エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン
情報更新日:2005年06月13日
「レスターと語る、アメリカの環境政策、気候変動、自己マネジメント」
【枝廣】
今、レスターの話を聞いていただいて、皆さんのほうにもきっと、いろいろなお聞きになりたいこと、それから皆さんがコメントしたいこと、おありだと思います。私が代表になれるとは思えないのですが、この機会に、私のほうからもいくつか聞いてみたいことがあるので、レスターにいくつか質問をしてみたいと思います。
最初の質問は、アメリカの大統領選の結果についてです。皆さん、これが見えますか? レスターのノートのおもてに、「ジョン・ケリー」というシールが張ってあります。レスターは、もちろんジョン・ケリーを応援していたわけです。
残念ながら、ブッシュ大統領があと4年、大統領としてアメリカの政権を担うということになりましたが、今後の4年間、ブッシュ大統領の下でのアメリカの環境の政策なり―もちろん京都議定書から離脱しているわけですが、どのような見通しをレスターが持っているのか、聞いてみたいと思います。
【レスター】
ブッシュ政権が環境政策を自ら変えるとは思っていません。しかし、アメリカで、何らかの形で政策を変えなければならないという状況に物事が発展していくということは想定できると思います。
たとえば、先ほど申し上げたように、世界の食糧供給が減少している一方で、価格が過去5年間上昇しています。そして来年、また再来年の間に熱波がやってくる、収穫量が大幅に減る、そして食べ物の値段がさらに上がる、というような事態になれば、アメリカ政府は何らかの方法で対応しなければならなくなります。つまり、このような問題を抑えるために、より積極的な努力を行わなければならないという状況になると思っています。
【枝廣】
こちらから見ていると、たとえばレスターにしても、ほかの人にしても、アメリカの環境主義者の方が、たとえば日本に来て素晴らしい話をしてくださる。でも一方でやっぱり、「アメリカを何とかしてくれないと困るんだけどなあ」と思うんですね。
もちろん、日本は日本で一生懸命やっていることはやっているし、変えなきゃいけないことはありますけれども、でも、世界の二酸化炭素排出量の4分の1はアメリカが出しています。ですから、アメリカがやはり、ちゃんとやってくれないと、アメリカだけどこかに行くんだったらいいんですけど、世界をみんな引きずり込んで、どこかに行ってしまわれるのでは困るので。
そういった点で私は、アメリカのNGOがどういうふうにブッシュ政権に働きかけをしているのかな、と思っています。明らかに一つ気がついたことがあります。9・11の後に、アメリカの、環境だけではないですけど、多くのNGOが、反ブッシュの姿勢やブッシュ政権に対する批判を一切やめてしまいました。あれはかなり大きな出来事だったのだろうと思います。
それから今、少しずつ、再びブッシュ政権に対するいろいろなキャンペーンなどの行動が起こっていますが、アメリカの市民もしくはNGOとして、ブッシュ政権の、たとえば反環境的な政策や、国際的にも京都議定書から離脱するといった行動に対してどういうふうに思っているのか、どういうふうに変えようとしているのか、そのあたりをぜひ聞いてみたいと思います。
【レスター】
2001年の春に、ブッシュ政権が京都議定書から離脱すると宣言した当時に、『タイム誌』は、全国規模の世論調査を行いました。アメリカ人の65%は、京都議定書からの離脱を誤りだったと考えていたという結果でした。
アメリカ人の間では、環境問題に対して、特に気候変動の問題に関して、懸念が高まっています。アメリカ人も、多くの記事を目にしています。たとえば、北極、アラスカの氷が融解を始めている。それによって永久凍土が解けたり、アラスカ、カナダ国内の地域が冠水するといったような事態も知っているわけです。
ですから、環境面でさまざまな問題を抱えているということは、十分認識しています。ですから、何とかしなければならない。しかし不幸なことに、今回の選挙においては、テロに対する戦争という問題のほうが、環境問題よりもより多くの関心を集めてしまった。そして、環境問題の影が薄くなってしまったという側面があったと思います。
【枝廣】
私たちが、ジャパン・フォー・サステナビリティをつくったときに、「日本の企業は環境にいい取り組みをしています」「それは単に地球のためにやっているのではなくて、環境に真剣に取り組むことで、実は経済的にもプラスになっています」「環境はもうかるんです」という事例を、たくさん日本から世界に出したいと思っていました。実際に、そういう記事をできるだけ探して出すようにしています。
それは、JFSというNGOが、アメリカ政府に何かアプローチを、キャンペーンをするのは無理なのですが、私たちのニュースを読んでくれている―今、170カ国近い国々の人たち、アメリカの人たちもたくさんいるんです―アメリカの経済界や企業の人たちが、「ああ、日本では環境をやるともうかるんだ」「環境をやると生産性が向上するんだ」「経済的にも改善するんだ」「これは競争優位になるんだ」ということをわかってくれれば、アメリカ政府が何と言おうと、「自分たちだって日本に負けないために、環境をちゃんとやろう」と思ってくれるのではないか、そして、アメリカ政府に対して、アメリカの企業から、「日本に負けないように、京都議定書をきちんと批准しなさい」と圧力をかけてくれないかな......。個人的にはそのような大それた思いも抱いて、JFSを仲間と作ったのでした。
今、JFSのニュースをたくさんのアメリカの人、また世界の人が読んでくれていて、少しずつでも役割を果たせているかなと思いますが、私たちが日本から、日本でもちゃんと自分たちのことはやるとして、アメリカに何か働きかけができないかな、と思っています。日本からの働きかけや影響について、アメリカから見てどうでしょうか?
