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「日本は人権意識が希薄だ」といった声をよく耳にします。入管(出入国在留管理庁)の収容所に収容されている外国人の扱いが問題になっていますが、日本の入管収容については、2020年9月に国連人権理事会の作業部会によって「国際人権法に違反している」との意見書が出されているのもその一例といえるでしょう。
そもそも、「人権」とは何でしょうか? 日本ではどのくらいの人が「人権」を理解しているのでしょうか? 世界との間に差はあるのでしょうか? 今回の「データを読む」では世界第3位のグローバルマーケティングリサーチ企業のイプソスによる『2018年の人権』報告書の内容を紹介します。この報告書では、2018年に世界28カ国の23,249人に調査を行った結果がまとめられています。
人権について知っている人が著しく少ない日本
「人権についてどの程度知っているか」という質問に対して、「知っている(かなりよく知っている/よく知っている、以下同様)」と回答したのは、28カ国全体では56%でした。最も「知っている」との回答が多かったのは、トルコの79%、2番目に多かったのは南アフリカの76%です(図1)。
それに対して、日本で人権について「知っている」と回答したのは18%にとどまり、最下位でした。28カ国全体の56%と比べると、「知っている」と回答したのは1/3ということになります。また、下から2番目のロシアとベルギーの38%と比べても、20ポイントも低い結果です。「日本は人権意識が希薄だ」といわれるのも、単なる印象論ではないことがわかります。
さらに「『人権』のようなものは存在すると思うか」という質問に対しても、28カ国全体では「存在している」との回答が73%だったのに対し、日本では56%と17ポイント低い結果でした(図2)。またこの質問では、「わからない/意見がない」という回答が日本では31%と多いことも特徴です。人権についてあまりよく知らないことが、こうした回答に影響していると推測されます。
その他、「人権で守られる必要がある人たちは誰か」という質問に対して、「高齢者」と回答したのは28カ国全体では44%なのに対して日本では13%、「女性」と回答したのは28カ国全体では38%なのに対して日本では11%など、「社会的弱者が人権で守られるべき」という意識も低いことが伺えます。
人権の定義
それでは人権とは国際的にどのように定義されているのでしょうか? 1948年に国連が採択した「世界人権宣言(全30条)」のうち、第1条から5条までを紹介します(外務省の仮訳文から)。
第1条
すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第2条
1 すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
2 さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。
第3条
すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。
第4条
何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。
第5条
何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。
(後略・全30条)
なお、1948年に世界人権宣言が採択された12月10日を、国連は「人権デー」に定めています。日常生活に潜む差別のような問題はもちろん、ビジネスにおいても、サプライチェーン全体での人権配慮が求められるなど、国際的に人権についてしっかりと理解することが求められています。日本の人権意識をいかに高めていくか――これは単に社会的弱者のためでなく、私たちひとりひとりが社会の中で幸せに生きていく上でも重要なことではないでしょうか。
(新津 尚子)
参考資料
https://www.ipsos.com/en/human-rights-2018
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/05_00008.html
Imaged by 国連のSTAND UP FOR HUMAN RIGHTS
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