日本の環境への取り組みを世界に発信しようと、ジャパン・フォー・サステナビリtェイ(JFS)を立ち上げてから16年間、本当に多くのボランティアの方々、個人サポーター、そして、法人会員のみなさんに支えられて、日本からの情報発信を続けてきました。この7月31日をもって、JFSの活動を休止いたしました。立ち上げの経緯、そして休止を決めた背景などをお伝えします。
16年前の2002年の夏、このメールニュースの754号 (2002.08.28)にこのように書きました。
~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[No.68]で、2000年1月22日に、ワールドウォッチ研究所で開催された会合に参加したときに考えたことを書きました。
~~~~~~~~~~~~~
いまの日本がカンペキからほど遠いのは事実ですし、あちこちで問題を抱えているのも事実ですが、ここ数年の産官学民の取り組みや考え方がいま大きなうねりとなって、ある部分合流しつつ盛り上がってきているように私には思えて(楽観的すぎるでしょうか?)、日本が世界をリードしていく任を負っているのではないかとすら思えるのです。
他の分野と同じく、環境でも日本は「欧米に学ぼう」という志向が強く、それはそれで正しいのですが、そろそろ日本からもっと発信していく、やっていること、考えていることを伝えて、刺激にしてもらう、学んでもらう時期が来ているのかもしれないな、と。
別に高い所から「教えてやる」必要はありませんが、あまりに日本についての情報が欠けていることを、ふたたび痛感して帰ってきました。
NGOや市民のレベルで、気楽に「日本ではこんな感じなのよー」「いまエコファンドが(ポケモン以外に ^^;) 流行っているのよー」なんて情報がもうちょっと行き来すれば、欧米でも役立ててくれる人はきっとたくさんいるように思います。
これまで英語教育は「必要に迫られれば誰だってやるようになる、できるようになるのだから」と思っていましたが、必要に迫られるのは「情報を取る」時だから、「情報を出す」ことを考えると、日本の英語教育もやっぱりもうちょっとしっかりしてもらう仕組みにしなくちゃいけないな、と考えを改めました。
嬉しいことに、日本でも最近は、政府でも企業でも各種団体でも、英語の情報を用意することが増えています。それをもっと有効に活用してもらうためには、そういう情報を(もしくは情報の存在を)教えてあげる仕組みを作ればいいんじゃない、と思いました。
・・・ということで(もうおわかりの方もいらっしゃるかな ^^;)、[Enviro-Info from Japan] を立ち上げようかな、と帰りの機中、思いました。
基本的に英語になっている日本発の情報を、関心のある英語の読める方々にお配りする、という、「縦のものを横にする」だけのサービスを考えています。自分で書き始めたら、今後こそ本当に通訳を廃業しなければならない(^^;)
~~~~~~~~~~~~
このときは、廃業の憂き目にはあうことはなく(?)、でも、「そういうの、必要なんだよなぁ~」とずっと思い続けていました。
そして、1年後。2001年の1月。舞台はふたたび、ワールドウォッチ研究所の会合。この年次会合で、「日本の取り組みについて発表したいので5分ちょうだい」と時間をもらったのでした。話させてもらった内容は、[No. 379] にあります。
5分を過ぎてしまいましたが(^^;)、思ったような発表ができ、嬉しく思いました。休憩時間に、何人もの参加者が「よかったよ」「日本でそんなにいろいろと進んでいるとは知らなかった」など声をかけてくれました。
「僕もMLを持っています。お互いに紹介し合いませんか?」といってくれた男性の顔を見て、何だか見覚えがあるなぁ、と思ったら、『奪われし未来』を書かれたピーター・マイヤース氏でした(通訳をさせてもらったことがあります)。
・・・という、2年半越しの思いがやっと実りました。ここしばらく、身も心も注いできた(?)新しい活動がやっと立ち上がり、昨日、日本記者クラブで、設立発表の記者会見を行いました。
日本の環境情報を英語で世界に発信するための非営利コミュニケーション・プラットフォーム、Japan for Sustainability です。
少なくとも「日本が進んでいるとは知らなかった」なんてもういわせないゾ!(^^;)
~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
そうして、16年間、本当に多くのボランティアの方々、個人サポーター、そして、法人会員のみなさんに支えられて、日本からの情報発信を続けてきました。
今日発行のJFSニュースレターに私の書いた記事をお届けします。
~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
JFSを代表してお礼のひと言
16年前の2002年、みなさんはどこで何をされていたでしょうか?
