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エダヒロの本棚

つながりを取りもどす時代へ―持続可能な社会をめざす環境思想
 

40年以上にわたり世界中で読まれてきたイギリスの雑誌『リサージェンス』の選集――サティシュ・クマール、アル・ゴア、ワンガリ・マータイ、スティング、ハーマン・デイリー、ヴァンダナ・シヴァ、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、トマス・ムーアなど、世界をリードする人物たちが、20の視点を投げかけます。現在のさまざまな問題の構造に、自分がどう関わっているのか、そしてその構造を変えていくために自分には何ができるのかを考えていくうえで、本書は最高のガイド役となってくれるでしょう。

はじめに

 いっしょに「100万人のキャンドルナイト」の呼びかけ人代表をやっている、ナマケモノ倶楽部の辻信一さんと、何年も前から「日本の人たちにも読んでほしいね。いつか日本で出したいね」と言っていた雑誌『リサージェンス』から、今の日本と世界と未来を考えるうえで「これは大事!」という記事を厳選して、日本語でお届けできて、これほどうれしいことはありません!
『リサージェンス』は、英国でもっとも歴史のある環境をテーマとした雑誌です。1966年に創設され、世界20カ国に約4万人の読者がいます。単なる“エコ・ムード”ではなく、しっかりとした理論と実践を元に、現在の問題構造にさまざまな角度から光を当て、本質的にどうあるべきかを考える糧を読者に提供しつづけている、とても骨のあるしっかりした雑誌なのです。
 目次を見ていただけばわかるように、ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんやアル・ゴアさんをはじめ、世界各地・さまざまな分野で、地に足のついた活動を展開している人たちが、その知見や洞察、実践を、世界中の読者と分かち合いたいと寄稿しています。ジャガイモといった身近な話から、経済の仕組み、そして私たちの心や「自分とは何か」といったテーマまで、幅広く取り上げられています。
 長く同誌の編集長を務めているサティシュ・クマール氏は、「Soil、Soul、Society(土、心、社会)」が大切であると考え、そのすべてに影響を与えている現在の経済の仕組みも含めて、さまざまな角度から思考の糧、心の栄養を届けてくれています。
 温暖化が深刻化しつつあるのに、なかなか効果的な対策を進められない国内・国際社会にしろ、貧困を解決するはずだった経済成長やグローバル経済が、経済格差をますます拡大しているという現実にしても、一人当たりGDPは世界屈指であっても、約16分に一人ずつ自らの命を絶っている人がいるという日本の現実を見ても、「何かおかしい」「このままじゃいけないのでは」と思う人は多いのではないでしょうか。
 「何かおかしい、何か変えなくてはいけない」と思うときに大事なことは、「何がどうおかしいのか」――そのからくりを見抜くことです。
 本書は、なぜハンバーガーを1ドルという安い値段で売ることができるのか、アメリカよりも安いコストでトウモロコシを生産できるメキシコ農家が、どんどん農業を続けられなくなっているのはなぜなのかなど、「何かおかしいこと」のからくりを、鮮やかに見せてくれます。
 ますます複雑さを増し、グローバル化とIT化が進むこの時代に大事なことは、目の前の「問題」の個別対応に走るのではなく、さまざまな問題を生み出している全体の構造を見抜いて、構造から変えていくことです。私たちは、何か問題があると、絆創膏を貼るように、「その問題」「あの問題」への対策や解決策を考え、実行します。その繰り返しです。
でも、いくらたたいても、あちこちからぴょこぴょことモグラが顔を出すモグラたたきをしているようだと思いませんか?
 環境問題にしても、オゾン層の破壊や、化学物質の蔓延、地球温暖化や種の絶滅など、なぜこの数十年の間に、週替わりのように次々と問題が出てくるようになったのか――たまたまそこに顔を出したモグラではなく、次々とモグラを生み出しつづけるモグラたたきの台の構造を見抜き、そこから変えていかなくてはいけないのです。
 経済だったら経済を、環境だったら環境を、社会だったら社会のことを考えていればよいと、別々に考えて個別の対策を打つのではなく、「自然も社会も経済も、そして私たち一人ひとりの幸せも、すべてはつながっているのだ」という全体的な見方が必要なのです。
 このように、個別対応ではなく、それぞれのつながりをたどって全体の構造を見抜くことによって、構造から変えていくことができれば、本当の幸せをつくり出せる新しい文明が生まれることでしょう。
 私たち人類の現在の文明は、まだ未熟なのです。本書で、サティシュ・クマール氏が「互いに仲良く暮らす方法も、地球を壊すことなく生活する方法もわからないのに、どうして私たちは自分たちのことを『文明人』と呼べましょうか」と書いているとおりです。
 私たち人間は、「地球は無限ではなく有限であること」、「人間が与える影響が、地球の大気にすら影響を与えるほど大きくなってきたこと」を、ようやく認識しはじめました。有限の地球の上で、人口にせよ経済にせよ、無限の成長を続けることはできないという、ごくごくあたりまえのことを、ようやく受け入れはじめています。それを前提としてこなかったこれまでの社会や経済を、少しずつシフトしていこうという試みが世界各地で始まっています。
 本当に大切なものを大切にできる時代に向かって、世界のあちこちでさまざまな動きが出てきていることは心強く、わくわくします。そこでの大事なポイントは、「つながり」と「バランス」です。何が何とどのようにつながっているのかがわからなければ、目の前の対応に終始してしまうでしょう。さまざまなものがつながりを持ってバランスの取れている状態をどのようにつくり出すことができるのか――本書はさまざまなヒントや気づきを提供してくれます。
 そして、いちばん大事なことは、経済にせよ社会にせよ、その全体の構造(システム)を外から傍観者のように見ているのではなく、自分もそのシステムの一員であるということを認識することです。自分もシステムの一員であるとしたら、自分が何を考え、何を行うか、何を行わないかによって、そのシステムに影響を与えることができるのです。
 環境問題の悪化にせよ、貧困や格差の拡大にせよ、現在のさまざまな問題の構造に、自分が現在どうかかわっているのか、そしてその構造を変えるために自分には何ができるのかを考えていく上で、本書は最高のガイド役となってくれるでしょう。
 本書は、ページを繰って読み進めていくという本の形式をとっています。しかし、ページが変わっても、そこで語られていることのつながりが切れるわけではありません。ぜひ、見えないつながりを見つけよう、そして全体の構造を少しでも見抜く力をつけていこう――そう思いながら、本書を読み進めていただければとてもうれしいです。
 本書は、その意義を認めて日本で出版する企画とともに編集を担当してくださった大月書店の桑垣里絵氏の思いと、翻訳という作業を通じて日本と世界をよりよい方向に推し進めていきたいと願っている翻訳チームの協力で実現しました。心より感謝しています。

枝廣淳子

 

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