公立中学校では日本初の女性民間人校長として、横浜市の中学校で校長先生をされている平川理恵さんは、30歳までリクルートで勤め、リクルート企業派遣でMBA留学、その後、留学斡旋会社を10年間経営する中で海外の学校を500校以上見てきた経験をお持ちです。その後、公募で校長に就任されました。
平川さんにはある勉強会で知り合い、「システム思考」や「学習する組織」の考え方や実践が共通する関心であることから、情報交換などをしている中で、「学習する学校づくり」に向けてのさまざまな活動を書かれた文書を拝見し、ぜひ!とお願いして、紹介させていただけることになりました。
学校について、教育について、地域について、これから必要な能力や基盤について、いろいろと考えさせてもらえます。ぜひお読みください~。
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「学習する学校」づくりで21世紀型学校への改革
(横浜市立市ヶ尾中学校校長 平川理恵)
21 世紀に必要な力として、文部科学省の「生きる力」、ユネスコの「持続可能な教育」、OECD の「コアコンピタンスDeSeCo」など、様々な提唱があります。いずれも未来に向け、同じベクトルを目指しているのだと言えると思います。これを達成するためには、21世紀を生きる人々に求められる批判的思考(クリティカルシンキング)や創造性、アクティブで主体的な学習を育む学校への転換が必要だと感じています。
そのために私は、「学習する学校」づくりが必要だと考えます。教室・学校・コミュニティというレベルで、そこに関わる子どもと大人が、共に主体的に学び、社会そのものを学び続け、発展し続ける「生きたシステム」として、根底から学校を作りなおさなければならない、と感じています。それは日本だけではなく、もはや先進的な世界を生きる世界中のすべての学校に言えることです。
とはいいつつ、現場の立場から言わせていただくと、課題は大きく、現実は厳しいです。その理由は、"学校教育そのものが、産業化時代の教育システム"であるからです。また、日本独特の、学習指導要領の存在、1クラス40 人近くという大勢の生徒を抱える教室(当校は1学年 6 クラス×3 学年+個別支援級 3 クラス、生徒数 640 人の公立中学校である)、プロジェクト型学習(PBL)ではない日本の積み上げ式の学習環境、という中、どのように転換していけるのか?手探り状態で、今も試行錯誤しているのが現状です。しかし、明らかに、変化している手ごたえは感じています。それは生徒を見れば明らかでしょう。
1、 ビジョンを掲げる
(1)教育理念は「自立貢献」
"学習する学校"では、長年お互いを信頼してこなかった人が信頼の一歩を踏み出します。例えば、保護者と教職員、教育界とビジネス界、学校の中にいる人と外にいる人、生徒と大人などが、お互いの未来の中で、また、自分たちが暮らすコミュニティの中で、ひとつのビジョンに向かって、利害が一緒であるということを認め合います。
大きなビジョンとは、市ヶ尾中学校の教育理念である「自立貢献」・・・この一言に尽きます。着任後3 年間で、生徒・保護者・地域・教育委員会の諸関係者、100%すべてに浸透したと言えます。今では、学区の小学校 2 校とも、9 年間の育てたい子ども像とスローガンを「自立貢献 ~15 の春に向けて」と唱えています。自立して、世の中に貢献する・・・そんな子どもを育てたいと言う教職員・保護者・地域が一体となっているのです。
すべての基準はこのビジョンから始まります。「それは生徒の自立貢献のためか?」と職員室での会話。「君はクラスの中で自立し貢献していると言えるか?」と生徒同志の言葉。「校長先生どうしたらいいですか?」という教師からの問いにも「あなた自身、どうしたらいいと思いますか?この学校では、自立貢献ですから。」と校長室での会話。このビジョンがないと始まりません。そして、このビジョンは唱え続けていくしかないのです。
