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通常の金融の仕組みでは、必要なところに必要なお金が流れない。だったら、自分たちの力で、自分たちの意志で、必要なお金を集め、必要なところに回そう――こういった「市民の市民による市民のための金融」の取り組みが世界各地で広がっています。世界にも発信したいと取材させていただいて書いた、JFSのニュースレター記事をご紹介します。
(2016年1月号より)
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
私たちが毎日暮らすためには、ある程度のお金が必要です。特に、事業を興したり、地域を活性化したりしようと思うと、まとまったお金が必要になってきます。もちろん、自分たちの貯えを元手に事業やプロジェクトを始めることもできますが、規模が大きくなってくると、金融の力を借りて、つまり、お金を借りて、自分の夢を実現したり、起業したり、地域の再活性化を図りたいということが増えてくるでしょう。
金融は元来、こういった人々や地域の期待に応えるためにあるはずですが、通常の金融機関は営利企業であるため、リスクを読めない先には資金を提供しません。金融機関の利益は、預かった資金と運用によって得られる収益との差額(利ざや)から得られますから、リスクが限定でき、経済的リターンの大きな案件に資金を提供する、という考えになります。
一方、地域での介護や福祉活動、自然環境の保全、再生可能エネルギーの普及、若者や女性の起業支援、多重債務者やホームレスの人たちの再生支援といった公共性を伴う非営利事業は、経済的リターンよりも社会的リターンを求めて行われます。社会性は高くても、収益性はあまり大きくない半面、リスクは高いという事業も少なくなく、通常の金融機関から融資を得るのは困難な場合も多いのです。
通常の金融の仕組みでは、必要なところに必要なお金が流れない。だったら、自分たちの力で、自分たちの意志で、必要なお金を集め、必要なところに回そう――こういった「市民の市民による市民のための金融」の取り組みが世界各地で広がっています。
2006年のノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんが主宰するグラミン銀行もその1つです。グラミン銀行は、バングラデシュで女性向けマイクロ・ファイナンス(少額無担保融資)を展開しています。アジア、中南米などの途上国ではこのほかにも多くのマイクロ・ファイナンス機関が活動しています。
日本にも、「コミュニティバンク」「市民銀行」「NPOバンク」などと呼ばれる市民主導の銀行があります。主に地域活性化を目的として運営されている市民主導型の金融です。多くは、主に一口数万円単位の出資を行い、それを原資にNPOや個人に低利で融資し、市民活動や地域での取り組みの資金として活用できるようにしています。
全国NPOバンク連絡会によると、2015年3月31日現在、日本にはこういった市民主導型の金融の取り組みが14あり、合計すると、出資金は580,235千円(非公開のところをのぞく)、融資累計は3,225,078千円となっています。
日本で最初に設立されたのは、1994年「未来バンク事業組合」でした。その4年後に、生活クラブ生協(以下、生活クラブ)から起こった動きとして「女性・市民コミュニティバンク(当時は女性・市民信用組合設立準備会)」が立ち上がりました。設立のきっかけとなったのは、女性たちが行おうとしている保育園やレストラン等の市民事業に対して、銀行がなかなかお金を貸してくれないという現状でした。女性が融資を申し込んでも、「担保が必要(担保はたいていが夫の名義)」「夫の名義なら貸す」といった対応が多いのが現状なのです。
生活クラブは、「自分たちの意見を代表してくれる政治家がいないなら、政治家を出そう」と政治参加をしたり、「女性を雇ってくれる事業所がないなら、自分たちでそういう場をつくろう」とワーカーズ・コレクティブの活動などを展開してきましたが、このバンクも同じように、「女性が融資を得にくいなら、自分たちで融資できる仕組みを作ろう」とバンクを立ち上げました。
「大切な自分のお金を社会に役立つことに活かしたい」「地域の課題を解決するために役立てたい」という思いに応えるべく、同じく生活クラブの活動の中から2003年に設立されたのが東京コミュニティパワーバンク(東京CPB)です。坪井真里理事長にお話をうかがいました。
――どのような思いから東京CPBを立ち上げたのですか?
1990年代にグローバル化が進み、それによる環境破壊、原発の問題、児童労働などの現状に、金融とは何かを考えるようになりました。当時、金融事業者の統廃合や不祥事、破たんなどがあり、一方で地上げに加担する金融機関も多く、自分たちの思うようなお金の流れになっていない、というのが根本的な問題意識でした。足元を支えている人たち、地域を元気にしたい。そのためのお金を回していきたい、という思いで立ち上げました。
東京CPBは、個人や団体が出資して会員となり、環境や福祉など社会的事業に融資する非営利の"市民金融"です。生活クラブは共同購入だけでなく、環境や福祉、子育てなどさまざまな地域の課題を市民が主体になって解決しようという活動をしていますが、市民の活動を事業として継続していくためには、熱意だけでなく、資金的な支えも必要なのです。
――主な融資対象は? またどのように融資を決めるのですか?
