ホーム > 一日一題 > 「就職を考える○○さんへ~未来は地域にしかない」

エダヒロ・ライブラリー一日一題

「就職を考える○○さんへ~未来は地域にしかない」

2019年04月02日

山陽新聞の「提言」というコーナーへの寄稿です。「大都市に出て行って就職するのが良い」というのは今でも通用するのでしょうか? フェイスブックでも多くの方にシェアしていただいている短い原稿とデータの解説をお読みください。

(ここから)

就職を考える○○さんへ

○○さんへ。お便り拝見。もう就職を考える年齢なのですね!

自分は地元に残りたいのに、ご両親が「田舎には将来がないから、都会に出て行って就職しろ」と譲らないとのこと、東京と地方の両方で活動している私はどう思うか? とのご質問ですね。

私はねえ、「未来は地域にしかない」と思っているんですよ。心から。

今は東京も元気ですよ。五輪までは建設業もサービス業も好況で、人手不足がハンパない。地方から見たら「東京は潤っているなー、あそこに行けば将来も安泰だろう」と思えるのでしょうね。

でもね、東京都も2030年には人口が減り始める。45年には東京都民の3割が高齢者です。東京の高齢化の急激さは地方の比じゃないですよ。これまで地方から東京に移住した大量の若者たちも高齢化していきます。

11年から40年の間に65歳以上の高齢者がどのくらい増加するかを調べてみると、高齢化率の高い秋田県や高知県ではたったの千人であるのに対して、東京都では128万3千人も増えて、40年には400万人になります。130万人近くもの増加にどう対応していくのでしょう?

そして、東京都の生産年齢人口は11年から16年の間に約2万3千人減っている。つまり、東京都は「人口は増えているが、生産年齢人口は減少し、高齢者が急増する」という状況なのです。

しかも、これまではビジネスや働く人のためのまちづくりをしてきましたからね、医療機関や介護施設も足りないし、在宅サービスも整っていない。近隣や地域の支援もあてにできません。

今後、大都市部では、医療や介護といった社会保障費が増大し、高齢者も暮らしやすい町に転換するコストも莫大にかかるでしょう。労働人口が減れば、税収も減るかもしれない。すると、大都市部に住み続ける人は、負担増とサービス低下に直面? それを嫌って、地方への移住者や移転企業が増えれば、残る人の負担はますます大きくなります。最悪の場合、かつて同様の状況下で100万人規模で人が出て行ったニューヨーク市のように、大量の東京脱出が始まるかも?

不確実で不安定なこの時代に幸せな人生を送るためには、何があってもつぶれずにしなやかに立ち直れる力(レジリエンスといいます)が大事。去年9月に全道ブラックアウトが起こったとき、私はたまたま北海道の下川町という小さな町にいました。町の人々は声を掛け合って安否を確認し、ガス炊飯器のあるおうちが炊き出しをして、オール電化で途方に暮れている人たちに配っていました。いただいたおにぎりを頬張りながら、被災するんだったら大東京ではなく、地方の町がいい! と思いましたよ。平時だって、地方なら家庭菜園や田んぼを借りて、自分たちの食べ物を作れる。助け合えるご近所さんもいる。これがこれからの幸せの鍵じゃないかなあ?

ご両親の助言はこの40年間の経験からのものでしょう。でも、あなたが生きていく次の40年間は、これまでとは大きく違うものになる。「どういう時代に生きていくのか」をしっかり考えてね。がんばってね! 

                            枝廣淳子

(ここまで)

上記の「2011年から2040年の間に、秋田県や高知県では1000人ぐらいしか高齢者が増えないのに対して、東京都で増える高齢者数は128万を超える!」というデータについて、さらに詳しく解説記事を書きました。(こちらの解説ではより現在に近い、2015年との比較を行いました)

「データを読む」コーナー
2015年から2045年の間に約110万人も増加!? 東京都深刻な高齢者の増加
https://www.es-inc.jp/graphs/2019/grh_id009892.html

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