(2006年10月12日)
アジアの発展に牽引され、成長を続ける世界経済
エリザベス・ミガット
http://www.earth-policy.org/Indicators/Econ/2006.htm
2005年、世界経済は4.9%の伸びを記録した。これは過去30年で最大の伸びを記録した2004年の5.3%をわずかに下回る数字である。この景気拡大を牽引したのは、成長率10.2%の中国と8.5%のインドだった。
こうした近年の急成長は、半世紀にわたる景気拡大の延長線上にある。全製品・サービスの生産高合計を示す世界総生産は、購買力平価(PPP:各国通貨の購買力が等しくなるように計算した交換比率)ベースで、1950年の7兆ドルから2005年には61兆ドルに増え、一人当たりの年収は、同じ時期に2,923ドルから9,440ドルになった。2006年、2007年ともに、早期予想では年率約5%程度で景気拡大が続くだろうと見られている。
現在のこのような世界経済の急成長の原動力となっているのは、発展を続けるアジアにおける急成長である。9兆4,000億ドル規模の中国経済は2005年にも成長を続けた。10.2%という中国の成長率は過去10年で最高で、1980年以降の平均成長率9.7%を0.5ポイント上回った。インドの成長率8.5%は、輸出の伸びや製造業・サービス分野の好況によるものだ。
その他のアジア諸国では、韓国、台湾、香港、シンガポールといった新興工業経済地域で4.5%の伸びを示したものの、2004年の5.9%を下回った。世界第3位の日本経済は、雇用の増加や強い国内需要、輸出の伸びにより、成長率は過去10年で最大の2.6%となった。
世界経済の5分の1を担う米国では、2005年の経済成長率は3.2%と鈍化し、2004年を1ポイント弱下回ったものの、過去10年の平均成長率とほぼ同水準となった。第4四半期の低迷で、さらなる伸びに歯止めがかかった格好だ。
これは、自動車購入者への販売奨励プログラムが終了し、また高騰していたガソリン価格がハリケーン「カトリーナ」の余波でさらに値上がりしたために、自動車販売台数が急激に落ち込んだことが一因となった。2006年にはエネルギーの値上がりに加え、活況だった住宅市場の熱が冷めたことで、当面の経済成長は抑制されるだろう。
オーストラリアでも、2005年の経済成長率は過去10年の平均3.6%を1ポイントも下回り、わずか2.5%の伸びにとどまった。2006年も、厳しい干ばつにより小麦の生産量が現在の約半分にまで落ち込むと見られており、前年に続いて景気は減速しそうである。
EUでは、家計消費の落ち込み、労働市場の低迷、原油価格高騰のため、2005年は、1.8%というさらに低い成長率となった。実際、ドイツ、フランス、ポルトガルの成長率はそれぞれ1.5%を下回り、イギリスもわずか1.9%である。中欧と東欧は、国内需要と輸出が好調に推移し、2005年の成長率は5.5%と堅調である。
一方、ロシア、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ、トルクメニスタンの成長率は、2004年の8.4%に比して、2005年は6.5%と減速した。この国々の経済成長を阻んでいるのは、エネルギー分野の低迷、政治的混乱、経済不安である。
ラテンアメリカの経済成長率は、2005年は4.3%である。アルゼンチンとベネズエラはそれぞれ、南米平均の2倍以上にあたる9%強の成長率を示し、南米の経済成長を先導した。アルゼンチンの農産物、ベネズエラの石油といった商品への海外需要が大きいことが、この2国の輸出経済を引き上げている。経済規模1兆ドルのメキシコでは農業部門、製造業部門の弱さが経済成長を妨げ、成長率は3%にとどまった。ブラジルは、内需と投資の不振から、成長率は2.3%と低い。
原油価格の高騰と、1日8,200万バレルを超える、世界の記録的な石油消費に支えられ、産油国の経済は力強い伸びを示した。中東地域の2005年の経済成長率は5.7%。地域最大の原油増産を行ったサウジアラビアとクウェートの成長率は、それぞれ、6.6%、8.5%である。