【レスター】
まず初めに申し上げておきたのは、アメリカや世界の国々に対する日本の重大な貢献の一つが、ガソリンと電気のハイブリッド自動車の開発だと思っていることです。初めにトヨタが開発し、次にホンダもこのような自動車を発表しました。
アメリカでは、このようなハイブリッド自動車に対する需要が非常に高まっています。当初、アメリカの自動車産業は、このようなハイブリッド車には関心を持っていませんでした。しかし市場での売れ行きを見て、自分たちでも、これは真剣に取り組んで開発し、市場に送り出さなくてはと、開発を始めました。
この間、フォードはエスケープというSUV車を開発しましたが、当初はハイブリッド車を造る技術を持っていませんでした。ですので、ライセンス契約によってトヨタからこの技術を手に入れて、このSUVを開発したのです。
デトロイトの自動車産業界は、このようなハイブリッド車が大変売れているということに驚いています。そしてトヨタやホンダに続く自動車の開発をしています。プリウスのおかげで、トヨタは非常に強い企業イメージを打ち立てました。それによって、トヨタのほかの車も売れるようになっています。
ところで自動車産業界では「ビッグ3」というものがあります。ジェネラルモーターズ、フォード、そしてトヨタです。デトロイトでは、「ビック3ではなくビック1、つまりトヨタの下に収束するような事態が生じるのではないか」ということを大変懸念しています。
もう一つ、日本がリーダーを務めている分野があります。太陽電池の開発ならびに製造です。屋根型太陽電池システムの技術はもともとアメリカで開発されたものでしたが、これを商業化したのが日本でした。太陽光発電設備を開発し、成長させたことで、日本はこの分野でも世界的なリーダーになっています。
【枝廣】
そうすると、日本の技術力でアメリカでもたくさん求められるものをつくって、「良貨は悪貨を駆逐する」という作戦で行く道なのかなと思います。
今、ハイブリッド車や太陽電池の話が出ましたが、これからおそらく日本が、同じような技術的な力で生かせると個人的に思っているのは、小型燃料電池や小型風力発電です。
日本の技術力は、物を小さくするのに非常にたけていますよね。ですから、今では普通のおうちに付けられるような風車もできていますし、普通のマンションのベランダに置けるような小型の燃料電池も、もうじき普通に買えるようになると思います。またはカートリッジ型で、小さなパソコンや携帯電話向けの超小型の燃料電池もありますよね。アメリカでは、このような技術や商品の潜在力にまだ気がついていないと思います。別に小さいのは必要のない、大きな国ですから。
でも、各家庭で燃料電池で発電する、各家庭で、単に太陽光発電だけではなくて、風車が回る。そうなったとき、アメリカの人は非常に独立精神が旺盛ですから、送電線に頼るんじゃなくて、自分の家ですべてつくれるとなったら、手に入れようとするでしょう。私は、大きな需要がアメリカで出てくるだろうと思います。
ですからレスターの所にはまだそういう情報が届いていないようですが、小型の燃料電池、そして風力発電機は、これから注目!だと、私自身は思っています。ぜひレスターにも、このへんも見ていてほしいですね。
話題を変えます。今年の夏は異常気象でした。「今年の夏も」と言うべきか......。この間、テレビで「今年の夏も異常気象でした」というのを聞いて、「も」っていうのはないよなー、異常気象というのは、異常だからそういうのであって、「今年『も』異常気象」っていう言い方はないんじゃないかな、と思って。
たとえば、今年は世界でも異常気象でしたし、日本でも台風がたくさん上陸しました。アメリカでも、非常に強いハリケーンがフロリダのあたりに上陸して、大変な被害を残しています。私たち日本の中では、「これはもしかしたら気候変動、地球温暖化の一つの現れじゃないかな」「何かこのままじゃ、ほんとにまずいんじゃないかな」という思いがたくさん出てきています。
実際にこういう昨今の異常気象が、地球温暖化とどういうふうにかかわっているのでしょうか? そしてアメリカの人たちは、こういう異常気象をどういうふうに考えているのでしょうか?
