情報更新日:2007年07月26日
迫りくる砂漠との戦いに破れゆく国
レスター・R・ブラウン
恵み豊かな土地が、過剰な利用やずさんな管理によって荒地へと変貌する。こうした砂漠化現象は、残念なことだがごく当たり前の現象になってしまった。土地を保護していた草や木を失くしたために、風や水の浸食に弱い土地を生んでしまったのだ。砂漠化の初期には、土壌の微細な粒子が風で流され砂塵嵐が起こる。一度その粒子が吹き飛ぶと、次は、さらに粗いいわゆる砂粒が、局地的に発生する砂嵐によって飛ばされてゆく。
大規模な砂漠化はアジアとアフリカに集中している。この二つの地域には世界人口65億のうち、48億近くの人々が住んでいる。そして、アフリカの北部地域に住む人たちは、サハラ砂漠の北上によってますます生活圏を狭められている。
サハラ砂漠とその南に広がる森林地帯の間には、東西に帯状に延びた広大な半乾燥地帯のサヘルが横たわり、そこで農業と共に牧畜が営まれている。西のセネガルやモーリタニアから東のスーダン、エチオピア、ソマリアへと連なるこのサヘル諸国では、増加する人間や家畜の要求が土地の姿をますます荒地へと変貌させている。
アフリカで最も人口の多いナイジェリアは、砂漠化によって毎年35万1,000ヘクタールの放牧地と農耕地を失っている。ナイジェリアの人口は、1950年の3,300万人から、2005年にはその4倍にもあたる1億3,200万人へと膨れ上がった。家畜の数もおよそ600万頭から6,600万頭へと11倍に増加している。1,500万頭の牛と5,100万頭の羊、山羊に必要な飼料が、持続可能な牧草地の供給量を上回っているナイジェリアでは、今、国の北部に砂漠化がゆっくりと忍び寄っている。
2050年までに達すると予測される2億5,800万人に向かってこのまま人口が伸び続けるとしたら、それは砂漠化に拍車を駆けることにしかならないだろう。
イランも同じように砂漠化との戦いに敗れようとしている。イラン砂漠化防止協会(Iran's Anti-Desertification Organization)の会長を務めるモハマド・ジャリアン氏は2002年、次のような報告を行った。砂嵐により、国南東部のシスタン・バルチスタン州では124の村が消え、村人は村を離れることを余儀なくされた。吹き寄せられた砂が牧草地帯を覆い、家畜を餓えさせ、村人からは生きるための糧を奪ってしまった、と。
隣接するアフガニスタンも同様の状況に直面している。レギスタン砂漠は西方へ拡大し、農業地帯を侵食している。国連環境計画(UNEP)のチームは、「風で運ばれた塵と砂によって、100にものぼる村が埋もれてしまった」と報告している。
国の北西部では、砂丘がアムダリア川上流域の農業地帯まで移動し、その地域の支流では、薪用の伐採や過放牧のために安定した植生が失われ、すでに川の水が干上がっていた。UNEPチームは、15メートルもの高さの砂丘が道路をふさぎ、住民が新しい道路を作らざるを得なくなっている状況を確認している。
中国は、主要国の中で最も砂漠化が進行している。寒冷乾燥地域環境・工学研究所(Cold and Arid Regions Environmental and Engineering Research Institute)の所長、ワン・タオ(Wang Tao)氏は、中国で砂漠化のスピードが加速している状況について語っている。
同氏の報告によれば、1950年から1975年にかけては、毎年平均1,560平方キロメートルの土地が荒地となり失われていた。1975年から1987年にかけては、それが毎年2,100平方キロメートルに広がり、その後20世紀末までに、その面積はさらに急速に拡大し、毎年3,600平方キロメートルの土地が荒地化しているという。
中国は今、戦いの真っ最中である。相手は、領土権を主張して侵入してくる敵ではなく、拡大を続ける砂漠である。以前からあった砂漠はますます拡大する一方、新たな砂漠が、あたかもゲリラ軍の奇襲のように出現し、中国政府はその敵と数カ所の前戦で、戦いを余儀なくされている。ワン・タオ氏の報告によれば、過去50年間に、中国北部と西部のおよそ2万4,000の村が吹き寄せる砂によって荒廃し、村々の全域または一部が放棄されてしまった。
中国の人々には、中国北西部や、モンゴル西部で発生する砂嵐はすっかりお馴染みとなっているが、世界のほかの地域の人々は、中国から飛来する大量の砂塵嵐を体験して、この急速に拡大する環境の大災害について知ることになる。
2001年4月18日、アリゾナ州のメキシコ国境からカナダにいたるまでの合衆国西部一帯が砂塵で一面を覆われた。それは、4月5日に中国北西部とモンゴルで発生した大規模な砂塵嵐が原因だった。1,800キロの距離を横断して来た砂塵嵐は、中国を離れる時、数百万トンの表土を運び去っていたが、それは自然の力で回復するには、数世紀もかかる貴重な資源である。
それからちょうど一年後の2002年4月12日、韓国は中国からの巨大な砂塵嵐に飲み込まれ、ソウルの人々は文字通り息苦しさにあえいだ。学校は休校、飛行機は欠航、病院は呼吸困難に苦しむ人々であふれ、小売店の売上げは下落した。韓国の人々は、現在「第五の季節」と呼ばれている晩冬から早春に発生する砂塵嵐の到来をひどく恐れるようになった。
毎年中国では大規模な砂塵嵐が十数個発生しているが、上述の二つの砂塵嵐は、中国北西部に広がる自然破壊の程度を国外に目に見える形で示す指標の一つである。そして過放牧こそが、こうした自然破壊の元凶なのである。
「砂漠の拡大と結合」と題された米国大使館の報告書には、中国中北部に位置する二つの砂漠が拡大し、一つにつながり、内蒙古自治区と甘粛省にまたがる巨大な砂漠を形成しつつあることを示す衛星写真についての記述がある。
新疆ウイグル自治区の西方では、さらに大きな二つの砂漠、タクラマカン砂漠とクムタグ砂漠も、一つにつながろうとしている。その二つの砂漠に挟まれた地域はどんどん狭まり、そこを走っている幹線道路には、繰り返し砂丘が押し寄せてくる。
ラテンアメリカでは、ブラジルとメキシコ両国で砂漠化が進んでいる。ブラジルでは約5,800万ヘクタールの土地が砂漠化し、そのほとんどが国の北東部に集中しており、砂漠化による経済的損失は、年間3億ドルにのぼると予測されている。
国土に占める乾燥、半乾燥地域の割合がさらに大きいメキシコでは、事態ははるかに深刻である。現在、耕作地の荒廃によって、毎年約70万人のメキシコ人が土地を離れ、仕事を求めて近郊都市や米国へ移り住んでいる。
多くの国々で人間や家畜の数が増え続ける中、砂漠化に拍車をかけている過放牧、過耕作や過剰伐採はますます深刻化している。砂漠化によって耕作可能な土地をさらに消滅させずにすむかどうかは、今や、人間や家畜の数を抑制できるか否かにかかっているのかもしれない。
(翻訳:酒井、藤津、西垣)