また、アフリカの産油国の経済成長率は7.4%もの伸びを記録している。経済規模430億ドルのアンゴラは、産油量26%増を受けて、成長率21%とアフリカ最高の伸びとなった。アフリカ最大の産油国、ナイジェリアは7%である。
アフリカ全体の経済成長率は、2005年は5.4%と堅調な伸びを見せたが、原油価格の高騰のみならず、燃料以外の、金属やコーヒーなどの商品価格が順調に推移したことが成長をさらに後押しした。世界全体で、第一次産業製品(燃料以外)の価格は2005年に10%上昇したが、それは金属の価格が26%上がったことによるものである。
今日の世界経済の最も大きな特徴のひとつとして、世界の経済不均衡の急速な拡大が挙げられよう。多額の貿易赤字を抱える米国は、2005年には、経常収支の赤字を1日平均20億ドル以上増やし、赤字はGDPの6%にまで膨れ上がった。一方、500億ドルを超える経常黒字を実現した国は6カ国にのぼり、日本、中国の黒字額はいずれも1,600億ドルを超えた。こうした不均衡は、米国の債務を海外からファイナンスすることにより拡大しているが、今後、米国経済の不安定要因となる可能性がある。
世界経済はまた、「不平等」の問題も抱えている。1人当たりのGDPは、年間600ドル未満(マラウイ)から、4万ドル以上(アイルランド、米国、ノルウェー)までさまざまだ。世界が安定成長を示す裏側で、いまだ多くの人々が極貧の生活を送っているのだ。
国連の『人間開発報告書2005』によると、世界人口の2割が1日1ドル未満で暮らしている一方で、別の2割は、カプチーノ1杯に躊躇なく2ドルを支払う世界で暮らしている。こうした不均衡の両端に目をやると、世界で最も豊かな500人の総収入が、最も貧しい4億人分の収入を上回っていることがわかる。
こうした不平等は、国家間のみならず各国内でも見られる。たとえば中国では、平均的な都市居住者の収入は、農業従事者の3倍以上にのぼり、こうした都市・農村間の格差は拡大しつつある。
ブラジルでは、人口の1割にあたる最富裕層の収入が、国の収入の半分近くを占める一方で、同じく1割にあたる最貧層の収入は、全体の1%にも満たない。このような所得格差の拡大は、経済が成長しても貧困削減につながりにくい状況を生み出している。
さらに広い視野で見れば、GDP成長率は経済成長を実際より大きく見せている。というのも、GDPには汚染排出に絡むものなど、有害なコストも含まれる上、世界経済の基礎を成す自然のシステムへの長期的な損害は計上されていないからである。地下水位の低下、大気中の炭素濃度の上昇、森林の縮小、砂漠の拡大、漁業の破綻......。いずれも、現在の経済モデルでは、永続的な成長を維持できないことを示す兆候である。
拡張する世界経済は、一見堅調に見えるが、その実、世界的な不均衡や各国内での所得格差の拡大といった不安定な状況を抱えている。こうした不平等により、貧困層も財政難の国々も、立ち直りがさらに難しくなっていくだろう。われわれを支えてくれる環境の破壊に目をつぶれば、経済は弱体化する。そこに不平等の拡大が加われば、社会不安が増し、ゆくゆくは世界経済そのものをむしばんでいくことにもなりかねない。
(翻訳:山本 夕佳、江口 絵理、長澤 あかね)
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(2006年11月3日)
自動車燃料に対する穀物需要が米国で激増--脅かされる世界の食糧安全保障と政治的安定
http://www.earth-policy.org/Updates/2006/Update60.htm
レスター・R・ブラウン
今年も穀物の収穫が無事終わり、在庫を調べてこれから先のことを考える時期がやって来た。今年の収穫高は19億6,700万トン。推定消費量の20億4,000万トンを7,300万トン下回る数字だ。この4%近い不足は、これまでの記録の中でも最大の部類に入る。