【レスター】
第一に、気象学者たちは現在、今後より破壊的な台風や嵐が頻繁に起こるのではないか、ということを懸念しています。
そして、この見通しに対して最も不安を抱いているのが、世界の保険業界の人たちです。というのは、台風や嵐の余波をまともに受ける立場にあるからです。
今年の夏、日本では10でしたか、記録的な数の台風に見舞われたと聞いています。一方フロリダでは、6週間のあいだに4回も、かなり破壊的なハリケーンの被害を受けました。太平洋側では台風、大西洋側ではハリケーンと呼ばれていますが、このような台風や嵐が増えることは、必ずしも温暖化したからそうなるといえるものではありませんが、最も予測できる地球の温暖化が引き起こす現象のひとつは、このような台風の増加であるという因果関係だと思います。
もう一つ、このような地球の急速な気候変動の現象として、北極海の氷の問題も出てきています。北極海の氷というのは、平均しても2キロぐらいと薄いものなのですが、この北極海の氷が融解し始めています。このままでは、10年以内に、夏には北極海にはまったく氷がないという状況が出てくる可能性すらあるのではないかと考えられています。
北極海に氷が張った状態では、空から降り注ぐ太陽光の8割は、反射して宇宙に帰っていきます。熱として吸収されるのは20%です。ところが、北極海に白い氷がなくなってしまうと、黒い海が広がりますから、この比率がまったく逆転してしまいます。宇宙に反射して帰っていくのは20%だけで、残りの8割は熱として吸収されます。そうすると、北極の温暖化が急速に加速されてしまいます。
仮に北極の氷が全部解けたとしても、海水位には影響がありません。もともと海中にあるからです。ところが、北極の温暖化が急速に進んで、グリーンランドにも影響が出てくることになると、話はまた別です。
グリーンランドは、テキサス州の3倍もの面積があります。そしてグリーンランドを覆っている氷がすべて解けてしまうと、海水位は7メートルも上昇してしまいます。そのようなことが起これば、湾岸地域にある村・町等は水没してしまうでしょう。もっとも、グリーンランドを覆っている氷は大変厚いものですから、これが全部解けてしまうまでには、数世紀かかると考えられますが......。
2カ月ほど前、ある会議に出席した折に、ハーバードの気象学者と話をしました。グリーランドの氷がこれから解けだすことになれば、50年ごとに1メートル海水面が上昇するだろうと言っていました。
私は、地球の温暖化は大変に深刻な問題だと思っています。それに目を向けなかったわれわれの側にも、このような温暖化の危険を冒した原因があると思っています。
【枝廣】
レスターは、1974年にワールドウォッチ研究所をつくってから、温暖化を含めて地球のいろいろな環境問題について、「このままだとマズイよ」「ここもこうなってきてるよ」「ここも悪化してるよ」と警告を発してきました。レスターが始めた『地球白書』は、そのような現状について毎年報告する報告書として出されている本です。
このように、30年間、ずっと警告を発しているのに、世界は耳を傾けずに、自分が予言したとおりの悪い傾向がどんどん出てきている状況を、レスターはずっと見てきているんですね。
私はレスターとお付き合いを始めて10年ぐらいですが、いつもすごいなあと思うのは、そのようにどんどんと悪化する地球を見つつ、そして自分の意見に対して、おそらくいろいろなプレッシャーや批判、反対意見を受けている(その一部は、私もそばにいて見ることがあります)にも関わらず、レスターはいつも穏やかで、とても生産的な人なんですね。
カッとしたり、何かむやみな行動をしたり、落ち込んで活動をやめたり、そういうことは、少なくてもこの10年間、私は1度も見たことがありません。いつ会っても穏やかで、二人でいるときはほとんど冗談ばかり言っているんですが、いつも本を書いたり構想を考えたり、新しいことを研究して発表しようとしていたりしています。
今日は、プレ講演の中で、私は「自分マネジメント」という話をしました。地球温暖化の深刻な話題から少し、個人的な話に話題を変えて、レスターの「自分マネジメントのコツ」を聞いてみたいなと思います。
どうやって、これだけいろいろな大変なプレッシャーの中で、穏やかで生産的な自分を保っていられるのか、そのコツを、もしくは気をつけていることなどあれば、教えてほしいなとに思います。
【レスター】
以前、同じような質問をある大学の講堂で受けたことがあります。聴衆の女性から、「地球環境にこんなに大変なことが起きているのに、どうしてそんなに落ち着いていられるのですか」と質問されたのです。
