朝2時シリーズ第3弾のうち、最初の2冊が文庫化されました。ポケットサイズになって持ち運びにも便利。新しいメッセージも入っています。表紙も少し模様替えしています。
文庫版あとがき
この本を数年前に出したときには、自分の名刺に「早起き評論家」という肩書きがつくなんて、思ってもいませんでした!
もちろんこれは冗談ですが、そんな肩書きをつけたくなるほど、「早起き」「タイムマネジメント」についての取材や執筆依頼が、特にここ最近「ぐん!」と増えています。「自分のビジョンを描く」「ビジョンに向かって進んでいくための方法」「女性のキャリアの作り方」「ストレスに負けない方法」といった講演依頼も。
そもそも、自分が年間五〇本もの講演をするようになり、毎年何冊もの本を出すようになるなんて、夢にも思っていませんでした。「夢がかなってハッピーな同時通訳者」であり、その延長線上で、自分にとって大きな関心事である地球環境問題の分野でも活動を始められたことがうれしくてしかたない! という私でしたから。
振り返ってみると、ほとんど英語が聞き取れないくせに、同時通訳者になる! という無謀なビジョンを描き、その夢に向かって突進したあの二年間がなかったら、いまの私はなかったなあと思います。
実際の勉強を進めて、帰国後に通訳者になれた、というだけではなく、あの二年間に、はるか遠い目標地点になんとか届こうと、来る日も来る日も自分の勉強のしかたや自分を進ませつづけるためのしくみを工夫した、その経験こそが何よりも自分の身になっているからです。
「自分のビジョンを描くこと」「描いたビジョンに向かって、たんたんと着々と進みつづけること」――これはいってみれば、「行き先を決めて、自転車をこいでいくこと」と同じです。いったんそのやり方とコツが身につけば、あとはどんなときにも、やりたいことが何であっても、スイスイと進んでいけるようになります(その結果、名刺に書ききれないぐらい、やっていることが増えてしまったわけですが!)。
「でも、アナタだからできたのでしょう?」とよくいわれました。
「そんなことないんですよ。だれだってやり方さえわかれば、練習さえ積めば、できるようになります!」と私。心からそう信じていたので、「じゃ、他の人がビジョンを見つけて、進んでいく手伝いをして、証明しよう!」と、「自分のビジョンを見つけ、進んでいくための自分マネジメントシステムを作る半年コース」や、一泊二日の「一年の計を立てるワークショップ」などを開催するようになりました。
「自分のやりたいことがはっきりしました!」「これまではいつも計画倒れだったのに、自分に合った計画を立て、振り返りをしながら、進めるようになりました。楽しいです!」という声をたくさんいただいて、「ビジョン作りと自分マネジメントシステムは、だれもができること」という思いをますます強めています。
進んでいく自分を実感することは、本当に楽しいのです。自分に対するいらだちやイヤ気も減り、前向きになれます。
「そんなことをいったって、でも……」という方へ。焦らないこと。カンペキなるビジョンを作ろうと思わないこと。「五分後のビジョン」(この五分間をどう過ごすか)を描き、実行してみて下さい。ホラ、できるでしょう? こういう小さな「できること」を増やして、つなげていくこと。自分を責めないこと。うまくできなかったら、それはやり方が悪いのだと思って、方法を考え直せばいい。そして、ときどき、青空を見上げて深呼吸すること。
「あのとき」の自分に支えられて「いまの自分」がいるのだと実感するとき、「いまの自分」が「この先の自分」を作っていくのだなあ!と思うのです。「そのプロセスこそ人生だ」と思っている私の「この先」はどこへつながっているのか?――自分でもわかりません!
二〇〇六年一月
枝廣淳子