情報更新日:2007年07月26日
サンタは中国人
レスター・R・ブラウン
サンタクロースは中国人だということを、私は知っている。なぜなら、クリスマスの朝、プレゼントの包みをすべて開けて一段落すると、プレゼントがどこで作られているか、ひとつひとつチェックすることにしているからだ。結果はいつもほとんど同じで、ほぼ70%が中国製である。少し調査したところ、我が家での調査結果は、米国全体の状況を表しているようだ。
まずおもちゃを見てみよう。バービー人形からテレビゲームに至るまで、米国で売られているおもちゃのおよそ80%は中国製だ。英語をしゃべる人形は、中国の作業員から英語を教わったらしい。電子製品も、アップルのiPodからマイクロソフトのXboxまで、中国製だ。洋服も、新製品のカシミアセーターからトレーニングウェアに至るまで、たいてい「メード・イン・チャイナ」のラベルがついている。
そもそもクリスマスツリー自体も、中国製かもしれない。本物のクリスマスツリーは米国のどの州でも育ち、地元で売られているが、今では多くの家庭で人工のクリスマスツリーを囲んでいる。米国で売られている人工ツリーは、10本のうち8本が中国製だ。昨年、中国製のプラスチックのクリスマスツリー購入のために米国民が費やした金額は1億3,000万ドル以上だった。
今年、米国人が中国製のクリスマス用飾り物の購入に使う金額は10億ドル以上になるだろう。最も皮肉なのは、キリスト生誕の厩の置物でさえ、中国で作られていることだ。昨年米国人は中国から輸入された置物を買うのに3,900万ドル以上を使った。海外投資の誘致と莫大な労働力の動員に成功した中国は、世界の工場となったのだ。
米国のクリスマスが中国製であることは、米国を蝕んでいるさらに深刻な経済問題を象徴している。今日、クリスマスは米国でも中国でも祝われているが、その理由は異なり、経済に与える影響も正反対である。中国人にとっては、クリスマス特需は記録的な利益と所得の増加、そして所得の40%を貯蓄する社会での貯蓄の急増を意味する。一方、米国では今年もクリスマスショッピングのための支出が最高記録を更新したが、こうした支出がクレジットカードの負債と貿易赤字を急増させている。
米国民のクリスマス気分と活気の裏側には、行く先を見失い、大量消費の泥沼にはまった借金漬けの社会がある。社会全体が、より良い未来に投資するための貯蓄方法を忘れてしまったようだ。私たちは子どもたちに明るい経済的未来を残す代わりに、過去のどの世代よりも重い債務を負わせようとしているのだ。
個人レベルではクレジットカードによる負債が増える一方であり、政府レベルでは史上最大の赤字を抱えている。また、国際的なレベルでは、貿易赤字の最高額を毎月更新している。
一番気がかりなのは、私たちのクリスマスが中国製であるという事実そのものではなく、そうなるに至った考え方の方である。私たちは、とにかく消費したいのだ。お金は今使い、そのつけを子どもたちに回すつもりなのだ。
お金がかかる戦争をしていながら減税を導入しているのも、同じ考え方による。経済的犠牲という言葉は、もう私たちの辞書にはない。日本の真珠湾攻撃の後、ルーズベルト大統領は、戦車や戦闘機の製造に米国自動車産業の生産能力と技術力を動員するため、自家用車の販売を禁止した。それに対してブッシュ大統領は、2001年9月11日の米国同時多発テロの後、国民に買い物をするよう促したのである。
米国では、消費に熱心になり過ぎて、個人の貯蓄が実質的に消えてしまった。子どもを含めた米国人一人当たりのクレジットカード所有枚数は、平均5枚である。1億4,500万人のカード保有者のうち、使用額を毎月清算しているのは5,500万人に過ぎない。残る9,000万人は、支払いが追いつかなくなり、残額に対して非常に高い金利を支払っているようだ。借金にどっぷりと浸かってしまい、そのまま一生借金漬けになりそうな人が、何百万人もいるのだ。
米国の公式な借金、すなわち毎年の財政赤字の累積額は、今や8兆5,000億ドルに上り、納税者一人当たりでは約6万4,000ドルである。(www.earthpolicy.org/Updates/2006/Update62_data.htmのデータを参照。)この数字は、2008年にブッシュ政権が終わる時点で、何と9兆4,000億ドルにも達すると予想されている。米国民は、国家財政のブラックホールを掘り進め、どんどん深く沈んでいっている。
米国財務省は、毎月国債を売り出して国庫の赤字を埋めている。同省が発行する国債の海外での二大購入者は、日本と中国である。その意味で、中国は米国にとっての銀行にもなりつつある。所得水準が米国の1/6である発展途上国の中国が、豊かな工業社会の使い過ぎた分を融資しているのだ。この構図のどこが問題なのだろうか?
