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一般財団法人「ベターリビング」のブルー&グリーンプロジェクトのコラム「地球の未来を考える」に、昨年末のCOP21にあわせて書いた原稿がアップされていますので、ご紹介します。温暖化への関心や危機感が世界各国でどのようになっているか、2つの必要な取り組みとは何かなど、ぜひ読んでいただけたらと思います。
グラフなどはサイトをご覧ください。
http://www.gasdemori.jp/column/index.html
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●温暖化についての関心や危機感は?
温暖化対策についての国際交渉COP21(第21回気候変動に関する枠組み条約締約国会議)が先月30日より、パリで開催されています(~12月11日)。
みなさんは「温暖化」について、どのような関心や危機感をもっていらっしゃるでしょうか? 「まだまだ先の話」と思っている方もいらっしゃれば、「いやいや、もう目の前に迫っているどころか、すでに影響は現れ始めている!」と思っている方もいらっしゃるかも知れません。 米国のピュー研究所がこの春、40カ国を対象に、「温暖化に関する一般市民の意見を分析する」調査を行いました。40カ国の18歳以上の成人45,435人に対して、対面インタビュー及び電話インタビューを行ったもので、日本も含まれています。とても興味深い調査結果でしたので、一緒に見ていきましょう。みなさんの実感と比べてどうでしょうか? 世界各地の人々の意識や関心はどのようなものなのでしょうか?
●世界全体が「温暖化は重大な課題」
ピュー研究所によると、「気候変動は重大な課題である」ことは世界全体の総意であり、調査が行われた40カ国全てにおいて「気候変動は深刻な問題だ」という意見が大多数を占めていました。ただ、その懸念の度合いや内容は地域や国によって大きく異なることも明らかになりました。どういう国が温暖化への関心が高く、関心が相対的に低いのはどこの国だと思いますか? 世界全体では54%の人々が「気候変動は非常に深刻な問題」だと考えているのに対し、中国でのその割合は18%、米国では45%でした。その割合がいちばん高かったのはブラジルで、86%。ついで、ブルキナファソの79%、チリの77%、ウガンダとインドの76%、ペルーの75%と続きます。
日本はどうだったのでしょう? 日本も米国と同じ45%でした。日本にいるとわかりませんが、日本の「温暖化を非常に深刻な問題だと考えている人の割合」は世界全体の平均よりも低いのですね。この調査では、一人当たりのCO2排出量と温暖化への関心度合いをプロットした結果、「全体的に見ると、一人当たりのCO2排出量が多い国(米国、オーストラリア、カナダ、ロシアなど)の人々の方が、一人当たりのCO2排出量が少ない地域(アフリカ、ラテンアメリカ、アジアなど)の人々よりも、気候変動に対し不安を感じていない」と述べています。「より責任のある人たちのほうが不安や関心が少ない」という、困った状態なのですね。
「温暖化は自分の生きている間にも害を及ぼす」
世界全体では、およそ10人中8人が「人々は、いま現在気候変動の影響を受けているか、今後数年の間に影響を受けるだろう」と述べています。最も不安を感じているのは、ラテンアメリカの人々です。77%が「現在、気候変動は人々に害を与えている」としており、ブラジルではその割合が90%に達しています。ブラジルでは温暖化の影響がかなり顕在化しているのでしょう。アフリカでも、「気候変動は、現在人々に害を与えているか、今後数年のうちに害を与えるだろう」とする人々の割合は86%と、多くの人が差し迫った脅威を感じています。他方、ヨーロッパでは、「現在、気候変動は人々に負の影響を与えている」と答えたのは60%です。そして、最も楽観的(?)なのが米国でした。米国人は「気候変動の影響は遠い先の話だ」と考える傾向があり、「気候変動はすでに世界の人々に害を与えている」とする人の割合は41%しかなく、一方で、「今後何年も人々に害は及ぼさないか、決して及ぼさない」とする人が29%もいるのにはびっくりです!
●日本では関心が低下?
ピュー研究所では、今回の調査と5年前の調査の結果を比べたところ、「ほとんどの場合、ここ5年間でこの問題に対する見方に変化は見られない」としています。全般的には変化はないのですが、しかし、「いくつかの主要国では、気候変動に対する関心が大きく低下している」のです。たとえば、世界最大のCO2排出国である中国では、「気候変動は非常に重大な問題だ」と答えた人の割合が2010年から23%減少しており、韓国でも20%減っています。そして、日本でも13%減となっているのです。私も講演活動などをしていて、特に3.11以後、日本では「温暖化どころではない」「経済成長が最優先だ」という風潮が強く、温暖化問題が社会的に"後回し"になっているように感じています。日本は低炭素技術などにより世界をリードする役割を期待されています。日本の強みを生かした経済成長のあり方を考える意味でも、より多くの企業や人々に温暖化への関心を高めて欲しいと願っています。
●世界の人々が求める「国際協定」
先ほど述べたように、世界全体で、気候変動は「非常に」深刻な問題であると考える人は54%ですが、「自分の国が、石炭・天然ガス・石油の燃焼による温室効果ガスの排出量を制限する国際協定に調印することを支持する」とした人の割合はそれよりはるかに高く、78%でした。つまり、「非常に深刻」までは思っていなくても、自分の国は温室効果ガスの排出を制限する国際協定を結ぶべき」と考えている人が多いのですね。この違いが最も顕著な国は中国で、その割合は18%と71%だったとのこと。つまり、中国の人々は、地球温暖化に強い懸念を抱いていないにも関わらず、中国政府の地球温暖化への取り組みは支持している、ということです。 実は日本でも同じ傾向が見られます。排出量制限に対する一般市民の積極的な支持は、気候変動への懸念よりも38%も上回っているのです。非常に深刻だと思っているかどうかに関わらず、「排出量を制限すべき」と多くの市民が考えていることは心強いですし、世界のこの傾向はCOPなどの国際交渉の担当者にとって追い風となるでしょう。
●93億-51億トン=42億トン!
