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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2006年03月29日

中国から学ぶ なぜ西欧型経済モデルは世界で通用しないのか

 
中国から学ぶ なぜ西欧型経済モデルは世界で通用しないのか レスター・R・ブラウン 中国のアメリカン・ドリームは世界の悪夢になるのだろうか。中国の13億の人々にとって、アメリカン・ドリームは急速にチャイニーズ・ドリームになりつつある。すでに数百万の中国人が米国人のような暮らし方をしている――より多くの肉を摂取し、車を運転し、海外旅行へ行き、あるいは急激に増えている収入の多くを米国人のように使っている。こういった米国型の消費者の数はまだ人口のほんの一握りに過ぎないが、地球資源に対する中国の需要の伸びはすでに顕著になりつつある。 2月に発表した「エコ・エコノミー最新情報」(Eco-Economy Update)の中で、われわれは、中国が米国に取って代わり、穀物、石炭、鉄といった最も基本的な物資の最大の消費国になっていることを指摘した。 そこで問題になってくるのは、中国におけるこれらの資源の一人当たりの消費量が、現在の米国と同じレベルになった場合一体どうなるかということだ。そしてそれに密接に関わってくるのが、中国の一人当たりの年間所得が現在の5,300ドルから2004年時点の米国の38,000ドルに到達するのにどのくらいの時間がかかるのかということである。 1978年に始まったあの遠大な経済改革から26年、中国経済は年間9.5%というすさまじい勢いで拡大を続けてきた。今後も年間8%の成長が続き、9年ごとに経済が倍増すると、2031年には14億5,000万人とも予想されている中国の人口一人当たりの所得は、38,000ドルに達する。(年成長率を控えめに見積もって、6%にしても、経済規模は12年ごとに倍増し、現在の米国の所得水準を2040年には越えてしまう) ここでは年間の経済成長率を8%と仮定しよう。もし、2031年の時点において中国の消費者が、今日の米国人のように貪欲に資源を消費するようになれば、一人当たりの穀物の消費量は、現在の291キログラムから、935キログラムに増加するだろう。肉、牛乳、卵をふんだんに摂取する米国式の食事を賄うためにはそれだけの量が必要なのだ。 そうすると、2031年の中国の穀物消費量は13億5,200万トンになり、2004年の消費量の3億8,200万トンをはるかに超える。これは20億トンをわずかに超える2004年の世界の穀物の総収穫量の3分の2に匹敵する。
(データ参照サイト:www.earth-olicy.org/Updates/2005/Update46_data.html) 現在、世界に存在する穀物耕作地での生産性をこれ以上引き上げるのには限度があることから、中国での穀物消費をまかなうために10億トンの穀物の増産を図ろうとすれば、ブラジルに残された熱帯雨林の大部分を穀物生産地に転換する必要がある。もちろん、このことは、一旦熱帯雨林の土壌を開墾した場合、その土壌が穀物生産に耐えうると仮定した場合の話である。 中国人の肉の摂取量が、一人当たり125キログラムという米国の2004年レベルに達すると、国内の総消費量は現在の6,400万トンから2031年には1億8,100万トンにまで跳ね上がる。これは現在の世界の食肉生産量2億3,900万トンの大体5分の4にあたる。 エネルギーについてみてみると、さらに驚くべき数字になる。中国の国民が現在の米国人並に石油を消費すると仮定すると、2031年までに中国は一日当たり9,900万バレルの石油を必要とするようになる。現在、世界の石油生産高は一日当たり7,900万バレルで、これ以上の大幅な増産はもはや無理だと思われている。 石炭についても同様である。中国の石炭の消費量が、現在の米国の一人当たりほぼ2トンというレベルにまで達すると、国全体で年間28億トンの消費量となり、現在の世界全体の生産高25億トンを上回る。 これだけ大量の石炭の燃焼がどれほど深刻な大気汚染を引き起こすかということを別にしても、化石燃料の燃焼によって排出される炭素の量は中国一国だけで、現在の世界全体の排出量に相当するものになろう。