幸せ経済社会研究所のインタビューコーナーに、鎌倉投信の新井和宏さんへのインタビューがアップされました!
「いい会社」に投資して後押しをするだけでなく、その運用への評価も高い鎌倉投信、そして新井さんの考え方をじっくりお聞きしました。
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
鎌倉投信株式会社 取締役資産運用部長
新井 和宏
聞き手 枝廣淳子
これからの社会を創る「いい会社」が、投資家から安心して資金調達することができる仕組みとしての投資信託を――1000年続く持続的な社会をはぐくむことを目指す公募投資信託「結い2101」を運用する鎌倉投信株式会社は、投資の果実を「資産形成」×「社会形成」×「こころの形成」と定義されています。社会をつくり、心を養う投資とは、運用とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
「結い2101」の運用責任者として活躍しておられる鎌倉投信株式会社資産運用部長の新井和宏さんに、たっぷりお話を伺いました。
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○お金が直接「いい会社」に届くように
枝廣 15年ほど前に、ある環境金融シンポジウムで「30年間クローズドの未来世代のためのエコファンドを」と提案したことがあります。そのときは「そんなものは成り立たない」とファンドマネージャーの方たちに失笑されてしまったのですが、鎌倉投信ではそれ以上のものをつくってくださった。クローズド(ファンド)・・募集期間があらかじめ定められており、償還期限前の解約が原則として出来ないファンドを指す
新井 僕たちも本当は単位型でクローズドエンドのファンドをつくりたかったんです。しかしそうすると特定のお金を持っている余裕のある人しか参加できない。これから財産を形成する皆さんに参加していただくためにはオープンでなければいけないんですよね。
枝廣 仕組みとしてクローズドでなくても、鎌倉投信の受益者(投資家)の多くはクローズドファンドに投資するのと同じような気持ちで投資されているのだと思いますよ。
新井 おっしゃるとおりです。ですから、株価が上がっても下がっても、お客様はむしろ通常の投資家と逆の行動をされる。具体的に言うと、株価が下がったらたくさん買う。いい会社を応援したいからです。株価が上がったからといって、利益を確定しようと売るわけではない。いい会社を応援しつづけたいからです。そういったお金がどんどんと直接いい会社に届くようになれば、社会は豊かになると思うんです。
枝廣 著書(『投資は「きれいごと」で成功する』ダイヤモンド社)に書いておられますが、もともとは、同じファンドマネージャーであっても、今やっていらっしゃることと真逆のことをしていらした。新井さんにとって何が一番大きな転換点だったのでしょうか。
新井 前の運用会社に勤めていた時にSRI(社会的責任投資・SociallyResponsible Investment)ファンドが登場しはじめて、私自身も運用者として関心を持って見ていました。
でも、その時はうまくいかないと思ったんです。要は、お化粧したい企業がCSRの担当者を置いて、スコアが高くなるようにいろいろなCSR活動をする、ということをやっている。お化粧を見て判断してもしかたない。将来に対して何のメッセージもないわけですから。私たちはその時点で、それではうまくいかないと結論づけた。そして、そうでないものをつくりたいと思ったのが1つの要因です。
もう1つは、自分自身がストレス性の病気になって、もう投資の世界から引退しようと思っていた時に、たまたま法政大学の坂本光司先生のご本(『日本でいちばん大切にしたい会社』あさ出版)に出会ったことです。
こんなすてきな会社があるのに、数字で何が分かるのかと思ったんです。ファンドマネージャーとして、僕はずっと数字を突き詰めて、数字で最大に表せるものを追究していたんですが、そこには本当に限られたものしかなくて、それ以外のもののほうがよっぽど大きいということに気付かされました。
そこで坂本先生にご挨拶させていただいて、それから先生と一緒にいろんないい会社を回らせていただきました。これが大きなきっかけになったことは間違いありません。
○お金で預かって幸せで返す
枝廣 投資先や運用方法を本やウェブで公開されておられますが、他社は追随しない。そのようなビジネスモデルはどのようにつくられたのですか。
新井 そもそも、なぜ運用会社が投資先などを公開しないのか。投資のプロというのは、「手の内を見せずに結果を出す」ということにこだわっています。公開してしまうと自らの存在意義そのものがなくなる可能性があるから、公開しないのです。
