エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン
情報更新日:2005年06月12日
ブッシュのエネルギー政策から抜け落ちている風力発電
レスター・R・ブラウン
待ちに待ったブッシュ政権のエネルギー計画が2001年5月17日に発表されたが、これには多くの人ががっかりしてしまった。エネルギー効率を向上することでどれほど大きなプラスが得られるか、ということがほとんど考えに入っていないうえ、風力発電のもたらしうる大きな可能性も無視されているからだ。今後20年を考えたとき、風力発電は石炭以上に米国の発電量を増やせるのだが。
このエネルギー計画を策定した人々は、世界のエネルギー経済でいま何が起こっているかに疎く、21世紀をスタートするためのエネルギー計画ではなく、前世紀向けのエネルギー計画を作ってしまったようである。
この新しいエネルギー計画では石炭の役割を重視しているが、世界の石炭消費量は1996年には頭打ちとなり、その後11%も減っている。世界の国々がこの気候変動を引き起こす燃料に背を向けつつあるからだ。石炭消費量で米国に肩を並べる中国の石炭消費量でさえ、1996年以来24%も減少している。
一方、世界の風力発電消費量は、この5年間に4倍近くに増えている。これに比肩する成長ぶりを示しているのは、コンピュータ業界ぐらいしかないだろう。米国でも、アメリカ風力エネルギー協会が、今年の風力発電容量は60%増大するという驚くべき予測を出している。
かつては風力発電はカリフォルニアにしかなかったが、この3年間に、ミネソタ、アイオワ、テキサス、コロラド、ワイオミング、オレゴン、ペンシルパニアでもウィンド・ファームが操業を開始している。米国の風力発電容量は1,680メガワットから2,550メガワットへと1.5倍に増大しているのだ。
今年さらに、少なくともさらに1,500メガワット分の発電容量が増える。10を超えるあちこちの州に風力発電所ができるからだ。オレゴンとワシントンの州境では、300メガワットのウィンド・ファームを建設中だが、これは、現時点での世界最大のウィンド・ファームである。
しかし、これもほんの一歩にすぎない。ボンヌビル電力事業団(BPA)は2月に、1000メガワット分の風力発電による電力を購入したいとして、発電計画の申し出を受け付けた。BPAでも驚いたことには、5つの州から合わせてゆうに2600メガワットをまかなえる申し出があった。さらに発電容量を拡大すれば、4000メガワット以上の発電も可能であることがわかった。
BPAは、寄せられた申し出のほとんどを受け入れることになるかもしれない。そして、少なくとも1つの発電所で、今年末までに送電を開始する予定である。
アイオワとの州境に近いサウスデコタ州には、3000メガワット級のウィンドファームが計画の初期段階にある。これは、オレゴン・ワシントン州境にあるウィンドファームの10倍もの規模を有する。ローリング・サンダーと呼ばれるこのプロジェクトは、デールセン・アソシエーツが着手し、カリフォルニアの風力エネルギーのパイオニア、ジム・デールセンがリーダー役を務めているが、シカゴ周辺の中西部地域に電力を供給するためのプロジェクトである。
この計画中のプロジェクトは、単に風力発電所としてだけではなく、今日の世界中のあらゆるエネルギーのプロジェクトの中でも、最大規模を誇っている。
風力タービン技術の進歩は、航空宇宙業界によるところが大きいが、そのおかげで、風力発電コストは、1980年代はじめのキロワット時あたり38セントから、今日では3~6セント(場所による)まで下落している。
風力は、いまでは化石燃料と肩を並べる競争力を有しているが、すでに地域によっては、石油やガスの火力発電よりも廉価になっている。ABB、シェル・インターナショナル、エンロンなどの大手企業がこの分野に経営資源を投入しはじめているので、さらなるコストダウンが見込まれている。
風力は、世界中に潤沢に存在しているエネルギー源である。米国のグレートプレインは、"風力発電のサウジアラビア"なのだ。風力に恵まれた3つの州――ノース・デコタ、カンザス・テキサス――だけで、米国中の電力需要を満たすだけの利用可能な風が吹いている。中国も、風力発電だけで、現在の発電容量を倍増することができる。人口密度の高い西ヨーロッパでは、沖合風力発電を活用すれば、すべての電力需要を満たすことができる。
