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食用豚の多くはどう飼われているか~耕作放棄地で豚を放牧する取り組み

2019年01月20日
食用豚の多くはどう飼われているか~耕作放棄地で豚を放牧する取り組み

昨年『アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全』という岩波ブックレットを出しました。私たちにお肉や卵、牛乳を提供してくれている鶏、豚、牛たちがどのように飼われているのか、日本と世界の現状と動向をレポートしています。東京五輪・パラリンピックに向けて、日本のアニマルウェルフェアの水準をもっと高めていく必要があります。このブックレットから、豚の飼育についての箇所を少し紹介しましょう。

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二〇一七年二月一日現在の畜産統計によると、日本で飼養されている豚は約九三四万六〇〇〇頭で、そのうち、肉豚として販売することを目的として飼育している肥育豚が約七七九万七〇〇〇頭、子豚を生産することを目的として飼育しているメス豚が約八三万九〇〇〇頭である。

これらの母豚たちの多くは、「方向転換も横を向くこともできない」環境で、一生のほとんどの期間を過ごす。六〇~七〇cm×二~二・一mという、自分の体とほぼ同じ大きさの鉄の檻(「妊娠ストール」とよばれる)に入れられている。

目の前に餌槽と飲水器が備えられ、後ろ半分の床はスノコ構造で、排泄をそこで行わせるために、体の向きが変えられないように幅が狭められている。

妊娠ストールは、母豚の管理(受胎・流産の確認・給餌制限、糞尿処理など)が容易であるという、人間にとっての利便性と効率性から使用されているが、母豚にとっては、方向転換どころか首も左右に四五度程度しか向けられず、食事もトイレも就寝も同じ場所で、ひたすら立っているか座っているしかない最悪の環境である。

畜産技術協会が全国の豚飼養農家(一〇〇〇軒)を対象に行った「豚の飼養実態アンケート調査報告書」(二〇一五年三月)によると、回答した農家の八八・六%がストールを使用している。

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そういう現実を知らなかった!という方も多いのではないでしょうか? では世界では?

「食用豚の飼養に関する世界の動向を見てみよう。豚の妊娠ストールに関しては、EUやスイス、米国の一〇州、ニュージーランドやオーストラリア、カナダなどで禁止されている」(同ブックレットより)。

日本でもそういう方向に向かってほしいと強く願っています。

そして、まだ少数ですが、日本でも妊娠ストールなど使わず、豚本来の生き方ができるような環境で豚を育てているところもあります。このブックレットを一緒に作ってくれた幸せ経済社会研究所の新津研究員が実際に見学・取材して書いてくれた素敵な取り組みを紹介します。

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「耕作放棄地で豚を放牧する」取り組みを紹介しましょう。豚には鼻で土を掘り起こす習性があります。雑食なので、土の中の昆虫はもちろん、草や根も食べます。つまり、耕作放棄地で豚を放牧すると、除草剤やトラクターを使わなくても、草むしりをして、開墾までしてくれるのです!

現場を是非拝見したいと、9月の上旬、福島県喜多方市山都町で、有機農業に取り組む長谷川浩さんのところへ、見学に伺いました。長谷川さんが豚の放牧を始めたのは昨年から。昨年は、ご自宅の敷地での放牧だったそうですが、今年は2アールの耕作放棄地に、時期をずらして計4頭の豚を放牧しています(私が訪れたときには3頭いました)。

豚たちは好奇心旺盛、鼻で地面を掘りながらも、丸いしっぽをくるくると振って、こちらへ近づいてきます。そして、しばらくすると、元気に追いかけっこをはじめ、草むらの中に姿を消していきました。普段は、寝たり、食べたりしている時間が長く、遊ぶ光景を見ることはあまりないそうですが、この日は久しぶりのお天気だったので、特別だったのかもしれません。

草むらに走り去る豚たちを眺めながら、結構な面積にまだ草がはえているなあと思っていると、「いやあ、2アールだったら大丈夫だと思ったんだけど、ちょっと広すぎちゃって」と長谷川さん。この土地が畑に戻るのは、残念ながら、来年までお預けです。耕作地に戻った後は、ヒマワリ、大麦・小麦、水稲、ソバ、大豆などを輪作し、牧歌的な景観をつくっていく予定だそうです。

豚の餌としては、土中のミミズや草の他に、くず米、古糠、くず豆を与えているそうです。敷地には電柵(電源はソーラー発電)がはられていて、敷地外には脱走できない仕組みです。豚を飼うこと自体は、餌をあげればよいだけなので難しくなく、子豚の入手そして、と畜場と販路の確保ができれば、誰でも飼育可能だろうとのことでした。この点で、Iターンや、高齢の方にも向いています。また、この地域は雪深いため、豚を放牧できるのは、春から年末までです。

アニマルウェルフェアという点では、鶏も放牧することもできますが、鶏は天敵が多く、殺されてしまう事があるのに対して、豚には天敵が少ないので安心です。また、農家さんにとっては、豚の場合、最終的に精肉を売ることが出来るので、採算性を考えても鶏卵よりもよいのだそうです。

長谷川さんたちの取り組みがユニークなのは、販路として「豚主オーナー制度」をとっていることです。長谷川さんの場合、一口1万円で豚主オーナーになると、オーナーには2kgの精肉が届く仕組みです(この地域で有機農業を営み、「庭先養豚」を行っている浅見彰宏さんが、オーナー制度を開拓したそうです)。

米国では数人で一頭の牛のオーナーになり、精肉後に、大量の冷凍肉が届く仕組みがあると聞いたことがあります。その時は「米国では家に大きな冷凍庫があるから、可能なのだろうな」と思ったのですが、豚主オーナー制度であれば、小さな冷蔵庫しかない日本の家庭でも、参加することが可能です。自然の中で、のびのびと育った豚の肉は、食の安全という視点からも、安心です。また、肉も、スーパーで売られているものとは比べ物にならないほどおいしいとのことでした。

耕作放棄地を耕作地に戻し、農家には収入、消費者には安全で美味しい肉をもたらし、そしてなにより、豚が幸せに暮らせるこの取り組み、他の地域にもさらに広がりそうです。

(新津尚子)

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新津さんはそのあと、実際にここの豚主オーナーになり、届いた精肉を調理して、会社のスタッフが集まる会に持ってきてくれました。みんなで放牧豚の話を聞きながらおいしくいただきました。

ちなみに、豚主オーナー制度にご興味のある方がいらしたら、直接ご連絡ください、とのことです。

長谷川浩さん
yuki_gakkai(@)me.com
 ※迷惑メール対策のため、お手数ですが(@)を@に変更してお送り下さい

このような人間も豚さんも顔の見える関係でのつながりが増えていくと同時に、大量に豚肉を生産している農場の従来型の飼育方法が変わっていくことを願っています。

よろしければ、日本の現状と世界の動向をぜひご覧ください。

『アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全』(626円)
(枝廣 淳子/岩波ブックレット)

 

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