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国土交通省の審議会や検討委員会から、温暖化に関する重要な答申・提言が出されています。「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方」提言から、自分でアンダーラインを引いた部分をかいつまんで紹介しましょう。
国土交通省の審議会や検討委員会から、温暖化に関する重要な答申・提言が出されました
7月8日 農林水産省と共同で設置した「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方検討委員会」からの提言
「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方」提言
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/hozen/index.html
7月9日 社会資本整備審議会答申
気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について
~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な「流域治水」への転換~」 答申
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/index.html
今回は、「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方」提言から、自分でアンダーラインを引いた部分をかいつまんで紹介しましょう。温暖化の現状や見通しを伝えるさまざまな数字などは、自分で他の人々に説明するときにも使うことができる根拠となるので、控えておいてもよいでしょう。
この提言は、全部で19ページとまとまっており、目次は以下です。
目次
1. はじめに
2. 海岸保全に影響する気候変動の現状と予測
(1)平均海面水位の上昇
(2)高潮時の潮位偏差の長期変化
(3)波浪の長期変化
(4)海浜地形と漂砂
3. 海岸保全に影響する外力の将来変化予測に関する本委員会の検討
4. 気候変動を踏まえた海岸保全の基本的な方針
5. 今後の海岸保全対策
6. 今後5~10 年の間に着手・実施すべき事項
7. おわりに
自分のアンダーライン部分を抜粋します。全文は提言そのものをご覧下さい。
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/hozen/teigen.pdf
~~~~~~~~~~~~ここから抜粋~~~~~~~~~~~~~
「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方」提言
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/hozen/teigen.pdf
1. はじめに
・「気候変動に関する政府間パネル(以下「IPCC」という。)」による第5次評価報告書(2013 年)では、気候システムの温暖化には疑う余地がなく、大気と海洋は温暖化し、雪氷の量は減少し、海面水位は上昇していること、更に、21 世紀の間、世界全体で大気・海洋は昇温し続け、世界平均海面水位は上昇が続くであろうことなどが報告されている。平成30 年台風第21 号1 をはじめとする近年の水害は、今後の気候変動に伴う高潮等の水災害の頻発化・激甚化を懸念させるものである。
・海岸行政では、(中略) 不確実性を有する将来の気候変動の影響をいかに海岸保全施設の計画・設計に反映させるかという課題は依然残されたままであった。
・平成30 年には、「気候変動適応法」が施行され、「気候変動に起因して、生活、社会、経済及び自然環境における気候変動影響が生じていること並びにこれが長期にわたり拡大するおそれがあることに鑑み、気候変動適応に関する計画の策定、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の提供その他必要な措置を講ずることにより、気候変動適応を推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与すること」が法的に位置づけられた。
・平均海面水位は100 年以上の長期にわたって上昇を続けて元に戻ることがなく、海岸保全の取組にも長期間を要することなどから、科学的な知見を社会全体で共有し、将来の気候変動の影響を前提とした沿岸部の地域づくりに着手すべきである。
2. 海岸保全に影響する気候変動の現状と予測
・海岸域の保全は、防護・環境・利用の調和を図りながら進められる。「海岸防護」は、高潮、津波、波浪の侵入から国民の生命、財産を守り、国民の共通の資産である海浜を侵食から守ることである。「海岸環境の整備と保全」は、生態系や歴史・文化の基盤となった泥浜、砂浜、礫浜、磯など多様性な空間そのものを保全するとともに、歴史・文化の舞台となった海岸景観を保全し、必要に応じて劣化している海岸環境の整備、改善を図ることである。また、「海岸利用」は、レクリエーション、流通、漁場など多様な利用形態の輻輳、利用形態間の対立の調整を図り、安全で快適な海岸利用を増進することである。
