ホーム > エダヒロの本棚 > 不都合な真実(文庫)

エダヒロの本棚

不都合な真実(文庫)
翻訳書
 

アル・ゴア (著)

枝廣淳子  (訳)

実業之日本社文庫

amazonで見る
 

(訳者:文庫本のためのあとがきより)

世界中に大きな影響を与えることになった「不都合な真実」が刊行されて10年。

大学生の頃からのライフワークとして数十年にわたって地球温暖化問題に取り組んできたアル・ゴア氏は、「不都合な真実」(映画および書籍)による強力な意識啓発の取り組みなどに対し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とともに、2007年にノーベル平和賞を受賞しました。

改めて、本書を読みながら、この10年を振り返ると、まるで「水晶玉を反対側から見ているみたい」な落ち着かない気がしてきます。10年前に、すでにわかっていたのに、「このままだとこうなっていくよ」と言われていたのに、実際にそのとおりになってしまっている今日の世界をつくってきた私たち......と考え込んでしまいます。

気温は毎年のように「史上初」を更新し、日本だけを見ても、熱中症で亡くなる方が、1700人を超えた年もあります。大型化し「未曾有の勢力」と称される台風やハリケーンは、頻度も増しながら、世界各地で被害をもたらしています。国内でも、以前には考えられなかった局所的な豪雨が各地で水害をもたらしています。かつては南方にしかいなかった病気を媒介する蚊などが北上し、感染域を広げています。「10年前の状況」と「10年前に予測されていたこと」と「現在の状況」をかみしめながら、本書を読まれたことでしょう。

その一方で、この10年間、明るいニュースや前向きな展開もたくさんありました。10年前には「理論的には可能」「実用化はまだ端緒についたばかり」という位置づけだったさまざまな技術や社会的制度が、今日では「標準」となりつつあります。

再生可能エネルギーがその最たるものでしょう。再エネ後進国と言われてきた日本ですら、固定価格買取制度の国民負担が増え過ぎると困るからと、買取価格を下げるほど、再エネが普及してきました。条件の良いタイミングでは、電力需要の8割近くを再エネでまかなっているという電力会社の実績もいくつもあります。技術だけではなく、脱炭素社会に向けての法制度やインセンティブの制度なども、以前には考えられなかったほど、各国が採り入れるようになっています。

そして、私がこの10年間で、いちばん大きく変わったと思うのが、企業の考え方と取り組みです。以前は、多くの企業にとって、同調圧力から「やらねばならないもの」だった温暖化対策が、今では、「温暖化が進行する世界では、健全なビジネスはできない」という認識のもと、社会貢献やCSR(企業の社会的責任)ではなく、ビジネスの土台そのものを守るための中核的な取り組みとなってきました。歴史的なパリ協定が成立したのも、こうした企業の認識があったため、ともされているほどです。

ますますひどくなる温暖化の影響、まだまだ減らない温室効果ガス排出、他方、本気で取り組み始めた政府や企業――。10年たったということは、温暖化を壊滅的な影響をもたらすまえにとどめるための残り時間から、10年が差し引かれたということです。この時間との闘いに負けることなく、将来世代に胸を張って「間に合ったよ!」と言える未来を創るために、何が必要なのか、何をすべきなのか、新たな気持ちで考え、取り組んでいきたい――10年前のゴアさんのメッセージは今なお強力に私たちに呼びかけています。

枝廣淳子

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