情報更新日:2005年06月13日
「経済と環境を両立させるプランBへの道」
まず、このような機会をつくってくださったことに、お礼を申し上げたいと思います。何かこのような集まりを、これだけの規模でやるというのは、たくさんの人がたくさんの努力をしてはじめて実現できるものだと思っています。
それからJFS、ジャパン・フォー・サステナビリティにも、おめでとうと申し上げたいと思います。財政的な資源ということでは、それほど大きくないと聞いていますが、人的資源ということでは非常に恵まれた、素晴らしい組織だと思います。
2年ほど前にジュンコから「JFSという組織をつくろうかと思っている」という話を聞いた時には、まさかこれほどの活動を、たくさんのボランティアの方々の力を借りてやる、そのような組織になるとは思ってもいませんでした。
この50年の間に、世界経済は7倍の大きさになっています。これほど大きく拡大していく中で、地球の限界を大きく圧す結果になっています。今や、経済と地球の生態系の間の関係が、いろいろな形でひずみをあらわにしています。
たとえば、森林が消失している、砂漠が広がっている、地下水位が低下している、種がどんどん絶滅している、気温が上がっている、漁場が崩壊している、氷が解けている、海面水位が上がっている、土壌の浸食が進んでいる......。このような環境の傾向はすべて、私たちの将来をどんどん損なっています。
私も含め、何年も環境分野で活動してきた人たちは、しばらく前から、「このような環境の傾向が続けば、問題が起こってしまう」と言ってきました。ただ、そう言うときに、一体どういう問題がいつ発生するのか、それは明らかではありませんでした。
しかし今、それがわかってきたような気がします。私たちが直面する問題は、食糧の分野で起こるでしょう。世界の食糧価格が上昇するという形で、しかも今後、2、3年の間に起こってくるだろう、と私は思っています。
直近の5年のうち4年は、どの年も、世界の穀物の生産量は、消費量に比べて不足しています。消費量のほうが大きいわけですから、その結果、世界の穀物の備蓄をどんどんと取り崩しています。その結果として今の備蓄量は、この30年間で最低レベルになっています。
需要がどんどん増えている今、世界の農家はそれに追いつけるよう、生産を拡大することが難しい状況に置かれています。今、農業をしている人たちは、これまでの農家が直面したことのなかった、二つの新しい傾向に直面しています。一つは、地下水位が低下しているということ、もう一つは気温が上がっているということです。
この何カ月も、世界の石油の価格が上昇して、バレル当たり、たとえば50ドルを超えているとか、大いに世間の話題になっています。その中で、「将来の十分な石油の供給があるのだろうか」という話が出ています。
しかし、もっと大切なのは、「将来の水の供給が十分にあるだろうか」という問題ではないでしょうか。私たち人類は、何千万年もの間、石油なしに生きてくることができました。しかし、私たちは水がなくては数日間しか生きることができません。石油の代わりになるものはありますが、水の代わりになるものはないのです。
世界の人口の半分以上の人々は、地下水位が低下し、井戸が涸れつつある、そういった国々に住んでいます。三大穀倉地帯である中国、インド、アメリカもそうです。
「地下水のくみ上げ過ぎ」という問題は、歴史的に見ると非常に新しい問題です。このような問題が出てきたのは、最近になって非常に強力なディーゼルポンプとか電動ポンプが出てきてからなのです。
私たちは、平均して1日に4リットルほどの水分を取っています。水として、ジュースとして、ビールとして、いろいろな形で水分を4リットルほど飲んでいるのですね。しかし、私たちが毎日食べている食べ物をつくるために必要な水は、1日当たり2,000リットルになります。すなわち、直接飲んでいる水の500倍もの水を、食べ物という形で摂取しているのです。
世界中で使われている水の70%は、灌漑用水として農業で使われています。20%が工業用水として、残りの10%が生活用水として使われています。つまり、これから将来、水が不足するという事態が起これば―おそらくそうなるだろうと思っていますが―それは取りもなおさず、食糧不足の時代が来る、ということです。
