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つながりを読む

森林・土地・農業に関するSBT(科学に基づくCO2削減目標)ガイダンス

2022年10月05日

最近、気候変動に関して「SBT」という言葉を見聞きすることがありませんか?

SBTとは、Science-Based Targetのことで、企業が、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、1.5度に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することです。

この取り組みを進めているSBTiについての紹介を、取り組みメンバーであるWWFのサイトから引用します。(読みやすさのため、改行を入れています)

https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/409.html

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

SBTiは、WWF、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアティブです。

企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、1.5度に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進しています。

たとえば2050年といった長期的視点に基づいた、企業の温室効果ガスの削減に関するビジョンや目標を設定することを重視・推奨しています。また、この目標設定を支援するためのガイダンスやツールなども策定。

SBTiのもとで意欲的な削減目標を設定することにコミットした企業が、2020年10月に世界で1,000社を超え、2022年現在3,000社以上となりました。日本企業では2015年10月にソニーが最初の承認を取得し、2016年9月に第一三共、2017年には川崎汽船、コニカミノルタ、キリンホールディングス、コマツ、リコー、ナブテスコ等12社が参加し、以降急速に参加社数が増えました。パリ協定に沿った目標策定のグローバル・スタンダードとなっています。

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~

このウェブページには、現時点での最新情報として、以下の社数が出ています。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/409.html

SBTiに参加している日本企業
2022年8月24日時点 302社

SBTiから承認を取得済みの企業
●1.5℃目標水準
2015年に成立したパリ協定では、産業革命前に比べた世界の平均気温上昇を2℃以内に抑える「2℃目標」、さらに努力目標として1.5℃に抑える「1.5℃目標」を定めています。その後の科学的知見の積み重ねで、気候危機の被害を最小限に抑えるためには、1.5度に抑えることがより重要であるという認識が世界的潮流となり、2021年に開催されたCOP26ではこの「1.5℃目標」が事実上の目標に強化されました。
1.5℃目標の達成には、世界全体でCO2を2030年に半減、2050年にゼロにすることが必要です。1.5℃目標水準と承認された企業は、その排出経路に沿った中期目標を掲げている企業です。

<企業一覧> 155社
※一覧はサイトからご覧下さい。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/409.html

●2℃より十分低い水準および2℃目標水準
2℃目標の達成には、世界全体でCO2を2050年に半減、2075年頃にゼロにすることが必要です。2℃目標水準あるいは2℃を十分に下回る水準と承認された企業は、1.5℃目標には届かないものの、2℃目標達成の排出経路に沿った中期目標を掲げている企業です。世界の潮流からはさらなる引き上げが求められます。

<企業一覧> 93社

●科学と整合した目標を設定することにコミットしている企業
<企業一覧> 55社


Science Based Targets紹介パンフレット(日本語訳)から、もう少し抜粋して紹介しましょう。
http://sciencebasedtargets.org/wp-content/uploads/2016/04/Science-Based-Targets-Call-to-Action-Brochure-Japanese.pdf

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

■SBT (SCIENCE-BASED TARGETS)の定義
企業による温室効果ガス(GHG)の削減目標が、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)に記述されているように、地球の気温上昇を産業革命前の気温と比べて2℃未満に維持するために必要な脱炭素化のレベルと一致している場合に、それらの目標は「科学と整合した」ものとみなされます。

■気候変動に対する企業とその役割
政府、企業、市民社会やその他の主体による気候変動対策の実施にもかかわらず、人為起源のGHGの総排出量は増加し続けています。 現在のペースが続けば、全球平均気温は、今世紀末までに3.7から4.8℃上昇すると予測されています。これは、これまで世界の科学界が安全としていた温暖化レベルをはるかに超えています。

世界の炭素予算とは、気温の上昇幅を辛うじて対処可能な2℃というレベルに、ある程度の確信度をもって抑える上で許容されるGHGの総排出量のことです。SBT (Science Based Targets)では、この炭素予算を参照し、既存のさまざまな手法を活用しながら、企業に対してGHGの排出量を配分し、企業の排出上限を設定します。

世界のGHG排出の大部分は、直接または間接的に企業部門の影響を受けています。 私たちの環境を保護し、低炭素経済への移行をスムーズで豊かなものにするために、企業は明確な役割を担っているのです。