昔、米国の財政赤字が主に国内の貸し手によってまかなわれていた時代には、その借金に対して支払われた利子は米国内で再投資された。今日、その利子は、日本や中国、そしてそのほかの国外の貸し手の元へと流出しているのである。
イラク戦争の影響もあって、国の財政赤字が天に届くかと思えるほど増える一方で、米国は今、これまで経験したこともない財政上の問題に直面している。ベビーブーマー世代が退職し、それが社会保障やメディケイド(訳注:低所得者・障害者向け医療扶助制度)や メディケア(訳注:高齢者向け医療保険制度)のコストを引き上げているからだ。これに、ますますかさみつつある中国やその他諸外国への利払いが加わると、次の世代が負担する税金はほとんど支払い不可能な額に上るだろう。そんなことをすれば、彼らが私たちを許すはずもない。
米国の貿易赤字は飛躍的に膨らんでいる。予想では、2006年の赤字は、2000年の4,520億ドルの2倍に近い8,500億ドルに上る。その半分以上は、石油の輸入と対中貿易赤字の増加によるものである。
こうした米国の貿易赤字の増加は、再生可能なエネルギー技術を利用するに当たって、国が適切な支援を行わなかったという政策の誤りに原因がある。例えば、太陽電池や風力タービンは、その製造や輸出は米国が当然リードすべきであったのに、今では欧州や日本の後塵を拝する有様だ。
太陽電池は、1954年にベル研究所が発明した米国独自の技術である。にもかかわらず、米国は太陽電池の開発に力を注ごうとせず、またその政策に一貫性を欠いたために、ドイツと日本が先行し、両国が太陽電池の製造と輸出の面で強力な企業を育ててしまった。
風力発電についても同じことがいえる。近代的な風力産業が誕生したのは1980年代の初頭、カリフォルニアにおいてであった。ところが、米国は風力資源開発の援助を途中であきらめたため、この産業分野の大半を欧州諸国によって支配されてしまった。
石油輸入の増加で米国の貿易赤字は拡大するばかりだが、それでも国民はむやみに石油を消費し、経済体質を弱め、政治的独立を脅かしている。
米国が世界の金融市場で影響力を発揮しえなくなったのも、ひとえに国の債務額が増え続けているためで、その大部分は諸外国からのものである。もし、中国の指導者たちが、今後ドルは下がり続けると確信し保有するドルを手放すなら、ドルはおそらく崩壊するかもしれない。
石油や金融の援助を諸外国に仰ぐ結果、米国は今や世界の指導者としての役割を急速に失いつつある。米国が直面しているのは、クリスマスが中国製かどうかという単純な問題ではない。それよりもさらに根本的な問題、つまり過去には賞賛と尊敬を集める模範国家として、米国を世界の偉大な国家に仕立て上げてきた規律と価値の回復ができるかどうか、そういう問題が今問われているのである。
これはサンタクロースが届けてくれるようなものではないし、中国のサンタクロースでさえもできることではない。私たち米国民にしか解決できない問題なのである。
(翻訳:小林、A.I. 酒井)