現在の需要を満たすために、今、水をくみ上げ過ぎています。これを続けると、将来、食糧が生産できなくなります。なぜならば、地下水がからっぽになってしまったら、地下水をくみ上げてつくっていた作物はつくれなくなるからです。
新しい環境的なすう勢として出てきているもうひとつは、気温の上昇です。1970年代から今まで、地球の平均気温は0.7℃上昇しています。いちばん気温が高かった年は、最近の6年間に起こっているのです。
作物に関する生態学者が、温度と作物の収穫量の関係について研究をしていますが、最近の結果によると、作物が成長する時期に最適温度から1℃気温が上がってしまうと、収穫量は10%減るという結果が出ています。これは小麦でも、米でも、トウモロコシでも同じです。
今、農業をやっている人たちは、人類が農業を始めてからはじめて、というほど高い気温の中で農業をしなくてはならない。そのような見通しに直面しています。
先ほど、この最近の5年間のうち4年間、穀物の生産量が消費量に間に合わないと言いましたが、地球の気温が上がっていることもその原因です。
もし、気温が上昇することで収穫量が減って、食糧価格が上昇するということが明らかになれば、「二酸化炭素の排出量を削減せよ」という新しいロビー活動が起こってくるでしょう。このように、食糧のひっぱくした事情がどんどんと明らかになってくる大きな引き金を引くのが、中国が世界の市場に穀物を求めるようになってくる、という展開だと思います。これまで私たちが経験をしてこなかったような大きな規模で、中国が穀物を輸入し始める、その時です。
中国の穀物の生産量は、1950年の9,000万トンから1998年には3億9,200万トンへと、劇的に伸びました。この50年間を見ても、これほど大きな経済的な成功例はないというほどの増収です。
しかし、1998年に3億9,200万トンまで収穫量を増やした中国ですが、その後、2003年には3億2,200万トンまで下がってきています。7,000万トン減ってしまったということです。7,000万トンとは、カナダ一国が生産している穀物の量に匹敵するほどの規模です。
中国はすでに、外国に穀物を求め始めています。今年、中国は800万トンの小麦を輸入しました。去年までは、小麦もすべて自給自足していたのですが、今年は、800万トン輸入した。
そして少し前に、中国政府が来年の輸入計画を発表しました。来年は、1,000万トンの小麦、500万トンの米、700万トンのトウモロコシ、200万トンの大麦を輸入する、という発表です。これまでになかったような勢いで、中国の穀物の輸入が始まりつつあります。
中国が大量の穀物を世界市場に求めるようになれば、世界の穀物価格、そして食糧価格が上昇する可能性があります。中国が大量の穀物を世界市場に求めるようになると、必ずやアメリカに頼ることになります。なぜかというと、世界の穀物輸出量の半分近くがアメリカからの輸出だからです。
こうなると、興味深い地政学的な状況が生まれるでしょう。片や13億人の中国人消費者がいる。対米黒字を1,200億ドル抱えている。その人たちが、アメリカの消費者とアメリカの穀物を争うようになる。すると、アメリカの穀物価格、そして世界の食糧価格が上がってくるでしょう。中国の対米黒字1,200億ドルのお金があれば、アメリカが生産しているすべての穀物の2倍を買える。それぐらいの対米黒字が中国にはあります。
二つの環境面での傾向として、地下水位が低下している、そして気温が上昇しているという話をしました。その結果として食糧の供給が厳しくなり、穀物の価格や食糧の価格が上がるだろうという話をしました。
もしそのような状況になると、おそらく低所得国―開発途上国ですが、大量の穀物を輸入に頼っている国々で、政情不穏の事態が出てくるでしょう。そのような国々で政情不穏が起こると、それは世界の経済の進歩に影響を与えます。すなわち、たとえば日経であるとかダウ・ジョーンズ500であるとか、こういったインデックスにも影響が出てくるということです。
環境面での傾向から、食糧などの価格、政情不穏、そして世界経済へと影響が一巡したときにはじめて、私たちは「このままではいけない」「このまま環境の傾向を見過ごしていては、私たちの将来が駄目になる」と、最終的に気がつくのではないかと思います。