今日、世界でもトップ級の風力タービン技術および製造を誇るデンマークは、電力の15%を風力でまかなっている。ドイツの最北州であるシュレースウィヒホルシュタイン州は、電力の19%を風力から得ており、場所によっては、その率は75%に達する。スペインのなかでも工業の盛んなネバラ州では、6年前にはゼロであった風力発電が、いまでは総電力の24%を供給している。
風力発電コストが下がり、気候変動への関心が高まるにつれて、「我が国も風力エネルギーを」という国が増えつつある。12月に、フランスは2010年までに5000メガワットの風力発電容量を開発すると発表した。同じく12月には、アルゼンチンが2010年までにパタゴニアで3000メガワットの電力を風力で発電する計画を発表している。4月には、英国が1500メガワットの沖合風力発電の入札を引き受けた。5月には、2005年までに約2500メガワットの風力発電を行う予定であるという中国政府からの報告が入った。
風力発電は、常に予測を上回る成長ぶりを示している。ヨーロッパ風力エネルギー協会は1996年にヨーロッパの風力発電容量を2010年には4万メガワットとするという目標を掲げたが、最近、その目標値を6万メガワットに引き上げた。
ブッシュ大統領は、2020年までに全国の発電容量を393,000メガワット増強する計画だが、風力だけでこれを満たすことができる。風力発電の場合、電力代として支払われるお金はその地元にとどまることが多く、所得や雇用、税収をもたらし、地元経済を活性化する。
4分の1エーカーの地面に、最新設計の大型風力タービンを1基建てれば、その地域社会に10万ドル相当の電力を供給できる。そして、農家や牧場主は年に2000ドルの土地使用料を労せず得ることができる。米国の風利権の大部分を有しているのは農家や牧場主であるが、彼らはいまでは、化石燃料に代わるこの豊富なエネルギーを開発するよう、環境保護主義者とともにロビー活動を行っている。
風力から廉価に発電できるようになれば、今度はその電力を使って、水を電気分解し、水素を生成できる。水素は、現在すべての大手自動車メーカーが取り組んでいる低燃費の新型燃料電池エンジンの燃料と目されているものである。
ダイムラークライスラーは、2003年に燃料電池エンジンを搭載した自動車を市場投入する計画である。フォードやトヨタ、ホンダも、おそらくそれほど遅れをとることはないだろう。フォード・モーターのウィリアム・フォード会長は、「自分は内燃エンジンの時代に幕を引くつもりだ」と言っている。
風力で発電した電力が余れば、水素として貯蔵することができる。そして、その水素で燃料電池やガスタービンを回して発電することで、風の吹き方が不安定な場合でも、電力を安定して供給することができる。
かつて風力は、新しいエネルギー経済の"かなめ"だと考えられていたが、もしかしたら、その"土台"になるかもしれない。この新しいエネルギー経済では、風況を解析してウィンドファームに最適の場所を見定める風力気象学者が、古いエネルギー経済で石油地質学者が果たしていた役割を果たすことになるだろう。
風力を利用する技術や水素で自動車を走らせる技術が進歩するにつれて、いまや、農家や牧場主が国の電力の大部分をまかなうばかりではなく、自動車の燃料となる水素の大部分も供給する将来を描くことができる。はじめて米国は、中東の石油と袂を分かつための技術と資源を手にしたのである。
ブッシュのエネルギー戦略は、風力の潜在力を看過しているだけではなく、気候変動問題への対策については口先だけである。この戦略はリスクが大きい。最近、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、「このままでいくと、今世紀に地球の温度は、6℃も上昇するという予測を出した。もしこのような気温上昇が実際に起これば、米国以外の世界の国々は、最大の二酸化炭素排出国である米国の責任を問うことになるのではないだろうか。
米国に今必要なのは、"今世紀の"エネルギー計画である。風力発電や燃料電池、水素生成装置などの最近の技術の進歩だけではなく、気候を安定化させる必要性をもしっかりと認識したエネルギー計画が必要なのだ。おそらく議会が、このエネルギー計画を21世紀向けに練り直して、変化の著しい世界のエネルギー経済における米国のリーダーシップをふたたび打ち立ててくれるだろう。