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バランスを欠いた第3回エネルギー情勢懇談会、このあとは?

2018年01月10日
バランスを欠いた第3回エネルギー情勢懇談会、このあとは?

11月13日に開催された第3回のエネルギー情勢懇談会のテーマは「地球温暖化対策とエネルギー政策について」。今回は、ゲスト・スピーカーのおひとりが体調不良で参加できなかったこともあり、人選も内容も、原発推進に偏った、バランスを欠いたものになってしまいました。

どんな内容だったか、お読み下さい。

エネルギー情勢懇談会レポ!に第3回の【エダヒロの振り返り】印象に残った発言と考えたこと(その1)をアップしました。
https://www.es-inc.jp/energysituation/report/2018/009330.html

<第3回の学びをひと言で言うと>

11月13日、第3回のエネルギー情勢懇談会のテーマは、「地球温暖化対策とエネルギー政策について」。今回は、3人お招きしたゲスト・スピーカーのおひとりが体調不良で参加できなかったこともあり、人選も内容も、原発推進に偏った、バランスを欠いたものになってしまいました。

私はふだんあまり激高しないタイプですが、今回はさすがに腹に据えかねて、その思いを口にしました(もっと激しく抗議すべきだった、という声もありましたが......、のれんに腕押しでした)。

残りの回で、このバランスの偏りを少しでも改善していただきたいと願っています。あと、もう2ヶ月になろうというのに、まだ議事録がアップされていませんので、それもぜひ早く、と思います。

ゲスト・スピーカーは、以下のお二人でした。

・マイケル・シェレンバーガー氏(米国のエネルギー環境団体エンバイロメンタル・プログレス代表)

・ジム・スキー氏(英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授、イギリス政府に対して2050年までの長期地球温暖化対策の枠組みを提言する気候変動委員会の委員、IPCC議長)

当初はもうお一方、クラウディア・ケンフェルト氏(ドイツの環境経済学者)も参加される予定だったのが、体調不良により不参加でした。

議事録はまだアップされておらず、議事要旨のみ、こちらにあります。

配付資料はこちらにあります。

事務局がゲストに依頼した質問事項は、「国際的な温暖化対策の長期方針」「再エネ」「原子力」「電化の進展と低炭素技術の可能性」についてでした。(詳細はこちらにあります)

説明資料を準備してきてくれたゲスト・スピーカーが説明をし、私たちとの質疑応答、という流れでした。

会合の動画はこちらからごらんいただけます。

(最初からお二人のプレゼンテーションまで)
https://www.youtube.com/watch?v=vCPH64V3bZk&feature=youtu.be
(自由討議)
https://www.youtube.com/watch?v=OdRTZBP29jg&feature=youtu.be

マイケル・シェレンバーガー氏は、長年の環境活動家ですが、「温暖化への解決策は原発しかない!」というスタンスで、「パンドラの約束」という映画でも大変話題になった方でもあります。

以下に、氏の発言の一部を紹介しますが、粗っぽい言い方をすると、「石炭火力による大気汚染では700万人が死んでいるが、原発事故で死んだ人はほとんどいない。原発は最も信頼性があり、安全な発電手段であるから推進すべきである」というお考えのようです。

そのようなスタンスの論者がトップバッターだっただけに、バランスをとることを期待していたドイツのゲストが参加できなかったことが返す返すも残念でした。

マイケル・シェレンバーガー氏はご自身のプレゼンで「日立のAWRなど日本の設計は非常に優れている」と発言され、直接それに応えたわけではないと思いますが、委員のおひとりである日立の中西会長は、ご発言の冒頭に「今日のゲストのお二人のご意見には、私はほぼ全面的に賛成です」と発言されました。全体として、原発推進に偏ったバランスの悪い回だった、というのが私の感想です。

議事録がアップされたらぜひ氏の発言をお読みいただければと思いますが、まだアップされていないので、私のメモと動画から、私が看過できないと思った氏の発言の一部をお伝えします。

氏の説明資料はこちらにあります。日本語の仮訳もあるのでご覧下さい。ぱらぱらめくっていただくと、氏の主張はおわかりになると思います。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/003/

