あば村宣言 ウェブサイト
「全国のガソリンスタンド(給油所)の数が、約20年間で半減している」という記事がありました。特に山間部をはじめ過疎地域では利用者が少ないため採算が合わず、閉鎖に追い込まれる給油所が多いとのこと。
クルマがなくてはやっていけない地域で、ガソリンスタンドが閉鎖されるというのは死活問題。
「自分たちで何とかしよう!」、ピンチをチャンスに変えた岡山県津山市阿波地区の取り組みをご紹介しましょう。
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会社組織で村を復活 岡山県津山市「合同会社あば村」の取り組み
1999年からの市町村合併政策のため、日本では多くの村や町が合併され姿を消しました。1999年3月末に3,232だった市町村数は、2010年3月末には1,727。なんと半数近くにまで減っているのです。
そうした中、「地方自治体としてはなくなってしまった村を、心の故郷「あば村」として復活させる『あば村宣言』」という取り組みが、岡山県津山市阿波地区で行われています。あば村を地域で未来に残していくために、地域住民が出資して「合同会社あば村」を設立しました。この合同会社は、コミュニティの中でどのような役割を果たしているのでしょうか。
●あば村宣言
自治体としての阿波村は2005年に、岡山県津山市に合併されました。その後、阿波地区はどうなったのでしょうか。合併から10年後の様子が、2014年4月に発表された「あば村宣言」に詳しく書かれています。以下、宣言文をご紹介します。
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あば村宣言 宣言文
合併から10年 いま再び村が始まる
岡山県阿波(あば)村は平成の大合併の流れの中、平成17年に津山市と合併し115年続いた『村』はなくなりました。
それから10年。
合併当時700人だった人口は570人にまで減り、140年の歴史のある小学校は閉校、幼稚園は休園、唯一のガソリンスタンドも撤退、行政支所も規模縮小...。まさに『逆境のデパート』状態となってしまいました。
しかし、このような逆境の中でも未来を切り拓く挑戦が始まっています。地域住民が設立したNPOは、住民同士の暮らしの支えあいや環境に配慮した自然農法のお米や野菜づくりに挑戦しています。閉鎖されたガソリンスタンドは住民出資による合同会社を立ち上げ復活させます。エネルギーの地産地消を目指し、地元間伐材を燃料にした温泉薪ボイラーの本格稼動も始まりました。こうした取り組みの中で地域住民に留まらず、地域外からも協力者や移住してくる若者も増え始め、私たちは自らの手で新しい村をつくることを決意したのです。
この度、私たちはここに「あば村」を宣言いたします。
自治体としての村はなくなったけれど、新しい自治のかたちとして、心のふるさととして「あば村」はあり続けます。
周りは山だらけ、入り口は一つしかない「あば村」は不便で何もない場所かもしれません。しかし、「あば村」には人間らしく生きるための大切なものがたくさんあります。このあば村の自然と活きづく暮らしを多くの方々と共有し、守り続けていくこと、そして子どもたち孫たちにこの村での暮らしや風景を受け継いでいくことを決意し、宣言いたします。
合併から10年、あらたな村の始まりです。
2014年4月 あば村運営協議会 会長 小椋 懋
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●きっかけはガソリンスタンドの撤退
あば村宣言に書かれているように、合併後の阿波地区は人口が減り、学校も廃校になりました。そして地区に唯一のガソリンスタンドも、2013年の春にJAから「撤退する」という知らせが入ったのです。津山市の中心地から離れている阿波地区にとって、自動車は住民の足であり、また冬場には暖房のための灯油も必要です。ガソリンスタンドは地区での生活に欠かせないものなのです。聞き取りを実施したところ、ガソリンスタンドの存続を希望した住民は、7割にも及びました。
そして、どのような形でガソリンスタンドを運営させるかを協議して出した結論が、「住民が社員(会社法では社員とは出資者のことを指します)となって会社を設立する」というユニークな方法でした。この方法を選んだのは、「自分たちの手で存続させていく」という意識を忘れないためです。
そして、2014年2月6日、阿波地区に住む住民134人が「社員(出資者)」となった「合同会社あば村」(以下「あば村」と記します)が設立されました。2015年1月現在、社員数は170個人・団体。これは岡山県北部では大きな企業に入ります。
●合同会社とは