・IPCC の第5次評価報告書:世界平均地上気温は1850~1900 年の期間平均と比べて2003~2012 年の期間平均は0.78℃上昇し、日本の平均地上気温においても、気象庁の観測によると、年平均気温は1898 年から2019 年で100 年あたり1.24℃の割合で上昇している。
・世界平均海面水位は、1901 年から2010 年の期間に0.19m 上昇していることなどが示されている
・令和元年9月「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC 特別報告書(海洋・雪氷圏特別報告書)」(以下「SROCC」):2100 年における平均海面水位の予測上昇範囲は、1986~2005 年の期間と比べて、RCP2.6 では0.29-0.59m、RCP8.5 では0.61-1.10m と第5次評価報告書から上方修正された。
・これまで海岸保全の取組は、各湾における既往最高潮位、又は我が国における既往最大の高潮被害を引き起こした伊勢湾台風と同等の台風が最悪経路を通った場合における潮位等に基づき対応を行ってきた。しかし、将来、気候変動によって、現在の計画を上回る高潮や高波が来襲する頻度が増加することが想定される。このため、海岸保全の取
組においても、過去のデータに基づくものに加え、気候変動によって将来変化することが想定される現象を予測し、気候変動による影響を明示的に考慮した海岸保全対策へと転換すべき
・IPCC 第5次評価報告書:、4つのRCP シナリオ、2081~2100 年の世界平均地上気温は1986~2005 年に比べて最も温暖化が進むRCP8.5(現在のように温室効果ガスを排出し続けた場合)では2.6~4.8℃、最も温暖化を抑えたRCP2.6(21 世紀末に温室効果ガスの排出をほぼゼロにした場合)では、0.3~1.7℃、それぞれ上昇すると予測されている。
・平均海面水位は徐々に上昇し、砂浜の減少、沿岸部の排水不全、橋梁の架け替え、さらには砂浜や干潟、藻場などの生態系等その影響は将来にわたって平常時にも継続して広範囲に作用する。
・予測の上位の海面上昇が生起した場合、長期的には、海岸保全のみでは対応できない限界があることを意識し、海岸保全だけでなく広域的・総合的な視点から沿岸地域の土地利用等を考慮した気候変動への手戻りのない対応を図るうえでも、将来の平均海面水位の過小評価は避けるべきである。そのため、平均海面水位については、2100 年に1m 程度上昇するというRCP8.5(4℃上昇相当)の上位の予測も想定外とせず、長期的視点から考慮すべき
(1)平均海面水位の上昇
・近年だけで見ると、日本沿岸の海面水位の上昇率は1970~2015 年の期間で1年あたり1.4[0.9~1.9]mm の割合で上昇しており、1993~2015 年の期間で1年あたり2.8[1.7~4.0]mm の割合で上昇した。
・SROCC では、2100 年までの平均海面水位の予測上昇範囲は、RCP8.5 では0.61-1.10m、RCP2.6 では0.29-0.59m と第5次評価報告書3から上方修正された
・気象研究所による最新の研究成果によれば、「日本沿岸の海面水位は、21世紀中に上昇する可能性が高い」とされている。
・近未来(2031-2050 年)に着目すると、SROCC における世界の平均海面水位の予測上昇範囲は、RCP2.6 シナリオでは0.17[0.12-0.22]m 、RCP8.5 シナリオでは0.20[0.15-0.26]m
(4)海浜地形と漂砂
・海と陸との接点である海岸において、砂浜(礫浜を含む)は、岩礁とは異なりその形状が日々変わりうるという特徴を有している。また、砂浜は、波を減衰させ、背後に集中する人命や財産を高潮や津波等の災害から守るという重要な役割を担っているなど、防護・環境・利用の観点から、我々が社会生活を送る上で欠くことができない機能を有している。
・今後、さらに、日本の砂浜は、気候変動の影響による平均海面水位の上昇により、RCP2.6 シナリオで約6割、RCP8.5 シナリオでは約8割が消失する可能性があるという研究例があるなど、国土保全上の懸念がある。
・また、極端現象だけでなく、平常時から海面水位や波浪(波高・周期及び波向き)等の影響を受ける。
4. 気候変動を踏まえた海岸保全の基本的な方針
・海岸保全基本計画や施設設計等の検討にあたっては、平均海面水位の上昇量等の外力の変化を現在の計画や設計の考え方に直接反映するとともに、外力の変化に対応するための追加コストなども考慮しながら、必要に応じてさらなる外力の増加にも配慮することが考えられる。
・海岸保全の目標は、2℃上昇相当(RCP2.6)を前提としつつ、広域的・総合的な視点からの取組は、平均海面水位が2100 年に1m 程度上昇する予測(4℃上昇相当(RCP8.5))も考慮し、長期的視点から関連する分野とも連携することが重要である。
(1)海岸保全の基本的な方針
・過去の高潮・波浪の実績のみに基づく対応から気候変動を考慮したものへ転換すべき。
・高潮対策や津波対策については、土地利用やまちづくり等の都市計画等との調整等のソフト面の対策も組み合わせた総合的な対策を行うよう努めるべき。
・長期的視点から取組を進めるうえで目安となる平均海面水位を社会全体で共有するよう努めるべき。
・気候変動を踏まえた海岸の保全に関する調査・研究を推進するため、海岸保全に資する情報を広く共有できるような体制を構築すべき
