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10月24日に、IEA(国際エネルギー機関)から、世界のエネルギーの今後の見通しが発表されました。メディアにも取り上げられているので、ご覧になった方も多いと思いますが、「化石燃料の需要、2030年までにピーク」といった見出しがついていますが、「化石燃料がピークに達して減っていく」のはもちろんうれしいことですが、「2030年までは増え続ける」ということは全然うれしくないことです。
(ご紹介)
先週の幸せ研読書会で、『資本主義の次に来る世界』(ジェイソン・ヒッケル著)の第2部を「解決編」として取り上げました。音声受講も含めると30人ほどの参加者を得て、みなさんの関心が高いことを感じました。
「近年、読んだ本で一番刺激を受けた」、「とても刺激的で、いろいろな示唆があった」という感想もいただいています。
ご興味がありましたら、音声受講できますので、講義の内容と資料をご活用ください。
(音声受講)「幸せと経済と社会について考えるオンライン読書会」
『資本主義の次に来る世界』を読む ≪解決編≫
(ご紹介ここまで)
10月24日に、IEA(国際エネルギー機関)から、世界のエネルギーの今後の見通しが発表されました。メディアにも取り上げられているので、ご覧になった方も多いと思いますが、「化石燃料の需要、2030年までにピーク」といった見出しがついていますが、「化石燃料がピークに達して減っていく」のはもちろんうれしいことですが、「2030年までは増え続ける」ということは全然うれしくないことです。
「こんなに世界中で再エネが増えているのに!」と思うかも知れませんが、それこそ、『資本主義の次に来る世界』に書かれているように、「経済成長によってエネルギー需要が増え続けているので、どれだけ頑張ってクリーンエネルギーを増やしても、成長を続ける限り、追いつかない。だから、世界のクリーンエネルギーは増えているのに、CO2排出量は減るどころか増え続けている」という状況なのです。再エネを増やしつつ、エネルギー需要そのものを減らしていかないと、いつまでたっても......という状況になってしまいます。
さて、『資本主義の次に来る世界』には、読書会では時間が足りなくて紹介できなかったけれど、ものすごく大事な指摘があります。「パリ協定の危険な賭け」という見出しのついたところから、キーポイントを紹介したいと思います。
~~~~~~~~~~~~~ここから抜粋引用~~~~~~~~~~~~~~~
「パリ協定の危険な賭け」
・署名国のNDCのすべてを合算しても、1.5℃目標にも、2℃目標にも及ばない
・世界のすべての国が自国のNDC(自主的なもので、拘束力はない)を達成しても、世界排出量は増え続ける
・今世紀の終わりまでに少なくとも3.3℃上昇するのは確か
・パリ協定があっても、破滅に向かって歩み続けている
(裏話)
・2000年代の初め、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の気候モデル開発者は、気候変動を抑制するために必要な排出量削減レベルはきわめて高く、継続的な経済成長と両立しないことに気づいた
・クリーンエネルギーヘの移行を実現する唯一の方法は、工業生産のペースを積極的にスローダウンすること
・気候変動を抑制するために経済成長を犠牲にするというシナリオは、アメリカなどの主要国の賛同を得られない
・国際社会:「極度の貧困を終わらせるという」もう一つの共通の目的のもとで結束している
・世界の指導者たちは、「貧困を撲滅する唯一効果的な方法は、世界経済の成長を促進することだ」と言い続けてきた
・したがって、成長を止めてはならない!
(解決策?)
・2001年、マイケル・オーバーシュタイン(オーストリアの学者)がBECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage :CO2回収貯留付きバイオマス発電)を発案
・カーボンニュートラル〔排出量実質ゼロ=温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること〕を実現するだけでなく、大気中の炭素を積極的に除去
1.世界中で大規模な植林を行う
2.木は成長するにつれて大気中のCO2 を吸収する
3.木が十分成長したら、伐採してペレットに加工し、発電所で燃やしてエネルギーを生成する
4.その際に排出される炭索を煙突内で回収し、地下に貯留する
(BECCS)
・カーボンバジェット〔炭素予算:気温上外をあるレベルまでに抑えるための、温室効果ガス累積排出量の上限〕を超過しても、BECCSが今世紀中に大気中の過剰なCO2を回収し、安全なレベルに戻してくれるのだから問題はない
・今、排出して、後で回収すればよい
・資本主義を偏つけることなく気候目標を達成できるという魅力的な可能性を提示
・グリーン成長を楽観する人々にとって真の希望に
・BECCSの実現が可能であることを示す証拠はまだなかったが、IPCCはBECCSを公式のモデルに組み込んだ
・IPCCの第5次評価報告者(AR5)の中で、BECCSは温暖化を2℃以下にとどめるための116のシナリオのうち110以上に組み込まれた
・各国政府:AR5のシナリオに従って、自国の排出量削減が目指すべきスピードを決めている
・だから、各国の計画は2 ℃達成のためのカーボンバジェットを大幅に超過している
・誰もがBECCSが人類を救うことを前提としたシナリオに頼っている
・つまり、地球の生物圏と人類の文明の未来は、ほとんどの人が知らず、誰も同意していない計画にかかっている!
