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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月12日

高騰する世界の食品価格:
長年の環境軽視で主要国の収穫量減少

 
レスター・R・ブラウン 今年の穀物収穫が始まる5月には、世界の穀物の備蓄量は59日分にまで落ち込むと見られており、これは過去30年で最低の水準である。備蓄量がこの水準まで下がるのは1972年~1974年にまで遡る。当時は小麦とコメの価格が倍になり、米国のような食糧輸出国では、輸出を制限し、食糧不足を政治的駆け引きに利用するなど、不足に対応する政策が打ち出された。エチオピアやバングラデシュをはじめ食糧不足の国々では、数十万人が餓死した。 約30年経った今、同じような事態が展開されつつあるが、その原因は異なっている。世界の穀物収穫量は1950年から1996年にかけて約3倍に増えたが、その後は頭打ち状態だ。ここ4年間というもの、世界の穀物生産量は毎年消費量を下回り、必然的に備蓄が取り崩されている。この間、砂漠化の進行、地下水位の低下、作物を枯らしてしまうほどの高温、その他さまざまな環境の変化により、農業における技術の進歩や追加投資といったプラス要因はほぼ帳消しになっている。 基本となる食糧と飼料の価格が高騰している。シカゴ商品取引所での2004年5月の小麦先物取引は、昨年1ブッシェル(注1:)当たり2.90ドル程度だったのが、4ドル超と38%値上がりした。同様に、トウモロコシは36%、コメは39%、そして大豆に至っては1ブッシェル当たり5ドル超だったものが、10ドル超と2倍になった。世界の二大主食である小麦とコメ、主要飼料であるトウモロコシと大豆の価格上昇が一因となって、世界中で食品価格が高騰しており、そこには世界最大の食糧生産国である中国と米国も含まれる。 中国では、穀物の価格が一年前に比べて30%上昇している。同国の国家統計局によると2004年3月の食品小売価格は前年同月と比較して7.9%値上がりしており、植物油の価格は26%、肉は15%、卵は19%それぞれ上昇している。 あらゆる国において、世界的な基本食品価格上昇の影響が出ている。米国最大の農業者団体であるアメリカン・ファーム・ビューローのマーケットバスケット方式(注2:)による調査では、米国32州における基本食品16品目の小売価格の動向を追跡しているが、それによると2004年第1四半期の食品価格は前年同期比で、10.5%の上昇となっている。 食品価格の上昇率は、牛乳の2%から、卵の29%にまで及んでいる。植物油の価格は23%上昇したが、これは大豆価格が2倍になったことの影響が出始めたことによる。食肉の価格も軒並み上昇している。牛肩挽肉は1ポンド(約454グラム)あたり、一年前の2ドル10セントから2ドル48セントと18%上昇した。若鶏1羽の価格は18%、豚肉の切り身は10%値上がりした。パンとジャガイモの価格上昇率は、それぞれ4%と3%だった。(別表データ参照) 食品価格の上昇は依然として第2四半期も続きそうである。というのも、大豆は15年来の高値となり、小麦とトウモロコシもここ7年間で最高値をつけているからだ。大量の穀物を必要とする畜産品の価格は、穀物価格の上昇に非常に影響を受けやすい。対照的に、パンの価格は通常さほど上がらない。これは1斤のパンの原価に対して、小麦の占める割合が1割にも満たないからだ。たとえ小麦の価格が2倍になったとしても、パンの価格が大幅に上昇することはないだろう。 食品価格は、ほぼ世界中で上昇している。今年の2月、ロシアではパンが不足したため、パンの価格が前年同月比で38%上昇した。これに危機感を抱いたロシア政府は1トン当たり35ユーロの輸出税を課し、小麦の輸出を制限した。 南アフリカでは、2004年初頭にトウモロコシの先物価格が急騰した。主に主食とされる白トウモロコシの価格は、2003年12月から2004年1月の間に1.5倍以上になった。主に家畜用飼料として使われる黄トウモロコシの価格も、同時期に30%値上がりした。