Image by Katharina N.
熱海・伊豆山の土石流災害の発災からもうすぐ3週間がたちます。現場はまだ立ち入れる状況にありませんが、新幹線の車窓からも災害のむごい爪痕が見え、心が痛みます。今回の災害は複合的な原因によって起こったと考えられますが、しっかり究明して、熱海だけでなく、日本全国で同じような災害が再発しないよう、手を打つ必要があります。
ドイツやベルギーでも大雨による洪水の大きな被害が出ていますが、今回の伊豆山の土石流災害の大きな直接的な原因は、記録的な大雨です。熱海では前日から異常な降り方の雨が続いていました。
近年、なぜ各地で大雨が増えているのでしょうか? しかも大雨の規模が大きく破壊的になっているのでしょうか?
気温が1℃上昇するたびに、大気中の水蒸気量は7%増加するという研究があります。気温が上昇するほど、大気中に保てる水蒸気量が増え、いざ雨として降るときには、激しい豪雨となります。気候変動があの大雨の原因だと断言することは難しくても、温暖化の影響があったことは認めざるをえないと思います。
この温暖化という根本的な原因に対しては、一刻も早く温室効果ガスの排出を止めるとともに、すでに大気中に排出されたCO2(寿命は数十年~数百年)を除去していく必要があります。
熱海・伊豆山の土石流については、山の谷間にできた開発による盛り土の大部分が崩れたとの解析から、盛り土が原因の1つだと考えられています。盛り土の量が法令違反であったこと、盛り土の工事に対して、県と市が是正を求めたが従っていなかったらしいことなど、行政の手続き上の問題も指摘されています。
あわせて、崩落起点から20~30m離れたところにメガソーラーがあることから、メガソーラーの設置が今回の土石流に影響を与えたのでは、という議論もあります。メガソーラーの両側の森は崩れていないから、メガソーラーは関係ない、という意見もあります。
行政の手続き(特に従わない事業者にどう対処するかなど)を改善する必要があることは言うまでもありません。
しかしここでは、「土地利用の改変」という視点から、今回の土石流災害を考えてみたいと思います。「土地利用の改変」とは、土地の利方法が変わることです。たとえば、沼地や干潟を埋め立てて住宅地にするのも「土地利用の改変」です。森林でいえば、それまで森林として利用されていた土地が開発されて、道路になったり住宅地になったり、メガソーラーになったり、盛り土になったりすることです。
改変されてどのような用途になったかにかかわらず、「森林がなくなった」ことの影響を考える必要があります。
「森は緑のダム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。森林は、大雨が降ったとき、川の流量の時間変化をなだらかにしてピークを下げ、水害を減らす重要な機能を持っているのです。
森林は雨水の大部分を土壌に浸透し、地中水として移動させます。その速度は地表水より遅く一様でないので、河川の増水は軽減されます。地中水の一部は深く浸透し、地下水となります。
水田や畑地土壌は比較的均質な土粒子と孔隙からなりますが、森林の土壌は不均質な土粒子と孔隙からなります。孔隙とは、土粒子と土粒子の間の「すきま」のことで、乾燥時には空気が入っており、降雨時には水分で満たされます。こうして、孔隙は雨水の貯留と排水を行います。
地面の下を想像してみてください。地面の下の土には無数の孔隙があり、ふだんは空気が入っていますが、雨が降ると、空気の代わりに水が入ります。その空間を満たす量の水はそこにとどまり、流れ出ません。地面の下の無数のすきまが水をたたえていることから、かなりの量の水が流れ出さずに土壌にとどまっているようすを想像できるでしょう? これを「土壌の保水力」といいます。
土壌の保水力(mm)=孔隙率(%)×土壌の厚さ(mm) で計算するそうです。
保水力は森林や土壌、地質条件により異なります。林野庁の資料によると、
・土壌が1時間に水を吸い込む量は、森林では平均約260 mm、特に良い森林では最大400 mm にも及ぶとの研究結果も報告されている
・ブナ原生林の土壌は1時間に約 300 mmもの雨を吸収するほどの驚異的な保水力を誇る。 (いわてグラフ 第697号、2005)
https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/gizyutu/attach/pdf/sinrinringyoukoukaikouza1-3.pdf
森林の保水力は、ダムのように洪水のピーク流量を人工的に調節することはできませんが、目的ダムの洪水調節容量と同程度の容量を持っているそうです。だから「森は緑のダム」なんですね!