まずは冒頭の発言です。

~~~~~~~~~~ここから抜粋引用~~~~~~~~~~~~

温暖化対策には、原子力発電以外の代替策はない。ジオエンジニアリング、CCS、再生可能エネルギーなどの代替策では無理。

自分も、2003年頃までは、再エネが解決策だと考えており、オバマ大統領の政治チームに対して、再エネに多額の投資を行うようにとロビー活動もしていた。しかし、2005年ごろに、「パンドラの約束」にも出ているスチュアート・ブランドという友人の「温暖化対策として、もっと原子力発電が必要だ」というエッセイを読んで、意見を変えた。

原子力発電は、炭素排出がとても少ない。IPCCによると、原子力の炭素排出量はソーラーの4分の1。スチュアートは、「原発は、クリーンエネルギーの一大ソースである。そして、再エネは40年間にわたって努力がなされているが、それでも、電力の発電量はわずかである」と指摘している。

原子力についてこのように考え始めたころに、福島の事故が起こった。しかし、事故の1カ月後ぐらいに、放射線科学者などの話を聞いたところ、「有害なレベルの放射線の暴露はない」ことがわかってきた。イギリスのジョージ・モンビオも福島事故の1カ月後に、「反原発運動は、人間の健康に対する放射線の影響に対して誤解をしている」と書いており、傑出したコラムだった。ほかにも、インペリアル・カレッジのジェラルディン・トーマス博士なども、「健康への大きな影響はない」と言っていた。

私は、福島事故によって、拡大すべき原発が減っていることに危機感を感じ、発言しなければならないと感じた。つまり、原発が止まっている結果、日本では、石炭などのより汚れた発電が増えている。経済にも大きな影響が出ており、貿易収支も黒字から赤字になっている。

私たちは、ある分析を行い、ニューヨーク・タイムズで取り上げられた。ローカーボンに対する投資の2つの時期を比べる分析である。まず、1962年から2016年までの56年間に、官民ともに2兆ドル近く原子力投資している。その後、10年ぐらいで同じくらいの金額を風力・太陽光に投資をしている。こういった投資の結果、炭素原単位にどのような影響があったのかを調べた結果、68カ国について1965年以降の分析をしたが、太陽光・風力の増加と炭素原単位との相関関係は見つけられなかった。

その理由は、太陽光・風力だけでは十分な電力を発電することができていない、脱炭素化を進めていくことができるだけの十分な発電量になっていないため。多額の投資にもかかわらず、発電量にも炭素原単位の低減にもつながっていない。

ドイツは、再エネの世界的なリーダーと言われており、2000年以降2,200億ドルを再エネに投資している。ドイツの電力料金は、過去10年間で50%も上昇し、石炭の比率は40%にとどまっている。原子力は13%。ドイツの電気料金はフランスの2倍。しかし、フランスのほうが2倍クリーンエネルギーが多い。国全体で多額の投資を再生可能エネルギーに行ってきたにもかかわらず、ドイツはそれほど変わっていない。ドイツの排出量は2009年から増えている。ドイツのシンクタンクの2日前の発表によると、排出量は今年も上昇するとのこと。2018年も増加するだろう、原子力のフェーズアウトを提案しているからだ。

ドイツでは、昨年、太陽光発電を増強したが、発電量は3%減少した。日照量が少なかったからだ。再エネ推進者は、「日照量が少ないときには風量が多いので、風力発電がふえるはずだ」と言うが、ドイツは風力発電の設備容量は11%増強しても、発電量は2%減少だった。風量が少なかったからだ。

~~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~~~~

このあとは、このように、再エネやCCS、ジオエンジニアリングがなぜ代替策にならないかの分析を説明しています。そのあとに、問題の発言箇所です。

~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~

チェルノブイリや福島に関する事実を見せると、多くの人が非常に驚く。「チェルノブイリ原発事故で亡くなったのは200人に達していない」ということに驚く人が多い。

同じように、福島原発事故に関しても、ほとんどの死亡はパニックや避難によるもの。

チェルノブイリの追加的な放射線のリスクは驚くような数字で、大都市に住んでいる人のほうが死亡率が高いことがわかる。消防士としてチェルノブイリの対応に当たっていた人たちにどれぐらいの被爆の影響があるかもわかっていない。

一方、化石燃料やまたバイオマスを燃焼することによる大気汚染で、毎年700万人が死亡している。英国のランセット誌でも「原子力発電は、化石燃料の代替となることで、約200万人の命を救ってきた」という論文がある。ドイツだけを見ても、WWFによると、ヨーロッパにおける石炭公害によって約2,490人の人たちが早死にしている。

