わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)
先月の欧州出張では、フクシマへの関心が高いことを痛感しました。日本では、風化が進んでしまっていますが、海外には関心を持ち続けている人がたくさんいます。福島原発事故は何だったのかをわかりやすく伝えていこう、考え続けていこうといプロジェクトの発起人の方にお話をうかがいました。
福島原発事故は何だったのか? わかりやすく伝える「わかりやすいプロジェクト」
2011年3月11日に起こった東京電力福島第1原子力発電所事故について、国会は2011年12月、政府や事業者といった事故当事者から独立した調査機関として、黒川清・東京大名誉教授を委員長に、学識経験者10人を委員とする国会事故調査委員会(国会事故調)を設置しました。
「2011年東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島原子力発電所事故に係る経緯・原因の究明を行う」、「今後の原子力発電所の事故の防止及び事故に伴い発生する被害の軽減のために施策又は措置について提言を行う」ことを目的として、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法に基づき国会に設置されたものです。黒川委員長は記者会見で「国民の、国民による、国民のための調査を行いたい。世界の中での日本の信頼を立て直したい」と述べました。
事故はなぜ起きたのか、その背景には何があったのか、再発防止には何が必要なのか――国会事故調では、延べ1167人の関係者に対して900時間に及ぶインタビュー、1万人を超える被災住民へのアンケート、東電や規制官庁に対して2000件を超える資料請求を行いました。委員会はすべて公開され、同時通訳も行われ、今でもアーカイブを見ることができます。
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/resources/
国会事故調は2012年7月に、「福島原発事故は人災によって発生した」とする報告書をまとめ、解散しました。報告書(日本語、英語)や会議録は国立国会図書館に保存されています。
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/index.html
委員長を務めた黒川清氏は、科学雑誌サイエンス発行団体AAASから「科学の自由と責任賞」を受賞しました。
報告書には「国会に原子力問題の常設委員会を設置する」など7つの提言が盛り込まれましたが、国会の対応は鈍く、報告書提出から半年後の2013年1月になって、衆議院原子力問題調査特別委員会を設置しましたが、大きな動きにはなっていません。
一方で、2012年秋、国会事故調の元事務局スタッフ有志や学生らが手弁当で「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)」というグループを立ち上げました。国会事故調の報告書は600ページもあり、なかなかふつうの人には手が出しにくいのですが、報告書の内容を分かりやすく伝えようという活動です。
http://naiic.net/
国会事故調事務局の元調査統括補佐で、事故調のプロジェクトリーダーだった石橋哲(さとし)さんがプロジェクト発起人です。プロジェクトのウェブサイトでは、同プロジェクトについてこのように説明しています。
2012年9月に、「わかりやすい国会事故調プロジェクト」を発足して活動を始めました。当時プロジェクトに参加したのは、国会事故調報告書作成に従事した若手プロ集団と、大学生、社会人の18名です。その後、2013年6月に、「わかりやすいプロジェクト 国会事故調編」と団体名を改め、活動を続けています。2013年秋には高校生チームが発足しました。2014年1月時点で、1000名以上の方にご参加いただいています。
私たちは、おそらく将来も世界史の教科書に残る福島原発事故の教訓から学ぶことが、これからの日本のために、とても大切なことであると考えています。私たちは、原発事故の事実をまっすぐに見つめ、議論と対話を積み重ねることで、未来に関わる選択と意思決定を行いたいと考える良識ある人々が繋がることが、日本の未来にとって、とても大切なことだと考えています。私たちは、以下の5つの問いに対する対話が、日本中で行われることを願っています。
福島原発事故では何が起こったのか。
福島原発事故の教訓とは何か。
何を残し、何をどう変えていかなければならないのか。
どれだけの選択肢があり、選択肢がもたらす価値は何か。
短期的な視点と、長期的な視点で、私たちは個々人として何をするのか。
私たちは、最初の2つの問い「福島原発事故では何が起こったのか」「福島原発事故の教訓とは何か」を、一人でも多くの方たちと共有するために、情報発信や対話の場づくりを始めています。
対話に参加して欲しいのは、未来を担う中学生、高校生、大学生、社会人です。 国会事故調報告書はこう述べています。「福島原子力発電所事故は終わっていない。不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員、国民一人一人の使命であると当委員会は確信する。」
一人一人の使命とは何かを一緒に考えませんか。
プロジェクトのウェブサイトには「わかりやすい国会事故調報告書」の紹介がアップされています。STORYBOOKは以下の4つがあります。
1. 原発事故そして未来
2. 規制の虜
3. 原発事故の人的被害
4. 国会事故調査委員会の報告書を読む
http://naiic.net/storybook
そして、短いシンプルなビデオ(イラスト動画)が6編アップされています。全編あわせて16分27秒ほどで、国会事故調、福島原発事故、事故後の対応、社会的課題などについて、知ることができます。
http://naiic.net/iv
1. 国会事故調ってなに?
2. 事故は防げなかったの?
3. 原発の中でなにが起こっていたの?
4. 事故の後の対応をどうしたらよかったの?
5. 被害を小さくとどめられなかったの?
6. 原発をめぐる社会の仕組みの課題ってなに?
わかりやすいプロジェクトでは、このほか、国会事故調報告書の輪読会やワークショップ、講演会、大学における講義やゼミ、中学校、高校における講義やプロジェクト学習なども実施しています。
2014年の4月から、新しいメンバーの高校生チームの活動も始まりました。報告書の一部分を30~40分という短時間でみんなで一気に読み、その後、思ったことや印象に残ったことをそのまま口に出してみる読書会や、高校生がいろいろな有識者のところに行って、高校生の考えたインタビューをして、ブログにアップするなどの活動です。2014年10月27日には、福島市で赤十字が原子力災害に備える「活動ガイドライン」を策定する国際会議「第3回原子力災害対策関係国赤十字社会議」にて、高校生チームがプレゼンテーションを行います。
プロジェクトが主催する活動では、次の3つのグランドルールを大切にしています。
①互いの立ち位置は問わない
②「なぜ」を追求する
③討論型(主張・主張・主張)ではなく、対話型(傾聴・学習・対話)の場とする
石橋さんにお話をうかがいました。「事故から教訓を汲み尽くすというのが、あるべき姿であり、国会事故調の精神なのですが、報告書を出しても昔と同じような回路の中に入ってしまっている。そういうことではないということを少しでも多くの人に共有してほしいと思って、仲間と相談しました。出発点は、「議論ではなく、事実を見つめましょう」ということで、相手を攻撃するのではなく、内省を深めようということをモットーにしています」。
活動の参加者は「原発への賛否は問わず冷静に対話」します。同時に、「原発は複雑で専門家でないとわからない」「専門家に口を挟むべきでない」というひとり一人の思い込みや思考停止をどう乗り越えるか、関心のない人にも考えてもらうにはどうしたらよいか、試行錯誤を続けていると言います。そして、「国会議員に対して『報告書の指摘や提言を今後どうするつもりか』と問い続けることが大切です」と石橋さんは言います。
原発事故に対する関心や意識の風化も進む中、もう一度ひとり一人がこの問題に向き合い、考え続けるために、わかりやすいプロジェクトの今後の活動と展開に期待しています。
「わかりやすいプロジェクト」の英語のサイト、STORYBOOK、イラスト動画もありますので、ぜひ海外のお知り合いにもお伝えください~! フクシマの教訓を少しでも世界と共有することは、私たち日本人ができるせめてものこと、だと思うのです。
(英語のサイトはこちらです)
http://naiic.net/en/