2002年、どんどんと悪化する地球環境問題を何とかしたい、日本の取り組みや考え方、技術を発信することで世界に役立ちたい、日本の取り組みをさらにプッシュしたいという大きな志から、JFSが誕生しました。
せっかくよい取り組みや技術があるのに、言葉の壁のせいで、世界に伝わっていないのはもったいないと思ったのです。「がんばっている日本を世界はまだ知らない!」が私たちのキャッチフレーズでした。
以来、80社もの企業・団体に法人会員として資金的な支援をいただき、延べ約900人のボランティアの方々の力を借りて、この16年間に5,054本の記事(うち、ニュースレター記事560本)を、191カ国の11,000人を超える読者の方々に発信してきました。
これがJFSからの最後のニュースレターとなります。
JFSの16年間の活動をさまざまな形で支えてくださったみなさまに心からの感謝をお伝えしたいと思います。
7月末での活動休止のお知らせに、世界のあちこちからも「残念です」「これまでありがとう!」という声が届いています。私たちの発信する情報をしっかりと受けとめ、役立ててくれた方々が確実にいることの重みと感謝の気持ちを改めてかみしめています。
16年間を振り返ると、あっという間だったなあと思います。
この間、温暖化をはじめとする地球環境問題は悪化の一途をたどっており、海洋プラスチック汚染などの新たな問題(問題自体はJFS設立当初からすでに存在していましたので、「新たな注目」と言うべきですね)が出てきています。他方、再生可能エネルギーは頼もしく急増しており、石炭火力発電やガソリン車からの脱却も世界の大きな動向となってきました。
かつては、環境問題は、「環境分野の研究者や行政担当者、環境NGOが社会の少数派としてがんばっている」分野でしたが、今では、あらゆる業種の企業、投資家、学校、若者たちが取り組むものになってきました。
同時に、狭義の「環境」問題から、社会面や経済面も含めた持続可能性(サステナビリティ)、CSR(企業の社会的責任)、SDGs(国連持続可能な開発目標)へと、取り組み範囲も広がってきました。環境問題は「環境」だけに取り組んでいても解決できないことが明らかになってきたからです。
「がんばっている日本を世界に知ってもらうことで、世界をプッシュしよう!」という私たちの志にも関わらず(もしくは、そのおかげで?)、今では途上国を含め、世界の国々の持続可能性への取り組みはどんどん進んでおり、日本が置いていかれている残念な分野も少なくありません。
私たちは「がんばっている世界を日本はまだ知らない!」というスローガンで、日本の取り組みをプッシュすることにも力を入れなくてはならないと思っています。
同時に、まだまだ「世界の中での課題先進国」「東洋と西洋の間に位置する国」としての日本の果たせる・果たすべき役割があると信じています。
急速な人口減少・高齢化の中で、どのように「持続可能で幸せな社会」をつくっていくのか?
現状、不均衡な都市と地方の位置づけや役割分担・連携をどのように考え、進めていくのか?
地球の扶養力を大きく超えているにも関わらず、いまだに成長を求めつづけている経済のあり方をどのように考えていけばよいのか?
本当の幸せとは何か、そのためには何があればよいのか?
多くの人が近代西洋文明の行き詰まりを指摘する中、東洋の知恵をどのように世界に伝え、ともに新しい価値観やパラダイムを形成していけばよいのか?
JFSが活動を休止しても、持続可能で幸せな社会をつくるための私たちの活動は休むことなく続けていきます。私、枝廣が所長を務める幸せ経済社会研究所では、このような面での日本の取り組みや東洋思想の知恵などを、少しずつですが、世界に向けて発信していきます。8月より、月次のニュースレターを発行する予定ですので、ご関心のある方は、こちらより登録してください。(英語のみ)
https://www.ishes.org/en/newsletter/index.html
最後に、先日、JFSの活動を支えてきてくれたボランティア、個人サポーターの方々との「感謝の会」を開催しました。40人ほど集まってくれた中に、森林保全などの環境保護を志す大学2年生の学生さんがいました。
16年間のJFSの活動を振り返る中で、子ども向けの情報発信ウェブサイトの活動も行っていた、と話したところ、その学生さんが「小学校の頃に、このサイトを見ていました!それもあって環境への関心を深め、今の勉強分野につながったのです」と言ってくれたのです。
また、JFSでのボランティア活動がきっかけとなって、地元でトランジションタウン運動や農業を始めたのです、と言ってくれる方もいて、うれしく思いました。
ウェブでの情報発信は果たして届いているのかも見えず手応えが得にくいのですが、私たちの活動が、こうして関心ある次世代や地域での取り組みを生み出すことにも少しでも寄与できたのだとしたら、これ以上うれしいことはありません。
これからもあちこちでお世話になることと思います。ご一緒させていただける機会があることを楽しみにしております。
これまでのすべてに、本当にありがとうございました。
そして、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
枝廣淳子
~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~
JFSの情報発信活動は今日をもって休止となりますが、これまでの膨大な記事データベースは、内外の研究者等の要望も多く、少なくとも3年間はこのままアクセスできる状態にしておきます。
https://www.japanfs.org/ (英語)
https://www.japanfs.org/ja/ (日本語)
新たな情報の追加はありませんが、お役に立つことがあればお使いください。
16年間を振り返ると本当に感無量です。
支えてきてくれた歴代の事務局メンバー、ボランティアさん、個人サポーター、法人会員のみなさん、そして世界中でJFSの情報を読み、活用してきてくれた方々に、心から感謝しています。ありがとうございました。
なお、この「Enviro-News」はこれからも続けますので、ひきつづき、どうぞよろしくお願いします。