NGOのマネジメントを専門に手がけるコンサルタント会社が書いた本書の原題はまさしく「NGOのマネジメント」。効果的な活動をつづけるための「人づくり」「お金づくり」「組織づくり」など、NGOに限らず、組織運営のための効果を発揮するツボがたくさん載っているガイドブックです。
訳者あとがき
枝廣 淳子
一九九九年一月、ワシントンDCのオフィス街にあるスミス・バックリン・アンド・アソシエイツのオフィスを訪れた。日本のNPO(非営利団体)がNPO法成立を追い風に社会に風穴をあける活躍を支援したい、という海象社社長の山田氏の意を受けて、彼らが一九九四年に出した『The Complete Guide to Nonprofit Management』の日本語版出版について打ち合わせをするためである。
本文に出てくるように、「非営利団体」は大きく「市民活動団体」と「業界団体」に分けることができる。米国では、資金や経済へのインパクトという点で特に「業界団体」の比重が大きく、計画中の改訂版ではより「業界団体」寄りのガイドブックを考えている、という話だった。私たちは、日本での出版には、改訂版ではなくオリジナル版の方がニーズに合うだろう、と話し合った。ただし、最近のインターネットやEメールの普及がNPOの活動を強力に後押ししていることに鑑みて、情報技術を使いこなすための章を新規に執筆してほしいと依頼し、快諾を得た。
また、アメリカ独自の税制や法律などの項は、適宜削除するなり、日本の内容に置き換えてかまわないという話だったが、編集部では「アメリカの制度の現状を紹介して、日本にも必要な税制やその他の仕組みを考える際の刺激を供するのも本書の役割のひとつ」と、すべて紹介することにした。したがってこの日本語版は、初版に情報技術に関する章を追加したものをほぼ全訳したものである。
著者らの会社は「非営利団体のサポートをする営利団体」である。規模にもよるが、非営利団体は十分なスタッフを置けない、もしくは自前で置くことが効率的でない場合が多いので、「事務局長」でも「経理担当」「広報担当」「資金集め担当」でも、そのNPOに必要なスタッフを有料で派遣するのである。「会社の創立は一九四七年、従業員は六五〇人を数え、ビジネスは好調、米国にある同業他社五~六社を合わせたより規模が大きい」と胸を張っていたが、私にとっては「NPOのサポートを専門に行う営利企業」が五〇年も前から、しかも数社もある!ということ自体が驚きだった。日本でNPOの活動が本格化して、このようなサポートやコンサルティングを行なうビジネスが「成長企業」になるのはいつ頃だろうか?
私自身、環境問題をライフワークに通訳者・翻訳者・ジャーナリストとして活動する中で、日米の環境NPOと知り合う機会がある。米国のNPOは、組織としてのシステムがしっかり確立し、営利企業と同じような「ビジネスライク」な管理・運営が行なわれているところが多いように思われる。それに対して日本のNPOは、「個人やグループの熱い思い」から出発して、組織として効果的に機能するためのシステムを工夫しながら取り入れていく段階にあるところも多いようである。
日本でも多くのNPOが立ち上がりつつある今、論理的にまた合理的に使命や目的・目標、戦略を練り、広く共有し進捗を測れるように成文化し、資金集めや政府に対する活動、一般の人々へのコミュニケーションを効果的に実行できる組織づくりを進めていくうえで、また、NPOのスタッフや理事が自らの職務と任務を理解して効果的に協力していくうえでも、本書が時宜を得た一助となることを心から信じるものである。
最後に、本書の翻訳の機会を与えて下さった海象社の山田氏、訳出にあたっての多くの質問に快く詳しく答えてくれたウィルバー氏に感謝するとともに、自ら日本の大きなNPOのひとつで活躍され、種々のNPOの理事もされている(社)日本青年会議所一九九八年度会頭・新田八朗氏にも資料提供などの支援をいただいたことにお礼を申し上げたい。