつつあることに私は懸念を深めています。企業の勉強不足や内向き指向のせいでもありますが、企業にシグナルを与える「お金の流れ」が変わっていないこと、つまり、投資家や年金基金の責任でもあると考えています。

「オランダ年金基金、東電からの投資打ち切り」のニュースに、「へぇ? スゴイね(変わっているね)」と思うのではなく、「そうだよね、問い合わせに対して東電から返事が来なかったというのだから、責任投資原則に照らし合わせても、当然の動きだよね」とみんながぱっとわかるようになり、オランダなど海外ではなく、日本の年金基金のこうした動きを記事で読める日が早く来ることを願っています。

 

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