土壌の保水力だけではありません。木々の葉っぱなどから水分が水蒸気になって外に発散することを「蒸散」といいますが、森林は蒸散によって土壌中の水を消費し、年流出量を減少させる役割も果たしています。森林が減ることで、この蒸散量も減り、土壌中の水が消費されずに流出します。これも、水害の規模に影響を与えます。
これらは、土地利用の改変によって森林を失ったことの影響です。加えて、土地利用の改変の仕方(その土地の開発の仕方)によっては、地下の水脈を損なってしまい、地下水の流れを妨げ、地表を流れる水量を増やしてしまうこともありえるでしょう。
違法な工事ではなかったかという検証とともに、違法でなくても、土地利用を改変することがもたらす影響(目に見えるものも見えないものも。すぐに表れるものも長期的に表れるものも)を認識し、その影響も考えに入れた上で、土地利用の改変を考える必要があります。
この土地は手を付けずに置いておいたほうがよいのではないか?
地下の水脈に悪影響を与えないよう、工事方法を変更すべきではないか?
こういった議論も必要になります。
この「土地利用の改変」は、水害にも大きな影響を与えるだけでなく、気候変動にも大きな影響を与えます。
環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(令和3年度版)にはこのように書いてあります。
「森林の減少を含む土地利用の変化に伴う温室効果ガス排出量は世界全体の人為的な排出量の約2割を占めるとされており、2015年12月にCOP21で採択されたパリ協定においては、森林を含む吸収源の保全及び強化に取り組むこと(5条1項)などが定められました」
土地利用の改変に伴う温室効果ガス排出量が約2割も占めているなんて、初耳!という方も多いのではないでしょうか。
省エネや再エネでCO2排出量を減らすだけではなく、温室効果ガスを出してしまうような土地利用の改変を止めなくてはなりません。その大きなものが「森林の減少」なのです。
森林減少によって、なぜ温室効果ガスが出てしまうのでしょうか。
(1) 樹木の中に蓄積されていた炭素が、直接的な燃焼や、より緩やかな有機物としての腐朽によって、二酸化炭素として大気中に放出される
(2)森林の伐採や、その結果生じる土地利用の改変によって、土壌中に蓄積していた炭素の一部が大気へ放出してしまう
森林減少は、CO2吸収源を減らすだけではなく、CO2排出源になってしまう、ということを肝に銘じる必要があります。
天然林にはできるだけ手を付けず、いったん人間が伐採して植林した人工林は、間伐等適切な手入れを行って維持していくことで、森林面積の減少や、森林の質の劣化を防ぐことは、国土保全の観点からも、温暖化防止の観点からも、非常に重要です。
熱海・未来創造部・伊豆山災害支援チームのFacebookグループページでは、支援の状況や、まちのようすを発信し続けています。
https://www.facebook.com/groups/539592647069642
状況は毎日変わっています。昨日、しばらく受付を停止していた「支援物資受け付け」が再開されました。
<ご支援をお願いしたい物品>として、以下が出ています。
〇飲料 お茶・麦茶・スポーツドリンクなど(500ml程度のペットボトル飲料)
〇食料品 パックご飯・レトルト食品・カップ麺・缶詰等
〇衛生用品 生理用品・おむつ・おしりふき・歯磨き用品等
〇生活用品 トイレ用品・洗濯用品・台所用品(各ペーパー類を含む)
〇衣服類 下着類・部屋着など(新品に限ります)
支援物資の送り先・送り方など詳細はこちらをご覧下さい。可能な範囲でご協力お願いします。
https://www.city.atami.lg.jp/kurashi/bousai/1000598/1011423.html
熱海・未来創造部・伊豆山災害支援チームのFacebookグループページでは、支援の状況やまちのようすとともに、今回の災害の根本的な原因と、どう対処していくべきかを、目先だけでなく、深く長期的な視点で考えて、発信していきたい、と考えています。
FBグループページの投稿だけでなく、もっと生の声で熱海のようすを知りたい、という声に応えるべく、7月28日に「熱海未来創造部 伊豆山災害支援チーム」活動報告会(オンライン+少人数のみ熱海会場)を行います。
報告会への参加費は、寄付金付きのものも5種類用意しました。経費をのぞいた全額を被災地・被災者への支援に使わせていただきます。熱海のまちのようす、地元の仲間の支援活動など、メディアの報道では伝わっていない状況や動きをぜひ知ってください。
~~~~~~~~~~~~~ここからご案内~~~~~~~~~~~~~~~
7/28開催:第5回未来創造サロン 「熱海未来創造部 伊豆山災害支援チーム」活動報告会
<ZOOMによるオンライン開催+会場で少人数参加 のハイブリッドで行います>
※「オンライン参加」と「会場参加」でお申込みいただくサイトを分けております。ご注意ください※
※オンライン参加者の方には前日までに参加のURLを弊社からメールでお送りします。迷惑メール等にはいらないようご注意ください。
