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一般財団法人「ベターリビング」のブルー&グリーンプロジェクトのコラム「地球の未来を考える」の第2弾で「歴史の節目となる」と言われるほど注目!のパリ協定について解説しました。「たしかに見聞きしたけど、どういうモノだっけ?」という方、ぜひどうぞ! 今後の世界の動きを読み解く、1つの大きな鍵です。
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ベターリビング」ブルー&グリーンプロジェクト
コラム「地球の未来を考える」
●COP21って何がすごかったの?
昨年12月にパリで開催された温暖化の国際交渉「COP21」が、「画期的!」「歴史的合意だ!」とメディアでも取り上げられていましたね。
「何だかすごいことがあったみたい」と横目で見ながらも、「何がすごかったのだろう?」「そもそもCOPって何だろう?」と思っていた方も多いのではないかなぁと思います(大学で教えている学生たちに聞いてみても、そういう反応が多かったように思います)。
そこで! 今回は「COPとは何か」からはじめて、これまでの経緯を説明しましょう。そうしたら、なぜ今回のCOPが「画期的!」だったのかがわかります。他の人にも「パリ協定ってね」と説明できるようになります。ではさっそくGO!
●COPとは?
報道では「コップ」「コップ21」と耳にされたことと思います。耳で聞くととくに「コップって何?」という感じですよねぇ。
COPというのは、「Conference of Parties」の頭文字をとったものです。Conference(カンファレンス)とは「会議」のこと、Partiesとはご存じparty(パーティ-)の複数形ですが、誕生日パーティーなどの「パーティー」という意味のほかに、「契約などの当事者」という意味があります。
つまり、「契約の当事者会議」というわけです。ここでの「契約」は国際条約のことです。その条約を結んだ当事国の会議という意味で、日本語で「条約を結ぶこと」を「締約」というので、COP=Conference of Parties=「締約国会議」ということになります。
ここまでで、COPというのは「条約に署名した国の会議」であることはわかりましたが、「はて、何の条約なのだろう? 条約っていってもいっぱいあるし」と思った方、ピンポン♪です!そうです、条約ごとにCOPがあるのです。生物多様性条約のCOP(締約国会議)もあります。その第10回(つまりCOP10、正式名称は「生物多様性条約第10回締約国会議」が2010年に名古屋で開催されたときにも「コップ、コップ」とお聞きになったのではないでしょうか。
さて、今回取り上げるCOP21、つまり第21回締約国会議とは、「気候変動枠組み条約」の締約国会議です。気候変動とは温暖化のことですね。その生まれから、これまでの経緯を簡単に振り返ってみましょう。
●気候変動に関わるCOPのこれまで
世界の国々が温暖化に対して取り組む必要があるとの認識で、1992年に「気候変動枠組み条約」が採択されました。1994年に条約が発効した後、毎年COP(締約国会議)が開催されています。
日本の京都でCOP3が開催されたことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。1997年のCOP3では「京都議定書」が生まれました。この内容は、「温暖化の原因をつくってきた先進国が、2008~12年の温室効果ガス排出量を90年比5%削減する」というもので、先進各国に温室効果ガス排出上限が課せられ、日本の割り当ては6%減でした。「マイナス6%」という数字は、政府だけではなく、多くの企業でも目標値として掲げられました。
このときは、「これまでの温室効果ガス排出の大半は先進国が出したものだから、先進国が減らすべき」という論理で、先進国のみが削減義務を負ったのですが、実際には、その後、中国やインドなど経済成長を遂げた途上国を中心に温室効果ガスの排出量が急増し、「先進国だけ減らせば良い」という状況ではなくなってきました。
そのような中、2001年に、自国の経済成長を優先するなどの理由で、米国が離脱。2009年にデンマークで開催されたCOP15では、新たな枠組みの合意を目指したものの、先進国と途上国の意見の隔たりが大きく、うまくいきませんでした。
2010年のCOP16は、京都議定書の約束期間が終わるため、その延長を決めましたが、日本などは第2約束期間に参加しないことを決めました。こうして参加国が大幅に減ってしまい、2013~20年の期間に削減義務を課された国々の排出量は世界全体の1割強まで減ってしまったのです。つまり、京都議定書による削減義務の対象になっていない国々の排出が世界全体の9割弱と、ほとんど実効性のないものになってしまったのでした。
このままでは、世界全体で温暖化対策をとることができなくなってしまう......。2011年に南アフリカ共和国で開催されたCOP17では、この問題意識と切迫感を共有することができ、「すべての国が参加する枠組みづくり」を進めることに合意ができました。そして、その後のCOPでさまざまな準備や調整を進め、「ここで失敗すると、もうあとはない」と言われる状況の中、2015年12月にフランス・パリでのCOP21を迎えたのでした。
●COP21で決まったこと
