西粟倉村 : Photo by Mti Some Rights Reserved.
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「90分で学ぶ「すんごい地域のスゴイ理由」好循環のまちづくり」シリーズの第1回は、岡山県にある「すんごい地域」西粟倉村の「スゴイ理由」をうかがいました。当日の西粟倉村・上山さんのお話から、幸せ研ニュースレター記事を作成し、世界にも配信しましたので、その日本語版をお届けします。
当日見逃した方のために、当日のお話や質疑応答などをオンデマンド配信でもご覧いただくことができます。よろしければぜひどうぞ!
https://www.es-inc.jp/seminar/2021/smn_id011145.html
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村のビジョンを着々と実現する「すんごい」村:岡山県西粟倉村の取り組み
兵庫県と鳥取県との県境に位置する岡山県西粟倉村では、「百年の森林構想」というビジョンを、移住者も巻き込み、着々と実現しています。約1400人が暮らしているこの村は、約58平方kmの面積のうち93%が森林に覆われる山深い地域でもあります。移住者の数は現在200人ほど、この数は人口の約15%に相当します。地元の消防団の消防訓練の競技に参加する選手の半分が移住者であることからも、移住者が地域の中心的な存在になっていることが伺えます。
西粟倉村は、どのように村のビジョンを実現しているのか、そして、なぜこれだけの移住者が集まるのか。その理由について、西粟倉村役場の地方創生特任参事の上山隆浩さんに、お話を伺いました。
○「市町村合併しない」という覚悟が原動力に
西粟倉村が現在の姿になるうえで、大きなきっかけになったのは、「平成の市町村合併」と呼ばれる日本の政策でした。日本政府は人口減少や少子高齢化による深刻な財務状況などを背景に、1999年以降、全国的に市町村合併を積極的に推進していました。2005年までは合併した市町村に対する手厚い財政支援措置が行われていたこともあり、この時期、多くの自治体が近隣の市町村と合併しました。
西粟倉村でも合併について議論が行われましたが、その決定は「合併しない」というものでした。合併しなければ財政支援は受けられません。その中で、何とか経済的に自立していく必要があります。このときの「自立して生き残る必要がある」という覚悟が、現在の西粟倉村を作っていく上で大きな原動力となっています。
○活かせ! 村最大の資源
村をどのように経営していくべきか。村の資源は何なのか。このことを話し合う中で、村の面積の93%を占める森林を活かしきれていないことが問題になりました。この問題意識から生まれたのが、「森林に囲まれた上質な田舎を目指し、衰退している第一次産業にフォーカスして自治体としてチャレンジしていこう」という「百年の森林構想」です。
実際、百年の森林構想以前は、約1億円の生産額しかなかった森林関係事業の売上総額は、現在では約11億円と11倍の成長を遂げています。西粟倉村がここまでの成功を収めた大きな理由は、「ビジョンとプロジェクトをセットで行った」ことにあるそうです。どういうことでしょう?
「百年の森林構想」というビジョンを実現するためには、森林の管理・整備という「川上」で必要とされるプロジェクトと、森林の整備に伴って出る間伐材を、付加価値をつけて売る」という「川下」で必要とされるプロジェクトの両方を進める必要があります。
そのために、川上側のプロジェクトとして「村内の森林所有者から森林を預かり、間伐と作業道整備を行う」という計画的な森林管理を、間伐材を加工する川下側のプロジェクトとして「民間のベンチャー企業を巻き込んで、林業の六次産業化を進め、付加価値をつけて売る」ことを進めました。
こうして、ビジョンを実現するためのプロジェクトが同時進行で行われることによって、村の外に暮らす人たちにとっても、「西粟倉村ではこんなビジョンを持っていて、実際にこういうプロジェクトが行われている」ということが見える化されたのです。外から見えることによって、「檜の木は日本中にあるけれども、檜で家具を制作するなら、ぜひ西粟倉村で起業したい」といった形で、まず林業に関わる部分で、起業する人たちが集まってきました。
起業する人が増えるにつれて、現在では教育・介護・コンサルなど、現在までに50以上の多様なビジネスが西粟倉村では生まれています。
○メンターが伴走することで、「やりたいこと」をビジネス化
西粟倉村では、地域外からの人材の呼び込みも、一体的に行われています。2007年から2009年の3年間、森林資源を活かすために外部の人材を活用しようと、それまで役場や事業者、観光施設などでバラバラに採用していた人材を、統一的に募集していくために雇用対策協議会(通称「村の人事部」)を設立しました。
