情報更新日:2005年06月08日
コラボレーションのあり方
レスター・ブラウン氏が、95年に『だれが中国を養うのか』(ダイヤモンド社)という本を出したとき、大センセーションが巻き起こりました。食糧危機こそこれからの安全保障に関わる問題である、という分析、そして「環境問題」というジャンルでほとんど取り上げられることのなかった中国の行く末が今後の鍵を握っているという警告を発したためです。
レスターは笑いながら「そのころの様子」を話してくれますが、この本を発表した翌週には、中国政府が記者会見を開いて、「中国が中国を養うのだ。ブラウンが警告しているような穀物輸入国とはならない」と主張しました。
その後の中国の状況については、レスターが「 中国はこの2年間の穀物の不足分を、備蓄を取り崩すことでまかなってきた。しかし、いまでは供給の逼迫を示す徴候が見られる。もしこの巨大な国がふたたび収穫量不足という事態になれば、食糧価格の安定を保つために、大量の穀物を輸入せざるを得なくなるだろう」と述べている状況に近づいています。
以前からレスターは、「中国は、対米黒字の半分の金額で、米国が世界100ヶ国に輸出している穀物どころか、米国が生産している穀物をすべて買い取ることができる。お金はあるのだ。問題は、どこがそれだけの穀物を供給できるかだ」といっていました。
なぜ、このように不足するようになってきたのかでしょうか。7~8年前から、「多大な人口を抱えた中国が経済発展を続ける中で、農地や淡水を農業から工業に取り上げるようになり、生産量が減るだろう。その一方で、経済発展で所得が増えると、食生活が多様化し(穀物中心から、穀物を飼料や原料とする家畜製品やビールなどが増える)、穀物需要に拍車をかける。
その不均衡から派生する国内の不満や不安定を解決するために、大量の穀物を輸入するようになると、今度は世界の穀物市場を揺るがし、いまですら穀物だけでギリギリの生活をしている貧しい人々の国をはじめ、世界の政情不穏につながる危険性がある」という分析と警告を、レスターは一貫して主張しています。
そして、その裏付けとして、「農業と工業の地面の取り合い」「水不足」などのデータと分析を次々と出していることがよくわかります。
当時あの分析を発表することは、「12億人を敵に回す」ことを覚悟していたのだと思います。たぶん実際にそういうこともあったことでしょう。「あのあとね、中国に行ったら、どこへ行っても、中国語版のあの本をみんな持っていてね、あなたの書いていることは違う、ってみんなで説得しようとするんだよ」と本人は笑っていましたが。
それでも自分が絶対に正しいと思うこと、世界に、何よりも中国に伝えなくてはならないと思うことを、頑固なまでに発信し続けているレスターなのですが、その姿勢は決して「対決」ではありません。
あの本を大きなきっかけに、中国の学術者たちとのつながりができ、ある時点から中国政府にも招聘されるようになり、意見や情報交換をするようになっています。中国政府が、工業化オンリー政策から、農業にも目を向けるようになったのも、レスターのインプットが資しているのではないかと思うのです。
はじめから仲良しべったりの"協力"ではなく、違うものは違うとはっきり告げて、そのうえで自分も学びつつ、専門知識を惜しげなく提供して役立ててもらおうという、"コラボレーション"のいいモデルを見せてもらっている気がします。
余談ですが、この件もそうですが、『朝2時おき』にも書いた「Hard on issues, soft on people」(「問題」と「人」を切り離す)という、人とのやりとりの大切なポイントを、レスターからも学ばせてもらっているなぁ、と思います。