■SBT (Science Based Targets) 設定の際の基準は、次のとおりです。

・ 範囲:目標は、GHGプロトコルのコーポレート基準における要請の通り、会社全体のスコープ1およびスコープ2排出量と、関連するすべてのGHGをカバーしなければなりません。

・ 時間枠: 目標は、発表日から最短で5年間、そして最長で15年の期間をカバーする必要があります。

・ 削減水準:目標は、少なくとも地球の気温上昇を産業革命前の気温と比べて2℃未満に維持するために必要な脱炭素化のレベルと一致するものとします。ただし、SBTイニシアティブでは、1.5℃以下に向けて企業が更なる取組みを行なうことを推奨しています。

・ スコープ3: スコープ3排出量が企業全体の排出量に占める割合が大きい(スコープ1、2、3の排出量合計の40%を超える)場合は、明確な時間枠を持つ、意欲的かつ算定可能なスコープ3の目標が必要です。 GHGプロトコルのスコープ3算定報告基準で定義されているように、目標の範囲(バウンダリ)はバリューチェーンの排出量の大部分を含める必要があります(例: 上位3カテゴリー、またはスコープ3合計排出量の2/3、等)。

・報告: 企業は、年に1度、全社的なGHG排出量インベントリを開示するものとします。

■その他の推奨事項/要件は次のとおりです。

・ 企業は、長期的な目標も設定することが奨励されます(例えば、 2050年目標等)。

・ 企業は、総量と原単位の両方で目標を示すことが奨励されます。

・ 目標期間を通じて削減の状況を矛盾のないかたちで管理していくため、目標の妥当性と整合性を損なわせる様な重大な変化があった場合は、必要に応じてそれを反映し、目標を再計算する必要があります。目標の再計算が必要となるような事態としては、GHGインベントリ内のガスの種類、成長予測、その他SBT目標設定の際の想定などに大きな変化が生じた場合、また、事業自体やデータに変化が生じた場合、そして、インベントリ計算過程で使うべき排出係数の変化があった場合などがあげられます。排出係数が変わった場合には、基準年のインベントリについても同様に再計算する必要が生じます。企業は、目標の設定にあたり前提とした様々な将来見通しの妥当性を、年に1度は検証する必要があります。


~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


さて、このSBTはこれまで製造業などを中心に推進されてきましたが、先日9月28日に、森林・土地・農業 (FLAG)に対するガイダンスが出されました。以下のサイトから紹介します。
https://sciencebasedtargets.org/sectors/forest-land-and-agriculture
https://sciencebasedtargets.org/news/the-sbti-launches-the-worlds-first-standard-method-to-cover-land-related-emissions-and-removals

十分に認識されていないのですが、農業、林業、その他の土地利用による排出は、世界の温室効果ガスの22%を占めており、エネルギーセクターに次ぐ排出源となっています。こういった土地集約型セクターの企業がしっかりした削減目標を設定して実行していくことは、気候変動の悪化に歯止めをかける上で非常に重要なポイントとなります。

SBTiのFLAGガイダンスは、農業や林業その他の土地集約型セクターの企業が、土壌由来の排出削減・炭素除去を含む科学的根拠に基づく目標を設定するための、世界初の標準的手法を提供するものです。これによって、これまで対応が遅れていた世界の排出量の22%に対処していくことができるようになります。

土地集約型事業を行っている410社を超える企業がSBTiを通じてコミットメントまたは目標を設定し、その約半数は温室効果ガス(GHG)排出量を公表、38%はネットゼロ目標の設定を約束しています。しかし、これまではガイダンスがなかったため、土壌からの排出(林業や農業生産、土地利用の変化や土地管理、農場での車両や肥料生産からの排出など)や、土壌による炭素除去を考慮に入れた上で目標設定や情報開示をしているところはほとんどありません。

今回の枠組みは、森林伐採から食生活の変化までを網羅するセクター全体のアプローチであり、牛肉、パーム油、乳製品、鶏肉、木材、木材繊維など、炭素排出量の多い主要商品について11の緩和経路を設定しています。

土地集約型セクター(食料・林業など)に属する企業や、土地に関連する排出量が全体の20%以上を占める企業は、今後、FLAGのSBT(科学に基づく目標)を設定することが求められます。

