佰食屋 ウェブサイトより
幸せ経済社会研究所から世界に発信した英語のニュースレターの日本語原稿をご紹介します。コロナ時代の今だからこそ、ますます大事になる考え方と実践だと思います!
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逆転の発想で持続可能なビジネスを:京都・佰食屋の取り組み
●「1日100食しか売らない」ビジネスモデル
新型コロナウィルス感染拡大の影響によって、多くの飲食店が経営の危機にあります。日本では強制的なロックダウンはいまのところ行われていませんが、都市部を中心に、国や都道府県から「休業要請」や「営業時間短縮要請」が、たびたび出されています。
お店としては、休業しても家賃や人件費などの必要経費がかかります。また、営業を再開してもお客さんが十分に来なければ、経営は厳しいままです。観光地にある飲食店の場合、観光客が減ることは、そのまま経営の悪化に直結します。新型コロナウィルスの影響が長期化することが懸念される中で、今までのビジネスモデルが通用しなくなってきていることは明らかです。
ではどうすればよいのでしょうか。この問題を考えるためのヒントが、京都市にある国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」が提案するビジネスモデルにあります。この店は店名の通り、「1日100食しか売らない」ことを目標にしている飲食店です。一食でも多く売ることを目指すのが普通ですから、この視点は画期的です。
もちろん、100食しか売らないので、大きな儲けはでません。でも「100食しか売らない」と決めているからこそ、食材のムダもでませんし、従業員は残業なしで家に帰ることができます。日本の飲食業界の現場では残業が当たり前であるため、「残業がない」というだけでも画期的です。
佰食屋がオープンしたのは2012年。開店当初はオーナーの中村朱美さんの家族でお店を回していましたが、現在では1店舗に5人のスタッフがお店に入るスタイルで経営しています。「100食しか売らない」というビジネスモデルは注目を集め、オーナーの中村さんが『売上を減らそう』というタイトルの書籍を2019年に出版するなど、メディアでも繰り返し取り上げられています。今月号のニュースレターでは、佰食屋の取り組みや考え方を、書籍の内容をもとに紹介します。
●佰食屋の工夫
○自信のメニューで勝負
佰食屋本店で提供しているメニューは、3つの料理だけです。「国産牛ステーキ丼」「国産牛おろしポン酢ステーキ定食」「国産牛100%ハンバーグ定食」です。看板メニューの国産牛ステーキ丼は、誰にでも自信をもって提供できる自慢の一品ですが、このメニューはオーナーの旦那さんが佰食屋のオープン前から作っていたものだそうです。佰食屋のメニューは、ステーキ丼を中心に3つしかないからこそ、できる工夫がたくさんあります。
一般的にブロック肉から食べるために取りだされる部分は75%程度ですが、佰食屋では、90%が食材として使われています。それはステーキに使わなかった部分をミンチにしてハンバーグにしたり、一般的には捨ててしまう部位を煮込んでソースに利用したりすることで、余すことなく利用しているからです。
また、毎日仕入れてすぐに調理するため、乾燥して捨てる部位はほとんどないそうです。「100食しか売らない」と決めていれば、お肉もご飯もそれ以上準備する必要はありません。余分に準備しなければ余ることもないのです。そのため、佰食屋の厨房には、なんと冷凍庫がないそうです。
とことんシンプルにすることで、100食でも利益を出す工夫がここにあります。
○広告をしない。家賃にもお金をかけない
佰食屋は広告にお金を一切使っていないそうです。でも、美味しいものを食べればお客さんがSNSに投稿してくれます。この口コミがお店の広告になっています。料理に絶対的な自信があるからこその戦略です。
また、佰食屋の店舗は駅からは近いものの、表通りからは外れていたり、二階だったりと、少し不便な場所にあります。その理由は、そうした物件は家賃が安いからです。
一般には、表通りの1階にある店舗のほうが好まれますが、それはお店の前を通りかかったお腹をすかせたお客さんが、お店を見つけて入ってくれるためです。でも佰食屋のように、SNSで評判をみて、お客さんが来てくれる場合はどうでしょう? 表通りから1本入った路地にあるお店でも、ホームページで地図をチェックして来てくれます。そうだとすれば、家賃が安い物件のほうが、それだけコストを抑えられるため、有利になります。このように経費を最低限にすることも、100食で利益を出す工夫です。