さらに深刻なのは、これで、世界の穀物生産量が消費量に届かなかった年が過去7年のうち6回を数えるということだ。その結果、世界全体での穀物備蓄量は57日分にまで落ち込み、過去34年間で最低のレベルとなった。前回、ここまで落ち込んだときには小麦とコメの価格は倍増した。
2000年以降の6年間、世界の穀物消費量は毎年平均してほぼ3,100万トンペースで増え続けている。このうち、2,400万トン近くが食糧や飼料として消費されている。自動車用エタノール燃料の生産に使われる穀物は、平均すると米国だけで年間約700万トンずつ増える計算になるが、2001年は200万トンの増加であったのに対し、2006年には1,400万トンにまで膨らんでいる。
今や、穀物は凄まじいほどの勢いで燃料生産に使われている。穀物由来の燃料生産への投資は、かつては政府の補助金が頼みの綱であったが、今では石油価格の高騰が投資に火をつけている。現在エタノールは生産コストの2倍の価格で取引されており、農作物を食糧としてではなく自動車用燃料として売るほうが、利益性ははるかに高くなった。つまり、米国では、燃料用のエタノール蒸留設備に投資するかどうかは、政府の政策ではなく市場の動きによって決まるということである。
2005年後半の石油価格の高騰以降、トウモロコシからエタノールを精製することで莫大な利益が生まれることが分かると、それを機にここ数ヶ月の間に次々と新しいエタノール蒸留設備が建設されるようになった。ドイツの調査会社F.O. リヒトが隔週に発行する「世界のエタノールとバイオ燃料」レポートには、米国では2005年10月25日から2006年10月24日の間に、なんと54ものエタノール蒸留設備の建設が始まったことが報告されている。
標準的な工期は14ヶ月なので、事実上2007年末までには全てのプラントが稼動し始めているだろう。これらのプラント全てが動き出し、年間最大40億ガロンのエタノールを生産するようになると、穀物の年間消費量は3,900万トンに上る。そのほとんどすべてがトウモロコシである。
(詳しいデータは
http://www.earthpolicy.org/Updates/2006/Update60_data.htmを参照)
建設の動きは加速している。2005年11月から翌年6月までは、9日に一基の割合で新しいプラント作りが始まっていた。それが7月以降9月までは5日に一基と速まり、10月に入ると3日に一基が着工されることになった。
企業が蒸留工場を作ると決定し、そのために用地の選定や土地の購入、必要な許認可の取得、資金調達をするには通常長い時間がかかる。最近の新たなプラントの建設ラッシュは、「カトリーナ」襲来後の石油価格の高騰の影響がここにきて出始めたにすぎないのである。
今後、エタノール生成に利用される穀物の量はどれぐらいになるのだろうか。この用途での2005年の穀物消費量は4,100万トンであった。これに新たに建設される蒸留工場で必要な3,900万トンを加えると、トウモロコシの総消費量は8,000万トンとなる。
幾つかの蒸留工場では拡張計画が進行中であるが、その結果必要となる増加分はこの数字には含まれていない。また、米国以外の国々、特にヨーロッパや中国では穀物由来エタノール蒸留工場が続々と竣工しているが、こちらも勘定には入っていない。
最近の建設着工数の飛躍的な増加や計画件数の多さを考えると、今後一年以内に建設が開始される蒸留工場の数はさらに増えるものと思われる。そうなれば、これらの蒸留工場で新たに4,000万トンの穀物が消費されるのもわけないことと言えるだろう。
2007年を見越した場合、備蓄分をこれ以上減らさないためには一体どれだけ増産すればよいのだろうか? まず、2006年の生産量不足を解消するためだけでも7,300万トンの増量が必要だし、食糧や飼料需要に関して予想される年間の伸びを考えると、これとは別に2,400万トンが必要になる。ここに、先ほど述べた54の新規の蒸留工場への供給分として新たに3,900万トンが加算されると、備蓄量をこれ以上減少させないためには、2007年には米国だけでも収穫量をあと1億3,600万トン増やす必要がある。