「合同会社」という法人の形態について簡単に説明します。日本の合同会社は、出資額を限度とする間接有限責任を負う社員(出資者)だけで構成される会社のことです。
株式会社と似ていますが、株式会社では代表取締役などが業務執行・代表機関となるのに対して、合同会社では出資者全員が代表です(ただし業務執行社員を決めることができます)。また、株式会社では出資の割合に基づいて行われる利益の配分も、合同会社では任意で決めることができます。つまり株式会社に比べて、合同会社は組合的な要素を持っているのです。
●広がる「あば村」の取り組み
「あば村」はガソリンスタンドの経営に加えて、2014年9月にはスーパーの商品を戸別配達するサービスを開始しました。事前に独居や2人暮らしの高齢者宅に商品パンフレットを配り、電話などで注文を取りまとめて発注します。そして、あば村の事務所に送られてくる商品をスタッフが手分けして届ける仕組みです。価格は店頭と同じですが、代金の1~2割を手数料として別に受け取ります。サービス開始当初の売り上げは月10万円前後でしたが、2014年12月には20万円を超えるなど、需要は増えています。
「あば村」では、間伐材や未利用材をチップ化し、あば温泉の燃料として使う「木の駅プロジェクト」の運営も行っています。阿波地区は、地域の94%を山林が占めています。しかし、木材価格の下落もあって、間伐材が放置されたり、間伐そのものが行われなかったりするなど、山が荒廃していました。そこで、間伐材を破砕処理して、地元で消費する取り組みが始められたのです。現在は、地区外にも集荷地を拡大し、一般家庭向けの薪に加工して販売することも計画中です。
「あば村」という会社を通じての活動のほかにも、阿波地区ではさまざまな取り組みが行なわれています。2008年に発足したエコビレッジ阿波推進協議会が環境にやさしい村づくりのために行なっている「アヒル米」づくりも、その1つです。これは田んぼにアヒルを放して、雑草や害虫などを食べてもらい、糞はそのまま肥料になるという、有機無農薬の米作りの取り組みです。
●「あば村」の取り組みの意義
日本は現在人口が減少しつつあり、多くの自治体や地域がなりゆきに任せていては消滅する可能性があることは、JFSのニュースレターでもご紹介している通りです。住民出資で会社を興す阿波地区の取り組みは、地域の自治と存続のための新しいモデルを示してくれています。
人口減少社会 東京一極集中と地方消滅
(前編)http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035297.html
(後編)http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035316.html
地域の産業を地元住民の手で担うということは、地域外にお金が漏れずに、地域内で循環することを意味します。地域創生の文脈でも「経済の循環が大切だ」とよく言われますが、こうした点からも、阿波地域の取り組みは重要です。
たとえば、ガソリンスタンドを東京に本社がある会社が運営する場合、売上の一部は本社に吸い上げられます。ガソリンスタンドのメンテナンスを行う会社や、会計なども、地元以外で賄われる可能性が高いでしょう。
その点、住民出資の事業の場合、地元に残る売り上げの割合は高くなります。つまり地域からお金が漏れにくい仕組みなのです。メンテナンスや会計などの仕事を地域内の企業で賄うことができれば、さらに地域内でお金が循環していくことになります。また「木の駅プロジェクト」では、今までエネルギー購入のために払っていたお金の一部が地域内に残り、地域の中で使われることになります。これも経済循環を考える上でも、重要な取り組みです。
「住民の手でコミュニティを守る」ことを、合同会社の設立という形で実現した阿波地区の取り組み、いかがだったでしょうか? JFSでは、これからもさまざまな地方の取り組みをご紹介していく予定です。
スタッフライター 新津尚子
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ウェブの記事には写真もたくさんあるので、ぜひご覧下さい!
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035350.html
私は、今年の初めに岡山での仕事の後、阿波地区にも取材にうかがいました。阿波地区の方々のイニシアティブもすばらしいですが、津山市がしっかりした地区の維持のための方針と取り組みをしていることにも感銘を受けました。
広域行政のほうが効率が良いからと、市町村合併が進められましたが、広域行政の中で、いかに、それぞれの町村・地区を支えていくか、しっかりした考えと取り組みのある自治体と、そうでないところの差がどんどん顕在化してきそうです。