こういった結果を見ると、原子力が最も信頼性があり、電気を生み出す安全な手段であるということがわかる。

(後略)

~~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~~~~

こちらにある氏の説明資料の分割版の35~39ページをご覧下さい。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/003/pdf/003_005_15.pdf

チェルノブイリ
- 28人が急性放射線症候群で死亡 
- 15人が25年で甲状腺がんで死亡 
- 甲状腺がんでの死亡率は全体の1%と予測 
- 16,000人を超える甲状腺がん患者が見込まれるうち、死亡者は160人 
- 生殖能力、奇形児率、乳児死亡率への影響はない 
- 有害な妊娠や出産について、結論は出ていない 
- 遺伝的影響は見られず、当時の線量では考えにくい 
- 事故処理作業員を含め、他のどのようながんの増加も証明されていない

福島
- 放射線による死者はなし 
- パニックや避難、ストレスから1500人以上が死亡 
- 津波によって15,000人以上が死亡 
- 甲状腺がんの増加は全く見込まれない模様 
- 有害な妊娠影響もなし

39ページでは、石炭・石油・バイオマス・天然ガス・原子力の「1TWhあたりの事故による死者数」「大気汚染による死者数」を比べるグラフを載せて、「原子力は既に、信頼性ある電気を生み出す最も安全な手段である」と結論づけています。

そして、結びの言葉は、「最後にお伝えしたいのは、原子力のみが、私たちが気にかけている目標を達成することができるということをお伝えしたい。原発だけが環境保護に貢献しつつ、世界平和をもたらしながら全人類を貧困から脱却させることができる」。

このあと、もうお一方のゲストであるジム・スキー氏のプレゼンテーションがあって、質疑応答となりました。私はまっさきに発言させてもらいました。私の質問と、それに対するマイケル・シェレンバーガー氏の応答をご覧下さい。

~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~

▼枝廣委員 マイケルさんに3つ質問をさせてください。

最初が、原子力発電のリスクに関してですが、大きく「事故のリスク」と、「核廃棄物の処理の方法や場所が決まっていない」という2つのリスクがあると認識しています。

事故に関しては、先ほど、「事故は起こるものだ。しかし、福島で、それで直接的に亡くなった人はいない」と、いろいろデータを示して話されました。一人の日本人としてお伝えさせてください。その発言は、多くの日本の人、特に福島の人々は神経を逆なでされたと感じる話だったということです。

その上で、お話になかった核廃棄物の処理について質問です。その方法がまだ決まっていない、貯蔵するだけです。そして、その場所についても、日本は地震国なので、埋めること自体が本当に安全なのか。原子力発電を続けていくと出てくる核廃棄物について、どのようにお考えかというのが1点目の質問です。

2つ目は、マイケルさんご自身の描いていらっしゃるビジョンをお聞きしたいと思います。「再エネはだめです」という話だったと思うのですが、世界中のエネルギーがどの国でも原発でつくられている、そういった世界をイメージされているのでしょうか? 国によっていろいろな事情が違うと思いますが、原発を推進されている立場として、世界のエネルギー、そして、特に日本のエネルギーに対して、どういうビジョンを持っていらっしゃるかを教えてください。

3番目は、エネルギーには、単に「効率」とか「ROI」よりも大事なものがあると私は思っています。

特に日本では、これから人口が大いに減っていく、特に地域では人が住まない場所も出てくる可能性がある。そういった社会の中で、人々が地域に住み続けることができる、そういった社会や経済をつくっていく必要があると思っています。

そのときに大規模に中央で発電して、それを津々浦々配るという原子力発電の考え方ではなくて、それぞれの地域にあるエネルギー資源を生かして、それぞれの地域がエネルギーをつくり、消費していく。2050年は私はそういう国であってほしいと思っているのですが、そういった私の世界観に対して、原子力を推進されている立場でどのようにお考えでしょうか。以上、3点教えてください。

▼マイケル・シェレンバーガー氏

ご質問どうもありがとうございました。

過去のエネルギーの転換について振り返ってみることが役に立つと思います。というのは、パターンがあるからです。最初の大きなエネルギー転換は、「木材や動物のふんから石炭へ」の転換です。それから、「石炭から石油へ」が二つ目の転換でした。