そのときに明らかになるのは、これまでどおりのやり方を続けていくという「プランA」では、私たちは進んでいくことができないということです。そうではなくて、違う進み方、すなわち「プランB」が必要になるということです。プランBとは、地下水位の低下や、人口の増加、地球温暖化の進行に対する対応や対策を含んだものです。
このプランBを形づくっている三つの主な構成要素をお話ししましょう。
一つは世界規模で水の生産性を上げることです。2番目は、世界規模の努力で人口を安定化させること、そして3番目は、世界の気候を安定させることです。
50年ほど前に私たちは、土地の生産性を上げようと、世界中で努力をしました。今や、水の生産性を上げようということで、世界中で同じ努力をしなくてはならない状況にあります。
それから、世界の人口を安定させる、それもできるだけ早く安定させる必要があります。先ほど、現在の世界の人口の半分以上は、すでに地下水位が低下し、井戸が涸れ始めている国に住んでいるという話をしました。しかし、今後に目を向けてみると、2050年までに増えると予測されている30億人近い人々、その大部分が、すでに地下水位が低下し、井戸が涸れつつある、そういった国々に生まれるのです。
国連の予測では、2050年までに世界の人口は90億人まで増えるだろう、と言っています。しかし、その予測を受け入れるのではなく、70億人ぐらいで人口を安定化させる必要があると思っています。人口をそのぐらいで安定化させるためには、家族計画のギャップを埋める必要があります。
世界には1億4,000万人もの女性が、子どもの数を制限したいと思いつつ、家族計画にアクセスすることができずに子どもを生んでいます。今となって、は家族の数を小さくしたいと思っているのに、リプロダクティブ・ヘルスや家族計画のサービスにアクセスできないという女性が1人たりともいてはなりません。とてもそのような余裕は、私たちにはないのです。
2番目にしなくてはならないのは、小さな家族への移行を加速するような社会的な条件をつくり出すことです。そのためには、世界中で小学校の義務教育化を進める必要があります。男の子だけではなくて、女の子も教育を受けられるようにするということ。そして基本的なレベルでいいので、どの村でも医療が受けられるようにする。たとえば、子どもへの予防接種ですとか、安全な飲み水がどこの村でも飲める、そのような状況をつくっていくことが必要です。
私は、世界銀行と国連のデータを使って、今言った基本的なサービスを提供するのに必要なコストを計算してみました。すなわち、家族計画やリプロダクティブ・ヘルスのサービスを発展途上国のすべての女性に提供し、途上国での小学校の義務教育を進め、そして基本的なレベルでの医療サービスを村々に提供するために必要なコストはどれぐらいか?
年間620億ドルという結果が出ました。620億ドルと聞くと、とても高いなと思われるかもしれません。しかし、考えてみてください。今年1年で、アメリカは一つの国、イラクに870億ドルというお金をかけているのです。
そして3番目にやるべきことは、気候を安定化させることです。すなわち、炭素の排出を制限していくということです。プランBの本の中には、京都議定書で定められた目標をはるかに超えて、「2015年までに炭素の排出量を半減する必要がある」と私は書いています。
では、どのように大きく炭素の排出を減らしていけるか、いくつかの例を挙げたいと思います。もし、たとえば食糧の価格が上昇するなどして、気候を安定化させることが私たちにとって重要だ、ということをみんなが認識すれば、国際的に「効率の悪い白熱電球を使うのではなくて、効率の良い小型蛍光電球を使おう」という動きを起こすことができるでしょう。
世界中の電球を、効率の悪い白熱灯から効率の良い蛍光電気に替えるだけで、たとえば、同じ明るさで3分の1の電力ですみますから、これを世界中でやれば、今、化石燃料である石炭を燃やして電力をつくっている、何百という発電所を閉鎖することができます。
アメリカの例を一つ挙げましょう。たとえば今後10年間で、アメリカで走っている自動車をすべて、ガソリン車からハイブリッド車、たとえばプリウスのような車に替えることができれば、それだけでガソリンの消費量を半分に減らすことができます。