では、温暖化の進行を止めるにはどうしたらよいのでしょうか? いまでは小学生でも高学年になれば、「温室効果ガスを減らすこと!」「特に、二酸化炭素(CO2)!」と答えてくれます。そう、そのとおりです。ではどれぐらい減らせばよいのでしょうか?直感的な答えは、「地球が吸収できるレベルまで減らす」ということですよね! 地球にはCO2を吸収する力があります。何がCO2を吸収しているでしょうか? そう、植物です。植物は二酸化炭素を吸収して酸素を出しています。草や木、森林があればあるほど、大気中からCO2を吸収してくれるのです。 私は子どもたちに温暖化について教えるとき、「森林は空の掃除機なんだよ。空の二酸化炭素を吸い取ってくれるんだよ」と説明します。そして、森林のほかに、海洋もCO2を吸収しています(正確に言えば、大気中と海洋中のCO2濃度の差によって、大気中から海洋中にCO2が移動しているのです)。 世界中の温暖化に関する研究者の集まりであるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告によると、森林や海洋など、地球には毎年51億トンの炭素(C)を吸収する力があります。ところが、私たち人間が、石油・石炭・天然ガスといった化石燃料を燃焼して大気中に排出している炭素は93億トンです。つまり、「93億-51億トン=42億トン」の炭素が毎年吸収されずに大気に残ってしまい、溜まっていきます。これが温室効果をもたらし、温暖化を引き起こしているのです。「93億-51億トン=42億トン」を変えなくてはいけないのです!
●「93億-51億トン=42億トン」を変えるための2つの働きかけ
どうやって、「93億-51億トン=42億トン」を変えればよいのでしょうか? 2つのアプローチがありますよね。 1つは、「93億トン」―私たち人間の化石燃料を燃やすことによる排出量―を減らすことです。ピュー研究所の調査でも、多くの市民が「自分の国は、石炭・天然ガス・石油の燃焼による温室効果ガスの排出量を制限すべき」と考えていることがわかりましたが、これはまさにこの「93億トン」を減らそう!という動きです。そして、もう1つのアプローチは、「51億トン」―森林などの地球の吸収量―を増やすことです。「93億」を減らせば減らすほど、そして、「51億」を増やせば増やすほど、その差は小さくなります。その差がゼロになれば(実際には、大気中のCO2濃度が減れば海洋の吸収量も減るので、直線的にゼロになるわけではありませんが)、温暖化の進行は止まる!ということになります。 「人間の排出量を減らすこと」と「地球の吸収量を増やすこと」の2つのアプローチを同時に進めていかなくてはなりません。たとえ、排出量をがんばって減らしても、一方で、森林伐採などが進んで、地球の吸収量が減ってしまっては、やはり温暖化は進んでしまうからです。
●Blue & Greenプロジェクトが大事なプロジェクトである理由
そう、もうおわかりですね? Blue&Greenプロジェクトが大事なプロジェクトである理由が。Blue&Greenプロジェクトは、「93億-51億トン=42億トン」の「93億」にも「51億」にも、同時に働きかけようという取り組みなのです! 「B=Blue」プロジェクトで、エコジョーズ・エコウィル・エネファームといった省エネ型の高効率ガス給湯・暖房機が普及すればするほど、省エネ型でないものを使い続けた場合に比べると、排出量(93億トン)が減っていきます。同時に、「G=Green」プロジェクトによって、省エネ型の高効率ガス給湯・暖房機の普及が植樹活動の支援につながり、地球の吸収量(51億トン)が増えていきます。 「省エネなどで排出量を減らす」または「植樹などで吸収量を増やす」という活動は世の中にたくさんありますが、「省エネで排出量を減らす」ことが「植樹で吸収量を増やす」ことに直接つながっているという、一挙両得型の取り組みは世の中にもそれほど多くはないと思います。だからこそ、私はBlue&Greenプロジェクトを心から応援しています。
●「B」ラインと「G」ラインのコラムを書いていきます!
今回からこのコラムを書かせてもらうことになりました。これから、みなさんの関心にあわせて記事を書いていけたらと思っています。「Bライン」(排出量を減らす取り組み)か、「Gライン」(吸収量を増やす取り組み)か、どちらにより関心がありますか? これからどうぞよろしくお願いします。
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昨日開催したイーズ未来共創フォーラム異業種勉強会では、WWFジャパン・気候変動オフィサーの小西雅子さんに来ていただいて、パリ協定の本質や交渉の裏側などのお話を聞き、それぞれ自社はどのように動くべきかを考え、議論しました。
このテーマで異業種勉強会を開催したのは、「世界がどんどん進んでいっているのに、日本企業の意識や取り組みがなかなか進んでいない......」という思いからです。
小西さんのお話をうかがって、その思いを強くすると同時に、参加企業のみなさんが「そうなっているとは知らなかった!」「わが社も考えていかなくては」「自分はまずこれをやろう」など、ワガコトとして考え、"作戦"を議論しているようすに心強く思いました。
情報発信と「学び、考え、議論する場」の提供を通じて、小さくても推進力になれたらと思っています。