チャーチル首相が第一次大戦か第一次大戦前に、イギリス海軍を石炭から石油に切りかえました。石油のほうがエネルギー密度が高いので、船舶の速度もパワーも大きくなり、推進力が大きくなるからです。次のエネルギー転換が「石炭から天然ガスへ」。これもエネルギー密度が高まっている。そして、最後のエネルギー転換が「ウランへ」です。これが最もエネルギー密度の高い燃料なのです。まず、このような500年ぐらい続いているエネルギー転換のパターンが逆行するか、それとも続いていくのかです。

1人当たりのエネルギー消費量は増えてきましたが、それと同時に脱炭素化も進めていくことになります。環境影響は低くなっていく。森林なども切らずに、石炭は地下に埋まったままにしておく。そして、それでもより多くのエネルギーを使うことになる。これはQOLも高まるということにもつながります。

社会として我々はどのように進んでいくのか? エネルギー密度が低い再エネに進むとすると、これまでのパターンに逆行することになる。人類が、エネルギー密度の低い燃料に移っていくとは考えにくい。そうなった場合、環境に悪影響があります。

例えば、ドイツが原子力から石炭に移行した場合にも悪影響があった。日本の場合も、早死にするリスクは、原子力よりも化石燃料にシフトしたほうが大きいのです。福島事故によるものよりも大きい。

それから、原子力の廃棄物というのは、非常に量が小さい。そして、安全に格納することができる。地震があった場合にも、先ほどの資料にあったキャニスターが倒れて割れたとしても、液体はないので漏れることはありません。

しかしながら、化石燃料、それからバイオマスによって、毎年700万人が死んでいるのです。これは景観もだめにしてしまいます。石炭の炭鉱によって景観がだめになっているというのは、ごらんになったことはあるでしょう。

また、人類のフットプリントが非常に大きくなってしまう。ウランや化石燃料に比べると、再生可能エネルギーのフットプリントは大幅に拡大してしまいます。

人生とはお金だけでない、効率だけではないと私も思います。しかし、こういった燃料の物理学から明確にわかることは、密度が低い燃料は、環境に大きな影響を及ぼすということです。物理法則からそうなってしまうのです。

ソーラーパネルを屋根につければいいではないかとおっしゃるかもしれません。それには、セメントや鉄鋼、ガラスなど、膨大な材料が必要になります。

E=mc2というアインシュタインの公式があります。エネルギーの密度が高い燃料を使うことは、使用する自然の資源をより少なくするということです。地球をより少なく使って、エネルギーを同じ、あるいはもっと大きく引き出すことができるのです。

世界で自動走行車が出てくる。そうなると、乗客当たりの航続距離も増えるでしょう。水素のジェット機なども出てくるでしょう。ボーイングも、水素燃料を使ったジェットなどを実験している。オーストラリアからニューヨークまで一気に2時間で飛ぶことができるかもしれません、18時間ではなくて。そうすると、エネルギーを大量に使う世界になっていく。

分散化された生活を送るのもいいと思いますが、それにはかなりのエネルギーの量が必要になる。都市部から田舎まで行き来するのに、かなりのエネルギーを消費しているからです。高エネルギー消費の都市生活、そして、週末には田舎で低エネルギー生活をすることができる。でも、それを両立させるためにもかなりのエネルギーが必要なのです。

~~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~~~~

福島の原発事故の被害者や被災者に対する共感はみじんも示されず、また、私の質問にもほとんど答えていただけなかった気がします。

「マイケル・シュレンバーガーさんとはちょっと違うお話をしたいと思います」と前置きして、2人目のゲスト・スピーカーとしてお話しされたジム・スキーさんのプレゼンテーションの内容は、英国の温暖化・エネルギーへの取り組み、その効果および課題もわかりやすく伝えてくれるものでした。別途、お伝えしたいと思います。

この回が終わった後、傍聴席にいた顔見知りの記者さんたちから、「あれはひどかったですね! この人選、あまりに偏っていませんか」と声を掛けられました。知り合いのNGO関係者からは、「エダヒロさんだけだったけど、ひと言でも言ってくれてよかった」と。

私は事務局との事前打ち合わせもしているので、今回はバランスを考えて、米国のこの方と、英国のジム・スキー氏、そして、原発撤退を決めたドイツの方と、3人をゲストに迎える予定であったこと、エネ庁が恣意的に偏った内容にしようとしていたわけではないことはわかっています。

しかし、実際には、ドイツの方が欠席となってしまったので、そのままでは、やはりバランスを欠いている、恣意的ではないか、と言われてもしかたないでしょう。

ドイツの方には別の回でぜひ話を聞きたいです、と事務局の方ともお話をしました。実現していただけることを待っています。

 

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