また、2015年からは同年に起業したエーゼロ株式会社が村と協働して、移住・起業支援や地域メディア事業(ウェブサイトによる情報発信など)に取り組んでいます。この仕組があることによって、村に必要な人材を集めやすくなります。また西粟倉村のビジョンに魅力を感じた人は、迷うことなく、村にアクセスし、ビジネスにつなげることができます。こうしてビジョンの中にプロジェクトや雇用の仕組みを一体的に組み入れている点は、西粟倉村の特徴であり、強みです。
その特徴は、西粟倉村では、起業する際にメンターが伴走する制度があることです。メンターとは、事業をすすめる上での仮説を立案し、具体的なアクションについて一緒に考える伴走支援者のことです。
メンターとの対話を通して、起業希望者には、「何がやりたいのか」を徹底的に考えてもらうそうです。「西粟倉村に移住したいので、村の中でできそうなビジネスモデルを考えてきた」という場合もあるでしょう。でも「本当にやりたいこと」でなければ、ビジネスは続きません。だからこそ、ビジネスプランを作る前の段階で、「やりたいこと」を徹底的に考えてもらい、そこがクリアになった後でビジネスプランを作るというプロセスを大切にしているそうです。
西粟倉村に移住して起業した人には、長くビジネスを続けている人が多いとのこと。それは、「やりたいこと」をビジネスにしているからでしょう。また、はじめは移住者が増えることにあまり好意的ではなかった人たちの中にも、移住者が長くビジネスを続けることで、移住者を「支援してあげよう」という雰囲気の人たちが増えているそうです。冒頭で紹介した地元の消防団の活動にかかわる移住者が増えていることも、村の暮らしに移住者が溶け込んでいる証でしょう。
○行政と民間がタッグを組んでビジョンとプロジェクトを実現
以上のように、西粟倉村では行政が、「百年の森林構想」といったビジョンを打ち出し、民間がプロジェクトを動かすという行政と民間の連携が非常にうまく行っています。この連携の仕組みもとても参考になります。
西粟倉村では役場の中に、2017年から2020年まで地方創生推進班という村のビジョンとプロジェクトを議論する組織がありました。この組織に所属する職員さんは、通常業務のほかに、業務として議論する時間を取っていました。議論の場では、ビジョンをみんなで考え、そのビジョンに関するプロジェクトを一人ひとりが考えたそうです。そして投票で選ばれたプロジェクトを実際に動かしました。
その際は、プロジェクトを考えた人はリーダー、そのプロジェクトに票を投じた人は後援者としてチームに加わります。このプロジェクトチームで、財源をどうするか、人材をどうするかについてなどを考えます。ビジョンをもとにアイデア出しを行うことは、多くの自治体が行っていると思います。でも、ただアイデア出しをするだけではなく、確実にプロジェクトまで持っていく仕組みを持っているところは少ないのではないでしょうか。これが「ビジョンとプロジェクトをセットで動かす」西粟倉村の強みです。
ただし、プロジェクトの全てを役場内で回すのでは、職員さんの負担が大きくなり、通常の業務にも差し支えます。また、村内の新たな起業や雇用にも繋がりません。そこで鍵となるのが、民間の組織です。
西粟倉村では役場の職員さんと民間の組織が、プロジェクトを一緒にマネジメントしています。たとえば、打ち合わせの日程調整や議事録作成は、民間組織が行っています。これだけでも、役場の職員さんの負担はかなり小さくなります。また、民間組織はローカルベンチャーの育成も行い、メンターとして起業者に伴走しています。
こうした形で行政と民間がタッグを組むことで、村のビジョンを、民間も巻き込んだプロジェクトとして実現していく仕組みを西粟倉村は確立しています。プロジェクトを動かす際、役場は交付金などを国から得る手続きをとることができるのでそのお金を地域の中で使えば、そのお金は地域の中で循環するし、雇用も増えます。
このように、ビジョンとプロジェクトをセットで進めること、森林管理と加工・販売のプロジェクトを両方行うこと、行政と民間の連携の仕組みがあることなど、さまざまな「包括的にプロジェクトを進める仕組み」が、西粟倉村に移住者や起業が集まる強みとなっているのです。西粟倉村のビジョンを着々と実現する仕組みは、皆さんの地域でも参考になるのではないでしょうか。
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地方創生の潮流の中で、あちこちで素敵な地域が出てきています。単発の取り組みが素晴らしい、というだけでなく、持続的に先進的なまちづくりをおこなっているところは何が違うのか? どのようなしくみ・しかけがあるのか? そこに最大のヒントがあるのではないかと思っています。
明日は海士町の「持続的に先進的なまちづくりをおこなうしくみ・しかけ」をじっくりお聞きしたいと思っています。どうぞお楽しみに!
https://www.es-inc.jp/seminar/2022/smn_id011261.html