気候変動の加速はもはや打つ手もないほど進み、食糧の安全保障は脅かされ、海岸沿いの都市は浸水の憂き目に会うことになるだろう。 中国人一人当たりの鉄鋼消費量については、これが米国並みにまで増えると想定すると、中国全体の鉄鋼総使用量は現在の2億5,800万トンから5億1,100万トンに跳ね上がる。これは現在の西欧先進工業国全体の消費量より多い。 また、近代化のもう一つの指標である紙の使用量をみてみよう。中国人一人当たりの紙の使用量はまだ年間27キロというわずかなものであるが、これが2031年には、一人当たり210キロという現在の米国並みのレベルにまで増加するとなると、中国は3億300万トンの紙を必要とするようになる。これは現在世界が生産している1億5,700万トンのざっと2倍に当たる。これでは世界中の森林が消え失せてしまうことになる。 それでは車についてはどうだろう。中国人の自動車所有率が米国並みの一人当たり0.77台(4人につき車3台)になるとすると、2031年に中国は11億台の車を所有することになる。これは世界全体が現在所有する7億9,500万台という車の台数をはるかに超える数である。 これだけの車を走らせるために一般道や高速道路、駐車場を建設しようとすれば、中国で現在水田として利用されている土地が転用される事態も生じてくるだろう。耕作地として有用な土地を巡って、車の所有者と農家の間に熾烈な競争が展開されることも予想される。 こういう試算をしてみたのは、世界人口の中で大きな割合を占める集団が、急速に世界規模での経済発展を遂げるとどういうことが起こるか、ということを考えてみるためである。決して、中国の消費が膨大なものになることを非難しているのではない。 この試算から分かることは、西欧で発展してきた経済モデル――化石燃料に依存した、車中心の、使い捨て経済――は中国では通用しないだろうということだ。理由は単純明白だ。それをまかなうだけの資源がないからである。 その西欧型経済モデルが中国で通用しないのであれば、年間経済成長率は7%、人口では2030年に中国を追い抜くと予測されているインドでも通用しないだろう。また、米国人の消費スタイルに同じように憧れを抱く上記以外の途上国の30億人についても、無理な話だろう。 おそらく一番問題なのは、経済のグローバル化が進み、すべての国が先細りしつつある資源を競い合っている状況では、現在豊かな先進工業国に暮らす12億人もこの経済モデルに従って生活し続けることは不可能だろうということだ。 現在の経済モデルでは経済発展を維持し続けることができないと気付くのが早ければ早いほど、世界全体にとってはプラスとなる。現在の消費レベルを維持しながらの従来型モデルでは、地球上の資源への需要は非常に大きい。そのため、現代の工業経済を支えるエネルギーや鉱業資源は急速に枯渇しつつある状況だ。 また、消費量は地球上の自然システムの生み出す持続可能なレベルを超えてしまっている。過剰伐採、過剰耕作、過剰揚水、過剰放牧、水産資源の乱獲が行われ、自然の恵みから得られる利子の部分だけが消費されるだけでは収まらず、自然の恵みそのものが食いつぶされている。経済学的のみならず生態学的にもこの状態は破滅につながる。 中国は私たちに新しい経済モデルが必要だということを教えてくれている。そのモデルとは化石燃料ではなく、風力、水力、地熱、太陽電池、太陽熱発電、生物燃料などの再生可能エネルギー源を利用したものだ。新エネルギーを希求していく過程では、風力気象学者が石油地質学者に代わって重要な存在になるだろうし、建物を設計する際には、エネルギー・ プランナーが中心的な役割を果たすようになるだろう。 新しい経済のもとでは、自動車を利用するよりも、どうすればもっとも容易に移動が行えるのかを考えて交通システムが設計されるようになるだろう。この新しい経済では、あらゆる種類の資源が徹底的にリユース(再利用)・リサイクル(再生利用)される。工業生産の工程や製品を設計する際の目標は排出物ゼロ、廃棄物ゼロである。 現状維持の"プランA"はもはや存続可能な選択肢ではない。石油、穀物、原材料の窮乏が政治紛争を引き起こし、経済発展にとって必要不可欠な社会秩序に混乱を生じさせる前に、私たちは早急に"プランB"へと方向転換を果たさなくてはならない。   (翻訳:小宗、古谷、藤津)
 

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