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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月12日

気温上昇により消滅の危機にさらされる氷河と海氷

 
ジャネット・ラーセン キリマンジャロ山の万年雪は、2020年までには古い写真でしか見られなくなっているかもしれない。モンタナ州のグレーシャー国立公園にある氷河も、2030年までには消えてしまうかもしれない。また、今世紀半ばまでに、北極海では夏の間、氷が消えてしまうかもしれない。過去数十年にわたる気温上昇に伴って地球上の氷が解け始めているのだ。しかもそのスピードは加速度を増している。 2002年と2003年の両年、北半球の海氷面積がこれまでの最低値を記録した。最新の衛星データによれば、北極地方では1980年代よりも1990年代に温暖化が進んでおり、現在では北極海の氷は10年間に最大15%の割合で融解が進んでいるという。かつて探検家たちの夢とされた北西航路は、われわれにとっての悪夢となるかもしれない。北極海の氷がなくなれば、海洋循環パターンが変わり、地球規模での気候変動が引き起される可能性があるのだ。 地球の反対側の南極大陸付近では、南大洋に浮かぶ海氷が1950年以来約20%減少している。海氷が解けるというこの前代未聞の出来事は、南極地方の気温が1950年から摂氏2.5度(華氏4.5度)上昇したというデータを裏付けている。 何千年もの間存在してきた南極の棚氷も崩れ始めている。B-15と呼ばれる世界最大級の氷山は、約1万平方キロメートルとニュージャージー州の大きさの半分ほどに匹敵するが、これは2000年3月にロス棚氷から分離してできたものだ。2002年5月には、このロス棚氷から幅31キロ、長さ200キロの大きさの氷山がさらに分離した。 南極ではその他にも、ラルセン棚氷がこの10年間に大きく崩壊しており、従来安定していた大きさの40%にまで縮小した。1995年にラルセンAが分離し、2002年初めにラルセンBが崩落すると、かつてこれらの棚氷によって支えられていたこの付近の大陸氷河が、2倍以上の速さで解けはじめた。 海氷や海岸沿いに浮かぶ棚氷と違い、陸氷の融解は海面の上昇を引き起こす。世界規模での氷河融解の加速を示す最近の研究では、今世紀中に海面が0.1~0.9メートル程度上昇するという「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の予測を、上方修正する必要性を示唆している。(世界各地の融氷の具体例については、http://www.earth-policy.org/Updates/Update32_data.htmを参照) テキサス州の3倍もの面積をもつ氷に覆われた島、グリーンランドでもこれまで安定していた氷河が現在急速に解け始めている。島の南西沿岸部にあるヤコブスハウン氷河は、内陸の氷床から氷河が海へと流出する主な出口の1つだが、この氷河は20世紀の大半の時期に比べ4倍の速さで薄くなっている。グリーンランドでは毎年、およそ51立方キロメートルの氷床が消失しており、これは毎年海面を0.13ミリ上昇させる量に相当する。グリーンランドの氷床がすべて解けてしまったら、地球の海面は、驚くことに、7メートルも上昇し、世界の沿岸都市の大部分が水没してしまうであろう。 ヒマラヤ山脈には、南極大陸、グリーンランドに次いで世界で3番目に大きい氷塊がある。ヒマラヤの氷河の多くは、過去30年間にわたって薄くなって後退しており、この10年間の消失の速度は憂慮すべきレベルに達している。エベレスト山では、人類史上初めて登頂に成功したエドモンド・ヒラリー卿と テンジン・ノルゲイの歴史的に有名なベースキャンプ付近まであった氷河が、彼らが登頂した1953年以来5キロメートル後退してしまった。ブータンの氷河も1年に平均して30~40メ-トル後退しており、同じような状況がネパールでも見られる。 氷河の融解に伴って、解けた水が氷河湖へ急速に流れ込むため、洪水の危険性が高まっている。