長期戦略懇談会について何度も書いてきましたが、昨年夏~今年春にかけての同時期に、環境省の「プラスチック資源循環戦略小委員会」も開催され、3月末に環境大臣への答申を出しました。私はこちらの委員でもありましたので、内容についてお伝えしたいと思います。
これは、第4次循環型社会形成推進基本計画(平成30年6月19日閣議決定)において策定することとされているプラスチックの資源循環を総合的に推進するための戦略(プラスチック資源循環戦略)の在り方について、平成30年7月13日に中央環境審議会に諮問があったもので、中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環戦略小委員会で審議し、答申を取りまとめたものです。
政府は、本答申を受け、平成31年6月に開催するG20 までに政府としてプラスチック資源循環戦略を策定する予定です。
「プラスチック資源循環戦略小委員会」の議事次第資料・議事録一覧はこちらにあります。
今回日本政府がプラスチックに関する戦略を策定しようとした背景には2つの状況があったと理解しています。
1つは、2018年6月にカナダで開催されたG7シャルルボワサミットで出された「G7シャルルボワ首脳コミュニケ」の中に、「2030年までにすべてのプラスチックを再利用や回収可能なものにする」など達成期限付きの数値目標を含む「海洋プラスチック憲章」が掲げられたのですが、日本は米国とともに署名をしなかったということです。
国内の関係者と連携する時間がなかったためと聞いていますが、署名しなかった日本は当然ながら内外からの大きな批判を浴びました。その日本が2019年6月の大阪でのG20サミットで議長国としてテーマの1つである海洋プラスチック汚染について議論を進めるためには、野心的な戦略を打ち出す必要があったのです。
もう1つの背景は、2017年末に中国政府が「環境への危害が大きい固体廃棄物の輸入を禁止する」として、廃プラスチックの輸入を禁止したことです。日本はそれまで年に約150万トンの廃プラスチックを海外に輸出し、そのうち約半分を中国が受け入れていました。
中国に続いて他のアジア諸国も輸入規制を始めたことから、それまで日本から中国をはじめとするアジア諸国に出ていた廃プラスチックが行き場を失い、自治体によってはすでに保管量の上限を超えるところも出ているなど、廃プラスチックの保管状況が逼迫しつつあります。根本的に問題に取り組む切迫した必要性が生じているのです。
さて、「資源戦略案」の答申を見てみましょう。こちらにあります。11ページしかないので、さくっと見ていただけると思います。
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プラスチック資源循環戦略の在り方について~プラスチック資源循環戦略(案)~
(答申)
平成 31 年3月 26 日中央環境審議会
https://www.env.go.jp/press/files/jp/111235.pdf
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構成はこのようになっています。
1.はじめに― 背景・ねらい ―
2.基本原則― 3R + Renewable (持続可能な資源)―
3.重点戦略― 実効的な(1)資源循環、(2)海洋プラ対策、(3)国際展開、(4)基盤整備 ―4.おわりに―今後の戦略展開―
今回の答申に関する報道では、「レジ袋有料化が義務化される!」という箇所が多く取り上げられたようです。私のところにもワイドショー番組から取材依頼が来ました。「海洋プラスチック汚染」ではニュースにならなくても、「レジ袋有料化」だったら響くのだなあ、、、と思いながら、取材を受けました。
このレジ袋有料化は、「3.重点戦略」のなかの「 プラスチック資源循環」の最初の項目「(1) リデュース等の徹底」にあります。引用しましょう。
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~
○ワンウェイの容器包装・製品のリデュース等、経済的・技術的に回避可能なプラスチックの使用を削減するため、以下のとおり取り組みます。
ワンウェイのプラスチック製容器包装・製品については、不必要に使用・廃棄されることのないよう、消費者に対する声かけの励行等はもとより、レジ袋の有料化義務化(無料配布禁止等)をはじめ、無償頒布を止め「価値づけ」をすること等を通じて、消費者のライフスタイル変革を促します。
その際には、中小企業・小規模事業者など国民各界各層の状況を十分踏まえた必要な措置を講じます。
また、国等が率先して周知徹底・普及啓発を行い、こうした消費者のライフスタイル変革に関する国民的理解を醸成します。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
世界的には、レジ袋の有料化はもちろん、「禁止令」を導入している国も多々あります。日本はこれまで「声かけ」「消費者の意識」に頼っていましたが、それだけではなかなか減りません。今後、どのような制度や政策が必要となってくるか、ぜひ考え、見守っていきたいと思います。
