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つながりを読む

網に入る魚の3割だけいただく持続可能な漁業 ~ 氷見の越中式定置網

2016年07月08日 |コラム

5月に富山県の氷見市に講演で呼んでいただき、いろいろとお話を伺うことができました。氷見と言えばブリ!ですが、ブリだけではなく、さまざまな海産物や、山の幸にも恵まれた地域です。そして、氷見は越中式定置網という持続可能な漁法の発祥の地でもあります。取材をしてきましたので、お届けします。

JFSのニュースレター記事として世界185ヶ国に発信したサイトに、定置網の解説図や写真などがありますので、ぜひどうぞ!

http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035569.html

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~

JFS ニュースレター No.165 (2016年5月号)

網に入る魚の3割だけいただく持続可能な漁業 ~ 氷見の越中式定置網

世界的に漁業資源の逼迫や漁場の崩壊が心配されています。海に囲まれた島国・日本では、伝統的に魚介類や海藻を取り入れた食生活を送っており、日本で食用として流通している魚は300種類を超えると言われています。日本人にとって、魚介類は栄養だけではなく、文化やライフスタイルの観点からもきわめて重要です。

日本の水産物の摂取量は世界トップレベルで、水産物は国民への動物性タンパク質供給の約4割を占め、栄養バランスの優れた「日本型食生活」にとっても重要な食料です。 日本人は1年間にどのくらいの魚介類を食べているのでしょうか? 2014年度「水産白書」によると、食用魚介類の1人当たり年間消費量がピークに達したのは2001年度で、40.2キログラム/人でした。その後減少を続けており、2013年度は27.0キログラム/人でした。

2013年度における日本の魚介類の国内消費仕向量(原魚換算ベース)は785万トン(概数)で、うち79%(622万トン)が食用消費仕向け、21%(163万トン)が非食用(飼肥料)消費仕向けでした。同年の日本の食用魚介類の自給率は60%です。多くの魚介類を食べている日本にとって、「いかに持続可能な漁業を行うか」はきわめて重要な課題です。今回は富山県氷見市から、400年の歴史を持つ、持続可能な漁法である「越中式定置網」をご紹介しましょう。

●定置網漁とは

漁法の中でも、漁網を使用した漁法には、まき網や底引き網のように、漁船などで移動しながら、魚群を追いかけて獲る方法と、一定の場所に網を固定し、網に入った魚を獲る方法があり、日本の漁業法では後者の漁法を「定置網漁」と呼びます。また水深27メートル以上の海域に設置されたものを「大型定置網」と呼び、現在では漁具の改良によって100メートル以上の深場に設置されている定置網もあります。

定置網の歴史は古く、日本では「足利時代(1336年~1573年)の末期に誕生し、徳川時代(1603年~1868年)の末期に一応の形が整った」という説や、江戸時代の初め(1615年頃)に山口県で定置網の1つである大敷網が開始されたという記録があるなどと言われています。

●氷見発祥の伝統的な漁法、「越中式定置網」

氷見市は、富山湾に面しており、湾の西側に位置しています。人口は約5万人、昔から漁業で栄えている町です。富山湾は、7大河川が流れ込んでいることから、魚のエサとなるプランクトンが多く、「天然のいけす」と呼ばれるほど、絶好の漁場環境です。富山湾の中でも氷見沖は最も大陸棚が発達しているため、魚が多く集まり、古くから漁業が盛んなのです。定置網漁が盛んな漁村で育った氷見市まちづくり推進部、魚々座・漁業文化推進室の大石泰浩さんにお話をうかがいました。

定置網には、地域ごとのやり方や魚種によってさまざまな形態がありますが、氷見発祥の「越中式定置網」は、大敷網(二重落し網)と呼ばれる種類で、天正年間(1573~1592年)に始まったとされています。さまざまな改良を経て現在の形となった、大敷網(二重落し網)の仕組みを見てみましょう。垣網・角戸網・登り網・身網の4つの網で構成されています。

垣網:魚を囲い網に誘導します。角戸網:魚が最初に入りこむところで、回遊する溜り場です。「運動場」と呼んでいます。登り網:いったん身網へ導かれた魚が、容易に網外へ出ないようにするための網。身網:魚をとり上げる網。

定置網漁法は、固定された網に集まってくる魚を待つもので、まき網や底引き網のように追いかけた魚のほとんどを取り尽くす漁法ではありません。魚はいったん網に入っても出ていくことができるため、最終的に捕獲するのは網に入った魚の2~3割だけです。「獲り尽くさない」自然に優しい漁法なのです。

氷見沖には、沖合2~4キロメートル、水深20~100メートルのところに、大小40ほどの定置網が張られています。大きなものでは、身網の部分だけでも幅80メートル以上、長さ400メートル以上、網全体では800~900メートル、魚を誘導する垣網は1,000メートルを超える巨大なものもあるそうです。

漁師は毎朝、約20~30分かけて漁場まで行き、約1時間かけて網を起こし、身網に入っている魚を揚げます。漁場から市場までが近いことから、さきほどまで網の中を悠然と泳いでいた魚が、水揚げから2時間もしないうちに市場で競り落とされ流通していきます。氷見の魚が新鮮で美味しいと言われる理由の1つです。