2000年以降、世界の穀物収穫高の増加は年平均で2,000万トンにも満たない程度だ。そんな現状では、たとえ穀物価格の高騰が刺激になったとしても、来年、収穫量が飛躍的に増加するとは考えにくい。それ以上に農家は、灌漑用水不足が拡大し、地球温暖化によって熱波がさらに深刻化しそうな事態に立ち向かっていかなければならないのだ。
米国産トウモロコシの奪い合いはエスカレートする一方であり、すでに価格の高騰も起こっている。アイオワ州、インディアナ州、サウスダコタ州といったトウモロコシ生産地で現在建設・計画中の蒸留工場が完成すれば、実質的にこれらの州での収穫量はすべて蒸留用として消費されてしまうだろう。
今後地元では、新たに建設される蒸留工場と、従来から穀物を必要としてきた肉牛の肥育農場や酪農場、それに養豚、養鶏、鶏卵業者との間で、穀物を巡って競争も激しくなっていくことだろう。エタノールの蒸留過程では、副産物としてトウモロコシ蒸留かすが発生するのだが、そのうちの三分の一で飼料用トウモロコシの損失分はある程度相殺されるだろう。しかし、繊維とたんぱく質を主成分とし、エネルギー分をほとんど含まないこの蒸留かすは、豚や鶏よりむしろ特異な消化器官を有する肉牛や乳牛の飼料に適しているのである。
日本、エジプト、メキシコなどのトウモロコシ輸入国も、世界のトウモロコシ輸出量の70%を占める米国からの輸出が減少すると、国内の畜産業や養鶏業が崩壊してしまうことを懸念している。サハラ以南のアフリカ諸国やメキシコなど、輸入国の中にはトウモロコシを主食としているところもある。
米国では、トウモロコシは清涼飲料水の甘味料や、朝食用のシリアルとして食されているが、ほとんどは間接的に消費されている。牛乳、卵、チーズ、鶏肉、ハム、牛挽肉、アイスクリーム、ヨーグルトといった、冷蔵庫に常備されている食品は、すべてトウモロコシから作られている。まさに、冷蔵庫の中はトウモロコシであふれ返り、それらすべての食品の価格が、トウモロコシの価格影響を受けている。
小麦とトウモロコシの価格は、この数ヶ月で3割以上値上がりした。トウモロコシと小麦の先物価格は、10年ぶりの高値で取引されている。トウモロコシの備蓄量は過去最低を記録する一方で、需要はうなぎ昇りのため、価格は史上最高値に向かって突き進んでいるようである。トウモロコシに続き、小麦とコメの価格も値上がりが予想される。
2007年末までには、自分たちの移動手段を維持したい8億人の自動車所有者と、生きるだけで精一杯という20億人の貧しい人々との間で、新たな戦いが本格化するだろう。穀物価格がかつてないほどまでに上昇すれば、インドネシア、ナイジェリア、メキシコなど穀物を輸入している数多くの低所得国で、食糧暴動や政情不安が生じ、世界経済の発展に支障が出る可能性がある。
ドライバーと食糧を求める人々との対立は、すでに始まっている。現在、世界では8億5,400万人が慢性的な飢餓状態と栄養失調に苦しみ、毎日約2万4,000人が命を落としている。しかも、そのほとんどが子供たちである。国連のミレニアム開発目標は、2015年までに飢餓で苦しむ人の割合を半分に減らすことであるが、飢餓状態の人の数がじわじわと増加しているため、達成が困難になりつつある。その上、猛烈な勢いで車のために食糧が使われたりすれば、目標達成は完全に頓挫してしまうだろう。
米国では、輸入石油への依存度が高まっており、問題となっている。そして、これを解決するための取組みが、より深刻な問題を新たに生み出している。だが幸いなことに、この問題は回避できる。現在、米国では自動車燃料全体の3%がエタノールから供給されているが、燃費基準を20%引き上げれば、この割合をわずかなコストで何倍にも拡大できる可能性があるからだ。
食糧と燃料のどちらをとるのか? この問題に関して、世界は切実に「リーダーシップ」を求めている。新たに浮上してきた食糧・燃料戦争に対処するための戦略が必要なのである。世界最大のエタノール生産国であり、同時に世界有数の穀物生産国かつ輸出国である米国が、その鍵を握っている。
(翻訳:酒井、小宗、角田)