(はじめにより)
近年、まちづくりのお手伝いや取材で日本の各地を見ていて、思うことがあります。それは「二極化が進みつつある」ということです 。
元気で勢いの感じられる 、生き生きとしたまちもあります 。そういった地域では 、新しい動きが次々と起こり、移住者もどんどんと入ってきます 。訪れるたびに新しいお店ができていたり、新しいプロジェクトが始まっていたり。私も話を聞きながらわくわくしてきます 。
その一方で 、よどみ感の広がる 、活力の感じられないまちも増えています。久しぶりに訪れて、前回から変わったことと言えば、駅前のシャッター通りがさらに長くなったかな......。
こういったまちでは、住民の間にあきらめ感が漂っていることもあります。「 駅前の商店街を元気にしましょうよ、大学のゼミの若者を連れてきますよ、一緒に考えましょう!」と言っても、「 この店はどのみち自分の代でおしまいにするので、ほっといてください 」と言われてしまう。こういった地域では、若い世代は出て行ったきり戻ってきません。移住者も入ってきません 。なぜなら人は、「 動きのあるところ 」に惹きっけられるからです。
人口減少は日本全体にとっても国家的な課題ですが、まさに「わがまちの存続の危機につながる 」と焦っている地域も少なくありません。「なんとか人口減少に手を打たなければ、まちが機能しなくなる 」ーそんな思いから、多くの自治体が人口政策に力を入れています。自治体では、子育て支援や移住政策など様々な手を打ちます。うまくいくものもあれば、そうでないものもあります。人口減少にどう取り組むかはまちにとって非常に重要な課題ですが(終章で詳しく述べます) 、「人口は、様々な取り組みの結果の"遅行指標"の一つでしかないんだけどなあ 」と思うこともよくあります( 指標については第4 章で述べます)。まるで「人口」だけが最重要指標であるかのように、「 人口を増やすにはどうしたらよいか 」にあまりにもとらわれているように思える自治体もあります 。
日本では、各地の地方創生を支援しようという取り組みも様々に展開されています。コンサルティング会社はもちろんのこと、一見関係なさそうな業種の企業にも、新たなビジネスチャンスとして取り組みを始めているところもあります。
そして、いろいろな地域へ出向いていって、まちづくりの支援を仕事にしている人も少なからずいます( 私もその一人です)。なかには 、"必殺まちづくり請負人"のようなすばらしい方もいて、各地で様々な成功事例が生まれていることもあります。でも、"必殺まちづくり請負人"は数えるほどしかいません。彼らだけに頼っていては、日本中の数多くの地域をカバーすることはできません。
私はこれまで島根県海士町、北海道下川町、熊本県南小国町 、徳島県上勝町などいくつかの自治体からの依頼を受け、1 カ月か2カ月に一度ずつ定期的に訪間しながら、まちづくりのお手伝いをしてきました 。その他にも、不定期に訪間しながらまちづくりのアドバイスや支援をしている地域もいくつかあります。2 0 1 1 年の東日本大震災後には、原発のある新潟県柏崎市で、3 年にわたってまちづくりのお手伝いをするという貴重な経験も積みました。
それぞれのまちづくりのお手伝いが実際の変化にもつながっていて、自分自身、手応えややり甲斐を感じています。「 もっと多くの地域でお手伝いしたい!」と思います。でも、私の時間は有限ですから、お手伝いできる地域には限りがあります。そのような経験から、「 私が訪問して手伝わなくても、まちづくりが進むしくみができないか 」と考えるようになりました。「 枝廣さんでなければできない」という属人的なまちづくりでは、広がりが制限されてしまうからです。
幸いこれまで定期的に訪問してまちづくりをお手伝いしてきた地域からは、「まちのビジョンができ、まちづくりのチームが生まれ、具体的な取り組みが進むようになってきた」とうれしい評価をいただいています。この経験とそこからの学びを、より多くのまちで使っていただけるようにしたい、と思うようになりました。
私は20 年以上前から環境問題に取り組む中で、また10 年ほど前から地域の活性化や地方創生に取り組む中で、私なりの「まちづくりのプロセス」を作り上げてきました 。それは「 ホップ 、ステップ 、シャンプ!」と 、三つのステップを踏んでいくプロセスです。どのまちのお手伝いをするときにも、基本的にこの3 ステップからなるプロセスをベースにお手伝いをしています。
この3ステップは、本質的な変化を創り出すためのシステム思考や、コミュニケーション手法、社会的合意形成などの考え方を土台に組み立てたものです。そして、大学・大学院時代に専攻していた教育心理学・臨床心理学がその根底にあります。「ビジョンの作り方」「方向性を示し、進捗を測るための物差し(指標)」などは、自分のこれまでの人生で自分なりに試行錯誤してきたものでもあります 。
この三つのステップをわかりやすく紹介し、「それぞれの地域で使ってもらえるようにしたい!」との思いで書いたのが本書です。これまで自分が勉強・実践してきたこと、そして様々な地域でのお手伝いの経験から 、基本的な進め方 、大事なポイントやコツ 、留意すべきところなどを盛り込みました 。
大小問わず、日本各地のまちが、行政も住民も一緒になって、まちの今後について、悲観的でなく現実的に考え、信頼関係に基づく仲間や取り組みが自己組織的に生まれ、新しい動きが次々と始まり、笑顔と会話が広がる、元気と勢いの感じられるまちになっていったらいいなあ!と思います。
本書が、持続可能で幸せなまちづくりの小さなお手伝いの 一つになれば、これ以上うれしいことはありません。
枝廣淳子