オペレーションのコストを抑え、100食しか売らない代わりに、最高の食事を提供するというこの仕組は、従業員にとっても目標が明確になる上、残業をしなくてもよい仕組みでもあります。佰食屋の営業時間は11時から14時半(ラストオーダー)までです。この時間の営業であれば、どんなに遅くても17時45分には帰ることが出来ます。「早く帰れる」は、お金と同じくらい魅力的なインセンティブだと中村さんはいいます。
●さらにミニマムなビジネスモデル「佰食屋1/2」
でも、「一日100食も売れない!」ということもあるでしょう。特に、コロナの状況下では100食を売ることは、多くの飲食店にとって大変です。佰食屋では、2019年から「佰食屋1/2」の経営を始めています。こちらも名前の通り、100食の1/2、つまり50食を売り上げればなりたつビジネスモデルです。
佰食屋本店では20食あたり1人の従業員という計算で、1店舗5人の従業員を店舗に配置していますが、「佰食屋1/2」では2人でお店を回すことを前提にしています。夫婦ふたりでも切り盛りができるという意味でも、ミニマムモデルです。1食1000円で50食売れば、一日の売上は5万円です。これは月にすると125万円の売上になります。家賃や食材費といった経費を差し引いて50万円残るようにすれば、夫婦二人で一家の年収は600万円になります。
オーナーの中村さんが「佰食屋1/2」を考えたきっかけは、2018年の災害でした。この年京都では、6月の大阪府北部地震にはじまり、7月の西日本豪雨、9月の台風21号の上陸と、連続して災害に見舞われました。日本屈指の観光地である京都でも観光客が減り、佰食屋でも100食を売り切ることが難しい状況になりました。ただ、客足が落ちているときでも、50食は売り切ることが出来たことから、「50食売れば成り立つ」仕組みを考えたそうです。
●ウィズコロナの時代のヒント
これまでのビジネスは、ひたすら売上を上げることを目指してきました。経営がうまく行かない場合も、「どうすれば売上が伸びるのか」を考えます。飲食店なら1食でも多く売るために、ランチ営業だけではなく夜まで営業時間を伸ばす。100食売り切ったら、今度は150食売ることを目標にするといった具合です。
そうすれば売上は伸びるかもしれません。でも、「少しでも多く売るために」食材を多めに仕入れることで無駄が出ます。また、従業員は接客中には翌日の仕込みができないため、残業時間が長くなるでしょう。売上を上げることで生じるこうした副作用には、これまではあまり注目されてきませんでした。
でも、コロナの状況が長引き、コロナ以前のように観光客や買い物客でビジネスを回すことが難しいとしたら、どうでしょう? 少量を売ることで回していける仕組みのほうが持続可能性は高いのではないでしょうか。また、佰食屋のビジネスモデルは、フードロスを防ぐことができる、従業員が長時間労働をしなくてもすむなど、国連のSDGsの目標達成にもつながります。
コロナの状況下で、「今までの社会や生活の仕組みを見直す必要があるのではないか」という声が多く聞かれます。ただ、どのように変えればよいのかはよくわからないのが現状でしょう。その中で、佰食屋の「売上を伸ばさない工夫をする」ビジネスモデルは、ひとつのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
参考文献
中村朱美(2019)『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』ライツ社
甲斐かおり(2019)『ほどよい量をつくる』インプレス
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参考文献にある甲斐さんの『ほどよい量をつくる』も、幸せ研の読書会で取り上げさせていただき、ご本人にお話しいただいたことがあります。非常に刺激的で楽しい時間でした!
これまでの100回の読書会でどのような本を読んできたかにご興味があれば、こちらをご覧ください~。
https://www.ishes.org/news/2020/inws_id002827.html
次の100冊も、自分たちが幸せ・経済・社会を考えつつ、望ましい持続可能で幸せな世界や地域をつくるために、読み、学び、考え、議論していきたいと思います。ご興味のあるテーマがあったら、ぜひご参加下さい!
https://www.ishes.org/reading/