(2)小中で、9 年間で身につけさせたいスキルを定義
市ヶ尾中学校は 1 中 2 小(市ヶ尾中学校・東市ヶ尾中学校・荏田西小学校)で学区が成り立っています。学校運営協議会に小中の校長も参加したり、教務主任同志がカリキュラムの話し合いを毎月行ったり、小中合同の授業研究などを行っていますが、一番大切なことは、9 年間で身につけさせたいスキルを小中の教職員全員で話し合い定義するということです。今年度の夏も3 校で 100 人近い教職員が一堂に会し、21 世紀型スキルについて外部講師を招いて学び、その後小学校 1 年生、2 年生、3 年生・・・中学校 2 年生、3 年生、個別支援級、と学年ごとに先生が集まり、この 1 年間で身につけさせたいコミュニケーション力を言語化させました。
そして、それぞれが思う「自立貢献」についても、意見交換、言語化させました。
9 年間で身につけさせたいスキルを定義・言語化することにより、教職員の日常の児童・生徒への指導がより明確になり、また学区で教職員がきちんと一致団結しているということは、児童・生徒にとってなにより一貫性があり安心感につながってくるにちがいありません。
小中一貫は、校舎校庭を同じ敷地内に小中を置くと言うことが一貫だと言うことではありません。この 9 年間で身につけさせたいスキルを教職員同志が話し合うことこそ、まさに小中一貫であると、教職員の誰もが感じています。
2、 教室で
(1)細かなそして毎日の授業観察
終日出張でない限り、3 年間で 1 日も休まず行い、また今でも続けているのが、校長・副校長による毎日の 50 分フルタイムの授業観察です。正規職員のみならず、臨任・非常勤、全部の授業に行きます。教職員は全員で 46 人なので、2 ヶ月に1度は再来します。アポなしでいきなり行くのが特徴です。立って高見から見るのではなく、生徒の中に一緒に座って、授業を受けるのです。ノートに何時何分、先生がこう発問したら、生徒の誰それがどう言って...と細かく記録をつけます。そして、授業終了後、先生とマンツーマンで話します。たいていは褒めています。しかし、ここはどうか、ということは、その場で言います。その次の授業で、その部分を工夫していてくれると嬉しいです。
話し合いの中で、授業でこんな工夫をしたいけど、どうしたらいいか?となる事も多いです。実例としては、「実物投影機を僕も使いたいんですが・・・」となると、相談者である先生の空き時間に、実物投影機を上手く使っている先生の授業を観に行きます。手を引っ張ってでも見に行きます。すると、先生同士の会話が起こるのです。
学校便り、HP などで授業観察の様子も書きます。先生同士も、自分も授業中だから他の先生の授業の様子を知らないのが実情です。保護者や地域にも公開します。すると「先生たち工夫してくださってるんですね」と保護者からのクレームはなくなりました。元々、思春期真っただ中の子どもたちが、自分の親に事細かに授業の報告をするわけがないのです。つまびらかにすることから、相互理解が生まれるのでしょう。
そういう意味で、私のやっていることは、コミュニケーションエンジニアリング。先生同士、先生と保護者、先生と地域を結び付けるミツバチのような役でしょう。また、授業自体をかなりの回数に渡って観ているので、単元の工夫の提案もできるようになりました。
(2)世の中と単元をつなげる
こうやって、先生と"授業"の在り方を通して話していきます。その中で、「どうして先生になったのか?」「その教科を通して、先生は生徒に何を伝えていきたいのか?」「世の中とこの単元をつなげていくためには、どう言うリソースが必要か?」ということを徹底的に話します。年間計画の中で、単元の中に、通常の授業の中に、「トップリーダー」「企業連携」「地域連携」の 3 つのゲストスピーカーをまんべんなく呼ぶことにより、興味関心または発展深化の役割を果たしているのです。例えば、これまでの年間計画の中でこのような取り組みをしてきました。