主な融資対象は、東京一円で生活・小規模事業を行なう市民や団体です。市民と有識者で構成される東京CPB市民審査委員会が財務諸表や現地視察などで実績を検証し、社会貢献や先駆性などで社会的価値を審査します。融資後も、融資した資金がどのように社会に役立っているかを見守る「半年後の見回り相談」、「志金循環ツアー(融資先訪問ツアー)」など、出資した市民との交流の場を設けていくのも東京CPBのユニークな特徴です。
特にユニークなのが"ともだち融資団制度"。融資を望む特定の会員に出資したい人、つまり賛同者を集めることによって通常より低利で融資できるしくみです。出資金や活動の様々な支援を多くの人に呼びかけることで経営を安定させていく独自のしくみです。
――融資先はどのようなところや事業ですか?
市民の立場から生まれたNPOや市民事業ですね。事業の内容は多岐に亘り、地域福祉、住まい方、環境、自然エネルギー、文化、生活弱者への居場所、就労支援、ワーカーズ・コレクティブなどです。
――これまでの実績と最近の融資案件を教えてください
2015年8月末現在の会員数は個人601名、団体47名の合計648名、出資金は1億515万円、累計融資件数は68件、融資累計額は2億9613万円です。最も新しい融資は、2015年9月の「企業組合 あうん」への融資です。生活困窮者同士が互いに支えあいながら、主体的に仕事起こしをして働く場を確保していくことを目的にしている、荒川区の(企)あうんに対し、リサイクルショップのトイレ改修とカフェ新設費用を融資しました。
――海外と比べて、日本の状況はどうですか?
米国には、営利の民間金融機関に対して地域社会への資金供給を義務付けるCommunity Reinvestment Act(CRA)があり、このCRAをきちんと金融機関が守っているかを監視しているNPOもあります。また、地域社会で非営利金融を提供する主体との地域開発金融機関(CDFI:Community Development Financial Institution)も多数あります。CDFIは、地域に根差した活動をさまざまに展開しており、地域の再開発や社会的弱者にも手の届く住宅の開発などの地域プロジェクトでは、ネットワークの要になって大手金融機関なども巻き込みながら活動しています。
イギリスでも、ブレア首相の時代にCDFIを推進し、さまざまなプロジェクトが生まれました。オランダには、トリオドス銀行という、社会のためにも倫理のためにも貢献するという銀行があり、今ではヨーロッパの各地に支店を持って幅広く活動しています。ドイツやイタリアにもコミュニティ銀行があります。
日本にはこういった存在も土壌もまだありません。そもそも日本には、"儲かる金融"はあっても、"良い金融"はなく、非営利の金融という考え方がほとんどないのです。2003年頃から国は「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げ、国民へ投資を促しました。しかし老後のための投資のつもりが、詐欺まがいのファンドで被害にあう人が増えたため「出資は有価証券と同じで、年に一度、有価証券報告書を出さなければならない」という規制を含む、投資家保護のための法律ができました。有価証券報告書を出すのは非常に厳しく、お金もかかるため、NPOバンクが成り立たなくなる可能性があります。そこで、各地のNPOバンクが集まって連絡会を立ち上げて運動し、ようやく適用除外になりました。
利息や配当を行わないことを条件に、非営利の金融がやっと社会で認められるようになった状況です。「貸金業法」という融資に関する法律のしばりも強いため、日本のNPOバンクは、なかなか広がっていません。
"社会的金融促進法"のような法律を作って、良い金融、非営利の社会の役に立つ金融を進め、英国で行われているように、そういった金融機関に対する投資減税を行うなどすれば、社会的な金融がもっと広がり、社会の役に立つことができるのではないでしょうか。
坪井さんのお話を聞き、「意志ある出資・意義ある融資」をスローガンに、お金に意志と意思をもたせるために市民がつくった市民のための非営利市民金融として、「まちが元気になる金融」を展開している東京CPBの活動を見て、日本に「意志あるお金」を「意志ある人々」に仲介するNPOバンクのような仕組みがもっと広がれば、と強く思いました。
日本でも目下「地方創生」の動きが盛んですが、米国ではクリントン政権が地域活性化を政策の柱に据え、新たな制度として財務省にCDFI支援のファンドを設けたことがこういった市民金融・地域金融の動きを大きく後押ししました。CRAという法律で、既存の営利金融機関の背中を押すだけではなく、財政資金を活用して、営利金融と非営利金融、財政資金を効率的に組み合わせ、地域に資金の循環を作り出すことに成功したのです。日本でも他の国々でも、「市民の市民による市民のための金融」「金融面からの地方創生」が進むことを願っています。
(枝廣淳子)