僕は病気になったのでプロとしての抵抗感がなかった。業界を去るつもりだったから、自分の技量などはどうでもよかったんです。むしろ、「いい会社を応援する仕組みをつくる」ことを優先したかった。そのためには、いい会社である投資先を知ってもらわなければいけない。
僕にとっては、「いい会社に投資する」ことは投資上の制約条件です。いい会社にはずっと投資しつづけるという制約がある中で最大限のパフォーマンスを出すなんて、普通の人は発想しない。でも僕は割り切ったんです。だからできた。でも、ほかのプロの運用者は割り切れないと思います。
もうひとつ、人はお金をどんなに増やしても幸せにならないということに気付いたんです。僕は外資系企業で働いていて年収がどんどん増えた。でも、幸せにならないんですよ。周りの人たちもみんな幸せそうじゃないんです。お金が増えてもキリがないんです。
投資信託というのは「お金で預かってお金をお返しする」商品です。でも、私たちは「お金で預かって幸せで返す」と決めたんです。
幸せになるための三要件を考えました。1つは、お金は増えなければいけない。もう1つは、でもお金は社会の役に立って、投資先の会社が社会を豊かにしてくれなければいけない。最後の1つは、それによってお客様の心が豊かにならなければいけない。この3つの要件が揃えば、お客様は幸せになれるだろうと考えたわけです。
こんなことを言える人は世の中になかなかいないでしょう。ここが多分、鎌倉投信が特異な運用会社である源泉になっているものではないかと思います。
枝廣 自分のお金をいいことのために使ってもらえたら幸せだ、と思う人は世の中にたくさんいますよね。
新井 たくさんいらっしゃってびっくりします。鎌倉投信はホームページ以外、宣伝広告費を一切計上したことがないんですよ。それにもかかわらず、運用して7年ですが1万6千人の方々に240億円ほどを預けていただいています。日本って素晴らしい国だと思います。
残念なことではあるのですが、僕らにとっての転換点は3.11だったと思います。「自分たち」だけではなく、みな一緒になって生きていかなければいけないんだと国民が気づいた。お客様もその時期あたりから増えてきました。
○自然でシンプルなものは残るけれど、複雑で不自然なものはすべて淘汰される
枝廣 鎌倉投信には、自分の会社にも投資してほしいといったお話が殺到しているのでは?
新井 はい。自分たちが始めた当初に比べて、マイクロファイナンスやクラウドファンディングなど色々な資金調達方法やソーシャルベンチャーの新たな形が出てきています。金融のありようが変わってきている中で、自分たちの立ち位置をいつも見つめ直し、本当に必要とされる金融なのかということを問い続けているつもりです。そうしない限り、時代の変化に対応できない金融機関になってしまいます。
では、自分たちはどういう立ち位置か。私たちは起業したばかりの会社を応援する役目ではないだろうと考えています。ソーシャルベンチャーを育成しようとするファンドや事業体にそこはお任せして、私たち自身は、社会的企業(ソーシャル・ベンチャー)が、「ベンチャーキャピタルによって急成長を求められる」ということにならなくていいように、「いい会社がいい会社のまま成長できる」、そのための「上場の代わりになるようなもの」を提供していくべきであろうと思っています。
枝廣 なるほど、「いい会社がいい会社のまま成長できる」ようにするって、本当に大切ですね。同時に、そういう考えに共感して投資家も増えていますよね。鎌倉投信の成功事例を見て、同じような事業に参入する企業は出てきているのでしょうか。
新井 投資信託で同じような商品が入ってくるかというと、次元がまだ一世代違っているかなと思います。具体的に言うと、今SRIからESG(Environment、Social、Governance:環境、社会、ガバナンス)へという流れがあって、僕らがやっているのはCSV(共通価値の創造・Creating Shared Value)投資であり、インパクト投資を併せ持ったものになっています。僕らはこれをサステナブル投資と言っていますが、まだ時代がそこまでついてきていないと思っています。 ただ、クラウドファンディングといった形ではインパクト投資に近いものがたくさん用意されてきていますし、東京証券取引所の中でも「社会的企業には特別に制度を設けなければいけない」という議論もされてきている。ですから、少しずつ変わりつつあるのかなと思っています。
自分たちが大きくなって社会全体を変えようというつもりはまったくなくて、私自身は「こういうものがあってもいいんじゃない?」という提案をしているつもりです。だから、大きくなることが美徳だとは思っていない。きっかけをつくるだけです。