・3 年理科「食物連鎖」の単元で、各クラスに積水ハウスに来てもらい"思考体験型の授業・ドクターフォレスト"の出前授業を行ってもらいました。教科書に載っているのは自然豊かな山の中のような食物連鎖ですが、ここは横浜。実際の校庭の木を、樹木医の資格や営業マンである積水ハウスの社員8人と一緒に観察し、その中で食物連鎖・環境について学びます。また中学生にとっては普段出会うことができない企業の人と自然に会話し、キャリア教育の役割も果たします。
・2 年理科「いろいろなエネルギー」の単元で、各クラスに三洋電機(現パナソニック)に出前授業を行ってもらいました。実際に太陽光発電を行い、創電→蓄電→省電について体験的に学びました。質問コーナーでは「どうしてお姉さん、三洋電機に就職したの?」のキャリア教育的な質問も出ました。生きたキャリア教育だと思います。
・3 年社会科・公民「税と選挙」の単元で、模擬選挙ネットワークに来ていただき、消費税についての生徒たちによる党首討論会を行いました。区役所から実際に選挙で使う選挙箱で選挙も行いました。
・1 年家庭科・調理実習で、被災地・宮城県石巻市の漁師さんたちに来ていただき、日本の漁業の未来について皆で討論をした後、新巻鮭の三枚おろし。炊き立てのご飯に新鮮なイクラを乗せ、地域の方々も来て一緒にいただきました。石巻を出た鮭は 3-4 年間太平洋を泳ぎ、石巻の同じ湾に還ってきたのです。還ってきた時は、東日本大震災で全く違う景色にビックリしたに違いないね...と言うと、「一粒一粒のいのちをいただいているようです」と生徒からの感想でした。
・3 年理科「遺伝子」の単元で、大日本住友製薬のゲノム科学者が来校。「現代科学はひとを幸せにするのか?」の生命倫理について、実際、将来生徒たちが悩むであろう DNA 鑑定との向き合い方を考えます。
「コワいから知りたくない」と言う男子学生もいれば、「これって高度医療ですよね。お金かかりますよね。私だったら、いつ発病するか知って、それまでにガンガン稼いで、病気を治します!」という強気の女子生徒まで、様々な意見が出ました。グループ討議、ディベートなど、様々な学習スタイルで行いました。授業後、将来科学者になりたいという生徒がゲノム科学者に質問をする場面がありました。
・2 年体育のダンスの授業で、プロのダンサーが 8 回の単元のうち 3 回来校。チューチュートレイン市ヶ尾中バージョンを創作いただき、体育の先生方と評価評定に繋げるコラボレーション授業になりました。生徒たちからは、現代的なリズムのダンスを直に学ぶことができ、楽しかったと評判でした。体育科の先生からは「子ども達がもっとできると実感しました。来年度は、ヒップホップの創作バージョンをさせたい」と意欲的でした。
・2 年美術の陶芸の授業で、地域サークルの「こねこね倶楽部」の皆さん6-8 名に毎回クラス毎に授業に来て頂き、陶芸指導を行って頂きました。「こねこね倶楽部の方々が授業に入って頂くのはこれで 3 年目。陶芸の技術だけでなく・・・とにかく人生経験が豊かなので、生徒とのやりとりを見ているのもおもしろかったです」と美術科の先生より感想でした。
・毎年、9月の第3土曜日に、「地域の人は先生!わくわく交流会」を実施しています。この行事は、今年度で既に 17 年間も開催されています(当校は昭和61 年開校、26 年目の学校)。
そして、去年度は 23 講座、98 人もの講師の方々が来て下さり、様々な講座の中で生徒とのふれあいがありました。
・トップリーダーとしては、サッカー選手の川嶋永嗣さんや、作家の林真理子さん、ハーバード大学のアカペラグループ・クロコディロスなども来校しています。
(3)教科を超えてクロスカリキュラム(教科横断型の授業)
教科別の担当となっている中学校でも、先生同志が話し合うことによりクロスカリキュラムが可能となりました。下記、クロスカリキュラムの一例です。
・2 年生で、国語×理科×技術のクロスカリキュラム。羽根のない扇風機、サイクロン掃除機など、ダイソンはもともと生活の問題を解決することから始まった企業。
