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カサンドラのジレンマ――地球の危機、希望の歌
翻訳書
 

アラン・アトキソン (著)、枝廣 淳子 (訳)
PHP研究所

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「このままではどうなってしまうかが見えているのに、その言葉をだれも聞いてくれない」――人々に警告を発し、取り組みを促そうとしている人々は、ギリシャ神話のカサンドラと同じジレンマに陥っています。本書は、どうしたらそのジレンマから脱出できるのか、原因と解決策をわかりやすく説明しています。「できる!」と次の行動への一押しをしてくれる本です。環境問題に限らず、仕事や日常生活でもきっと役に立つことでしょう。

監訳者あとがき

 私が本書に出会ったのは、二〇〇二年九月、ハンガリーのバラトン湖畔でした。本書にも出てくる、『成長の限界』を書いたメドウズ夫妻が二十二年前に始めたバラトン・グループの「五〇人限定・五日間の国際ワークショップ」に、その年、ただ一人の日本人として参加したのです。システム・ダイナミクスの専門家のほか、約三〇ヵ国からさまざまな専門家・研究者・活動家が参加し、朝から晩まで、議論をしコーヒーやワインを片手に情報や意見の交換をし、共同プロジェクトの立ち上げや打ち合わせをする、というとても刺激的でユニークな場です。この合宿での唯一の掟は「部屋に閉じこもってはならない。すべての時間をメンバーとの交流に費やすこと」というものです。
 その年のバラトン合宿には、本書の著者、十年選手のアラン・アトキソンは来ていませんでしたが、メンバーから「アランがいたらよかったのに」「アランだったらギターと歌で盛り上げてくれたのに」と、彼の名前はよく聞きました。そしてドイツから参加してくれていた古参メンバーが、「あなた、この本を読んだほうがいいわよ。絶対にいいわよ」と教えてくれたのが、本書『カサンドラのジレンマ』(原題 "BELIEVING CASSANDRA")でした。
 帰国後さっそく取り寄せて、一気呵成に読みました。環境問題の本はよく読みますが、これほど「これだ! こういう本を読みたかったんだ!」と思わせてくれる本ははじめてでした。問題や現状をただ単に並べるのではなく、どうしたらいいのかという具体的な考え方やツール、そして「できるんだ」というメッセージが温かく強く伝わってきます。
 すぐにアランに「日本で翻訳して出版したい」というメールを出し、企画書を作り、出版社に内容をわかってもらうために先行して翻訳を始めました。全部の翻訳が終わった頃に、待ちに待った「やりましょう」というゴーサインをもらい、翻訳の仕上げをして、こうして皆さんに読んでいただけるようになりました。とてもうれしいです。
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「このままじゃだめだよ。何とかしようよ」といくら訴えても、まわりの人が全然耳を傾けてくれないというと、ありませんか?
 もし思い当たることがあるなら、あなたもカサンドラです。自分には、ここままいったらどうなるかが見えている。それなのに、いくら警告してもわかってもらえない。そして、思ったとおりの悲劇を目の当たりにして、救えなかった自分に忸怩たる思いを抱くことになるか、あるいは警告が聞き入れられて対策がとられた結果、「おまえの予言ははずれたじゃないか」と責められ、信用を失うか。
 どちらにしても、ツライ立場です。カサンドラのジレンマです。
 アランは、ギリシャ神話のカサンドラの話から、「環境問題で警告を発し、人々に取り組みを促そうとしている人々もまさしくカサンドラにジレンマに陥っています」と言います。
 本書にもアランがワールドウォッチ研究所の会合に参加したときの様子が出てきますが、私が十年ほど前からサポートしているレスター・ブラウン氏は何年も前に『だれが中国を養うのか』という本を出して、中国に食糧需給の見通しと国際市場への影響に警告を慣らし続けてきました。あるとき、来日したレスターの通訳をしているとき、次のような質問が出ました。「あなたは中国が大量の穀物を輸入するようになって大きな影響を与えると何年も前から言っているが、中国はまだ輸入国になっていないではないか」。
 ああ、レスターもカサンドラなのだ、と私は思いました。あの本が出た当初は、「中国は中国が養うのだ」と記者会見まで開いてレスターに反発していた中国側も、現状の調査を進めるにしたがって事の重要性を理解するようになり、いろいろな面で方向転換するようになりました。そのおかげもあって、レスターの当初の予言は「はずれ」たのです(このままでは一~二年のうちに輸入国になるとレスターは予言を続けていますが)。
 カサンドラのジレンマというテーマは重いものですが、アランは「どうしてそうなっているのか、どうしたらそのジレンマから脱出できるのか」、原因と解決策をとてもわかりやすく説明しています。「そうか、こうなっているのか」「そうか、これが大事なのか」「そうか、こういうふうに進めていけばいいんだ」と納得し、「できる!」と元気と勇気と知恵と行動への一押しをしてくれます。
 とくに「あなたが悪いんじゃない。誰かが悪いんじゃない。システムの性質からいって、そうなってしまうのだから、システムを直せばいいのだ」というシステム・ダイナミクスの考え方のわかりやすい説明は、日常生活にも活かせます。「地球が地球で、人間が人間であり続けるため」の持続可能性の原則や、新しい考えやイノベーションはどのように広がるのか、何に気をつければ効果的に迅速に広げることができるのか、というイノベーション普及理論のわかりやすい説明も、環境問題に限らず、仕事や日常生活のあちこちで役に立つことでしょう。
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 今回の翻訳は、私の主催する環境英語実践翻訳チームが下訳を担当し、私が監訳しました。素晴らしいチームワークで質の高い翻訳をしてくれた、阿部恭子、伊藤智子、大谷恵子、小野寺春香、小宗睦美、佐野真紀、清水陽子、豊高明枝、西垣亜紀、服部陽子、藤津ふみえ、三宅晴美、山田はるみの各氏に感謝します。とても楽しく気持ちよく進めることができました。
 また、本書の出版を実現し、強力に支援してくださった編集者の森本直樹さん、翻訳チームからの微に入り細にわたる質問に快く丁寧に答えてくれたアランにも、心から感謝します。
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 今年九月のバラトン合宿で、アランに会いました。メールではやりとりを重ねてきましたが、会ってますます意気投合しました。アランにも私にも、心理学(カウンセリング)のバックグラウンドがあるためかもしれません。彼と私の考え方やアプローチを組み合わせて、共同プロジェクトを始めようと思っています。題して「カサンドラのジレンマからの脱出マニュアル&サバイバル・キット」。こちらもいつか、お届けできたらと思っています。また、アランの配信するニュースレターの日本語版を自分のメールニュースで紹介しています。よろしければホームページをご覧ください。

 二〇〇三年秋
枝廣淳子

 

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