エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2007年08月09日

世界各地で水価格が上昇

 

                    エドウィン・H・クラーク・二世

世界各地で水価格が上昇し、時には急騰している。自治体が定める水道料金の過去5年にわたる平均値上げ率は、米国で27%、イギリスで32%、オーストラリアで45%、南アフリカ共和国で50%、カナダで58%である。チュニジアでは過去10年間で灌漑用水の価格が4倍になった。

14カ国を対象に行った最近の調査によれば、自治体における平均的な水道料金には、1立方メートルあたり、米国の66セントからデンマークとドイツの2ドル25セントとかなり開きがある。だが、消費者が水道料金の実費を全額負担することはない。それどころか、実質的に(時には文字通りに)水を無料で提供している政府も多い。

米国では、一世帯あたりの水の平均使用量が、年間約480立方メートルである。この使用量に対して、ワシントンDCの住宅所有者が支払う金額は約350ドル(1立方メートルあたり72セント)だが、グアテマラ・シティのスラム地区で同量の水を業者から購入すれば、1,700ドル以上かかる。

人々が支払う水の価格は、主に次の3つの要因で決まる。水を供給源から消費者まで輸送するコスト、水の総需要、価格補助金である。汚染物質の除去費用が加わる場合もある。

水の輸送コストは、主に送水する地点までの距離と標高差で決まる。人口が増加している都市や町では、拡大する需要を満たすために数百キロメートルも離れたところから水を供給せざるを得ないかもしれない。

カリフォルニア州の都市では、長年、数百キロメートル離れたところから水を運んできている。また中国では、北京など北部各省の人口急増地域まで揚子江から水を輸送するために、3つの運河を建設中である(運河の全長はそれぞれ1,156キロメートル、1,267キロメートル、260キロメートル)。

地下水の汲み上げや、標高の高い地点への送水は、大量にエネルギーを消費する。480立方メートルの水を、100メートルの高さまで汲み上げるためには、200キロワット時もの電力を要する。1キロワット時あたり10セントの場合、コストは約20ドルだが、これには揚水機、井戸、配管の費用は含まれない。100メートルの汲み上げは、地下水の供給量が落ち込んでいる井戸では珍しくない。例えば、北京などの華北地域では、1,000メートルも汲み上げなくてはならないこともある。

また、標高2,239メートルにあるメキシコ・シティでは、上水道の一部を1,000メートル以上も汲み上げなければならない。その汲み上げにかかるコストだけでも、年間1億2,850万ドルかかる。この揚水に必要なエネルギー量は、近郊のプエブラ市(人口830万人)で消費される総エネルギー量を上回る。ヨルダンのアンマンも、標高の高い地域への水の輸送で同様の問題を抱えている。

水を市場で購入したり何かと交換したりしている地域はほとんどない。ところが米国西部やオーストラリア、チリでは正規の水市場が拡大しつつあるのだ。水市場が成立しているこれらの地域をみると、水の価値が水不足によっていかに跳ね上がるものかがわかる。水の価値というのは、つまり、水不足の事態下で人々が水を手に入れるためには支払ってもかまわないとする金額である。

オーストラリアでは、水の市場価格が2006年12月に1立方メートルあたり75セント近くという最高値を記録したが、これは長引く干ばつが一要因となっており、1年で20倍という高騰ぶりだ。米国西部では、1立方メートルあたり3セントから10セントというのが通常の水価格であるが、これは水そのものの価格でしかなく、浄水や輸送にかかる経費は含まれていない。米国西部の都市の中には、あまりの水不足に、菜園のための灌漑用水として1立方メートルあたり1ドルという価格で家庭排水を売っているところもある。

インドでは、水不足から農業を諦めて自家用の水を他所に売って稼ぐ農家が生まれている。かつては自分たちの畑で穀物を栽培するために灌漑用水として井戸から汲み上げていた水をトラックに積み込んで近隣の都市に運ぶのだ。農家は食物よりむしろ水を収穫しているようなもので、同時に地下水位の低下を速めてもいる。