そのノウハウを学校教育にも活かしていただくと言う授業です。まずは、技術科の教員がものつくりについて講義。その後、「生活の中でいらいらしたり、こうあったらいいなと思うことをグループで意見を出し合い、それを解決する製品を作ろう!」という授業を行います。実際にパーツを組み合わせて製品も作ります。作った製品は1分で皆の前でプレゼンテーション。投票で、アイデア賞も競い合います。居眠り防止机、360 度移動型サーモメータ-など、子どもならではの自由な発想の商品も生まれました。
・市ヶ尾中学校では、広島への修学旅行で平和教育を行っていますが、ただ単に「戦争がダメ」というだけでなく、国語×英語×社会×理科×美術のクロスカリキュラムで思考体験型の学習を行っています。国語科では、朝日新聞の現役記者に出前授業をしてもらい、記事の作り方を学びました。「ウィキペディアまる写しじゃダメ!意志を持って記事を書け!」に生徒たちは納得感。そして、社会科では、3.11 での報道では被災地寄りのニュースをたくさん見る事が予想され、逆に 1 日5000 件のクレームを受けた原発側の方々の立場も知ろうということで、浜岡原発の方に来て出前授業をしていただきました。多面的に意見を聞き、自分の意見を持って話しあうと言う授業となりました。理科では、東京工業大学の原子炉工学研究所の教授に来ていただき、科学的な立場から核を学びました。英語では、アメリカの教科書ではヒロシマの原爆がどのように扱われているかをリーディングで扱いました。そして、シリアで殉死したジャーナリスト「山本美香という生き方」のビデオを見て、英語で討論しました。そして修学旅行後には、山本美香さんのパートナーだった佐藤和孝さんが来校し、生徒・教職員・保護者・地域で、平和について論議をしました。
こういった計画はすべて教員たちが計画し、「こんな人を呼びたい」と校長に言ってくるのです。そして、ゲストスピーカーを交渉していく。交渉した結果、半分はダメになりますが、職員室でそれをシェアします。教員も生徒と共に学んでいくのです。
3、 学校で
(1) 今の旬の話題を学校に取り入れる~不易流行の流行部分
学校は年間計画があるので、なかなか旬の話題を取りいれることができないのが現状です。9 割はそれでもいいかもしれません。しかし、世の中は動いています。しかもものすごいスピードで変化し続けています。
生徒たちは、家に帰ればインターネットとつながり、世界とつながっているのです。9 割は不易としても、残り1 割は流行の部分を取り入れるべきでしょう。そうでないと、世の中から学校だけが取り残されてしまいます。子どもたちは"社会"から学んでいくのです。
見渡していくと、題材はいくらでもあります。3.11 東日本大震災では、震災直後、生徒会の子どもたちが「何か私たちにも役に立つことがしたい」と校長室に直訴に来ました。ちょうど、気仙沼市につてがあり、震災後数日経つと、生野菜や果物、また暖をとるものがほしいという情報が入ります。そこで、学区 2 校の小学校にも声をかけ、今すぐ欲しいリストの中から家にあるものを持って来てもらいます。実際に集まった物資は 300 箱。生徒会、児童会、PTA が中心となり、種類別、サイズ別に仕分けをして、横浜薬科大がボランティアで出してくれたバスに載せ、運んでいただきました。物資を箱詰する様子は、NHK でも取材され、区内より「私のものも被災地に運んでほしい」と市民たちも詰め掛けました。生徒会の子たちのアイデアにより、大きなうねりとなったのです。
その後、これが縁となり、気仙沼小中学校から、お礼状が届いたり、こちらからも福祉委員たちが手紙を書いたりと自然発生的に交流が始まっています。
また、気仙沼教育委員会の指導主事の先生が、お礼まいりと言うことで学区 2 校の小学校と市ヶ尾中学校に講演会に来て下さり、3.11 の体験談を語っていただいたり、気仙沼小中学校出身のパラリンピック選手・佐藤真海さんが人権特設授業で来てくださったり、この年は震災つながりで様々な取り組みができました。こういった旬の話題から子どもたちは様々なことを学んでいくのでしょう。
