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WWFジャパンが(株)システム技術研究所に研究委託した「検証:自然エネルギー接続保留に関する定量的分析」の報告書がアップされています。
9月末から自然エネルギーの接続回答の保留が大きな問題となっていますが、この報告書を読むと「何が問題なのか」がよくわかります。また、最初に接続回答の保留を発表した九州電力の管内を対象に、電力の需要と供給についての定量的な検討を行い、その問題がどのくらいの規模なのかを示しています。
報告書を受けてWWFジャパンでは「現在、既にある揚水発電や 地域間連系線などを活用すれば、現状の系統システムで再エネの余剰変動を吸収可能である」との声明文を出しています。
http://www.wwf.or.jp/activities/2014/11/1234012.html
この報告書から抜粋してお届けします。(詳細は報告書をご覧下さい)
http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20141111EnergyScenario04opt.pdf
~~~~~~~~~~~~ここから抜粋~~~~~~~~~~~~~~
太陽光発電の設置申し込みが大きくなったため需給調整が崩れるとして、2014年9 月には、九州電力をはじめとする電力会社は系統への「接続保留」を宣言するに至った。本報告は、この問題に関して九州電力の電力需要と太陽光発電などの電力供給について定量的な検討を行って、問題に対する理解を得ることを目的にしている。
本報告では、まず九州電力の2013 年度の電力需要の検討を行い、次に九州地域に太陽光発電と風力発電の設備を設置した場合の1年間の1時間ごとの発電量を気象データにもとづいて計算した。
これらの電力供給に加えて、その他の供給源(地熱、自流式水力、調整用火力、原子力)を想定して、実際の需要との関係を検討した。1時間ごとのシミュレーションにおいて余剰が発生する場合には、揚水発電を電力貯蔵用に利用し、さらに余剰があるときには九州地区から中国地区への送電をおこなうものとした。
本報告では、このような条件下で発生する「発電抑制」の時間数と日数、発電抑制量をもとめる計算を行って、その結果を様々な面から検討している。
<接続保留問題>
固定価格買取制度によって2014 年5 月末までに「設備認定」された太陽光と風力は日本全国で6983 万kW に達している。このうち九州では1787 万kW(全国の25.6%)になっている。ただし、九州において2014 年3 月末に実際に運転している接続規模は太陽光272 万kW、風力43 万kW であり、認定された設備の17.6%でしかない。
現在おきている「接続保留問題」は、電力需要の小さいときに太陽光発電のピークが生じるとき、余剰が発生し系統を不安定にする可能性についての議論である。
問題になっている自然エネルギー(再生可能エネルギー)の接続契約申込量の1260 万kW に対して、九州電力の軽負荷期の昼間の電力需要はおよそ800 万kWとされている。このとき発電抑制を行えばよいが、そうすると買い上げできないことから、太陽光発電設置者の利益を阻害する問題になる。
現在では、30 日以内であれば、電力会社は大規模太陽光発電(500kW 以上)に対しては、出力抑制を無補償で求めることできるが、30 日を超えると補償する必要があるとしているため、電力会社が将来を見越して「接続保留」を宣言するという事態になっている。
上記の「接続保留」は、設置認定された設備がすべて発電を開始した場合の事態を想定している。現実には太陽光発電設置に必要な資材の供給限界などを考慮すると、このような事態になり余剰が発生するのは、もかなり先のことになると考えられる。時間的な余裕は十分にあり、建設的な方針が打ち出される必要がある。
●九州電力の電力需要
九州電力の1時間ごとの電力需要データは九州電力のサイトにあるが、1日単位のファイルで提供されており、これダウンロードして、365 日のひとつのデータファイルにした。2013 年度(2013 年4 月~2014 年3 月)の期間の1 時間ごとの電力需要をみると、最大需要は1634 万kW、最小需要は688 万kW であった。
●気象データ
日本の1時間ごとの気象データとして、日本建築学会の拡張アメダス標準気象データ2000 年版を使用した。これは1990~2000 年の20 年間における代表的な気象を再現したデータであり、北海道から沖縄まで、日本全国842 地点の日射データと風速データが利用可能である。このうち九州地区には、104 地点が収録されており、これを利用している。
●太陽光発電と風力発電
太陽光発電と風力発電は、2014 年7 月までの設置の申し込みをすべて接続すると、近い将来にその規模は1260 万kW(太陽光1180 万kW、風力発電は80 万kW)になるとしている。本報告では、この規模を対象にして検討を行う。
また、さらに将来には、接続契約申し込み分に、現在接続検討分の680 万kW を含めると1940 万kW(太陽光1840 万kW,風力100 万kW)になると予想されている。本報告ではこの規模についても計算を行って、参考として示すことにした。
送電線については、九州電力地区―中国電力地区間にある送電線が利用可能であり、運用容量259 万kW(ケースA)、熱容量556 万kW(ケースB)の2 種を想定して、この送電線を利用する場合を検討している。
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※エダヒロ注:ケースAとケースBについての補足説明をいただきました中国・九州間の連系線の熱容量(設備上の容量)は、556万キロワットありますが、そのうち運用されているのは、半分の259万キロワットだけです(日本では、どの地域間連系線も、熱容量の半分以下しか運用されていないのです)。