恐らく、これからもたくさんいろんな取り組みが増えてきて、また少し淘汰されて、そうして社会はよりよいほうへ流れていくんじゃないか。それが自然ではないかなと思います。
私たちは自然なものと不自然なものを明確に分けています。自然なものしか残らないと考えているんです。自然でシンプルなものは残るけれど、複雑で不自然なものはすべて淘汰される。自分の仕事の中でも、いつもそう思っています。ですから事業もシンプルでなければいけないし、いろいろなことをやっている会社は投資先にはならない。複雑な事業はメッセージも届きにくいですから。
○リスクを小さくして日々稼ぐ
枝廣 受益者は財産の形成を期待していて、それに加えて、いい会社に投資をしてくれているはずだという想いがある。新井さんたちがちゃんと投資先の会社を回ってよい社会の形成と財産の形成をつないでくれている、ということへの大きな信頼がありますよね。その責任からくるプレッシャーは大きいと思いますが、どうマネジメントされていますか。
新井 資産形成といったときに私たちがまずお客様に言うのは、5%の期待リターンなんですね。これには根拠があって、実は日本の企業は、「失われた20年」と言われるその期間にも5%程度は成長しているんです。ですから、長期的には5%のリターンは可能だと考えています。
ただ、皆それがわかっているのになぜできないかというと、そもそも企業はそれだけ成長するのだから、株式市場でリスクを取るのであればそれ以上のリターンがあるべきと思っているからです。ですから10%、20%と言い始めるんです。
それに対して、市場の期待は操作できませんから、あくまでも企業が稼ぐ分だけきちんとリターンが出るように運用すればいい、と僕は考えています。
実は、投資先は変えず、取引は毎日行っています。株価が上がれば売り、下がれば買います。いま1社当たり3億円の投資をしているのですが、株価が下がって2億9千万になったとします。そうしたら買い足して3億にするんです。株価が上がって3億1千万になったら、1千万分を売る。それをずっとやっているんです。そうすると短期的に負けにくい。つまり市場が大きく動いていたとしても、リスクを小さくして日々稼いでいるので、結果はおのずとついてくる。
でも、普通の運用会社はそれをしたくないんですね。なぜかと言うと、自分が選んでいる銘柄だからもっと上がるだろうと思う。だから、ちょっと上がっただけでは売るわけがない。逆に下がったら、損切りだ、全部売ってしまえ、となるので、リスクが大きくなるんです。
日本のお客様はリスク商品に慣れていないんですよ。そもそも日本の多くの金融商品が、元本保証が基本になっているから、怖いんです。怖がっている人がそんなことをやったら大変なことになってしまう。
でも、運用会社はそうせざるを得ない。その理由は、高い報酬をとりたいからです。私たちは最初から「高い報酬はいらない」と言っています。ですから、低いリスクで、相対的には低いリターンだけれども、報酬も業界標準より低くていいから成り立つんです。
もう1つは、社会というテーマでやっていることです。たとえば、私たちが儲けだけを考える投資をやれば、当然ながら期待リターンも高くなるでしょう。それをやらないわけですから、大きいリターンは得られないと心の中で思っている。リターンでは1位は取れない。ただ、その分リスクは小さくできるから、それで勝負をしていこうと考えています。
○投資先のファンになる
新井 投資先であるいい会社を一覧にして公開しています。また、運用報告としてお客様に投資先を実際に見ていただいています。投資先の現地にお客様をお連れすることによって、「お金じゃないよな。この会社を支えなきゃ駄目だよな」と思ってもらう機会をどれだけ増やせるかが大事だと思っています。いい会社とはどういう会社か、「新井が言っているから」ではなくリアルに見ていただく。今はほぼ毎月のように行っています。
私たちがやっている活動は、「投資先のファンになりましょう」ということ。なので、お金も出します、消費者にもなります、実際お客様に見ていただいて、触れていただいて、駄目なところがあれば言っていただく。
駄目なことに関しては、当然その投資先に伝えます。その対応を見て、いい会社かどうか、投資を継続するかどうかを判断します。「一部のお客さんが言っているだけでしょう」とクレームを宝にできない会社は、"その程度の会社"ということになります。
投資先を公開することによって、自分一人では目が届かないところを、今、(受益者)1万6千人の目で、いい会社かどうか見てくれているんです。僕らが「いい会社」と言い切ってしまったので、悪いところがあればあがってきます。「いい会社と言っているのに、こんなことをしています。いいんですか」と。その点を会社さんに伝えています。いい仕組みでしょう?