(2) 学校運営協議会 ~大歓迎、辛口の友人的存在!本音が言える信頼関係へ
市ヶ尾中学校では、平成 23 年度から「まちと共に歩む懇話会」を発展的解消し、学校運営協議会を立ち上げ、コミュニティスクールとなりました。何が違うのでしょうか?学校運営協議会は、地域・保護者・学識経験者・学校などの 15 名から成り立ついわゆる株主組織のような学校の経営について意見を出してくれる"辛口の友人"でもあり、"力強い経営の味方"でもあるのです。初年度より2 年目、そして今年 3年目のほうが、信頼関係も厚く強固になっています。なにより、本音で意見を言い合えるいい仲間だと言うことが重要です。この信頼関係が本当に素晴らしいと思います。
学校運営協議会には、学年ごとの教員、また学年に所属しない事務や用務員も出席し、クラスに対する想いや、教科、またその仕事に対する情熱を語ります。学校運営協議会の委員からそれに対し、激励の言葉や意見、また実施可能なアイデアが出ます。
時に校長・副校長の代弁をしてくれることもあり、時に地域や保護者からの願いを直接聞くことにより「それならこのように工夫できます!」とその場で答える教員もいます。校長・副校長を介さないほうが、意外とスッと教職員の心の中に、地域・保護者・学識経験者の意見や要望が反映されるものなのでしょう。
(3) 図書室の改革 ~昼休みに来場 160 人の人気スポット・知の探究の場へ
昼休みの図書室には、平均 120~160 人の生徒が押しかけます。市ヶ尾中学校図書室は、平成 22 年度の図書室改革以降、生徒の人気スポットになってしまいました。
図書室にはたった 1 人の図書ボランティアがいました。まずは、その人に「赤木かん子さんってご存知ですか?」と聞いてみました。いろいろと調べた結果、この方に図書改革のプロデュースをしてもらおうと思ったからです。「知ってます。」というので、「じゃあ、好きですか?」と聞くと「はい!好きです。」との答え。「実は、赤木かん子さんに図書館の改革をやってもらおうと思うのですが」というと「ホンモノが来るんですか?」と聞いてきました。赤木かん子さんは、HPから「図書館改革を考えているんですが」と書くと、スグに返事があり、「とりあえず来週観に行きます」と言ってくださったのです。案外、どの方もそうだが、思い切ってお願いすると大半はOKなものなのです。
5 日間、PTA や地域のボランティアも募り、図書館を改革。「40%は即棄て。30%は準棄て。残り30%だねえ、まあ、使えるのは。」図書室にはじめていらっしゃったときの赤木さんの言葉でした。
おっしゃる通り、5000 冊をどっさり捨てました。そして、本当に生徒たちが「読みたい!」と思う本を入れたのです。図書委員たちには「君たちは、本が好きだから図書委員になったのでしょう。君たちの読みたい本を買うんじゃないよ。君たちのクラスで、絶対にこの人たちは本を読まない、でもこれなら読むだろう、というものを買うんだよ。」と指導します。
そして、学校図書に少ないリアル系の本をたくさん入れました。専門家から見ると、学校図書には情緒的なファンタジーなどが多いのですが、いわゆる科学系・社会学系の本が少ないそうです。図書予算は、各自治体からちゃんと予算化されてくるのですが、なかなか本選びに素人の教職員が選ぶのも難しいのが実情です。そこで、専門家にお願いして、本当に生徒たちの望む図書室に作り替えたところ、生徒たちの"知の探求"が自然発生的に起こり、そして、今、定着しつつあります。図書ボランティアの人たちには、授業の単元や、ゲストスピーカーに合わせ、コーナーを設けてももらっています。
ビフォー アフター
4、 コミュニティで
(1) 町内会回覧版と共に学校便りを配布
