エネルギー・気候政策シミュレーター「En-ROADS」
https://en-roads.climateinteractive.org/scenario.html?v=22.3.0
以前エダヒロのプチ解説として、「TNFD」を取り上げました。「自然関連財務情報開示タスクフォース」です。今回、TNFDのフレームワークのβ版が公表されたことを受けて、その解説も出したいなと思っていました。
そうしたところ、株式会社レスポンスアビリティの発行する「時代の流れを読み、サステナブルな明日を作るための「サステナブル経営通信」(旧サステナブルCSRレター)」
http://www.responseability.jp/mailmagazine
で、サステナブル・ブランド・プロデューサーの足立直樹さんが非常にわかりやすく解説して下さっている記事(3月18日発行)を拝読しました。ご快諾をいただいたので、足立さんがお書きになった解説をお届けします。足立さん、ありがとうございます!
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
《サス経》 「TNFDのβ版が公開、その影響は?」
こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。今晩が満月ですので、それにあわせて旬のサステナビリティの話題をお届けしたいと思います。
今週注目の話題はなんといってもTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)でしょう。というのも、今週の火曜日、日本時間では夜遅くにTNFDのフレームワークのβ版が公表になったからです。
あまりご存知ない方のために補足しておくと、TNFDはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の生物多様性版と言われるもので、これから企業が事業活動と生物多様性の関係について投資家などに情報を開示する際の国際的なデファクトスタンダードになるだろうと期待されているものです。
完成する前からデファクトスタンダードというのも変かもしれませんが、気候変動について大きな影響力を持つTCFDにならい、この分野に関係する世界中の組織がこぞって「TNFD推し」をしているので、デファクトになることは間違いないと思われているのです。
厳密にはTCFDとは出来た経緯がかなり異なるのですが、それでもTNFDは国際機関や影響力のある金融機関を巻き込むなどして、戦略的に影響力と正当性を高めようとしており、日本企業の間でも関心は鰻登りです。正直なところ、できる前から日本企業がこれほど注目する生物多様性関連の、いえ、サステナビリティ関連の枠組はこれまでなかったのではないかと思うぐらいです。
なので、大手メディアでもしばしばTNFDという言葉を見かけますし、私どものところへのご相談も増えています。そしてシンポジウムなどでは、TNFDという言葉が入るだけで反応が違います。
それだけ多くの企業人が、TNFDはどんな内容になるのか、興味津々、あるいは戦々恐々で待ち焦がれているということでしょう。
いよいよ今回それが発表になったのですが、今回のものはあくまでβ版です。しかもその一番最初のVer. 0.1であり、内容はこれから数ヶ月おきに改訂され、最終的には来年の秋、9月頃に公表になる予定です。
ですので、今回発表されたもので「決定」ではなく、むしろまだ策定途中です。その進捗を順次公開し、潜在的なユーザーからフィードバックを求め、それを反映して精度を上げていくということなのです。実際TNFD自身も、今回のβ版の発表は「TNFDと市場参加者との間での協議とパイロットテストの開始を意味します」と言っています。
具体的な内容ですが、まだTNFDフレームワークの全体の要素が揃っているわけではなく、1. 主要な構成要素である用語や概念の解説、そして2. 自然に関する情報開示のためのTNFDの現段階での提言、さらに3. 自然関連のリスクと機会を評価するための独自プロセスの説明の3つのみの公開です。
それ以外の要素である、自然関連データについての状況評価と提言や、FAQなどについては、今後の改訂版で随時加えていくそうです。また、今回提言された評価プロセス(LEAP)も、具体的なことを詰める作業は今後に残されています。
ちなみに今回のβ版は、報告書形式(※1)だけでなく、オンラインプラットフォーム(※2)としても準備されています。オンラインプラットフォームの方も、簡単な登録をするだけで誰でも利用できます。そして、エクゼクティブサマリー(※3)は、日本語版も用意されていますので、まずはこちらから目を通すと良いでしょう。
