「1」では、英語が話せないのに無謀にも通訳になろうと決めた11年前からの10年間の自分の軌跡を書きました。そこで書いた「バックキャスティング」や「自分マネジメント」「ストレス管理」「時間管理」などについてもっと詳しく知りたい、というリクエストをたくさん頂いたので、より具体的に書いたのが本書です。
はじめに
『朝2時起きで、なんでもできる!』が出てすぐに読んでくれた、そしてたぶん最年少の読者(?)は、小学五年生の長女のみさきでした。
読書大好き少女の彼女は、めぼしい本がないか、よく私の書棚をのぞきに来るのですが、読み終わった『朝2時』を本棚に返しながら、「お母さんって、むかしから英語ができたわけじゃなかったんだ」と一言。「そうなのよー、語るも涙、聞くも涙の物語があって……」といつもの冗談モードに入りそうな私に、「一冊借りていっていい? 学校に持っていきたいんだけど」。次女のあかりも「私も持っていく」といい出し、それぞれランドセルに入れて、学校に出かけて行ったのでした。
友だちに見せるのかなー、と思っていたら、下校したみさきが「○○先生が一冊買いたいって。××先生も一冊ほしいって」というので、ひっくり返ってしまいました。先生たちから“注文”を取ってきてくれちゃった! なんだかわかんないけど、お母さんが一生懸命やっていることが、こんな本になったらしい、これはなんとか応援してあげなきゃ、と思ってくれたようなのです。
気持ちはありがたくいただきながら、あわてて学校の図書室とあかりのお世話になっている学童保育に寄贈させてもらいましたが、それでも買ってくださった先生もいらっしゃった。「保護者会にもあまり出てないのに、すみません」と冷や汗の私。
朝二時に起きることも含めて、毎日の生活でどういう工夫をしているか、いつもハッピーでいたい! という願いをかなえるために、どのように自分をあやしたり、なだめたり、励ましたり、いらないストレスを避けたりしているのか……こういったことは、あくまでも個人的なことなので、人から興味をもたれるとは思っていませんでした。それなのに「バックキャスティング」について書こうと思った本の“息抜き”のつもりで書いた「私なりの工夫」に対して、役に立ったとたくさんのお手紙やメールをいただいています。
そして「本当にやりたいことをやりたい」「自分を変えたい」「このまま年をとっていくのは耐えられない」という真剣な思いを読ませていただいているうちに、「山黒し われを導く 星凍る」というヘタな句が浮かんだ、大学院二年の秋を思い出しました。
大学院を飛び出して就職するといい出した私に、大学ではまわりじゅう(と当時の自分には思えた)が反対しました。実験で地方に出かけた夜、心をこめて反対の説得をしてくれる先輩の車で駅まで送ってもらいながら、助手席の私はじっと、黒い山の上で凍っているようにか弱い光を発している星を見つめていました。「あれが私の北極星だ。目を離しちゃいけない。あれに向かって進んで行くのだから」と。
そのときは、就職したらどうなる、というビジョンはなくて、とにかく「このままじゃ、だめだ」という思いだけで飛び出したのでした。そういえば、「二年間で同時通訳者になる!」という突拍子のない夢に向かって飛び出したときも、「新しい世界への不安と期待」にドキドキしたな~。苦労や失敗はすぐに忘れる、というめでたい性格(?)で、すっかり忘れていましたが、悩んだり立ち止まりそうになったことが私にもあったのでした。
自動車のハンドルを握っているとき、「どちらの道を行こうかな?」という分かれ道がありますよね。近道のはずがたまたま工事中で渋滞していたり、思い切って初めての道を行ってみたら、予想外にスムーズだったり。「あそこで別の道を行っていたら、いまごろどこを走っているかな」とふと思うこと、ありませんか? でもそれは絶対にわからない。自分の選んだ道を進んだ結果しか、わからないのです(だから幸せだとも思いますが!)。
あそこで別の道を選んでいたら。この分かれ道、どちらに進もうか。思い切って、高速道路から下りて砂利道を進んでみようか……。人生はシミュレーションゲームではないので、選ばなかった道の行方はわかりません。選んだ道がどこに続くのかもわかりません。進んでも人生、進まなくても人生。ただ、自分で選びたい。最後に「いい人生だった」とつぶやけるよう、いつでもどこでも自分の腑に落ちる自分でいたい、と私は思っています。
……と、珍しくまじめなことを考えつつメールボックスを開いたら、PTAから講演の依頼メールが。不義理の恩返しもできるかな。「せっかくなので、六年生にも参加してもらいます」とのこと。いまや六年生のみさきは、「え、本当に来るの?」と心配そう。「だいじょうぶよ、お母さんは外ではしっかりしているんだから」と請け合いながら、そうだな、せっかくだから、親子対抗エコクイズでもやるかー、と頭の中は小学校の体育館のイメージでいっぱい。あっ、クイズはみさきにナイショで作らなくちゃ!
「一〇年たったら次の本を書きます~」といっていた私の背中を押してくれたのは、「本を読んで背中を押されました。前からやりたかったことをやります」など、読者の方々が寄せて下さったお手紙やメールでした。好きなことを好きなようにやってハッピーなヤツがいるんだなぁ、といわれますが、そうなんですよー。そうしようと思えば、そのために自分とのつきあい方をちょっと工夫すれば、あなたも、ね?
空が明るくなってきました。今日もいい天気になりそう。
ハッピー・モーニング トュー・ユー!
著者