レスター・R・ブラウン
原材料としての「もの」の使用を減らすことでCO2の排出量を削減する。できることは世界中に数多い。まずは、主要金属(鉄鋼、アルミ、銅)のリサイクルをすることだ。その場合の消費エネルギーは、自然石を使って製造する場合に比べて非常に少ない。次が、家庭の大部分のゴミのリサイクル化と肥料への転用。さらには、自動車や家電製品等の設計の変更だ。つまり部品への分解が容易で、再利用やリサイクルが可能なように改めるのである。
ドイツや、最近では日本でも、自動車や家電製品、事務用機器等について、簡単に分解してリサイクルできるような仕様が義務付けられている。1998年5月、日本では厳しい内容を盛り込んだ家電リサイクル法が成立し、家電製品、例えば電気洗濯機、テレビ、エアコン等の廃棄が禁止された。
これらの機器をリサイクル業者に引き取ってもらうには、消費者はその分解費用をリサイクル料金として負担しなければならない。料金は、冷蔵庫ならおよそ6,000円、電気洗濯機で3,500円程度かかる。こうしたことから、簡単でしかも低料金で分解出来るような設計仕様への変更を求める声が強い。
このリサイクルに近いのが「再生」という考え方で、重工業の分野ではキャタピラー社が浮上し、その先頭を走っている。同社のミシシッピー州にあるコリンズ工場では、毎日およそトラック17台分のディーゼルエンジンが再生されている。
キャタピラー社の顧客から回収されたエンジンは、従業員の手でボルトやねじを含め、部品一つ捨てることなくここで分解されているのだ。エンジンは一旦分解した後、古い部品を全て修理し、再度組み立てが行なわれる。エンジンの出来栄えは新品同様だ。キャタピラー社のこの再生部門は年間約1,000億円の販売実績をあげ、毎年15%の成長を遂げながら同社の利益に大きく貢献している。
航空機産業でもリサイクルが始まっている。40年近くジェット旅客機の製造を巡ってライバル関係にあったボーイング社とエアバス社。この2社が今、どちらがより効率よく旅客機を解体できるかを競い合っている。解体の第一段階はエンジン、着陸装置、調理室のオーブン、その他数百に及ぶ部品等、市場価値のあるものを機体から取り外すことである。
ジャンボジェット機の場合、こうした主要部品の売却額は総額4億円程度になる。アルミ、銅、プラスチック、その他の金属は最終段階で解体され、リサイクルにまわされる。このアルミは、次は自動車、自転車、あるいは別のジェット旅客機に姿を変えるのだろう。目標は航空機のリサイクル率をまず90%に上げることだ。将来的には95%かそれ以上になるだろう。既に3,000機以上の飛行機が現役を退き、今後もその数は増えていく中で、引退した飛行機から生まれるアルミの量はアルミ鉱山一つ分に匹敵する。
技術の進歩により、コンピューターは2、3年で時代遅れになってしまう。そこでそれを素早く分解し、リサイクルにまわせるようにすることは、エコ・エコノミーを構築する上で最重要の課題と言える。欧州では、情報技術(IT)企業がコンピューター部品の再利用に積極的に取り組もうとしている。というのも欧州の法律では、IT機器に使われている有害物質の回収、分解やリサイクルの費用を製造業者に負担するよう求めているため、製造業者はコンピューターから携帯電話に至るまで、機器の分解をどのように行うかという点に注力し始めているからだ。例えばノキア社は、実質的には自動で分解する携帯電話を開発した。
アウトドア用品の製造・販売を手がけるパタゴニア社は、同社のポリエステル製品を手始めに、衣料のリサイクルを開始した。今では同社が販売したポリエステル衣料に限らず、同業者が販売した衣料のリサイクルも行っている。パタゴニア社の評価では、リサイクルしたポリエステル製の衣料は石油から作られた通常のポリエステル製品と見た目は変わらず、エネルギーの使用は1/4以下ですむという。この成功により、同社はさらにナイロン製衣料のリサイクルにも着手し、綿製品やウール製品についても同様にリサイクルすることを計画している。
原料のリサイクルを促す方策に加え、飲料容器のように製品の再利用を奨励する例もある。例えばフィンランドは、使い捨てのソフトドリンク容器を禁止した。カナダのプリンスエドワード島も詰め替えのできない飲料容器を全面禁止するという同様の措置を採択した。どちらの例も埋め立て処分となるゴミの量を大幅に削減している。