さて、肝心の内容、特に開示項目についても少しだけ触れておきたいと思います。これはこれまでも予告されていた通りなのですが、TCFDをそのまま自然(生物多様性)に焼き直したものになってます。ですので、開示すべき内容としてはガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目です。
そして、それぞれの項目について開示を推奨する内容もいくつか具体的に示されています。たとえばガバナンスについては「自然関連リスクと機会の評価と管理における経営者の役割について説明する」、戦略では「組織が特定した、短期、中期、長期の自然関連リスクと機会について説明する」、リスク管理ですと「自然関連リスクを特定し評価するための組織のプロセスについて説明する」などが挙げられています。
以上を見ればすぐ分かると思いますが、こういうことを実際に行っていなければ、フレームワークが完成しても開示しようがないということです。少なくとも、その場で取ってつけたような回答は無理ですし、したところで意味はありません。
もちろん最終版が公開されるまでにはまだ1年以上の時間がありますし、実際に情報開示が求められるようになるのはさらにそれより先です。まだ準備期間はあります。
ただし、ここでも注意していただきたいのは、自然(生物多様性)に関するリスクと機会の評価をきちんと行うには手間も時間もかなりかかるということです。私はこれまでいくつもの企業のそうしたプロセスに関わって来たので断言できますが、簡易的に行ったとしても、気候変動の時とは比較にならないぐらいの手間がかかります。そして課題への対応は、はるかに複雑なものになります。
具体的なリスク評価の方法論については、TNFDは一つに限定していません。TNFD自身が開発中の評価方法のLEAPについては、これまで存在していた方法論に比べて特別に簡単になったとか、イノベーションがあって大幅に手間が減るということは残念ながらなさそうです。
したがってTNFDのフレームワークは、明確に規定できるところは明確にして比較可能性を高めるものであり、既存のものより厳密であることに意味があるように思えます。投資家からすれば当然に必要なことですし、企業にとっても迷いは少なくなるでしょう。けれども、本質的でないことでお茶を濁したり、出来ていないことを覆い隠すことは難しくなりそうです。
一方、すでに生物多様性に関して自社の依存や影響を分析し、リスクの評価を行い、目標を掲げている会社におかれては、これまでなさって来たことを投資家の方に正当に評価していただく環境が揃うことなります。活動をどんどんアピールしていただければと思います。
また、これまでも生物多様性にきちんと取り組みたいと考えてきた会社の担当者の方にとっても、良いチャンスの到来です。今までなかなか理解を示してくれなかった社内を説得し、動き出すのに良い機運となるでしょう。
取り組み状況は企業ごとにかなり違うでしょうし、そもそもTNFDを含めて生物多様性についてすべきことは事業ごとにかなり異なります。どうすればTNFDに耐えられるように、そして本質的な取り組みができるのか? お悩みの方は、いつでもお気軽にご相談いただければと思います。
そして最後にもう一言だけ付け加えたいことがあります。今回のフレームワークで私がもっとも着目するのは、TNFDが「自然にとってマイナスの結果から自然にとってプラスの結果へとシフトさせるようサポートすることを究極の目的と考えている」と明言していることです。つまり、TNFDは単なる情報開示のためのフレームワークではなく、ネイチャー・ポジティブな社会を作るための手段なのだということです。
TNFDによってこれから世界は大きく姿を変えることでしょう。TNFDのためというより、そもそも世界がどう変化しようとしているのか、ぜひこの機会にじっくりと考えてみることをお勧めしたいと思います。
サステナブル・ブランド・プロデューサー 足立直樹
TNFDフレームワークβ版 https://tnfd.global/tnfd-framework/
※1 報告書形式 https://tnfd.global/publication/nature-related-risk-beta-framework-v01/
※2 オンラインプラットフォーム https://framework.tnfd.global/
※3 エクゼクティブサマリー https://tnfd.global/wp-content/uploads/2022/03/220315-TNFD-beta-v0.1-Executive-Summary.pdf
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