企業は、今後5~10年間の排出削減を関する短期的なFLAG目標に加えて、SBTiネット・ゼロ基準に沿って、2050年までに少なくとも72%の大幅な排出削減を達成する長期的なネット・ゼロFLAG目標の策定が奨励されます。

最優先事項は、森林破壊による排出の削減と炭素吸収源の強化です。土地利用変化による緩和の可能性の80%は、森林破壊の阻止によるものです。FLAG目標を設定する企業は、遅くとも2025年までに森林破壊をゼロにすることを公的にコミットメントすることが求められます。

また、土地セクターにおける緩和の可能性の半分以上は、炭素除去によるものです。そのため、SBTi FLAGガイダンスでは、土壌からの排出削減の目標だけでなく、土壌の炭素貯留や森林管理の改善なども含めることを求めています。(もっとも、炭素除去は排出量の大幅な削減に代わるものではありません)

「FLAGのSBT設定ガイダンス」は、165以上の団体から1,600件以上のコメントが寄せられたパブリック・コンサルテーションを含め、企業、学術界、市民社会との協議により作成されました。

SBTi FLAGガイダンスの主な要求事項

1.短期的なFLAG科学的根拠に基づく目標を設定する
温暖化を1.5℃に抑えるという目標に沿った5~10年の排出量削減目標。

2.短期的なFLAG科学的根拠に基づく目標は、炭素除去を考慮すること
温室効果ガスの除去には、森林管理方法の改善や、作業地での土壌炭素貯留の強化などが含まれます。

3.FLAGの科学的根拠に基づく長期目標を設定する
森林、土地、農業分野の企業は遅くとも2050年までに排出量を74%以上削減する。SBTiネット・ゼロスタンダードを用いて、科学的根拠に基づく長期的なFLAG目標を設定する必要がある。

4.森林破壊ゼロの目標は、遅くとも2025年までに設定されなければならない
アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアチブ(AFi)に沿ったものであること。

5.化石燃料の排出量について、科学的根拠に基づく目標を設定すること
すべての企業が化石燃料からの排出を行っているため、土壌からの排出を伴う企業は、FLAGのSBTと、通常のSBTの両方を設定する必要があります。

「SBTi FLAGガイダンス」はこちらからダウンロードできます。(英語)
https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTiFLAGGuidance.pdf


7月16日に配信した [enviro-news 2840] では、「2つの循環、一石二鳥!の未来炭化ユニット、始動しました」と題して、熱海・未来創造部の新しいプロジェクトについて紹介しました。
https://www.es-inc.jp/library/mailnews/2022/libnews_id012167.html

これは、今回ご紹介したガイダンスの対象でもある、土壌による炭素除去・固定化のための炭化プロジェクトです。

脱炭素・カーボンニュートラルは重要ですが、それだけでは足りません。今後排出する二酸化炭素を削減することに加えて、大気中にすでに存在している二酸化炭素を除去・固定化することによって、地球の炭素循環のバランスを正す一助となりたいという思いで立ち上げました。

これまで、地域で出る端材や剪定枝、農作物の残さなどの多くは、燃焼されて二酸化炭素の排出源となっていました。本プロジェクトでは、これらの未利用資源を適切な形でバイオ炭(バイオマス資源からつくられた炭)にすることで、地域資源として循環させ、地域循環共生圏の一端を担う役割も果たします。

未来創造炭化ユニットのサイトも立ち上げ、情報を出し始めています(まだ構築中ですが)
https://www.mirai-biochar.net/

このプロジェクトでは、自治体や企業、地域の団体などに向けて、製炭ユニットの販売、レンタル、出張製炭、製炭サービス(持ち込んでもらった間伐材・剪定枝などを炭にしてお返しするサービス)を展開していきます。

「実績事例」では、出張製炭の事例を紹介しています。
https://www.mirai-biochar.net/trip-achievement

「日々の活動」でも日々の取り組みを発信していきますので、よろしければウォッチ下さい。
https://www.mirai-biochar.net/activity

カーボンニュートラルから、炭素除去、そして炭素固定化へと、気候変動をめぐる世界の動きも加速しつつあります。できるだけお伝えしていけるよう、頑張ります!

 

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