今回の戦略(案)の目玉は、「4.おわりに―今後の戦略展開―」にあります。いわゆる「数値目標」と見なされるもの(ここでは「マイルストーン」と表現されています)が載っているのです。引用しましょう。
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~
本戦略の展開に当たっては、以下のとおり世界トップレベルの野心的な「マイルストーン」を目指すべき方向性として設定し、国民各界各層との連携協働を通じて、その達成を目指すことで、必要な投資やイノベーションの促進を図ります。
(リデュース)
消費者はじめ国民各界各層の理解と連携協働の促進により、代替品が環境に与える影響を考慮しつつ、2030年までに、ワンウェイのプラスチック(容器包装等)をこれまでの努力も含め累積で25%排出抑制するよう目指します。
(リユース・リサイクル)
2025年までに、プラスチック製容器包装・製品のデザインを、容器包装・製品の機能を確保することとの両立を図りつつ、技術的に分別容易かつリユース可能又はリサイクル可能なものとすることを目指します(それが難しい場合にも、熱回収可能性を確実に担保することを目指します)。
2030年までに、プラスチック製容器包装の6割をリユース又はリサイクルするよう、国民各界各層との連携協働により実現を目指します。
2035年までに、すべての使用済プラスチックをリユース又はリサイクル、それが技術的経済的な観点等から難しい場合には熱回収も含め100%有効利用するよう、国民各界各層との連携協働により実現を目指します。
(再生利用・バイオマスプラスチック)
適用可能性を勘案した上で、政府、地方自治体はじめ国民各界各層の理解と連携協働の促進により、2030年までに、プラスチックの再生利用(再生素材の利用)を倍増するよう目指します。
導入可能性を高めつつ、国民各界各層の理解と連携協働の促進により、2030 年までに、バイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入するよう目指します。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
ここで出されている「マイルストーン」は、署名しなかったと批判された海洋プラスチック憲章の目標を上回るものを設定しようとしていることがわかります。比べてみましょう。
今回の日本の戦略(案)にあるものは、
●2030年までに、ワンウェイのプラスチック(容器 包装等)を累積で25%排出抑制(日本独自)
●2025年までに、プラスチック製容器包装・製品のデザインを、容器包装・製品の機能を確保することとの両立を図りつつ、技術的に分別容易かつリユース可能又はリサイクル可能なものとする(それが難しい場合にも、熱回収可能性を確実に担保する)(海洋プラスチック憲章では2030年)
●2030年までにプラスチック製容器包装の6割をリサイクル又はリユースし、 かつ、2035年までにすべての使用済プラスチックを熱回収も含め100%有効利用(海洋プラスチック憲章では、2030年に55%、100%は2040年)
●2030年までに、プラスチックの再生利用を倍増(海洋プラスチック憲章では50%増)
●2030年までに、バイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入(日本独自)
日本独自のものもありますが、多くは海洋プラスチック憲章の数値目標を前倒しするか、または上回るものになっていることがわかります。
委員として参加していて、この目標設定のしかたそのものがこれまでの政府のやり方と違って画期的だと思いました。従来は、「何ができるか、それでどこまでいくか」の積み上げで目標設定することが多かったのですが、今回は「できるかできないか、どうやってやるかよりも、「あるべき姿」(ここでは海洋プラスチック憲章の目標を上回る)から設定する」というアプローチだったからです。
あるべき姿から設定したマイルストーンに対して、「どうやってやるか」は、これからの戦略や、見直しの中で模索し、定めていくことになるでしょう。そこもしっかり見守っていきたいと思います。
今後注目していくべきだと考えているポイントを2つ書きます。
1つは、これまでも議論となっていて、今後の議論でも論点の1つとなるであろう「熱回収(サーマルリサイクル)の位置づけです。
今回の戦略(案)ではこのように書かれています。
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~
世界全体の取組として、プラスチック廃棄物のリデュース、リユース、徹底回収、リサイクル、熱回収、適正処理等を行うためのプラスチック資源循環体制を早期に構築するとともに、海洋プラスチックごみによる汚染の防止を、実効的に進めることが必要です。