身網を揚げるときも、ドンドンと音をさせて、魚に合図を送って、気づいた魚に逃げる隙を与える漁師もいるとか。また、これも漁師さんの話ですが、「網の目よりも小さな魚は自由に網を出入りできるので、大きな魚がくると自分から網の中に入って網に守ってもらう」こともあるそうです。また、網の目の大きさによって、漁獲量をコントロールできる点にも、資源保護の観点から注目が集まっています。

「現在は網の素材はナイロンですが、最初は藁でした。そのあと、綿が使われるようになりました」と大石さん。「いずれも、自然の素材なので、海水で弱くなってしまいます。そこで柿渋につけてコーティングし、強度を上げていました。とはいっても、しばらくたつと弱くなるので、網を切って海に沈めます。それが海の中で分解し、有機物となって小魚を育てる藻場や魚のエサ場をつくります」。また沿岸部の山の木々は「魚つき保安林」として大切に守られています。まさに海と里と山が手に手を取り合って循環していたのですね。

氷見の越中式定置網は持続可能な漁業であると高く評価され、世界にも広がりを見せています。2002年の世界定置網サミットが縁となり、2005年から国際協力でタイへの「越中式定置網」の技術指導が行われました。その後、氷見市とJICA北陸が共同で、草の根技術協力「タイ国資源管理型沿岸漁業の技術支援プロジェクト」を2005年から3年間実施。JICA事業としては、タイ以外にも、これまでにチリ、トリニダード・トバゴ、パラオ、タンザニアに対する技術移転の取り組みがあったそうです。

●氷見の漁業とこれから

氷見といえば「寒ブリ」と言われるほど、全国的に知られている氷見の漁業。ブリだけではありません。春は氷見鰯と呼ばれるイワシが獲れ、私が取材にうかがった日も120トンを超える鰯の水揚げがありました。そして、夏はマグロと、氷見漁港は一年中活気があります。漁獲の約8割は定置網漁法によるものです。

「網に入ってくる魚の約7割がまた出て行ってしまうのを許すって、優しい漁業ですね」と言うと、大石さんは「本当は漁師も全部獲りたい、と思っているかもしれません」と笑います。「でも、野球でも3割打てれば十分大打者なんだから、3割獲れればいいんじゃないの、と。明日もあさっても獲りに行くわけだし」。

「定置網漁は、環境に優しいだけじゃなく、人にもやさしいんですよ」と大石さん。遠洋漁業に携わる漁師さんは、何日も、場合によっては何カ月も家を空けることになりますが、定置網漁は、毎朝20分の漁場まで"出勤"し、夕方には帰宅できますから、毎日家族との時間が持てます。「いまは水曜と日曜に市場を休みにしているので、漁師も週休2日ですよ。収入も、水揚げに左右される歩合制じゃなく、給与制ですから、安定しています」。最近はこの越中式定置網の漁法を受け継ぎたい、という漁師のなり手が増えてきたそうで、漁協をあげて若手の漁師さんを一生懸命育成中! とのことです。

「氷見の人たちが食べる魚はほとんど地元産だと思います」と聞きました。「でも今では、魚屋さんでなく、スーパーで買い物をする人が多いでしょう? 同じく海の町・熱海のスーパーに行くと、日本各地から運ばれてきた魚が多くて、地元で獲れた魚を探すのが大変なんですよ」と言うと、「氷見のスーパーは、地元の魚屋さんが出店しているので、氷見の魚が多いんです」とのこと。スーパーの中にも、地元の魚屋さんがあるというのはいいなあ! と思いました。

2015年4月には、氷見の漁村文化を未来へ伝え、人と人の交流を通して「きずなを編み上げる場所」として、また、新たな観光・交流の拠点として、ひみ漁業交流館「魚々座」がオープンしました。私も訪問しましたが、広々とした空間に越中式定置網が天井から吊るしてあります。海中に仕掛けられた網を下から見上げていると、お魚になった気分になります。

これからますます、「持続可能な漁業」への関心は高まっていくことでしょう。400年の歴史を持つ氷見発祥の越中式定置網漁が世界にさらに役立つように、また、定置網漁を支える豊かな漁場がいつまでも守られるように、願っています。

(枝廣淳子)

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~

この記事の英語版はこちらにあります。

Sustainable Fishery Catches Only 30% of Fish Entering Net -- Etchu-type Set Net Fishing in Himi

先月、氷見に伺う前に調査のために出張した米国オレゴン州ポートランドでは、「地元の食料システムを地元で大事に作り上げ、守っている」ことの豊かさ、安心、幸せの実例を知ることができました。

自給率1%の東京では無理ですが、氷見のようなところだったら、地元の生産者と流通業者と消費者がうまく有機的につながって、ポートランドのような「ローカルな食料システム」を見える化し、強化していくことはできる!と思います。それが、地域のレジリエンス(外的な衝撃にも折れないしなやかな強さ)と幸せと誇りを高めてくれる!と。

 

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