著者は、環境の分野での先進的取り組みで知られる、商業用カーペットメーカーの「インターフェイス」のレイ・アンダーソン会長。同社は、摩耗したり不要となったカーペットを工場でふたたび繊維に戻し、原料とすることで、カーペットという「モノ」ではなく、カーペットの「機能やサービス」だけを売り、成功しています。
「環境に優しいことは、ビジネスにもよい結果として跳ね返ってくる」という根拠-例えば、一年間で廃棄物を半減し、1億2,400万ドルを節約、これにより5年間に営業利益が27%増加したなど-や、「サステナビリティ」というエベレストよりも高い山を7つの面から登る方法を、具体的に惜しみなく教えてくれる本です。
訳者あとがき
私が最初にレイ・アンダーソン氏にお目にかかったのは、二〇〇〇年五月に東京国際フォーラムで開催された「日米欧環境派経済人・知識人会議」の席上、会議のチーフ同時通訳者としてであった。その前から、ワールドウォッチ研究所のレスター・ブラウン理事長の口から、たびたびアンダーソン氏の名前や取り組みはうかがって近しく感じていたので、思わず「お久しぶりです!」と挨拶しそうになってしまった。
チーフ通訳者としてスピーカーとの打ち合わせを何度かさせていただいたが、アンダーソン氏の頑固なまでに毅然としながら人懐こい温かさでまわりの人を和ませてくれる雰囲気が素敵だった。私が心中に描いている「本当に偉い人の三つの条件」にぴったり合う方だ!
この会議でアンダーソン氏は、「環境に優しいことは、ビジネスにもよい結果に跳ね返ってくるという実感」の根拠――たとえば、九九年の一年間で廃棄物を半減し、一億二四〇〇万ドルを節約したとか、二〇〇〇年の節約分は一億三三〇〇万ドルまで増えているとか、このような取り組みのおかげでこの五年間に営業利益が二七%増加しているとか――を具体的に話してくれた。それとともに、どのような取り組みを行っているのか、「サステナビリティ」というエベレストよりも高い山を七つの面から登っている、その七つの面とはどういうものかを惜しみなく教えてくれた。
アンダーソン氏のこのような取り組みやその背景が『Mid-Course Correction』という本にまとめられていることは、私も参加していたこの会議の主催運営チームも早くから知っていて、主催者である環境を考える経済人の会21の三橋事務局長をはじめ、「ぜひ日本で出版して多くの人に読んでもらいたい!」と話していた。
環境の分野で、まだ日本に紹介されていない「必読書」が何冊もあるが、この本もその一冊であった。企業トップが「自分は何を考え、どう進んできたのか、その結果はどうか」を率直に綴った本書は、企業での取り組みが大きなうねりとなりつつある日本に、大切な羅針盤(コンパス)と希望を与えてくれるに違いない。まず紹介したい本だ、と私も強く思っていた。
私もいくつか心当たりの方に紹介をお願いするなどしていたが、イースクエアのピーダーセンさんが具体的に動いてくれ、七月はじめに待望の「GO!」が出た。
そこからは、翻訳者の仕事である。環境問題に関心を寄せて理解しており、しかも正確でわかりやすい翻訳ができる翻訳者は、残念ながらそれほど多くはないのだが(いま仲間を増やそうと努力しているところ)、幸い優秀な翻訳者である河田裕子さんに組んでもらうことができた。四章までの前半を彼女が、五章以降の後半を私が訳し、最終的に私が全体のチェックと統一を行った。
三橋さん、ピーダーセンさんのほか、翻訳上の細かな質問に快く丁寧に答えてくれたインターフェイス日本支社のブロイス支社長、スケジュール的にもかなりキツイ注文に応えて出版にこぎつけてくれた海象社の山田社長をはじめ、この翻訳書をサポートしてくれた方々に感謝の意を表したい。素敵なアンダーソン氏の素敵な著書を日本に紹介する一助となれたことを本当にうれしく思う。
そして、米国でこの本の原書『Mid-Course Correction』を出したあとのインターフェイスの苦境とその原因、どん底から這い上がり、さらなる上昇へ向かいつつある足取りについても、ぜひありのままを知ってほしい、と日本語版刊行のために最終章を書き加えてくださったアンダーソン氏に心からの感謝と敬意を込めて。
二〇〇一年一一月
枝廣淳子