我が国は、循環型社会形成推進基本法に規定する基本原則を踏まえ、これまでプラスチックの3Rや適正処理を率先して進めてきました。この結果、容器包装等のリデュースを通じたプラスチック排出量の削減、廃プラスチックのリサイクル率27.8%と熱回収率 58.0%を合わせて 85.8%の有効利用率、陸上から海洋へ流出するプラスチックの抑制が図られてきました。
※「プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 2017 年」
(一般社団法人プラスチック循環利用協会)によれば、マテリアルリサイクル 23.4%、ケミカルリサイクル 4.4%、エネルギー回収 58.0%で、有効利用率としては 85.8%。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
この冒頭に書いてあるように、プラスチック廃棄物へのアプローチは、
・まず、「減らす(リデュース)」、
・そして、「再利用する(リユース)」、
・そのうえで、リサイクルのために「徹底回収」し、
・リサイクルする、というものです。
リサイクルには、大きく分けて、3種類あります。
・熱で溶かしてプラスチック素材・製品にする「マテリアルリサイクル」
・熱やガスを用いて化学的な方法で分子レベルに戻して原材料として用いる「ケミカルリサイクル」
もう1つのリサイクルが「熱回収」と書いてある、「サーマルリサイクル」です。廃棄物として燃焼するが、その際発生する熱を有効利用する、というものです。
85%を超えるプラスチックの有効利用率は高いと考えられますが、よく見ると、その多くが「サーマルリサイクル」です。つまり、燃やしてしまっているわけです。
日本はかねてから、他の先進国に比べてサーマルリサイクルの割合が高いと指摘されており、、「熱の有効利用をするからといって、燃やしてよいのか」という意見もあれば、「分別不能な汚れたプラスチックごみなどは燃やすしかない」という意見などもあり、あちこちで議論になっています。
国環研の「知ってほしい、リサイクルとごみのこと」にも議論と専門家の解説がありますので、ご興味があればご覧ください。
https://www.nies.go.jp/taiwa/jqjm1000000c2yf8.html
今回の戦略小委員会でも熱回収に関する議論もありました。今後の位置づけや取り組みをぜひ見ていきましょう。
もう1つ、近年新しく出てきたホットな話題ながら、気をつけておきたいものが「バイオプラスチック」です。
戦略(案)では、このように書かれています。
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~
バイオプラスチックについては、環境・エシカル的側面、生分解性プラスチックの分解機能の評価を通じた適切な発揮場面(堆肥化、バイオガス化等)やリサイクル調和性等を整理しつつ、用途や素材等にきめ細かく対応した「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、静脈システム管理と一体となって導入を進めていきます。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
政府として「バイオプラスチック」をロードマップを策定して導入を進めていく、ということがわかります。
この「バイオプラスチック」とは何でしょう?
この答申の脚注にあるように、「バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称」です。
バイオプラスチック=バイオマスプラスチック+生分解性プラスチック
ということです。
そして、「バイオマスプラスチック」とは、「原料として植物などの再生可能な有機資源を使用するプラスチック素材」です。
「生分解性プラスチック」とは、「プラスチックとしての機能や物性に加えて、ある一定の条件の下で自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって分解し、最終的には二酸化炭素と水にまで変化する性質を持つプラスチック」です。
ちょっとややこしいのですが、「バイオマスプラスチック」といえば、植物などの有機資源からつくるプラスチックですが、「生分解性プラスチック」というときは、生分解するかどうかが鍵で、素材は問うていません。事実、化石燃料由来の生分解性プラスチックもたくさんあります。
世界の研究者や団体などは、「バイオプラスチックはバラ色の解決策ではない」として、バイオマスプラスチックおよび生分解性プラスチックのもたらす問題や課題を挙げています。
たとえば、バイオマスプラスチックを大量につくろうとしたら食料生産と競合する恐れがあること、また、生分解性プラスチックは分解途中はマイクロプラスチック化してしまうこと、などなどです。
今回の日本政府の戦略では、バイオプラスチックの導入を促進していくことになると思いますが、「今日の解決策が明日の問題」にならないように、慎重に考えて進めてもらいたいと願っています。