人々が水のために支払う額を決定する最終要因は補助金の額である。水につぎこまれる補助金は、場合によっては膨大なものになる。例えばインドのデリーでは、市に入る水道収入は水道水供給に市が毎年費やしている額の20%に満たない。平均すると世界のほぼ4割の自治体で、水道料金は水道水供給とその維持にかかるコストに見合った額になっていない。

高所得層だけが補助金の恩恵を被っているケースも多い。開発途上国では、都市のスラム地区住民が自治体の水道水供給から切り離されている場合も多く、その地区の住民はトラックで水を売りに来る民間業者から買うことになる。水の配送を仕切っているのはたいていが悪徳業者で、それも一因となって値段が非常に高くなり、1立方メートルあたり1ドル以上というのが普通になっている。

アジアのいくつかの都市では、民間業者から水を買わざるを得ない家庭は、自治体の水道供給網につながっている中流家庭に比べ、10倍以上のお金を水に対して払っている。ウガンダの最下層の家庭では、収入の22%を水の購入に使っており、エルサルバドルやジャマイカの最下層家庭では必要とする水のために収入の10%以上を費やしている。

水に補助金を助成しているのは途上国だけではない。例えば、米国のカリフォルニア州セントラルバレーの農家は、同州の水のおよそ5分の1を消費しているが、その価格は平均で水1立方メートルあたり1セントをほんの少し上回るだけである。これはロサンゼルスの飲料水価格のわずか2%、再調達価額の10%にしか相当しない数字だ。しかし、ユタ州中央部で国が新たに打ち立てた計画を分析した結果、今後その計画により供給される水の価格は、灌漑農業者が現在支払っている料金の40倍近くになることが明らかになった。

水はまさに、「生命を維持し、ますます不足していく貴重な資源」である。ところが実際は、まるで価値などないかのように扱われてしまっているのが現状だ。より正当に水を管理するためには、水の価値と希少性を反映した価格を設定することが重要な一歩だが、これは当然のことながら、かなりの価格上昇を招き、特に低所得者層に打撃を与えることになってしまう。

この問題を避けるための最善策は、価格を分割すること――つまり、消費水準が高いほど価格が上がり、消費水準が低ければ(基本的なニーズは満たした上で)、とても安価になるしくみを採用するのだ。

例えば、日本の大阪市では、毎月の水道料金に10立方メートル分の料金が含まれているが、使用量の多い家庭に対しては、それに加算して、1立方メートルあたり82セントから3ドル以上にまで段階的に料金が上がるしくみになっている。さらに、最下層の家庭でも確実に安全な水の供給を受けられるようにすれば、民間業者から不当な水価格を巻き上げられることもなくなる。

正当な水価格を設定することは、短期的には政治上の問題を生むかもしれないが、長期的に見ればかなりの効率性がもたらされ、政府予算の誤った流出もなくなるかもしれない。水価格が上がれば、農家と産業はより効率的に水を使うようになるだろうし、家庭でもより効率のよい節水器具を買うようになるため、水の無駄使いが減るだろう。

また、効率アップにかかるコストは、多くの場合そんなに高いものではない。しかも、改善したおかげでかかったコストを清算できるケースも多いのだ。例えば、どんな方法であれ、温水の使用量を減らす改善をすれば、そのコストはやがて挽回できる。その改善で、水だけでなくエネルギーも節約されるからだ。

実際、エネルギーと水はさまざまな形でつながっている。水を引き、輸送し、処理するのには、かなりの量のエネルギーが必要とされるが、それだけではない。ちょうど、1970年代のオイルショックで省エネが進んだのと同じように、水の価格を実際のコストに見合ったものにすれば、産業、農家、一般家庭が節水に努めるようになる可能性もあるのだ。

(翻訳:木村、古谷、荒木)

 

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