最新データや内外の事例を盛り込んだ文庫版です。目の前の症状だけでなく、根本的な構造という意味で、システム思考的にエネルギー問題を理解していただけたらと願っています。データ+考える枠組み+事例から、ぜひそれぞれのエネルギーとの関わりを考えて下さい。「幸せ」「持続可能な社会」の礎石でもあります。
文庫版あとがき
「ピンチはチャンスなり」――私たちの暮らしや産業を支える、なくてはならないエネルギーの現在の状況にこれほどふさわしい言葉はないでしょう。
3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は、私たちがいかにエネルギーのお世話になっているか、ふだん何気なく使っている電力はどのように作られて、どのようなリスクがあるのかを、まざまざとあぶり出しました。
大震災以降、多くの人たちが、それまであまり考えたことのなかった電力やエネルギーについて考えるようになっています。「専門的でよくわからない」「誰かがやってくれるに違いない」と、これまで専門家や政府に頼っていた私たちの態度も、今回の問題の一因だったのではないか……? 社会学者の宮台真司氏がいうところの「任せて文句を言う」から「引き受けて考える」へと、エネルギーの「ワガコト化」が各所で起こっているようです。
政府も、エネルギー基本計画を作り直すための基本問題委員会(私も委員として参加しています)の議論をすべてインターネット中継で公開するなど、国民とともに考えていこうという姿勢に少しずつ転換しつつあります。
このように、エネルギーについて自分たちで考えていこうという意識が広がるとともに、考えるために必要な情報や知識も明らかになってきました。こうした時代に、日本と世界のエネルギーの現状や取り組みをわかりやすく説明した本書の文庫版を、最新のデータや事例を入れてお届けできることをうれしく思います。
どのようにピンチをチャンスに変えていったらよいのか? そこに生まれる私たちの本当の幸せや企業のビジネスチャンスを、どのように見つけていくのか?――世界の先進事例、自治体や企業、私たちがすべきこと・できることを通じて、私たちのエネルギーの今後について、一緒に考えるために役立てば幸いです。
今回の改訂に当たって、最新のデータを寄せてくれたデイビッド・ヒューズ氏、キューバのエネルギー事情を教えてくれた吉田太郎さん、編集・データ整理をしてくれた小島和子さん、リサーチに協力してくれた松原弘直さん、大野多恵子さん、企画を進めてくれた講談社の編集者・木村圭一さん、そして文庫化を快諾してくれたソフトバンク・クリエイティブ社に心から感謝して。
枝廣淳子