私は一言、「バーボンさ」と答えました。(笑)
いかに行動の変化を起こすかということを考えたとき、新たな情報や新たな経験によって、人は行動を変えていく、思うのです。1974年にワールドウォッチ研究所を立ち上げた時の目的は、「世界で起きている環境問題に対して、世界中の関心を集めたい、焦点を当てたい」ということでした。ワールドウォッチ研究所では、必要な変化を起こすためにはどうすればいいのかを探り、必要な変化を起こすことを目的にしていたのです。
私がいまだに希望を持っている理由の一つは、社会的な変化というのは、突然、まったく予測できない形でやってくることもあるからです。社会がある「閾値」を超えると、どんどん変わり始める。その時期がいつかということを、われわれは必ずしも予測できないのだと思います。
一つの例ですが、1989年にベルリンの壁が崩壊しました。それによって、東欧では政治的な革命が起きました。ところが1980年代のどの政治科学の論文を見ても、「もうすぐ東欧で大きな変化が起きる」と書かれているものはありません。この変化も、突然、予測できない時にやってきたのです。
ある朝、東欧の人たちは目が覚めたときに、はっと気づいたのです。今までの壮大なる社会科学の実験は終わったんだ、と。中央集権型の計画経済や、一党支配の政治体制は過去のものになったのだ、と。
一般市民だけでなく、権力者さえも、こうした社会科学の実験が終わったことに気がついたのです。ですから東欧では無血の政治革命ができたのだと思います。そうして共産主義から民主主義への移行が行われたのでした。
もう一つの事例を挙げましょう。私たちはワシントンで、石油や石炭の業界が、アメリカのエネルギー政策や気候政策に多大な影響を及ぼしていることを嘆いています。
ところが、10年ほど前を思い返してみると、当時の最大のロビー団体は、たばこ関連産業でした。政策に大きな影響を及ぼしていました。ところが、1998年の11月にたばこ産業は、喫煙に起因する病気の治療にかかる過去のコストを各州政府に支払うことに合意をしました。その補償金額は、2,510億ドルにものぼります。アメリカ人1人当たりでは約1,000ドルを支払うという計算です。
このようなことが実際に起きたわけですが、たとえば私が10年前に、「たばこ産業が折れて、州政府に対して巨大な補償金額を支払うだろう」と予測をしたらどうでしょうか。皆さん、おそらく信じられず、きっと「レスター・ブラウンは、おかしいんじゃないか」と考えただろうと思います。
このようなベルリンの壁の崩壊と東欧における政治革命、ワシントンのたばこ産業と喫煙行動の変化などの例を挙げましたが、このような変化は、非常に急速に、しかも予測もしない間に起きるものです。ですから環境問題に関わっている者も、こうした変化が起こりうるという希望を持ち続ける必要があると思うのです。
【枝廣】
そうですね。「思いがけない展開がこれまであったのだから、これからだってあるだろう」という希望ですね。今は、たばこ産業の補償金の話でしたが、たとえば、何年後かわかりませんが、化石燃料を使っている業界が、石油や石炭を使ってきたことに対して、過去にさかのぼって補償金を払わなくてはならない、という事態が起こり得るということだと思います。
今は「そんなこと、とてもじゃない、考えられない」と思うでしょうが、実際、たばこ産業だって、とてもそんなことは予想していなかったのに、そうせざるを得なくなった。あの補償金のおかげで、一箱当たりのたばこの料金が非常に高くなって、アメリカでの喫煙率が下がりました。
同じように、ある時点で、化石燃料を使ってきたことに対して、今使っているだけではなくて、過去に使ってきたことに関しても、もしかしたら補償金を払うことになるかもしれない。
たとえば今、海抜が上がることで国の存亡そのものが危なくなっているツバルという国は、アメリカなどに対して訴訟を起こしていますね。アメリカの国内でも、化石燃料を燃やすことに対する訴訟が起こっています。
そのような形で、「やっぱりそれは問題だよ」とみんなが思うようになってきたら、これまで石炭、石油を燃やしてきた人たちも、大きくやり方を変えざるを得ない状況になってくるかもしれない、と私も思っています。
今日は、レスターの話の中で、水の問題があって、そこから食糧の話に行きました。食糧でも、今日は「量」の話が中心でした。日本でも食糧の問題は非常に大きくて、水には恵まれているのだけれども、食糧の多くを輸入しているという現状があります。