このような価格の上昇は需要が急増しているにも関わらず、生産が落ち込んでいる事態を反映したものである。世界の人口が毎年7千万人以上増えていること、収入の増加に伴い世界中でさらに多くの人々が、穀物で肥育された畜産製品を消費できるようになっていることが需要の増加につながっているのである。 世界の穀物生産量の伸びは、需要の増加に追いついていない。それというのも、砂漠化の進行、地下水位の低下、そして気温の上昇といった主に環境面での変化が原因となって、多くの国で収穫量が減少しているからである。カザフスタンを例に取ってみよう。旧ソビエト連邦時代、同国では1950年代に未開拓地プロジェクトが実施された。ソビエト政府は、穀物生産を拡大するため、手つかずの草地を開墾したのだ。その面積は、オーストラリアとカナダの小麦耕作地の合計を上回った。これにより生産量は劇的に増えたが、1980年までには土壌浸食により、その生産性は徐々に低下していった。それから24年間で、この国の穀物耕作地の半分が放棄されるに至っている。 1980年代後半、サウジアラビアは小麦の自給を目指して大掛かりな計画に着手した。地下深部の帯水層から水を汲み上げることにより、1980年には30万トンだった収穫量を、1994年には500万トンまで伸ばしたのだ。しかし残念ながら、帯水層からの大規模な揚水には限界があり、2003年までに小麦の収穫高は220万トンに減少した。水不足に直面している隣国のイスラエルでは、もはやわずかに残った小麦畑にさえ水を引けなくなりつつある。これは、既に90%を超える輸入穀物への依存度がさらに高まることを意味している。 中国は主要な食糧生産国では初めて、収穫高の減少に直面しているが、その一因となっているのが砂漠の拡大と帯水層の枯渇である。中国のおよそ2万4,000個の村が、押し寄せる砂漠化の波で廃村となったか、もしくは農業経済に壊滅的な打撃を受けた。 小麦の大部分は同国の北半分を占める乾燥地域で生産されているが、そこでは毎年何万という井戸が枯れている。こうした環境の変化に加え、穀物価格の低迷により作付け意欲が低下した結果、ピーク時の1997年には1億2,300万トンあった収穫高が、2003年には30%減の8,600万トンにまで落ち込んでいる。 今日の穀物減収の原因となっている環境の変化のなかで、おそらく最も広範にわたるものは、気温の上昇であろう。米国農務省は2003年9月に発表した世界穀物等需給見通しの月次報告で、8月に出した予測から3,500万トンの下方修正を行った。この減少分は米国の小麦収穫量の半分に匹敵するが、その要因はもっぱら8月にヨーロッパを襲った熱波であるとみられる。ヨーロッパでは農作物が枯れてしまうほどの高温が続き、西はフランスから東はウクライナにいたる地域で収穫が減少した。 2002年は記録的な暑さと干ばつが重なり、インドおよび米国の両国で、収穫高が減少した。主要食糧生産国で記録された史上最高、あるいはそれに匹敵するほどの高い気温が原因で、世界中で2002年は9,100万トン、2003年には1億500万トンというかつてない量の穀物が不足した。 目下の問題は、農家が昨年の膨大な不足分を穴埋めできるほど今年の穀物収穫量を引き上げられるかどうかということだ。残念ながら、主要生産国で収穫が減少する一因となっている砂漠化や地下水位の低下、気温の上昇を逆行させるほどの試みは何一つ行われていない。このような無策の状態では、食品価格は上昇し続けるだろう。 (注1:) ブッシェルは穀物などの取引の単位。1ブッシェルの量は穀物の種類や状況に依る。ここで使われている米国取引市場の小麦の場合、1ブッシェルは60lb(パウンド:重量)、約27.216kgに相当。 (注2:) 「マーケットバスケット方式」とは、生活に必要なすべての消費財とサービスなどを、物量に換算し、その購入価格の合計を算出することで、生計費の比較購買力を測るもの。消費者物価指数などは、この方式で求められる。
 

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