今回のパリでのCOP21が「画期的!」と言われるのは、京都議定書以来、18年ぶりに世界の温暖化対策がまとまったからです。COP3で成立したのは「京都議定書」でしたが、今回のCOP21では「パリ協定」が採択されました。
このパリ協定は、京都議定書の約束期間後の2020年以降の新たな枠組みを定めるものです。京都議定書では先進国のみに温暖化ガスの排出削減義務がありましたが、今回のパリ協定には、途上国を含むすべての国が参加することになったため、「画期的!」なのです。パリ協定の中身について簡単に紹介しましょう。
★目標
パリ協定では、産業革命前からの気温上昇を2度より十分に低く抑える目標を掲げたうえ、さらに1.5度以内とより厳しい水準へ努力すると明記しました。科学者たちは、2度を超える気温上昇は世界各地に甚大な悪影響をもたらすと警告を発してきました。今回、この「2度」という目標を世界全体の目標として設定することができたのは、本当に大きな進展です。
しかし、すでに地球の気温は1度程度上昇していますから、温室効果ガスの排出量を早期に頭打ちにし、21世紀後半には人為的な排出量を大きく減らして、森林などによる吸収量と同じレベルまで引き下げる(=人間が出す分はすべて森林などが吸収し、大気中に溜まらない)ことをめざします。
★実施体制
ではこの「画期的」な目標に向けて、どのような実施体制で進めていくのでしょうか。パリ協定では、「途上国を含むすべての国が温室効果ガス削減について、自主目標を作成して、国連に提出し、国内対策を実施する義務を負う」としています。
「各国が自主的な目標を定めて、自分たちで実施する」ということだけが義務となっていますから、「各国の自主的な目標の合計で、2度よりも下げるために足りるのか?」という疑問と、「各国は自分たちが定めた目標を果たして守るのか?」という疑問が浮かびます。
前者については、「現在の各国の目標では十分ではない」のが現状です。国際エネルギー機関(IEA)が、各国がこれまでに公表している目標を合計して計算したところ、このままでは、今世紀末には少なくとも2.7度上昇してしまうとのこと。つまり、「2度目標」の達成には、各国の削減目標を引き上げる必要があるのです。
そこでパリ協定では、各国の削減目標を引き上げるため、「2020年から5年ごとに目標を見直し、世界全体で進捗を検証する」としています。
★途上国への資金援助
これまでのCOPの会合がうまくいかなかったのは、「温暖化は先進国の責任」「途上国の取り組みは先進国からの資金と技術がないと進められない」とする途上国と、「今後は途上国も大量に排出するから、同様に削減義務を負うべきだ」「途上国の中でも新興国は資金を拠出する側に回るべきだ」とする先進国の間で、意見が激しく対立したためでした。
今回のCOP21では、この問題で交渉自体が暗礁に乗り上げることを避けようと、途上国への資金支援は義務づける一方、具体的な拠出額は2025年までに定めるとして、パリ協定自体とは切り離す形にしました。言うまでもなく、途上国側は「具体額の明示がないと信用できない」と考えますから、「最低でも年間1000億ドル」という新たな拠出額の目標の下限は明示しました。このような形で、資金をめぐる対決を回避し、パリ協定を結ぶことができたのです。
★課題
「画期的」なパリ協定ですが、成立のためにさまざまな妥協や譲り合いが必要でした。それらは、今後の課題となってきます。先ほど「『各国が自主的な目標を定めて、自分たちで実施する』ということだけが義務となっていますから、『各国の自主的な目標の合計で、2度よりも下げるために足りるのか?』という疑問と、『各国は自分たちが定めた目標を果たして守るのか?』という疑問が出てきます」と述べた2点です。
①各国が「2度目標」を考慮して、温暖化ガスの排出削減目標を、国情に合わせて自主的につくること
②「法的拘束力」は目標の設定自体には適用されるものの、目標の達成義務はなく、罰則もないこと
これらの課題が抜け穴にならないよう、私たち一人ひとりが"自分の排出する温室効果ガスの削減"を進めつつ、今後の進展や実績を見守っていく必要があります。
●パリ協定を可能にした要因
パリ協定が成立した直後に、ある新聞に「なぜ今回合意が可能にだったのか?」というインタビューを受けたのですが、私は、「今回の国際交渉のホスト国であったフランス政府の入念な準備や巧みな交渉の進行に加えて、2つの要因があると思います」と答えました。
1つには、温暖化の被害や影響が明白になり、世界的な危機感が生まれてきていることです。そして、もう1つは、低炭素化のためにはエネルギー転換(化石エネルギー→再生可能エネルギー)が必要だが、先進国でも途上国でも、エネルギー転換が進んでおり、大きく経済を損なうことなく、低炭素化ができるという見通しが立つようになってきたことです。
(世界中で展開中のエネルギー転換と日本の現状について、簡単に読める岩波ブックレット『データでわかる 世界と日本のエネルギー大転換』を出しましたので、ご興味のある方はぜひどうぞ!)
http://www.amazon.co.jp/dp/4002709434?tag=junkoedahiro-22
(世界中で展開中のエネルギー転換と日本の現状について、簡単に読める岩波ブックレット『データでわかる 世界とこのCOP21でのパリ協定が、「人類が瀬戸際で何とか踏みとどまり、世界全体が真剣に対策をとりはじめ、最終的に温暖化の悪化を許容できる範囲でストップできた転換点になったね」と、後世に記憶される実効性のある国際合意になることを願ってやみません。