このたびの熱海伊豆山土砂災害により、お亡くなりになられました方々のご冥福をお祈りし、哀悼の意を表しますとともに、被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
7月3日(土)の熱海・伊豆山地区の土砂災害から3週間あまりがたとうとしています。被災地ではいまなお、懸命な捜索活動が進められており、約350名の方が近隣のホテルなどで避難生活をおくられています。
発災後、未来創造部では、可能な範囲で、行政やまちの動きを伝えたり、支援が必要な方と、支援をしていただける方の情報を集め、つなぐ場をつくろうと、「熱海未来創造部 伊豆山災害支援チーム」というフェイスブックのグループページを立ち上げました。今では、1,200名を超える方がグループのメンバーになり、日々、コメントを寄せてくださったり、情報交換が行われています。
https://www.facebook.com/groups/539592647069642
被災地にとって、状況を気にしてくれている人がいる、応援してくれる人がいるということはとても心強く、また支援チームにとってもなによりのエールになっています。本当にどうもありがとうございます。
一般的なニュースでは、いまだに土石流の映像や盛り土の話題が多く見られます。でも、私たちのまわりでは少しずつ支援の輪の広がりやフェイスブックグループではまだお伝えしきれていないあたたかな活動も生まれています。
今回の未来創造サロンでは、前回の未来創造サロン後に起きた災害から、急遽支援チームの立ち上げを決めたこと、現在の熱海のようす、地元で支援の取り組みをしている方々と生まれたコラボレーションなどをみなさんにご報告させていただきたいと思っております。
そして、グループページを立ち上げたもうひとつの目的は、緊急支援にとどまらず、中長期的に復旧・復興、地区の暮らしと経済とにぎわいを取り戻すための活動を地域の人や応援してくれる人と進めていきたいということ。
残念ながらこのような災害は、規模や状況は異なったとしても、今は全国各地どこにでも起こりうる可能性があります。このような危機に見舞われた際に、地域がどうしたらしなやかに立ち直ることができるのか、ぜひ皆さんと考えていけたらと思います。
当初は、この未来創造サロンもお休みさせていただく予定でおりました。でも、このような時期だからこそ、皆さんへのご報告と共有の場を設けられたら、と急遽、緊急開催を決めました。
なお、オンライン参加の皆様には、通常の参加費にプラスになりますが、支援金付きのチケットを用意させていただきました。いただいたお気持ちは「熱海未来創造部・伊豆山災害支援チーム基金」に寄付させていただき、基金は、被災された方々へのきめ細やかなサポートならびに中長期的に地区の暮らしと経済、にぎわいを取り戻すための取り組みに活用させていただきます。その使途や活動内容、成果につきましては、オンラインレポートでご確認いただくことができるよう準備いたします。
熱海から、ご支援いただいているみなさまへ――心よりご参加をお待ちしております。
お申し込みはこちら
https://mirainotane.stores.jp/
■開催日時:7月28日(水)19~21時(開場は18時30分頃を予定)
■開催方法:熱海市にあるリアル会場とWeb会議システム(Zoom)を使ったオンラインセミナーとの同時開催になります
※「オンライン参加」と「会場参加」でお申込みいただくサイトを分けております。
※「オンライン参加」の方には当日12時までに参加のURLを弊社からメールでお送りします。迷惑メール等にはいらないようご注意ください。
■リアル会場:株式会社未来創造部 未来ビル2階 (熱海市渚町7-5 エムズ熱海ビル)
※定員16名
■オンライン会場:Zoomのシステムを使います(お申込みされた方に当日お昼12時までに詳細をお知らせします)
■参加費:
熱海会場 1,320円(税込) ※会場に募金箱を設置します
オンライン会場
1,650円(税込)
2,650円(税込)(1,000円支援金付き)
3,650円(税込)(2,000円支援金付き)
4,650円(税込)(3,000円支援金付き)
6,650円(税込)(5,000円支援金付き)
11,650円(税込)(10,000円支援金付き)
■プログラム(予定)
・支援チーム活動報告 ・現地で活動するメンバーからの活動報告と枝廣による質疑応答
・対話
・全体質疑応答
■進行&聞き手:枝廣淳子(株式会社未来創造部代表、幸せ経済社会研究所所長、大学院大学至善館教授)
■主催:株式会社未来創造部
■キャンセルについて お申し込み後のキャンセル、ご返金はお受けできかねますので、あらかじめご了承ください。
※当日は、会場でのリアル参加とオンライン参加のハイブリッド型で運営します。会場でのリアル参加は三密を避けるため、少人数の定員制です。
※STORESのサイトからのお手続きが難しい場合は、以下のメールまたはお電話で弊社までご連絡ください。
株式会社未来創造部 (営業時間:平日 午前9時~午後5時)
メール:info(@)mirai-sozo.work 電話:0557-48-7898
※迷惑メール対策のため、お手数ですが(@)を@に変更してお送り下さい