このようなガソリンと電気のハイブリッド車には、新しい可能性もあります。たとえばその車にもう一つ蓄電池を積んで、プラグインできる機能を備えれば、夜の間に、使っていない間に、自宅の電気を供給することができる。そうすると、たとえば通勤とか買い物とか、短距離のドライブはすべて電気で行うことができます。
ガソリン車からハイブリッド車に切り替えるので、50%ガソリンの使用量を減らす。そして蓄電池とプラグインの能力を付けることで、さらに20%減らせる。そうすると今後10年間で、アメリカのガソリン消費量を70%も減らすことが可能となります。
今、エネルギーの需要側の話をしてきましたが、今度は供給側を見てみましょう。供給側で、どのように炭素の排出を減らすことができるか、ということです。炭素を排出しないでエネルギーを供給できるエネルギー源は、風力、太陽光、太陽熱、地熱、水力、波力、バイオマス、たくさんあります。この中でも一つ、風力についてお話をします。
世界中で風力発電の容量は、1995年以来、年率30%という勢いで伸びています。ヨーロッパが、リーダー役として世界を風力の時代に導いてくれていますが、そのヨーロッパの状況を見ると、今では4,000万人のヨーロッパの人たちが、家庭用の電力を風力から得ています。ヨーロッパでの予測では、2020年までに1億9,500万人、ヨーロッパの人口の半分の人たちが、風力から家庭用の電力を得ることができると予想しています。
最近、エネルギーのコンサルティングの会社が、新しい予測を出しました。もしヨーロッパの政府が本気になって、オフショア、沖合の風力発電を開発すれば、2020年までには、すべてのヨーロッパの家庭が、家庭用電力を風力から得ることができるという結論なのです。
風力発電がどうしてこれほど著しく伸びているのか、6つの理由を挙げることができます。風力は豊富であるということ。安いということ。どこにでもあるということ。なくならないということ。クリーンであるということ。気候変動を起こさないということ。ほかのエネルギー源を見たときに、この6つの特徴を併せ持っているエネルギー源は一つもありません。
土曜日に、日本に来るためにパリから飛行機に乗り込んだのですが、最初の何時間か、窓から外を見ていました。ドイツからデンマーク、スウェーデンの上空を飛んでいたのですが、9つのウインドファームが見えました。小さなものは6基ぐらいの風力タービンが回っていました。大きいものは72基も風力タービンが回っている、そんなウインドファームもありました。
風力が豊富であるという一つの例を挙げたいと思います。1991年に、アメリカのエネルギー省が、全国の風強調査をしました。その結論として、50州あるうち3州、ノースダコタ、カンザス、テキサス、この州に吹いていて使うことができる風力を使うだけで、アメリカ全国の電力需要を満たすことができる、そのような結論でした。
風力は非常に豊富にあるエネルギー源です。そして、先ほどお話ししたように、ハイブリッド車で、しかもプラグインすることができるような仕組みにする。そして、アメリカのあちこちに何百という風力タービンを回して、送電線にその電力を供給する。そしてその電気を使って自動車を走らせるということになれば、石油を使わなくても自動車を走らせることができるようになります。
今年アメリカで、どのぐらいのハイブリッド車が売られたのでしょうか? 約10万台と言われています。そのほとんどはトヨタのプリウスやホンダのインサイトなどの日本からのハイブリッド車です。
アメリカでのハイブリッド車の需要が非常に強いために、供給が追いつかない状況になっています。たとえば、トヨタのプリウスを注文しても、アメリカのどの州にいるかによって違うんですが、4カ月~1年半も待たないと手に入れることができません。これほど強い需要があるということは、極めて心強い環境的な傾向の一つではないかと思います。
私が所長をしているアースポリシー研究所の理事の1人が、何カ月も、プリウスを注文してから待っていました。彼は、ニュージャージー州のプリンストンに住んでいる人ですが、最近ディーラーから電話があって、「ようやくプリウスが届きましたよ。取りにきてください」と言われたそうです。そこで出かけて行って、書類に記入をして、お金を払って、その契約がすべて終わった時にディーラーが何と言ったと思います?