安いものがいいとか、手早くつくれるから、生産者にとっても消費者にとっても便利なものがいい--そんな背景があるのだろうと思います。そういう流れの中で、「いや、そうじゃないよ。本当に大切な材料を使って、本物の食べ物をつくろうよ」という活動をしているグループや企業も日本にあります。
その一つが「良い食品づくりの会」です。今日の会の後援もしていただいて、皆さんに、おみやげとして本も献本してくださっていますが、会の青山さんに、会についてのお話をしていただいて、レスターにもぜひ、こういう活動が日本にもあるということを持って帰ってほしいなと思います。
【青山】
はじめまして。貴重なお時間をいただいて、皆様のお手元にあります「良い食品づくりの会」の本と、会のお話を少しさせていただきます。
良い食品づくりの会を「知ってるよ」という方、いらっしゃいますでしょうか?あ、数人いらっしゃいますね。うれしいですね。
私は、消費者としてこの会の食品に毎日の食卓でお世話になっています。ジャパン・フォー・サステナビリティが「がんばっている日本をまだまだ世界は知らない」というキャッチフレーズを使ってらっしゃいますが、私はこの言葉を聞くと、「がんばっている良い食品づくりの生産者を、まだまだ消費者は知らない」と、言葉を置き換えて思っています。
この会は、レスターさんがワールドウォッチ研究所をつくられた1970年代から、今のように低脂肪乳の食中毒の問題ですとか、BSEとか、鳥インフルエンザの事件が起こって、食の安全に皆さんの関心が高まって、ちょっとしたブームになったりする前から、食品の安全について、生産者の方自身が、このままではいけないということに気づいて、自己研鑽・相互研鑽をして、勉強を続けてこられた会です。
現在この会では、全国で食品づくりにかかわっておられる生産者やメーカー約60社と、その食品を消費者に普及していく販売協力店約80社が、共に勉強されています。
今日、受付でお渡したこのパンフレットの中に、会独自の食品に対する品質基準があります。消費者に公開されているものですが、その基本となるのが、「良い食品の4条件」「良い食品をつくるための4原則」です。この会では、この4条件4原則に照らした食品づくりをずっとされています。
「なにより安全、美味しい、適正な価格、ごまかしがない」これが良い食品の4条件です。そして、良い食品をつくるための4原則は、「良い原料、清潔な工場、優秀な技術、経営者の良心」。言葉にするとすごく当たり前のことですが、実際に私たちが今、食卓で出会う食べ物というのは決してそうじゃないと思います。
食べ物の材料として、農産物、畜産物、水産物、それぞれの命をいただいて、私たちは命をつないで生きていますが、良い食品づくりの生産者の方たちは、人の命も自然の命も預かりながら尊い仕事をしていることを自分の使命として、日々お仕事をされています。
それぞれのつくり手について、この本の中を読んでいただければ紹介されていますので、またゆっくりとお読みいただければと思います。
【枝廣】
今日はレスターから、気候変動など、地球規模の大きな話をしてもらいました。よく「Think globally, act locally.」と言います。考えるときには、自分たちの範囲だけではなくて、地球の裏側や、私たちの世代だけではなくて未来世代のことも、大きな意味でグローバルに考える必要があります。
一方で、私たちは、毎日毎日、ものを食べて、いろいろなものを使って、生活し、生きています。ですから、今日、私は何を食べるのか、何かを使うときに何を選ぶのか、そういう一つ一つのものと、グローバルに考えることは切り離せないと思っています。
今日、そういった意味でも、青山さんから一つのグループの紹介をしてもらいました。この後、ネットワーキングの時間になります。いろいろな活動をされている方々に、展示や説明をしていただく時間です。レスターとのサインや握手をしていただく時間でもありますが、いろいろなブースでぜひ見ていただき、「今日の話を聞いて、今日から私は何ができるのかな?」と考えたり、新しい出会いのきっかけとしていただけたらうれしいです。
講演から対談まで、長い時間付き合ってくれたレスターと、そして対談の大変な通訳を――特に私は話すのが早いので、大変だったと思います-田村優子さんと、そしてグループの紹介をしてくださった青山さんに感謝をして、対談の部を終わりたいと思います。ありがとうございました。
レスター・ブラウン氏&エダヒロジュンコ対談
-2004年11月12日開催「第5回エコネットワーキングの会」より