(BECCSが救世主とならない理由)
・気候科学者は当初からBECCSについて警鐘を嗚らしており、その音は年々大きくなっている
・致命的な問題の1つ:大規模での実現が可能かどうかがわかっていない
・BECCSが機能するには、年間150億トンほどのCO2を吸収するCO2回収・貯留(CCS)システムが必要
・現在のCCSシステムの処理能力:約0.28億トン
・典型的なCCS設備の処理能力:約100万トン
・150億トンの処理のためには、1万5000基の建設が必要
・人類史上最大級のインフラに
・期限内にやり遂げられるか?
・採算をあわせるためには、炭索価格をEUが定めた価格の10倍にする必要
・IPCCのシナリオが想定する量の炭素をBECCSで除去するには、インドの2~3倍の面積のバイオ燃料プランテーションが必要
・地球上の耕作可能な土地のおよそ3分の2に相当する面積
・深刻な食糧不足や飢饉の可能性
(BECCSに賭ける?)
・BECCSに賭けて、当面、排出量を削減しないことにしたら、もう後戻りはできない
・BECCSが失敗した場合:その先にあるのは極度に温暖化した未来
・大半の国の気候戦略が、このように危険で不確かな技術を軸にしている
(気候のティッピングポイント)
・カーボンバジェットを超過するとティッピングポイントに到達し、フィードバックループが始動して、気候が完全に制御不能になる可能性が高い
・そうなるとすべての苦労は無駄になる
・未来のどこかで大気中のCO2を除去できたとしても、気候のティッピングポイントを元に戻すことはできない
(BECCS を考案したオーバーシュタインいわく)
「モデラー(温暖化対策を計画する人々)は、そのアイデアを「悪用」し、温暖化を1.5℃から2℃以下にとどめるという通常のシナリオに含めた。 そして政策立案者は、厳しい排出削減要求から逃れるために、BECCS を現状維持の言い訳にした」
・BECCS に反対する科学的コンセンサスは、今では揺るぎないものに
・最新の試算:BECCSの安全な利用(プラネタリー・バウンダリーと人間の食料システムに配慮する利用)によって、世界のCO2排出量を最大1%削減できる
(IPCC)
・2018年10月、特別報告を発表
・ネガティブ・エミッション技術に頼れないことを認めた場合、温暖化を1.5℃以下に保つには何が必要か?
・気温上昇を1.5℃以下に保つには、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに半減し、2050年までにゼロにする必要
・現在の文明が進む方向を急速かつ劇的に逆転させる必要!
・過去250年間、世界規模で化石燃料のインフラを築いてきたが、わずか30年でそれを全面的に見直さなければならない
・ほんの数十年で、すべてを変える必要がある!
・ショッキングなニュースとして世界中のメディアで報じられ、市民を行動へと駆り立てた
・ヨーロッパと北アメリカ各地で、学生が気候変動対策を求めるストライキを行った
・イギリス議会は「気候非常事態宣言」
・IPCCでさえ、BECCSなどの不確かな技術に頼らない場合、エネルギー需要が増え続けると、2050年までにクリーンエネルギーによってゼロ排出を達成する見込みはないことを認めている
・目標を達成したいのであれば、逆のことをしなければならない
・エネルギー消費を縮小するしかない
~~~~~~~~~~~~~抜粋引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
スライドからの抜粋なので、箇条書きで読みづらいところがあるかもしれませんが、私と同じように、ゾッとされた方も多いのではないでしょうか。
やはり、経済成長を追い続ける「資本主義」の次の世界にシフトしていかなくては、と思います。
10年以上前になりますが、そういう思いで、「経済成長を考える」コーナーを立ち上げました。今でも、いや、今こそ、しっかり向きあって考えるべきことだと思います。
https://ishes.org/economic_growth/
経済成長を考える
経済成長のジレンマ
経済成長は持続可能ではない
脱経済成長は不安を引き起こす
デカップリングでは問題が解決できない
ではどうしたらよいのだろうか?
「定常経済」について考える
なぜ「定常経済」が必要なのか
「定常経済」とは何か
「定常経済」につながる取り組み事例
参考図書・情報
という流れで、11月の読書会では、斎藤幸平さんの『ゼロからの「資本論」』を取り上げます。一緒に考えてみませんか。
https://www.ishes.org/news/2023/inws_id003463.html
(お申し込み)
https://peatix.com/event/3733750/view
世界的に、「経済成長の問い直し」や、「脱成長」の動きが出てきています。そういった経緯や動向をまとめた論考を発表できる予定なので、掲載されましたらお知らせしたいと思いますし、今後もこういった動きをしっかり見ていきたい、考えていきたい、広げていきたいと思います!