○ご縁を大事にする
枝廣 つながりを大事にしているのですね。私はデニス・メドウズという先生からシステム思考を学んで、何とかそれを日本に伝えたいとずっと活動をしています。システム思考も、つながりをたどって全体を繋いでいくという考え方です。
新井 「分断して効率を上げていく、というやり方は違う」と思ったのは、実際に会社を見るようになってからです。いい会社もそうですし、人間もそうですけれども、つながりを大事にする。ご縁を大事にする。
効率とは追うものではなく、「結果的に効率的である」ということなんです。無駄を排除しようとすること自体が価格競争に陥ってしまう根源になっている。企業は人でつくられているので、人間そのものです。人には個性があったほうがいいに決まっています。会社も個性があったほうがいいんです。得意なものもあれば、不得意なものもある。完ぺきである必要性はまったくないのに完ぺきを求めようとするのは、おかしいと思っています。
無駄もあり、失敗もあり、いろいろなことがあるけれど、目指すべきところがちゃんとしているというほうがとても大切で、魅力的で、人間らしいことです。機械に置き換えられないこと、価格競争に巻き込まれないことにもつながります。
投資先とのつながりも、お客様とのつながりも、すごく古くさいものにしたい。要は、昔あった金融を新しい形で取り戻したいだけなんです。信頼、そして共感というものでつながっていて、何だか数値化できないけれど心地いいという......。それが成立するということを証明したい、もう一度見直してつながりをつくりたいというのは、鎌倉投信の根底にある。経営理念そのものが3つの「わ」ですから、つながって、広がっていく、ということをしていきたい。
※3つの「わ」・・・日本の心を伝える「和」、心温まる言葉を大切にする「話」、社会や人とのつながりを表す「輪」。
枝廣 効率を測るときの時間軸をどう考えるかも大事ですよね。受益者を投資先に連れていくということは普通の金融機関はやらない。でもそれをやり、ニュースレターを出すからこそ、1万6千人からフィードバックがある。実はすごく効率のいい仕組みですね。
新井 そうです。はたから見るとすごく非効率に見えますが。僕たちはそういう輪をひろげて行きたい。つまり企業と投資家が一緒になって歩んでいく、そして企業と企業が協力をして歩んでいく。そういう構図をつくりたいと思っています。
たとえば、地域の会社が多ければ多いほど、地域へ受益者が出かけてくれます。それだけで大きな消費になります。団体さんが観光バスで、泊まりがけでやってくる。宿がいっぱいになるわけです。投資先の大企業とソーシャルベンチャーが一緒になって動いてくれれば、大企業の社会価値も上がるし、ベンチャーも生きていけるようになるわけです。
昔の金融機関は、「こういう社会にしたい」という世界観、社会観にお金を投じて、それによってより早くよりよい社会に近づける、ということをやっていたはず。それが今、短期的な利益というものがすべてになってしまって、長期的な思考が全部失われてしまったんです。
枝廣 日本はどこで長期的な思考を失ったのでしょう。
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