ですので、接続容量Aは現在でも運用されている容量259キロワットのケース、接続容量Bは、熱容量の限界まで使った場合の556万キロワットのケースです。熱容量の限界まで使えれば、送れる発電容量が大きくなるので、余裕が出るということになります。
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これらをまとめると、供給側(発生側)には、太陽光、風力、自流式水力、地熱、調整用火力、原子力が含まれ、需要側(吸収側)には、電力需要、揚水発電への蓄電、送電が含まれる。
<結論>
2013 年度の1 年間の電力需要に対して、太陽光発電、風力発電の発電量をAMEDAS 気象データにもとづいて計算し、自流式水力、地熱、調整用火力、原子力を含めて、余剰電力の発生を検討した
シミュレーションによって、以下の結論を得ることができた。
1)接続契約申込量1260 万kW の太陽光と風力が導入された場合、九州電力の年間需要電力量に占める割合は17.32%(再生可能エネルギー全体では23%)となる。そのシミュレーション結果は、いずれの場合も送電線B を利用できれば、発電抑制日数はゼロになる。
2)原子力なしの場合は、送電線を使用しなくとも発電抑制の発生日数は25 日(88 時間)である。さらに送電容量A を利用する場合には発電抑制の発生日数は1日(1時間)になる。
3)原子力がある場合には、再生可能エネルギー以外のその他の電源の供給が大きくなるため、発電抑制の生じる日数が多くなる。しかし送電容量A を利用する場合には、抑制日数は16日(46時間)になる。
4)抑制が必要となったいずれの場合にも、総発電電力量に占める抑制電力量の割合は、ほんのわずかである。送電線が利用できず、原発がある場合にも、失われる電力量は3.24%にすぎない。他の場合でも失われる電力量は0.6%以下である。
5)さらに接続検討分の680 万kW を加えた1940 万kW が導入された場合には、年間需要電力量に占める割合は、26.7%(全再生可能エネルギーでは32%)となる。この規模になると、いずれの場合にも比較的大きな発電抑制が生じるが、それでも送電容量B が利用できるならば、原子力がある場合で抑制日数は29日(90時間)、原子力なしの場合で10日(26時間)となる。送電線が利用できるならば、この規模の自然エネルギーが利用できることが確かめられたと言える。
今回の問題の背景には、太陽光発電に比較して風力発電の導入が大幅に遅れていることが大きく影響している。風力発電は太陽光発電より設備利用率が高くピークの割合も小さい。また太陽光が発電しない夜間に風力発電が多く発電し、太陽光が弱い冬に風力発電が多く発電するなど、お互いを補完する関係にあるため、バランスよく導入していく必要がある。風力発電や地熱など運転開始までに時間のかかる自然エネルギーの導入を促進していく工夫が必要である
また、この報告では自然エネルギーの発電についての気象予測の効果を含めていない。気象予測の精度を高めることにより、事前に調整用火力の規模を調整・制御し、余剰電力の発生を削減することができる。すでにこうした実例はヨーロッパから多く報告されているので、日本でも気象予測を活用した出力予測システムの活用を促進する必要がある。
余剰電力の利用については、2016 年から始まる電力自由化によって新しい可能性が生まれてくる。太陽光発電設備の近辺に時間に縛られない電力需要があれば、余剰電力を周囲に供給する新しいビジネスが出現してくる。例として、冷房用氷蓄熱、食品産業の冷凍冷蔵庫、ヒートポンプ利用など熱需要への利用、休日操業の工場、電気自動車の充電、燃料電池車用の水素の生産と貯蔵などである。
太陽光発電の余剰をまとめて扱う「PVアグリゲータ」が生じる、あるいは気象予測とデマンドレスポンスと余剰電力を組み合わせたニュービジネスが進展する可能性もある。今回生じた問題は、新しい未来を構想する機会と考えて、柔軟に建設的に対応することが望ましい。
本報告はひとつの試算に過ぎないが、「接続保留」問題の検討を進めるのに役立つことを願っている。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
ただ「だめだ」というのではなく、どこがどこまで可能なのか、どこからはどういう状況になるのか、それに対してどのように手を打つことができるのか、この報告書のように、定量的なシミュレーションや分析をおこないつつ、きちんとした議論が求められています。
このシミュレーション・報告書を担当されたシステム技術研究所の槌屋先生への、とてもわかりやすいインタビュー記事がありますので、ぜひどうぞ。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20141201/391747/?ST=msb
槌屋先生の以下の発言はぜひ読んでいただきたく~!
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~
個人的には、そもそも再エネの「接続限界」という概念が適切でないと思います。
長期的に見れば、人類はいずれ全エネルギーを再エネで賄うことになります。その筋道として、まず電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指すべきです。
そうしたビジョンを前提にすれば、九電の場合、約2000万kWを接続しても、電力量に占める再エネの比率はまだ約32%で、通過点に過ぎません。
再エネ比率が半分以上になってくれば、再エネピーク時での電力の余剰は、むしろ当たり前のことで、それを前提に新たなビジネスモデルを構築していくことになるでしょう。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
私たちはどこへ向かっているのか、向かっていくべきなのか、そこから現在の問題をとらえて解決策を考えていくアプローチをとれば、中長期的には「接続を制限する」ことが解決策ではないことがよくわかりますね。そして、新しいビジネスチャンスがいっぱい生まれそうなことも。
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