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アベノミクスの目標150万円増! 「1人あたり国民総所得」が増えたら私たちの所得は増える?

2013年06月24日 作成
アベノミクスの目標150万円増! 「1人あたり国民総所得」が増えたら私たちの所得は増える?
 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の3本目の矢である成長戦略で、「1人あたり名目国民総所得を10年後に150万円以上拡大する」という目標が打ち出されました。この目標について安倍首相は、街頭演説で「私たちは10年間で平均年収を150万円増やす」とアピールしたとのこと。  「国民総所得」を増やす、と聞くと、「国民の所得=国民である自分の収入」が増える、と思ってしまう人も多いことでしょう。ところが、「国民総所得」と「国民の平均年収」は全く違います。おなじみのGDP(国内総生産)とも異なります。  GDPは、ご存じのように、国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額で、国内の景気や経済状況を見る指標として使われてきました。 「国内」の総生産を見るものですので、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含みません。  しかし、グローバル化によって国外で活動する企業も増え、海外投資からの収入も大きくなってきました。そこで「GDPに海外からの所得の純受取を加えて測るようにしましょう」というのが「国民総所得」(GNI)です。ちなみに、2012年度の名目の数字を見ると、GDPは475兆円、GNIは490兆円でした(この差が海外からの所得受取分です)。  ところで、「国民総所得」というときの「国民」とは、私たち一人ひとりの市民だけでなく、企業なども入っています。GNIには企業の利益なども含まれているのです。したがって「国民総所得」が増えたからと言って、賃金など私たち一人ひとりの年収が同じように増えるかどうかはわかりません。 (ちなみに、内閣府の統計用語の解説ページには、「国民という概念は、当該国の居住者主体を対象とする概念であり、外国為替及び外国貿易管理法(外為法)の通達「外国為替管理法令の解釈及び運用について」の居住者の要件を満たす企業、一般政府、対家計民間非営利団体及び個人をさす」と説明されています)  安倍首相の「平均年収を150万円増やす」という言い方は、個人の収入・所得が増えることを意味しますから、間違いです。言い間違ったのか、「わかりやすく説明しようとしたから」か、よい印象を創り出そうと意図的にすり替えたのか、わかりませんが、いずれにしてもきちんと理解して正しく伝えてほしいと思います。  では、実際はどうなのでしょうか? 安倍首相が「10年間で1人あたり150万円増やす」と言っているGNI(国民総所得)と、平均所得金額について、これまでの推移をグラフにしてみました。 GNI_and_income.jpg  かつてはGNIが増えれば平均所得金額も増えていましたが、1990年代後半から、GNIが増えても平均所得金額は増えにくくなり(または減り)、GNIが減っているときには、それ以上に平均所得金額が減少しており、以前には存在していた両者の相関関係が崩れています。リーマンショック後を見ると、GNIは回復していますが、その増加分が働いている人たちにあまねく回っているわけではないことがわかります。  「国民総所得」(GNI)という言葉はこれからもよく出てくるでしょう。その意味するものは何なのか、実際には何が増えて何が減っているのか、しっかり理解して考えていきたいと思います。    ※ご参考まで「平均所得金額」の説明を載せておきます。 「国民生活基礎調査」という、統計法で基幹統計に指定されている調査があります(厚生労働省が行っています)。  平成23年の所得に関する調査(所得票)では層化無作為抽出によって、約9千世帯が標本として抽出され、その世帯員は約2万4千人でした。  前年の所得についての質問を世帯員に行い、世帯単位の所得と世帯人員1人当たりの所得などが算出されます。「平均所得金額」はその平均値です。  平均値ですので、とても所得の高い人がいれば全体の平均値が引き上げられ、「真ん中ぐらいの人たちはどうなのかな?」というイメージとはズレてくるおそれがあることには注意が必要です。  つまり、平均所得金額は、低い額から順番に並べたときに真ん中に位置する収入額である中央値よりも高く算出される傾向があるということです。厚生労働省が発表している「平成23年国民生活基礎調査の概況」では、1人あたりの所得金額の中央値は発表されていませんが、世帯あたりについては「平均」と「中央値」がわかります。平成22年の世帯あたりの「平均」所得金額は538万円であるのに対して、「中央値」は427万円でした。
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