ガラス瓶を再利用する場合、再利用1回につき必要なエネルギーは、アルミニウム缶をリサイクルする場合のおよそ1/10で済む。使用済みのビンを洗浄、殺菌してラベルを張替えるために必要なエネルギーは、アルミニウムを660℃で溶解してリサイクル缶を作るよりもずっと少ない。
詰め替えのできない容器の使用を禁止すれば5つの利点がある――原材料の削減、二酸化炭素排出の削減、大気汚染の軽減、水汚染の軽減、そして埋め立てゴミの削減である。さらに輸送にかかる燃料の大幅な節約にもなる。というのも詰め替え可能な容器なら、配達を終えたトラックが帰りに空いた容器を積んで、瓶詰め工場や醸造所まで持ち帰り、中身を詰めなおすだけでよいからだ。
二酸化炭素の排出を削減するのにますます注目を浴びている選択肢は、エネルギーを大量に使用するものの、――第二次世界大戦風に言えば――「不要不急」な産業を縮小することである。金の採掘とミネラルウォーター産業はその最たる例だろう。
世界で1年に生産される金の量は2,500トンだが、その精錬には5億トンの金鉱石を必要とする。この5億トンという量は、毎年鋼鉄を生産するのに使用される鉄の原鉱石の1/3以上にあたる。1トンの鋼鉄を生産するのに必要な鉄鉱石は2トンだが、金の場合、同じ1トンを生産するのに実に20万トンの金鉱石を必要とするのだ。5億トンの金鉱石の加工には莫大なエネルギーが消費され、さらには自動車550万台分の排出量に匹敵する二酸化炭素が排出されることになる。
地球の気候という観点から見ると、ペットボトルなどに詰められて売られている水は容認できるものではない。水道水が長距離輸送され、とんでもない値段で売られていることがよくあるのだ。ボトル入りの水の販売促進活動は、公共水道水の安全性と品質に対する一般の人々の信頼を損なわせるほど巧みで、多くの消費者が、蛇口から出る水よりボトル入りの水のほうが安全で健康的だと信じ込まされてきた。
しかし欧米では、水道水の水質基準は、ボトル入りの水の水質基準より厳しく定められているし、水が安全ではない開発途上国の人々にとっては、ボトル入りの水を購入するより、煮沸、あるいはろ過した水のほうがずっと安上がりだ。
米国だけでボトル入りの水用に280億本のプラスチック容器が製造され、それには1,700万バレルの石油が使われている。充填工場からスーパーマーケットやコンビニエンスストアに運ばれるボトル入りの水は、2週間で10億本になり、時には数百キロに及ぶ距離を運ばれ販売される。その配送に使われるエネルギーと保冷のためのエネルギーを含めると、米国のボトル入りの水の産業は、年間およそ5,000万バレルの石油を消費している。
喜ばしいのは、このボトル入りの水の産業がどれほど環境を破壊しているかに人々が気づき始めたことである。米国の市長たちは、市職員用のボトル入りの水に何百万ドルもの税金が使われていることを認識し始めている。すぐ手に入る水道水と比べると、ボトル入りの水にはコストが1,000倍もかかっているのだ。
サンフランシスコ市のギャビン・ニューソム市長は、市役所の建物内や市所有の敷地内、及び市が主催・後援するイベントにおいて、市の予算でボトル入りの水を購入することを禁止した。それに続いて、ロサンゼルス市、ソルトレークシティ、及びセントルイス市なども同様の取り組みをしている(その他の例については http://www.earthpolicy.org/Updates/2007/Updates68_data.htm.を参照のこと)
予想されるエネルギー需要の伸びを吸収するためにエネルギー効率を高めることは、プランBの不可欠な構成要素である。プランBの青写真では、2020年までにCO2の総排出量を80%削減することで、大気中のCO2濃度の上昇を止め、将来の温度上昇を最小限に抑えようとしている。(青写真については
http://www.earthpolicy,org/Books/PB3?80by2020.htm.を参照)ここに述べた対策によって原材料の使用量を削減すれば、私たちはこの目標を達成でき、世界の気温は安定化する方向に向かうだろう。
* 新しい物質経済のもとでエネルギー効率向上へ-Part Iは、
http://www.earthpolicy.org/Books/Seg/PB3ch11_ss6s.htmで閲覧可。