「もし、このままプリウスをここに置いていってくれれば、今払ってくれたお金に5,000ドル上乗せしてお金をお返しします」とディーラーが言ったそうです。
なぜかというと、トヨタのディーラーとしては、もちろんプリウスを定価で売らないといけないですね。でも1回売ってしまえば、それはもう市場に出ていますから、値段を付け直すことができます。トヨタのプリウスを待っている人があまりにもたくさんいるので、5,000ドル上乗せしてお金を渡してプリウスを残していってもらったとしても、それ以上に売れるということを、彼は知っていたんですね。アメリカには今では、トヨタのプリウスの「闇市場」があるそうです。これはほんとの話です。
『プランB』という本を書く時に、どうやってこの世界の経済を早く転換できるか、ということを考えていました。その参考に何か資料がないかなと思って、第二次世界大戦のころの経済の歴史をひも解いてみました。その時に、ルーズベルト大統領が一般教書を発表しているのを見つけました。
1942年1月6日のルーズベルト大統領の一般教書の中では、これからアメリカは戦争を行うために、4万5,000台の戦車を造り、6万機の戦闘機を造り、そして2万台の高射砲―大砲ですね―を造り、そして600万トン分の船を造る。このような軍備拡張の目標を掲げていました。誰もこれほど大きな規模の軍拡の数字を聞いたことはなくて、想像もできなかったわけです。
その時、ルーズベルト大統領は、世界の工業力の多くがアメリカの自動車産業にある、ということに気がつきました。アメリカの自動車産業は、大不況の間、1930年代の間ですら、年間200万~300万台の車を造っていたからです。ですからルーズベルト大統領は、一般教書の後、アメリカの自動車業界のリーダーたちを呼び入れました。
「このような軍備を増強する計画を立てましたから、皆さん、よろしくお願いしますよ。皆さんはたくさんの工業力をお持ちですからね」というふうに、ルーズベルト大統領は言ったのです。
その時、自動車業界のリーダーたちは、「大統領、私たち、できるだけのことはやります。でも、自動車も造りつつ、これだけの軍備を造るというのは、なかなか難しいかもしれません」と答えました。
それを聞いたルーズベルト大統領は、「皆さんは話をわかっていませんね。これから、一般の車の製造は禁止するんです」と言いました。
実際にそのとおりになりました。1942年の4月の初めから1944年の末まで、ほぼ3年の間、アメリカでは1台の車も造られなかったのです。自動車産業全体がすべて、軍備を造るための産業へと転換されました。これは何十年も、何年もかかったわけではありません。ほんの数カ月で、これだけ大きな転換が可能になったのです。
先ほど、家族計画のサービスや、基本的な医療、義務教育などを発展途上国に提供するために、国際社会が追加で支出すべき金額を620億ドルというふうに報告をしました。ほかにもやることがありますが、この金額を、アメリカの国防予算と比べてみました。
これは少し前の数字ですから、イラク戦争が起こる前の話です。しかし、アメリカ1国の国防費は3,430億ドル。この金額は、NATOの同盟国すべて、そしてロシアと中国を合わせた国防費総額を上回っています。アメリカ1国で、これだけの国防費を使っているわけです。
ユージン・キャロルという、元海軍少将がこのように言っていました。「この40年間、われわれアメリカはソビエトを相手に軍拡をしてきた。しかし今、われわれは自分たちを相手に軍拡をしているようだ」と。
先ほど、このような傾向がずっと続いていくと、すなわち、われわれの将来を駄目にしてしまうような環境の傾向がずっと続いていくことになれば、それが世界の経済を揺るがしてしまう。そのような歴史に私たちは向かいつつあるのではないか、という話をしました。
今や必要なのは、マーシャルプランのような形で、大きく物事を変えていくことではないかと思います。第二次世界大戦後、アメリカは、これまでどの国も行ったことがないようなことをしました。すなわち、敗戦国の再建に大きな投資をしたのです。敗戦国が、自分たちの国を立て直す、その手伝いをするために、マーシャルプランを実行しました。
今、同じようなことが必要ではないかと思います。先ほど、アメリカの国防費が3,430億ドルと言いました。そのほかにも国務省の予算であるとか、対外援助の予算を合わせると、おそらく3,600億ドルぐらいをアメリカは対外政策のために使っています。
一歩引いてみて、この数字を考えて、一体この金額を使って、アメリカの国益のため、そして世界の利益のために何をするのがいちばんいいだろうか? このように考えたときに、今のように全額を軍備に使うのではなくて、半額は軍備に回すけれども、残りの半分を貧困の根絶や水の生産性の上昇、エネルギー経済を変えていくためのインセンティブとして使うことができれば、私たちは希望を取り戻すことができます。そして、全額を軍備に使うよりもずっと、アメリカの国益にもかなっていると思うのです。
そして、今お話ししてきたことが、これからも経済の進歩を続けるために、そして経済の進歩を支えている地球の生態系を守るために、私たちが考えていかなくてはいけないことだと思います。
今日皆様がこのような形でお話を聞きにきてくださって、サポートしてくださっていること、そして非常に熱心に聞いていただいたことに感謝申し上げます。ありがとうございました。