5. 今後の海岸保全対策
・海岸保全施設等の整備は、これまで、伊勢湾台風や東日本大震災等をはじめとする大災害を契機とする集中投資等により進展してきた
・気候変動の影響を踏まえれば、将来的に現行と同じ安全度を確保するためには、必要となる防護水準が上がることが想定される。その際、環境・利用の観点も含めて適応策の優先順位を検討し、堤防等による防護だけでなく、砂浜等による面的防護に加え、ソフト対策との組み合わせや関連する分野と連携した適応策を進めていく必要がある。
・産業革命以前と比べて世界の平均地上気温が4℃上昇した場合は、20 世紀末と比べて21 世紀末には、全国の一級水系で治水計画の対象とする降雨量の変化倍率が約1.3 倍、治水計画の目標とする規模の洪水の流量の平均値は約1.4 倍になり、洪水の発生頻度の平均値は約4 倍と試算されている。
・また、産業革命以前と比べて世界の平均地上気温を2℃に抑えるシナリオでも、20 世紀末と比べて2040 年頃には、全国の一級水系で治水計画の対象とする降雨量の変化倍率が約1.1 倍、治水計画の目標とする規模の洪水の流量の平均値は約1.2 倍になり、洪水の発生頻度の平均値は約2倍と試算されている。
・土砂災害については、気候変動による降雨特性の変化により、現在土砂災害警戒区域等の指定の対象となっていない又は指定基準に該当しない箇所において発生する、土砂・洪水氾濫や崩壊性地すべり等の土砂移動現象が、今後気候変動に伴う降雨特性の変化によって頻発化・顕在化するおそれが高い
・さらに、河口域における河川水位の上昇、高潮・洪水氾濫など複合的な要因による新たな形態の大規模災害の発生も懸念される。そのため、海岸保全の目標は、2℃上昇相当(RCP2.6)を前提としつつ、広域的・総合的な視点からの取組は、4℃上昇相当(RCP8.5)も考慮し、長期的視点から関連する分野との連携を図るべきである。
・高位の海面上昇が発生するシナリオは、沿岸地域のみならず、社会構造全体に深刻な影響をもたらす可能性がある。新たな海岸保全技術を開発する努力を継続するとともに社会全体で気候変動に対応する仕組みを構築することが必要
6. 今後5~10 年の間に着手・実施すべき事項
・海象や海岸地形等のモニタリングやその長期変化の解析、さらに影響評価、適応といった、海岸保全における気候変動の予測・影響評価・適応サイクルを確立すべき
・気候変動に関する将来予測に関する知見は、今後も変わりうるため、常に最新の知見を取り込みながら、継続的・定期的に対応方針を更新していく仕組みや体制を構築すべき
・地域のリスクが気候変動によってどのように変化するかについて、防護だけでなく、環境や利用の観点も含め、定量的かつわかりやすく地域に提供すべき
・気候変動の影響は、海岸管理者の問題ではなく、社会全体の課題でもある。海岸管理者だけでなく、関連する施設管理者や都市計画部局、背後地の地域住民との連携が不可欠である。各海岸において、海岸保全と減災を考慮しつつ適応策を考え、取り組んでいく体制を構築すべき
7. おわりに
・本委員会における議論を進めている中、新型コロナウイルス感染が拡大し、暮らし方や働き方にも大きな影響が広がったが、今後、日本は、人口減少・高齢化など社会構造の変化や産業構造の変化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展などによって、社会のあり方そのものも大きく変化していく可能性もある。気候変動の影響は、そういった社会全体のうねりの中で確実に顕在化してくるものであることを覚悟しておかなければならない。
・最後に、こうした取組を進めるためには、将来、気候変動による影響によって沿岸地域がどうなるかを科学的な予測に基づいて社会全体が共有することができ、海岸保全や沿岸地域全体における取組によって適応できていくことを社会全体で実感できることが重要であり、積極的に、わかりやすく情報発信していくことが求められる。
~~~~~~~~~~~~抜粋ここまで~~~~~~~~~~~~~
本文はこちらにあります。
「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方」提言
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/hozen/teigen.pdf
こういった提言や答申からも、いよいよ、これまでの想定の範囲を超えていきそうだ、それに対して手立てをしていかなくてはならない、という認識が広がってきていることを感じます。
とくにインフラ関係は、考え、予算をつけ、設計し、施工して実現するまでにかなりの時間が必要になります。また、いったんつくると数十年から100年以上は使われることが前提となります。
私たちの社会にはこういった大きな時間的遅れが各所にありますが、気候変動という不確実性の高いシステムの中で、「過剰投資」になりすぎず、かといって、足りなかったとあとで追加が必要になることもない、ちょうどよい手の打ち方ができるのでしょうか(システム思考の高度な実践的課題です)
私たち一人ひとりが、「過去の延長線上にはない世界に入ってしまった」ことを受けとめ、そのうえで、自分や家族の身を守るとともに、できるだけこれ以上ひどい方向に行かないために、何をすべきか、何ができるかを考え、実行していく必要があります。