町内会回覧版と共に、学校便りを800 部配布しています。この学校便りは、カラーで印刷し、かなりこだわりにこだわっています。教育理念「自立貢献」に向け、どこまでどう進んできているか?授業の様子を先生の顔写真と共に掲載したり、外部からのゲストスピーカー実績と子どもたちの様子を写真と共に掲載したり、その他、行事のお知らせなど、月刊で 4Pにも渡ります。それを町内会の回覧板と共に、800 部配っているのです。中には「いつも楽しみに読ませていただいてますよ!」と学区内を歩いていると見知らぬ人から声がかかることもあります。また、学校便りを読んで、こんなゲストスピーカーが来ると知ったが、参加できるか?という問い合わせなどもあります。学校を真の意味で開いていくには、広報が肝心なのだとつくづく思います。
(2) コミュニティカレンダー~学校・家庭・地域の結束が固まる
学区は 1 中 2 小で構成されるのですが、3 校の学校行事予定や、中学校の下校時間(5 時~6 時と、季節によってバラバラ)、児童相談所や生徒に関する諸連絡先リスト、また地域の名所旧跡やちょっとした言い伝え等々の書いたコミュニティカレンダーを作成しました。児童生徒・教職員・地域(回覧板の方々)などに配布しています。これにより、学校・家庭・地域の結束が固まったと考えています。
(3) 市ヶ尾中学校区コミュニティかるた ~授業とのつながり、そして幼保小中へ
学校運営協議会で出てきたユニークな地域連携例として、コミュニティかるたがあります。これは、読み札を地域の方々が考え、絵を3 年生 220 人の夏休みの美術の宿題とし、素晴らしいかるたが去年度出来上がったのです。
そこで、今年度は、学校運営協議会の委員でもあり、ある町内会長さんが、区役所から予算を取ってきて下さいました。今年も、新しくかるたの絵を3 年生の美術の授業で描いてもらい、市ヶ尾中学校区全体のコミュニティかるたをつくります。そして、新しくとってきた予算でホンモノのかるたを作って、幼稚園・保育園・小学校に配布しようと言う企画です。
市ヶ尾中の学区は、東急田園都市線の沿線で、山を切り開いて住宅地となりました。住人のほとんどは、地元の人は少なく、親の世代でさえ、新しく引っ越してきた人たちです。地位の歴史や言い伝えはほとんど知りません。そこで、このコミュニティかるたを配布することにより、また、このかるたを使って字を覚えるだけでなく、昔から伝わる力石の由来や、お寺や神社などもちょっとした歴史を知ることもできるのです。
保護者・児童生徒含めて、この地域を知り、そして好きになってもらうことにより、自己肯定感を高められるようになるという目的もあります。
これらのことは、学校運営協議会でも充分話し合われ、決められました。そして、まさに、地域と中学校の授業内の連携だけでなく、幼保小中も含めてのコミュニティとのつながりを感じさせる取り組みとなりました。
(4) ボランティアで生涯学習
この 3 年間で、はじめはまったくいなかったボランティアの数も7 つに増えました。グリーンボランティア、図書ボランティア、漢字検定ボランティア、美術室清掃ボランティア、理科室実験ボランティア、等々がそれにあたります。そして、このボランティアの方々には、市ヶ尾中学校が外部の講師による授業の時には公開授業とするので、必ずお誘いします。その中で、生徒だけでなく、地域の方々も学ぶのです。
また、図書ボランティアなどは、図書館の新しい取り組みを他校のボランティアたちもたくさん見学に来るので、ショールームのように棚磨きに余念がありません。ボランティアそのものが知的好奇心を満たすものにしていけば、それはボランティアそのものが生涯学習なのでしょう。
以上のように、学校を真の意味で開くということは、生徒だけでなく、教職員、保護者、地域の人たちすべてが学校という場所を通じて、また生涯にわたって学び続けていくと言うことが、結局は子どもたちの成長に寄与するのです。
「学習する学校」を今後も深めていき、そして深化させていきたいと思います。
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