ある国際的な科学者のチームは、現在の速度で氷が融解すれば、ヒマラヤ地方にある少なくとも44の氷河湖が、5年も経たないうちに決壊するであろうと警告した。 氷河そのものには膨大な量の水が貯蔵されている。世界人口の半分以上が、降雨の際に地表を流れる水や、氷河が解けて生じる融解水など、山からの水に依存している。氷河によって水を安定供給できている地域もあれば、氷河から融解した水が乾期の主要な水の供給源となっている地域もある。氷河の融解が加速すれば、短期的には、より多くの水が川に流れ込むことになる。しかし、氷河が消滅すれば、乾季には川の水量が減少してしまう。 ヒマラヤ地方の氷河は、アジアの7つの主要河川-ガンジス、インダス、ブラマプトラ、サルウィン、メコン、長江、黄河-を潤しており、膨大な人口に年間を通じて水を供給している。インドだけでも、ニューデリーやカルカッタを含む地域に住んでいる、約5億人がガンジス川水系に流れ込む氷河の水に依存している。中央アジアの天山山脈の氷河は1955年から1990年の間に30%近く縮小している。そして、この縮小した氷河は、中国西部の乾燥地帯での淡水供給量全体の少なくとも10%に相当する。 熱帯地方で最大規模の氷河はアンデス山脈北部にある。ペルーに広がるケルカヤ氷冠の西側に位置するコリ・カリス氷河の後退は、1998年から2000年にかけて年間平均155メートルと、それ以前の3年間と比べ3倍の速さに加速している。氷冠はあと20年のうちに完全に消滅してしまいかねない。 エクアドルのキトで使用される水の半分近くを供給しているアンティサーナ氷河は、この8年間で90メートル以上後退した。ボリビアのラパス近くにあるチャカルタヤ氷河は、1998年までに1940年代の体積の7%にまで融解してしまった。この氷河は、今後10年のうちに完全に姿を消し、ラパスや近郊都市のアルトに住む150万人の人々から、大切な水・電力源を奪ってしまう可能性がある。 アフリカの氷河もまた、姿を消しつつある。アフリカ大陸全域で、山岳氷河の大きさが20世紀の間に3分の1にまで縮小してしまった。タンザニアのキリマンジャロ山では、氷量が1989年以降33%以上も減少しており、2020年までに完全に消滅してしまうかもしれない。 西ヨーロッパでは1850年以降、氷河の面積がかつての40%にまで縮小し、体積は半分以下になってしまった。もし気温が現在のペースで上昇し続ければ、アルプス山脈や、フランス・スペインにまたがるピレネー山脈の主な氷河は、今後数十年で消滅する可能性がある。記録的な猛暑となった2003年の夏、スイスの氷河の中には150メートルも後退したものがあるが、これは前代未聞のことである。 国連環境計画は、長年氷と雪との関わりの中で暮らしてきたこの地域にとって、気温の上昇は、独自文化の消滅はもちろん、集客力のあるスキー産業が成り立たなくなることを意味する、と国連環境計画(UNEP)は警告している。 カナダ・ロッキー山脈のバンフ、ヨーホー、そしてジャスパーといった国立公園の境界付近でも、氷河の融解が続いている。モンタナ州のグレーシャー国立公園では1850年以降、氷河の3分の2以上が失われた。このまま気温上昇が続けば、残された氷河も2030年までには消えてしまうかもしれない。 わずか過去30年の間に、アラスカの平均気温は摂氏3度以上上昇しており、これは地球全体の気温上昇率を優に4倍も超えている。アラスカでは、氷河に覆われた11の山脈すべてにおいて、氷河が縮小しつつある。1990年代半ば以降、アラスカの氷河は毎年1.8メートルずつ薄くなっている。これは、それに先立つ40年間の3倍以上の速さである。 世界の平均気温は過去25年間で摂氏0.6度上昇した。この間に海氷と山岳氷河の融解量は急激に増加している。今世紀中に世界の気温はさらに摂氏1.4~5.8度度上昇する可能性があり、融解の速度は一層勢いを増すだろう。それがどの程度になるかは、今日われわれが選ぶエネルギー政策によって、ある程度左右されることになるだろう。
 

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